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3.足跡
「マジかよ……」
智明の住むアパートは三階建てで、一人暮らし用ワンルームばかりのこぢんまりとしたアパートである。
とはいえ、一階には大家兼管理人が住んでいるし、オートロックの扉もついている、それなりに警備の整った建物だ。
住人以外がそう簡単に中には入れないはずで、友人を呼んだこともなかったので、智明の部屋番号は、両親くらいしか知らない。
大学生の入居者がメインターゲットなのか、数年で引っ越すパターンが多いらしく入れ替わりが激しいので、郵便受けのネームプレートも空欄のままにしておく人が大多数だ。
智明も例に漏れず、プレートは出していなかった。
それなのに、郵便受けの中には大量の手紙が投函されている。
しかもそれらには切手が貼られておらず、明らかに本人が直接郵便受けに入れたのだろう事は明らかだった。
(まさか、住所まで知られた……?)
どうにか嫌な予感を打ち消したいが、こんなことをする人物の心当たりは一人しか居ない。
今も、どこからストーカー女性に見られているか、わからなかった。
怯えている表情が出ないように顔を引き締めて、何でもない事の様に無造作に郵便受けの中身を回収し、早足で部屋に戻る。
部屋のドアをしっかりと施錠してから、震える手で真っ白な封筒を開けると、中に入っていた一枚の便せんにぎっしりと「好き」「愛してる」という文字が呪いのように書き連ねられていた。
書いてある言葉は愛を語るものばかりなのに、そこに暖かさはなく、背筋が凍る様だ。
何通もあった封筒の全てが同様のもので、その異常性にギシリと身体が動かなくなる感覚に捕らわれる。
もし、ベランダから外を覗いた時に、女性が部屋を見上げていたら。
もし、オートロックをかいくぐって、部屋の前まで押しかけてきたら。
想像するだけで息が苦しくなって、助けを求めるように智明はスマホを握りしめる。
画面にバイトの連絡先を表示して、ぴたりと動きを止めた。
智明は今、甘い物好きが高じてケーキ屋でバイトをしている。
パティシエ兼店長は、凄く良い人で頼れるし、尊敬できる大人の男性だ。
そこまで大きな店ではなく、今まで一人で切り盛りしていたらしいのだが、その居心地の良さと味に惚れ込んだ智明が何度か通ううちに交流が深まり、「少し忙しくなってきたから、手伝ってくれないか?」と頼まれた所から、智明のバイト生活は始まっている。
だからバイト先は、働く場所であると同時に、智明の大好きな場所でもあった。
ケーキ屋という事もあって、客のほとんどが女性であり、大概の人が幸せそうな表情でやって来る。
小さな幸せの手伝いが出来るようで、やりがいを感じていた。
バイトに入った当初は、客が格段に増えたと店長も喜んでくれていたのだが、智明の接客目的で来店する女性達が、仕事中にもかかわらずいつもの如く圧強めにグイグイ来る様子を目の当たりにして、近頃は心配してくれる事の方が多くなっている。
ストーカーまがいの付き纏いをしてくるようになった女性も、最初は単なる客の一人でしかなかったのだ。
違和感を抱かない間隔で徐々に来店回数が増え、やがて一日に何度も通ってくる様になった。
智明がその異常性に気がついた頃には、すでに手遅れだったといえる。
智明は普通に接客していただけなので、何が女性の心を縛ったのか、正直なところ今でもわからない。
だが、バイト先に客として現れるだけなら、来店回数は異常だとしても店員として一線を引いて接する事が出来る。
なんなら、売り上げにも貢献してくれるだろう。
バイト後に出待ちをされるのも、迷惑だがその場できっぱりと断ればそれで良い。
もちろん真っ先に店長に相談はしたし、実際その女性が来たら奥に下がらせてくれたり、帰宅時間を合わせてくれたりと、かなりフォローして貰えていると思う。
だが住んでいる場所を特定までして、嫌がらせまでしてくるとなると、いよいよ警察案件である。
警察がどこまで取り合ってくれるかわからないし、出来れば穏便に解決したい気持ちはあるので、通報は最終手段にしたいところだが、このままただ様子を見ていては駄目な状況だという事だけは確実だ。
(何よりこれ以上、店長に迷惑はかけたくない)
智明にとってあのケーキ屋は、金を稼ぐ場所と言うよりも、ずっと大切にしたい空間なのだ。
店長の作った新作ケーキを試食させて貰える瞬間は、至福の時である。
辞めたくはないのだが、このままでは店にどう影響するかわからない恐怖があった。
智明の住むアパートは三階建てで、一人暮らし用ワンルームばかりのこぢんまりとしたアパートである。
とはいえ、一階には大家兼管理人が住んでいるし、オートロックの扉もついている、それなりに警備の整った建物だ。
住人以外がそう簡単に中には入れないはずで、友人を呼んだこともなかったので、智明の部屋番号は、両親くらいしか知らない。
大学生の入居者がメインターゲットなのか、数年で引っ越すパターンが多いらしく入れ替わりが激しいので、郵便受けのネームプレートも空欄のままにしておく人が大多数だ。
智明も例に漏れず、プレートは出していなかった。
それなのに、郵便受けの中には大量の手紙が投函されている。
しかもそれらには切手が貼られておらず、明らかに本人が直接郵便受けに入れたのだろう事は明らかだった。
(まさか、住所まで知られた……?)
