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起
1 作者「プロットから脱線してるぅぅううう!!」
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***
ある時、一つの種族が進化を遂げた。
言ってしまえば足の本数が少なくなっただけの変化だった。
然し、それがどれ程の変革を迎えたのかといえば筆舌にし難い。
進化を迎えた種族は、足と呼ばれる部位で土くれを蹴り走った。大地を駆ける事に慣れた者たちは生命維持の能力を司る、その頭蓋の中にまた進化を迎えた。
火を起こし、道具を作り、狩りを覚え、増えた。
種族は時間と共に歩んだ。
それでも尚、何を望む。もう与える物は無い。
「ふざけるな……」
戯けてなどいない。
「じゃあ…何だ…っ!!!!」
問われた男は声を荒げた。未熟なその身で男は取り囲む一帯を指差し尚、
「ふざけるなよ……!!」
では質問をする。
お前が我が策に乗った。それは何故だと思う?
「は?」
答えられぬ、然らば望め。
叶えようその望み、その世界を。
お前だけが生き残り選ばれた理由はそこにある。
この星で最後に叶えられる望み。
味わえ、味わえよ。
***
確か、生物学的には『生存本能』という用語は現在使われてはいない、………らしい。
これは余り確かな知識ではないので、苦し紛れに思い出したものを手繰り寄せて、無理矢理見せびらかしたモノだから、もし間違いを犯したというならやはり情けない。
唐突だったのでまたも何の話だよこいつ、と思っただろうあなたには申し訳なく思う。そこを今は取り敢えず置いておくとして……
つまり言いたい事を率直に言うと、僕が思うに生き物と呼ばれる存在は皆『本能』という概念の中でも特に生存し、存続し続けようとする部分は強大だと個人的に思う。
生きとし生けるものは言い逃れ出来ない突き動かす力が内にあるはず。そんな風に思っているのだ。
とはいえ先程言った通り、どうやら生物学では生存本能なんてありゃしないそうで、僕は軽いショックを受けている。
ふらふらと生活する中で、小耳に挟んだ話が唐突にアイデンティティクライシスをしてくるとは思わなんだ…
しかしながら、僕という人間はやはり不思議でならない。こればかりは譲れないという気持ちが何処かでまだ生きている。
こういうのはもう、最終的に答えが出ずに思考は終了する。
勿論、僕自身の実力不足だからだろう…
僕はただある事を考えて思う。
と言っただけで全く説明諸々の経緯解説をしていない。
これ曰く、たった一つの理由が分かれば、恐らく僕は他の事をここまで深く求めようとする事は無くなるだろう。きっと、これが一番不思議に思ったから……だからこそ納得が行かずに一生追い求めて行こうとさえ思うのだろう。
つまり、恐らく『人間』の多くは殆どが思考するだろう命題。
それは何故生きているのか。
《うざいっだまれ宿!!!!!!》
「うっ!?頭痛がっぁあ!!!」
最近、この幻聴と共にキリキリとした頭痛を感じる事が増えた。
《ふははは、痛いか!?んー?》
最近、実を言うと精神病院に行った。勿論この幻聴について詳しい検査をして貰おうと思っての事。
そして、精神安定剤を渡された。
詰まる所、医者には精神が安定していない患者と捉えられたのだ。
悲しかな、説明をしようにも幻聴が聞こえてくるという事だけで、それは一見他の精神病となんら変わりはない。故にあの医者にとって僕はいつも診てきた患者と同じに見えたという訳だ。
まあ、口下手な僕が悪いとは思う……
《それにしても体温が劇的に下がっているな》
(死ぬ程じゃないだろ…?)
《劇的の意味が分からないか?》
僕はアスファルト上でうつ伏せに倒れていた。気付けば僕は膝から崩れ落ちていた。
(まさか死ぬのか?…ははは、そうだとすれば……妹の安否も分からずにのたれ死か、こりゃ良い。如何にも出来損ないらしい)
《いいや死ぬと困るからな、私が退くのは計画外だ……》
(は、…計画?)
