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18.提案
「そろそろ、トモさんのバイト先に、連れて行ってくれませんか?」
シマがそう提案してきたのは、秋も深まったある日の夕方。
今日はどこのカフェに行こうかと、相談していた最中の事だった。
相変わらず智明を狙う不愉快な視線は消えてはいなかったが、シマと頻繁に会うのが日常になってからというもの、恐怖を感じる時間は少なくなっている。
だが、それはシマが一緒にいてくれるという安心感から来るものであって、ストーカー行為が減ってきているというような、解決に向かっているという意味ではない。
大切な人がいるのだと見せつける対策自体は、効果を発揮しているように思うのだが、決定打にはなっていないというところだろうか。
願わくは「このまま、フェードアウトしてくれたら」という気持ちだったのだが、事態はそう進まず、消えていくどころかここに来てまた少し距離感が近くなってきた感覚もあって、一進一退の状況である。
だからこそ「何か次の一手を」と、シマは考えてくれたのだろう。
もちろん、純粋に智明のバイト先であるケーキ屋に興味があるのは、事実だと思う。
智明は、シマとのカフェ巡りを重ねるごとに、何度もその美味しさをプレゼンしてしまっていたし、その中でシマの目指すところは有名な大きな店で働くというよりも、小さくても自分の店を持ちたいという所にあると聞いていたので、智明のバイト先はまさに理想とする将来像であるに違いない。
シマに店長を紹介するのはやぶさかではなかったし、智明の好きなケーキをシマにも食べて貰いたいという気持ちは、もちろんある。
だが、ストーカー女性が確実に追ってきているのをわかった上でのその提案は、賭けでもあった。
バイト先に行くという事は、智明の生活圏の中にシマを招き入れるという事と同義だ。
デートもカフェ巡りも、相変わらず家からは少し離れた場所を選んでいた。
最初にシマと会った時と同じ理由で、大学の友人など知り合いに見つかると説明が面倒だという気持ちが大きかったが、既に友人の様に接しているシマと一緒にいるところを見られたからといって、別段困ることもない。
今なら大学の友人達に、「レンタル彼氏」としてではなく「学外の友人」として紹介しても、なんの違和感もないからだ。
だが、何もかもさらけ出してしまったら、シマに全部頼りたくなってしまうかもしれない。
今となっては、自分の生活圏から離れた場所で会う理由は、多少なりとも秘密の部分を残しておくことで、智明がシマにハマって抜け出せなくなるのを抑止しているというのが大きいのだ。
だが、このままでは埒が明かないのも確かだった。
店長の好意に甘えて、バイトももう一ヶ月以上休んでいる。
店に迷惑をかけるのは嫌だったが、このまま詰んで辞める事になるのはもっと嫌だ。
それに本音を言えば、パティシエを目指しているというシマに、店長の作る極上のケーキを食べて貰いたい。
「わかった」
本当は、ここで智明が止めなければならなかったのだろう。
ストーカー行為が治まった訳じゃないし、女性は元々智明のバイト先に来ていた客である。
そこに親密な関係だとほのめかしているシマを連れていくことが、どれだけストーカー女性の気持ちを逆なでする行為なのか、もっと冷静に判断すべきだった。
だがこの時、毎日のメッセージのやり取りに、平日のカフェ巡り、土日は一日デートというフルコースを既に一ヶ月近く続けていた事もあり、智明の考え得る対策は全てやりきってしまっている。
だからこそ、同じ事を続けていても変化がないのではないかという不安感は、最高潮に高まっていた。
それにこれ以上長引いて、シマに優しくされ続けては、引き返せなくなる。
気持ちを押し込めてしまえる内に、何とか解決して平穏な日々に戻りたいという焦りが、判断を鈍らせてしまっていたのかもしれない。
「やった!」
シマが嬉しそうに喜ぶ姿が、久しぶりに年下らしい可愛さで、「やっぱ止めた」と言い辛くなってしまったのも、分岐点の一つだった。
回避できたタイミングはいくつかあったはずなのに、何故かこういう時に限って抑止力は作動しないものだ。