どうにか嫌な予感を打ち消したいが、こんなことをする人物の心当たりは一人しか居ない。
今も、どこからストーカー女性に見られているか、わからなかった。
怯えている表情が出ないように顔を引き締めて、何でもない事の様に無造作に郵便受けの中身を回収し、早足で部屋に戻る。
部屋のドアをしっかりと施錠してから、震える手で真っ白な封筒を開けると、中に入っていた一枚の便せんにぎっしりと「好き」「愛してる」という文字が呪いのように書き連ねられていた。
書いてある言葉は愛を語るものばかりなのに、そこに暖かさはなく、背筋が凍る様だ。
何通もあった封筒の全てが同様のもので、その異常性にギシリと身体が動かなくなる感覚に捕らわれる。
もし、ベランダから外を覗いた時に、女性が部屋を見上げていたら。
もし、オートロックをかいくぐって、部屋の前まで押しかけてきたら。
想像するだけで息が苦しくなって、助けを求めるように智明はスマホを握りしめる。
画面にバイトの連絡先を表示して、ぴたりと動きを止めた。
智明は今、甘い物好きが高じてケーキ屋でバイトをしている。
パティシエ兼店長は、凄く良い人で頼れるし、尊敬できる大人の男性だ。
そこまで大きな店ではなく、今まで一人で切り盛りしていたらしいのだが、その居心地の良さと味に惚れ込んだ智明が何度か通ううちに交流が深まり、「少し忙しくなってきたから、手伝ってくれないか?」と頼まれた所から、智明のバイト生活は始まっている。
だからバイト先は、働く場所であると同時に、智明の大好きな場所でもあった。
ケーキ屋という事もあって、客のほとんどが女性であり、大概の人が幸せそうな表情でやって来る。
小さな幸せの手伝いが出来るようで、やりがいを感じていた。
バイトに入った当初は、客が格段に増えたと店長も喜んでくれていたのだが、智明の接客目的で来店する女性達が、仕事中にもかかわらずいつもの如く圧強めにグイグイ来る様子を目の当たりにして、近頃は心配してくれる事の方が多くなっている。
ストーカーまがいの付き纏いをしてくるようになった女性も、最初は単なる客の一人でしかなかったのだ。
違和感を抱かない間隔で徐々に来店回数が増え、やがて一日に何度も通ってくる様になった。
智明がその異常性に気がついた頃には、すでに手遅れだったといえる。
智明は普通に接客していただけなので、何が女性の心を縛ったのか、正直なところ今でもわからない。
だが、バイト先に客として現れるだけなら、来店回数は異常だとしても店員として一線を引いて接する事が出来る。
なんなら、売り上げにも貢献してくれるだろう。
バイト後に出待ちをされるのも、迷惑だがその場できっぱりと断ればそれで良い。
もちろん真っ先に店長に相談はしたし、実際その女性が来たら奥に下がらせてくれたり、帰宅時間を合わせてくれたりと、かなりフォローして貰えていると思う。
だが住んでいる場所を特定までして、嫌がらせまでしてくるとなると、いよいよ警察案件である。
警察がどこまで取り合ってくれるかわからないし、出来れば穏便に解決したい気持ちはあるので、通報は最終手段にしたいところだが、このままただ様子を見ていては駄目な状況だという事だけは確実だ。
(何よりこれ以上、店長に迷惑はかけたくない)
智明にとってあのケーキ屋は、金を稼ぐ場所と言うよりも、ずっと大切にしたい空間なのだ。
店長の作った新作ケーキを試食させて貰える瞬間は、至福の時である。
辞めたくはないのだが、このままでは店にどう影響するかわからない恐怖があった。
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