あの異様な昆虫を倒した後、僕は身体中の力が朽ちていく様に、徐々に、徐々に失った。その後直ぐに、息切れと動悸が止まらず両瞼が痙攣してまばたきさえも煩わしく感じる程だった。
息切れの症状は収まったが、まだ動悸がする。さっきよりはうんと楽ではあるけれど、今こうして倒れている事がどういった事態なのか、自分の事なのに理解が出来ない程の無能となった気は勿論、更々無い。
《お前は私の作戦に簡単に乗った。それは何故だと思う?》
気を抜けば、手放してしまいそうになるその意識の中、幻聴は頭蓋骨を叩く様に響きわたる。
こんな事を突然質問してくるのは毎度の事だった。家に居ても、学校でも、休日で一人で居ようとした時も、夢の中でさえ出てきた。
それも、曖昧な世界観と記憶をもたらしてくれるあの夢の世界で、妙な事に僕は頭が働いた。それは妄想だと、いや…妄想の産物と思いたい幻聴の存在が、僕に質問の相手して貰う為だからだろう、でも、聡明でない僕はいつだって、彼女の強固な鉄檻に閉じ込めた質問の真意を取り出せずにいた。
そして今度もまた質問の真意が分からなかったのだ。
《なあ、お前の嫌いな私の、その提案に、お前は簡単に乗って来た……何故だと思う?》
* 通称バッタ戦に戻る。
《このままではまずいな、宿は思ったより体力が無かった》
(ほっとけっ!!)
《では奴の動きが目で追えるのか?恐らく、宿の消耗を狙って一息で殺すつもりだ》
確かに僕はこいつの動きについて行けなくなっている。
《そこで思ったが、こうしよう》
幻聴の策は意図も簡単な物だった。
《 奴が宿の消耗を狙い、一点を突くような機会を伺っているのは明白だ。ならばそこを逆手に取り、敢えて消耗したかのような無防備を晒してやれ。恐らく奴は意気揚々と飛び込んで来るはずだ。そこで思い切り叩き込んでやれ。もし謀られている事に気付くような動物であれば、最も賢い手段を既に取っている筈だからな、警戒は要らない 》
* 現実に戻る。
とまあ、この通り。
僕はあのバッタの猛威から身を守った訳だが、この幻聴は僕が生み出した物なら、きっと僕は褒めるに値するな。
それにしても、どうにかならないか?
今の僕は身体が微動だにせず、地にへばりついている。
アスファルトの質感をこれ程までに味わえたのは人生初めてだ。
《 宿よ、私が身体に鞭を打ったからか衰弱が激しくなってしまったな。然し直に言えるだろう》
ん、今何て言った?僕の身体が今こうしているのはお前のせいなの?この幻聴、冗談ヘタだな。
《 ほら、もう動ける筈だ 》
「…っぐ!!うぅ……」
身体を起こしてみた。怠さやほのかな痛みが残るが、こうしては居られない。
(急がないと妹が…)
《 そこに自転車がある。鍵はそのままだ。あれを拝借しよう、いまさらだが抵抗があるとかないとか喚くなよ 》
(分かってる…)
僕は近くのスーパーに横ずけされたままの自転車に近ずいた。
泥除けのフレームが少し錆びている所を見るとそこそこ放置された時間が長いのか?籠の網目も塗りが取れ、顔を出した金属部を赤茶に染めている。
スタンドを蹴飛ばし、自転車に跨る。
足に目一杯の力を込めて漕ぎ始め、安定した初速を迎える。
*
家路は本気で漕いだために到着は直ぐだった。
家の前に自転車を停めて、静かにドアの前へと進む。
辺りは静けさをたたえ、肌を包み込む風が緊張感にさいなまれた心を逆撫で、流れた冷や汗は乾く。なぜ自身の住まう家の前でビクビクしなきゃいけないのか。
拉致のあかない焦燥感にのたうちまわっていても仕方がない。
いっそ一気にドアにてを掛け、飛び込もう。
(いくぞ…)
「…っ」
ドアは景気良く開き、すかさず飛び前転をかまして見せた。そのまま身体を横にロールして移動。
よし、悪くない動きだ。
「何してんのお兄ちゃん………」
絶句という言葉が似合う妹の顔を僕の瞳はワンシーン残さず捉えていた。
*
ある時、一つの種族が進化を遂げた。
言ってしまえば足の本数が少なくなっただけの変化だった。
然し、それがどれ程の変革を迎えたのかといえば筆舌にし難い。
進化を迎えた種族は、足と呼ばれる部位で土くれを蹴り走った。大地を駆ける事に慣れた者たちは生命維持の能力を司る、その頭蓋の中にまた進化を迎えた。
火を起こし、道具を作り、狩りを覚え、増えた。
種族は時間と共に歩んだ。
それでも尚、何を望む。もう与える物は無い。
「ふざけるな……」
戯けてなどいない。
「じゃあ…何だ…っ!!!!」
問われた男は声を荒げた。未熟なその身で男は取り囲む一帯を指差し尚、
「ふざけるなよ……!!」
では質問をする。
お前が我が策に乗った。それは何故だと思う?
