不幸少女の気まぐれ奇譚

花咲由菜

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酷く不幸で平和な

日常

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壁に掛けてある時計の針がカチッと動く
その瞬間にけたたましい電子音が鳴る
「う~…ん……っ!?う、わぁ」
ドスンとベットから落ちる
「頭痛い…くそう…」
「また夢を…いや。まだ夢を見るんだね廻。」
そう言って現れたのは黒猫
左目が青く尻尾が二つの猫又という妖怪で
名を蒼(そう)という
廻(めぐり)とよばれた少女は
気だるそうに起き上がり
身支度を始めた
「廻。君はいつになれば目覚める?
我々はずっと待っているのだぞ?」
廻の足に纏わりつきながら
蒼はそんな事を言った
廻は蒼を”視えないモノ”としている
「さて、行くか」
廻は靴を履いて外に出る
扉が閉まる寸前に
「…ずっと、変わらないままで」
蒼はそんなことを言った



学校へ登校する途中
塀には猫。電線にカラスや鳩
道には散歩する犬などがいる
廻が近くを通ると決まって
猫は慌てて逃げ出し
カラスや鳩も引っ切り無しに
鳴いて飛び立ち
犬も飼い主の後ろに隠れて威嚇する
そうされると決まって廻は
目を細め
「正解。君たちは正しい」
そう言った
学校に着くと周りはいつも騒がしい
それを聞かない為に
周りと距離を取る為に
廻はイヤホンをする
そうして退屈に平凡にただ揺蕩う様な
(こんな毎日で良い)
そう廻は思っていた
けれど心の片隅では
いつも周りの人たちや物語の中の人に
羨望、劣等感など抱いていた
そしてそれは歳を重ねるごとに
日々大きくなっていく
周りでは”視えないモノ”が
「コワシチャエバイイヨ」
「奪い取ってしまおう」
「ガマンしなくていい」
などと口々に言うが
廻はそれにも耳を塞いだ
そうしていつも通りの日常に
慣れつつあった
過去の事も忘れつつあった

家に帰ると蒼はいない
当たり前の如くに誰もいない
そうして部屋に入って
ベットに倒れ込み
ふ、と机を見た
その瞬間に日常が壊れる音がした

机には黒い封筒差出人は不明
表には”早樹奈  廻様”と書かれていた
胸が早鐘を打つ
震える手で封筒を開けると
真っ白な紙の中央に一言

「__今を変えたいですか?」

そんな言葉だけが書かれていた
廻は嫌な悪寒を感じて振り返るが
誰もいない。蒼もいない。
何もいない。そのはずだ
廻は怖くなった
そしてこんなものは
燃やしてしまおうと
火に紙を近づけた

すると紙には地図が浮かび上がった
そこは
廻のお気に入りの場所だった
名もない山の中腹にある
小さな祠の名前と場所

「__ここでお待ちしています。」

そう書かれていた





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