シマがそう提案してきたのは、秋も深まったある日の夕方。
今日はどこのカフェに行こうかと、相談していた最中の事だった。
相変わらず智明を狙う不愉快な視線は消えてはいなかったが、シマと頻繁に会うのが日常になってからというもの、恐怖を感じる時間は少なくなっている。
だが、それはシマが一緒にいてくれるという安心感から来るものであって、ストーカー行為が減ってきているというような、解決に向かっているという意味ではない。
大切な人がいるのだと見せつける対策自体は、効果を発揮しているように思うのだが、決定打にはなっていないというところだろうか。
願わくは「このまま、フェードアウトしてくれたら」という気持ちだったのだが、事態はそう進まず、消えていくどころかここに来てまた少し距離感が近くなってきた感覚もあって、一進一退の状況である。
だからこそ「何か次の一手を」と、シマは考えてくれたのだろう。
もちろん、純粋に智明のバイト先であるケーキ屋に興味があるのは、事実だと思う。
智明は、シマとのカフェ巡りを重ねるごとに、何度もその美味しさをプレゼンしてしまっていたし、その中でシマの目指すところは有名な大きな店で働くというよりも、小さくても自分の店を持ちたいという所にあると聞いていたので、智明のバイト先はまさに理想とする将来像であるに違いない。
シマに店長を紹介するのはやぶさかではなかったし、智明の好きなケーキをシマにも食べて貰いたいという気持ちは、もちろんある。
だが、ストーカー女性が確実に追ってきているのをわかった上でのその提案は、賭けでもあった。
バイト先に行くという事は、智明の生活圏の中にシマを招き入れるという事と同義だ。
デートもカフェ巡りも、相変わらず家からは少し離れた場所を選んでいた。
最初にシマと会った時と同じ理由で、大学の友人など知り合いに見つかると説明が面倒だという気持ちが大きかったが、既に友人の様に接しているシマと一緒にいるところを見られたからといって、別段困ることもない。
今なら大学の友人達に、「レンタル彼氏」としてではなく「学外の友人」として紹介しても、なんの違和感もないからだ。
だが、何もかもさらけ出してしまったら、シマに全部頼りたくなってしまうかもしれない。
今となっては、自分の生活圏から離れた場所で会う理由は、多少なりとも秘密の部分を残しておくことで、智明がシマにハマって抜け出せなくなるのを抑止しているというのが大きいのだ。
だが、このままでは埒が明かないのも確かだった。
店長の好意に甘えて、バイトももう一ヶ月以上休んでいる。
店に迷惑をかけるのは嫌だったが、このまま詰んで辞める事になるのはもっと嫌だ。
それに本音を言えば、パティシエを目指しているというシマに、店長の作る極上のケーキを食べて貰いたい。
「わかった」
本当は、ここで智明が止めなければならなかったのだろう。
ストーカー行為が治まった訳じゃないし、女性は元々智明のバイト先に来ていた客である。
そこに親密な関係だとほのめかしているシマを連れていくことが、どれだけストーカー女性の気持ちを逆なでする行為なのか、もっと冷静に判断すべきだった。
だがこの時、毎日のメッセージのやり取りに、平日のカフェ巡り、土日は一日デートというフルコースを既に一ヶ月近く続けていた事もあり、智明の考え得る対策は全てやりきってしまっている。
だからこそ、同じ事を続けていても変化がないのではないかという不安感は、最高潮に高まっていた。
それにこれ以上長引いて、シマに優しくされ続けては、引き返せなくなる。
気持ちを押し込めてしまえる内に、何とか解決して平穏な日々に戻りたいという焦りが、判断を鈍らせてしまっていたのかもしれない。
「やった!」
シマが嬉しそうに喜ぶ姿が、久しぶりに年下らしい可愛さで、「やっぱ止めた」と言い辛くなってしまったのも、分岐点の一つだった。
回避できたタイミングはいくつかあったはずなのに、何故かこういう時に限って抑止力は作動しないものだ。
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