「は?」
答えられぬ、然らば望め。
叶えようその望み、その世界を。
お前だけが生き残り選ばれた理由はそこにある。
この星で最後に叶えられる望み。
味わえ、味わえよ。
***
確か、生物学的には『生存本能』という用語は現在使われてはいない、………らしい。
これは余り確かな知識ではないので、苦し紛れに思い出したものを手繰り寄せて、無理矢理見せびらかしたモノだから、もし間違いを犯したというならやはり情けない。
唐突だったのでまたも何の話だよこいつ、と思っただろうあなたには申し訳なく思う。そこを今は取り敢えず置いておくとして……
つまり言いたい事を率直に言うと、僕が思うに生き物と呼ばれる存在は皆『本能』という概念の中でも特に生存し、存続し続けようとする部分は強大だと個人的に思う。
生きとし生けるものは言い逃れ出来ない突き動かす力が内にあるはず。そんな風に思っているのだ。
とはいえ先程言った通り、どうやら生物学では生存本能なんてありゃしないそうで、僕は軽いショックを受けている。
ふらふらと生活する中で、小耳に挟んだ話が唐突にアイデンティティクライシスをしてくるとは思わなんだ…
しかしながら、僕という人間はやはり不思議でならない。こればかりは譲れないという気持ちが何処かでまだ生きている。
こういうのはもう、最終的に答えが出ずに思考は終了する。
勿論、僕自身の実力不足だからだろう…
僕はただある事を考えて思う。
と言っただけで全く説明諸々の経緯解説をしていない。
これ曰く、たった一つの理由が分かれば、恐らく僕は他の事をここまで深く求めようとする事は無くなるだろう。きっと、これが一番不思議に思ったから……だからこそ納得が行かずに一生追い求めて行こうとさえ思うのだろう。
つまり、恐らく『人間』の多くは殆どが思考するだろう命題。
それは何故生きているのか。
《うざいっだまれ宿!!!!!!》
「うっ!?頭痛がっぁあ!!!」
最近、この幻聴と共にキリキリとした頭痛を感じる事が増えた。
《ふははは、痛いか!?んー?》
最近、実を言うと精神病院に行った。勿論この幻聴について詳しい検査をして貰おうと思っての事。
そして、精神安定剤を渡された。
詰まる所、医者には精神が安定していない患者と捉えられたのだ。
悲しかな、説明をしようにも幻聴が聞こえてくるという事だけで、それは一見他の精神病となんら変わりはない。故にあの医者にとって僕はいつも診てきた患者と同じに見えたという訳だ。
まあ、口下手な僕が悪いとは思う……
《それにしても体温が劇的に下がっているな》
(死ぬ程じゃないだろ…?)
《劇的の意味が分からないか?》
僕はアスファルト上でうつ伏せに倒れていた。気付けば僕は膝から崩れ落ちていた。
(まさか死ぬのか?…ははは、そうだとすれば……妹の安否も分からずにのたれ死か、こりゃ良い。如何にも出来損ないらしい)
《いいや死ぬと困るからな、私が退くのは計画外だ……》
(は、…計画?)
