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15.信頼
「出てきたじゃん!」
「今日の実習で作ったブツです。ご賞味下さい」
驚いて叫んでしまった智明に、シマがパチリとウィンクして「さぁ召し上がれ」と促してくる。
キザな行為も様になっているのが同じ男として悔しい気持ちもありつつ、格好良いのでぐうの音もでない。
結局智明は、手渡されたマドレーヌを、素直に口に運ぶ事しかできなかった。
「美味っ!」
「ずっと大好きな人が、甘い物好きなので……作れるようになったら、振り向いて貰えるかなって不純な動機で始めたんですけど、やってみると結構楽しいです」
(好きな人、いるんだ……)
さらりと告げられた新たな情報に、ツキンと胸が痛む。
完璧な「レンタル彼氏」のシマが、仮にもデート中の相手に「本命がいる」などとは本来言わないはずだ。
とすると、隠さずに話してくれたのは、それだけ智明の事を単なる顧客ではなく友人のように思ってくれている様にも思えて、複雑な気分になる。
その視線の先にいるのは、智明ではないとわかっているのに、シマの智明を見つめる目が、まるでその好きな人を見る時の様に柔らかくて落ち着かない。
このままだと不毛な恋にのめり込みそうで、智明は慌ててシマから視線を逸らした。
「シマ、向いてると思う! 菓子作りって繊細だし、意外と味に出やすいから、向き不向きってあるんだよな」
実際智明も、甘い物好きが高じて菓子作りに挑戦しようとした事はあったが、よくわからない「パサパサの砂糖味をした何か」を生み出しただけで終わった過去がある。
その後も懲りずに何度か試してみたものの、智明は「作るより食べる派」だという事を再確認しただけだった。
だが、シマのくれたマドレーヌは、素朴だが優しい味がして、お世辞抜きにとても美味しい。
簡単なものだからこそ、差が出るものだ。
店長のケーキを何度も試食しているので、甘い物に関して舌だけは肥えている自負もある。
確実にシマは、菓子作りに向いているタイプの人間だ。
「本当ですか? トモさんの口に合ったなら、嬉しいです」
「マジで美味しいよ。基本を大切にしてるの、伝わってくるし。良い職人になると思う!」
「第一段階成功……かな?」
手放しで褒める智明に、珍しく照れた顔をしながら、シマが「よしっ」と珍しく子供っぽく小さなガッツポーズを決めている。
それと同時に、シマが何か呟いていたような気がしたのだが、上手く聞き取れない。
ただ、その表情や行動から喜びの声だったのだろうとわかるから、聞き返す事で水を差してしまうのも憚られて、ようやく見られた年下らしいその姿を、微笑ましく見つめるだけに留めた。
(シマの好きな人と、上手くいくと良いな)
智明がシマの好きな人になれないのは少し残念だけれど、最初から偽りの関係だという事も承知している。
下手に夢を見せ続けられるよりは、よっぽど誠意があるとも言えた。
もしかしたら、シマが「レンタル彼氏」という仕事で、ナンバーワンの地位に立ち続けられているのは、その一途さからなのかもしれない。
絶対に顧客を好きにはならないという自信があるからこそ、際限なく優しく出来るのだろうし、いつか本当に喜ばせたい相手の為に努力する姿を惜しみなく向けてくれるのならば、ひとときの時間を買った契約者も満足するだろう。
本来はその裏側を、時間を買っている智明に告げるのは契約違反かもしれないが、智明は純粋にシマとデートしたいだけの客ではない。
むしろストーカー対策に巻き込んでいる立場であり、事情も全て話しているのだから、シマがこうして裏側を教えてくれるのは、信頼の証でもあった。
「今日の実習で作ったブツです。ご賞味下さい」
驚いて叫んでしまった智明に、シマがパチリとウィンクして「さぁ召し上がれ」と促してくる。
キザな行為も様になっているのが同じ男として悔しい気持ちもありつつ、格好良いのでぐうの音もでない。
結局智明は、手渡されたマドレーヌを、素直に口に運ぶ事しかできなかった。
「美味っ!」
「ずっと大好きな人が、甘い物好きなので……作れるようになったら、振り向いて貰えるかなって不純な動機で始めたんですけど、やってみると結構楽しいです」
(好きな人、いるんだ……)
さらりと告げられた新たな情報に、ツキンと胸が痛む。
完璧な「レンタル彼氏」のシマが、仮にもデート中の相手に「本命がいる」などとは本来言わないはずだ。
とすると、隠さずに話してくれたのは、それだけ智明の事を単なる顧客ではなく友人のように思ってくれている様にも思えて、複雑な気分になる。
その視線の先にいるのは、智明ではないとわかっているのに、シマの智明を見つめる目が、まるでその好きな人を見る時の様に柔らかくて落ち着かない。
このままだと不毛な恋にのめり込みそうで、智明は慌ててシマから視線を逸らした。
「シマ、向いてると思う! 菓子作りって繊細だし、意外と味に出やすいから、向き不向きってあるんだよな」
実際智明も、甘い物好きが高じて菓子作りに挑戦しようとした事はあったが、よくわからない「パサパサの砂糖味をした何か」を生み出しただけで終わった過去がある。
その後も懲りずに何度か試してみたものの、智明は「作るより食べる派」だという事を再確認しただけだった。
だが、シマのくれたマドレーヌは、素朴だが優しい味がして、お世辞抜きにとても美味しい。
簡単なものだからこそ、差が出るものだ。
店長のケーキを何度も試食しているので、甘い物に関して舌だけは肥えている自負もある。
確実にシマは、菓子作りに向いているタイプの人間だ。
「本当ですか? トモさんの口に合ったなら、嬉しいです」
「マジで美味しいよ。基本を大切にしてるの、伝わってくるし。良い職人になると思う!」
「第一段階成功……かな?」
手放しで褒める智明に、珍しく照れた顔をしながら、シマが「よしっ」と珍しく子供っぽく小さなガッツポーズを決めている。
それと同時に、シマが何か呟いていたような気がしたのだが、上手く聞き取れない。
ただ、その表情や行動から喜びの声だったのだろうとわかるから、聞き返す事で水を差してしまうのも憚られて、ようやく見られた年下らしいその姿を、微笑ましく見つめるだけに留めた。
(シマの好きな人と、上手くいくと良いな)
智明がシマの好きな人になれないのは少し残念だけれど、最初から偽りの関係だという事も承知している。
下手に夢を見せ続けられるよりは、よっぽど誠意があるとも言えた。
もしかしたら、シマが「レンタル彼氏」という仕事で、ナンバーワンの地位に立ち続けられているのは、その一途さからなのかもしれない。
絶対に顧客を好きにはならないという自信があるからこそ、際限なく優しく出来るのだろうし、いつか本当に喜ばせたい相手の為に努力する姿を惜しみなく向けてくれるのならば、ひとときの時間を買った契約者も満足するだろう。
本来はその裏側を、時間を買っている智明に告げるのは契約違反かもしれないが、智明は純粋にシマとデートしたいだけの客ではない。
むしろストーカー対策に巻き込んでいる立場であり、事情も全て話しているのだから、シマがこうして裏側を教えてくれるのは、信頼の証でもあった。
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