千里眼の魔術師は赤銅の色を知らない

くろいひつじ

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24 暗躍する

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 明らかに心を痛めて荒れた時期があったので、スレクツが人の死に関しての記憶は取り戻したことを、アレス団長は知っていた。
 けれど、あの非道すぎる記憶は、まだ魔石の中に封じられているのか、と今更のように安堵する。

 安堵と同時に、魔石の利用法を閃いて、アレス団長は口の端をわずかに持ち上げる。
 薄い微笑みを見たスレクツが怯えた顔をしたのを見て、大丈夫だよ、とすぐに母の顔に戻したけれど。

「スル、あの魔石をわたしに渡す気はあるかい?」
「え?」

 母親の顔をしながらも、アレス団長の心の中は、例の第四王子にスレクツの苦しみを百倍にして返してやろう、という考えでいっぱいになっていた。

 あれだけ手際が良いのだから、初犯ではないはずだ。
 そう、確信していた。


 黒鉄魔術兵士団のアクセプティール・アレス団長は、小柄で中性的な美人なので、見知らぬ者に侮られがちだが、その性格を知るものは、彼女を決して敵にしたいとは考えない。
 性別など関係なく、男爵位を受け継いで兵士団を率いているのは実力だ。

 たおやかな外見に騙されがちがだ、貴族らしい非情さと、苛烈で激情家とも言える性格が混在している。

 隙を見せれば食われる側に回る貴族社会で生まれ育ったのだから、報復を躊躇わないことは、深く考えなくても想像できる。

 やられたら徹底的にやり返す。
 表には露見しないように画策して、手を出す余裕を失うまで叩き潰す。

 優しさには優しさを。
 悪意には悪意を。

 それがアレス団長のスタンスだ。

 悪人ではないが善人でもない。
 麗しい見た目に反して、過剰な程に闘争心が強い。
 権力にも金銭にも靡かず、弱みとなる親族はいない。
 明確な弱点がないので、敵に回してはいけない。

 それが〝絶対零度の魔術師〟アクセプティール・アレスへ下された、権力者からの評価だった。



   ▼



 スレクツに「舐められたいと思うのは、触れ合いたいと思うのは狂ったわけじゃないよ、ボル父様と一緒に説明するから、心配しないで待っていなさい」というような事を丁寧に言い聞かせてから。

 アレス団長は、長靴ブーツの音も高らかに城内を進んでいた。
 服の隠しに魔石を潜ませ、意趣返しの準備を済ませて。

 皇帝陛下に他国の王族を害するつもりだと知られたら、外交問題に発展するだけでなく、アレス団長が国家反逆か国家騒乱の罪で捕縛されるだろう。

 しかし幸いというか、自業自得というか、第四王子は放逐扱いに限りなく近い。
 と、確かな筋からの情報を得ている。

 他国の魔術師に対して「よこせ!」と分別なく喚き散らす姿から予想できるが、第四王子はどこまでも考えなしの子らしく、自国内でも問題を起こしすぎていた。

 
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