あの異様な昆虫を倒した後、僕は身体中の力が朽ちていく様に、徐々に、徐々に失った。その後直ぐに、息切れと動悸が止まらず両瞼が痙攣してまばたきさえも煩わしく感じる程だった。
息切れの症状は収まったが、まだ動悸がする。さっきよりはうんと楽ではあるけれど、今こうして倒れている事がどういった事態なのか、自分の事なのに理解が出来ない程の無能となった気は勿論、更々無い。
《お前は私の作戦に簡単に乗った。それは何故だと思う?》
気を抜けば、手放してしまいそうになるその意識の中、幻聴は頭蓋骨を叩く様に響きわたる。
こんな事を突然質問してくるのは毎度の事だった。家に居ても、学校でも、休日で一人で居ようとした時も、夢の中でさえ出てきた。
それも、曖昧な世界観と記憶をもたらしてくれるあの夢の世界で、妙な事に僕は頭が働いた。それは妄想だと、いや…妄想の産物と思いたい幻聴の存在が、僕に質問の相手して貰う為だからだろう、でも、聡明でない僕はいつだって、彼女の強固な鉄檻に閉じ込めた質問の真意を取り出せずにいた。
そして今度もまた質問の真意が分からなかったのだ。
《なあ、お前の嫌いな私の、その提案に、お前は簡単に乗って来た……何故だと思う?》
* 通称バッタ戦に戻る。
《このままではまずいな、宿は思ったより体力が無かった》
(ほっとけっ!!)
《では奴の動きが目で追えるのか?恐らく、宿の消耗を狙って一息で殺すつもりだ》
確かに僕はこいつの動きについて行けなくなっている。
《そこで思ったが、こうしよう》
幻聴の策は意図も簡単な物だった。
《 奴が宿の消耗を狙い、一点を突くような機会を伺っているのは明白だ。ならばそこを逆手に取り、敢えて消耗したかのような無防備を晒してやれ。恐らく奴は意気揚々と飛び込んで来るはずだ。そこで思い切り叩き込んでやれ。もし謀られている事に気付くような動物であれば、最も賢い手段を既に取っている筈だからな、警戒は要らない 》
* 現実に戻る。
とまあ、この通り。
僕はあのバッタの猛威から身を守った訳だが、この幻聴は僕が生み出した物なら、きっと僕は褒めるに値するな。
それにしても、どうにかならないか?
今の僕は身体が微動だにせず、地にへばりついている。
アスファルトの質感をこれ程までに味わえたのは人生初めてだ。
《 宿よ、私が身体に鞭を打ったからか衰弱が激しくなってしまったな。然し直に言えるだろう》
ん、今何て言った?僕の身体が今こうしているのはお前のせいなの?この幻聴、冗談ヘタだな。
《 ほら、もう動ける筈だ 》
「…っぐ!!うぅ……」
身体を起こしてみた。怠さやほのかな痛みが残るが、こうしては居られない。
(急がないと妹が…)
《 そこに自転車がある。鍵はそのままだ。あれを拝借しよう、いまさらだが抵抗があるとかないとか喚くなよ 》
(分かってる…)
僕は近くのスーパーに横ずけされたままの自転車に近ずいた。
泥除けのフレームが少し錆びている所を見るとそこそこ放置された時間が長いのか?籠の網目も塗りが取れ、顔を出した金属部を赤茶に染めている。
スタンドを蹴飛ばし、自転車に跨る。
足に目一杯の力を込めて漕ぎ始め、安定した初速を迎える。
*
家路は本気で漕いだために到着は直ぐだった。
家の前に自転車を停めて、静かにドアの前へと進む。
辺りは静けさをたたえ、肌を包み込む風が緊張感にさいなまれた心を逆撫で、流れた冷や汗は乾く。なぜ自身の住まう家の前でビクビクしなきゃいけないのか。
拉致のあかない焦燥感にのたうちまわっていても仕方がない。
いっそ一気にドアにてを掛け、飛び込もう。
(いくぞ…)
「…っ」
ドアは景気良く開き、すかさず飛び前転をかまして見せた。そのまま身体を横にロールして移動。
よし、悪くない動きだ。
「何してんのお兄ちゃん………」
絶句という言葉が似合う妹の顔を僕の瞳はワンシーン残さず捉えていた。
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