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16 拒絶と逃避
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しおりを挟むスレクツは迫り来る全てを拒絶した。
怖い、いやだ、私に触れないで。
全てを拒絶すると同時に、これまで必死で維持していた魔力の制御を失う。
なみなみと満々と満ちていた魔力が池から噴水のように湧きあがり、周囲にこぼれて。
まるで沸騰したての熱湯のように、一気に弾けた。
ごわん、と耳鳴りがした。
バキバキ、と何かが割れる音がする。
みしりみしり、と軋むような音が聞こえ、スレクツは顔が濡れるのを感じた。
その直後に幻影が、変声が、日常生活を送るのに必要な身体能力補助魔術の術式が吹き飛ぶ。
脳裏に、白黒の光景が広がった。
ああ、戦場だ。
オンフェルシュロッケン団長。
会いたい。
助けて。
視点を失った暗闇の中で、一瞬だけ歪んだ視界が復帰する。
なぜか血塗れのウェルケン副団長と、もう一人の近衛兵の後ろで、目を見開く面長殿下の姿が見えたような気がした。
全てが真っ白になる感覚に引きずられていく。
体が寒い。
暑い。
手足が、重い。
白かった世界が真っ暗になる直前、誰かが抱きしめてくれたような気がしたけれど、スレクツの意識は闇の中に落ちていった。
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戦場を駆け巡った昼が終わり、全身を魔物の体液で濡らすオンフェルシュロッケン団長は、深く息をついた。
ようやく夜が来た。
夜は前線の兵士にとって安息のひと時だ。
なぜかは分からないが、魔物は夜になると活動しなくなる。
魔物を操っているものがいるはずだ、とまことしやかに語られてはいるけれど、オンフェルシュロッケンは、それが誰でも現状は変わらないと知っていた。
森には入れない。
戦場への派遣期間は、日が昇ってから沈むまで戦い続ける。
ただ、それだけだ。
少しささくれてやさぐれた気持ちで、再び、今度は明確にため息をついた。
ここ数日、視線を感じない。
魔物が突然転んだり、硬直しない。
頭では彼女が戦場にいないと分かっているのに、認めたくない。
スレクツを嫁にしようと決めたオンフェルシュロッケンにとって、自分の番候補が近くにいないのは苦痛だった。
辺鄙なほどの田舎出身のオンフェルシュロッケンは、獣性が強い。
己が番を作らない種族ならば、よかったのに。
そんなことを考えてしまう。
獣性が強いことで、隠蔽魔術が効いていてもスレクツと会話ができているのだが、今ばかりは不在で落ち着かない身体を持て余していた。
「総員退避はじ、んっ!?」
突然、空が割れた。
いいや、空が割れたような気がした。
大地がぐらりと揺れる。
そして、ナニカが、空から落ちてきた。
オンフェルシュロッケン団長の元へ。
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