自称無能で無価値で無意味な義妹はやっぱ優秀だと思うんだけど

福留しゅん

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義妹はとんでもないことを考えてた

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 さて、そんな近状を前提として、ミッシェルの様子がどうもおかしいと気づいたのは何がきっかけだっただろうか。妙に落ち着かなく、不安に駆られているように感じられた。勿論ほんの僅かな違和感のみ表に出ていただけだから追求しようもなく、仮に問いただしてもミッシェル本人は認めやしないだろう。

 その日、ミッシェルは明らかに挙動不審だった。言葉をかわしてもどこか上の空。心ここにあらず、というより、明らかに緊張してそれどころではない、といった雰囲気だった。どうもその点を触れられたくないらしく、わたしと視線を合わそうとしなかった。

 何かある、と確信してわたしはミッシェルの動向を追うことにした。

 そして案の定ミッシェルは普段と異なる行動を取った。けれど実際に何をしたかまではわたしの予想を遥かに超えていた。わたしはきっとこの日を生涯忘れることはないだろう。彼女を止められなかった、彼女を理解しなかった愚かな自分の戒めとして。

 ミッシェルは裕福な平民に見える簡素な服に身を包むと、なんと公爵邸を裏口から抜け出した。慌ててわたしも変装して彼女の後を追う。なんて仕事をしない門番だと憤りたくなるものの、ポーラやわたしもやったことなので言う資格はあるまい。

 まだ日が沈まってそう時間が経っていない夜の町はまだ活気に満ちていた。護衛も付けない無用心な彼女はそうした人の行き交う大通りから脇道に入っていく。思わず不安で汗を拭ったわたしは彼女の背を追いかける。

「まさか……」

 わたしの思い違いであって欲しい。見間違いに違いない。そう願わずにはいられなかったけれど、それを裏切るようにミッシェルはわたしのよく知る道を歩んでいく。
 途中ですれ違う大人達が奇異な目でミッシェルを眺めるものの、彼女は堂々とした様子で進んでいった。

 ここは、夜の店が並ぶ商店街だ。
 かつてのわたしの生活圏、昔の母の仕事場、そしてポーラが三馬鹿共を誘った、社交界とは全く異なる輝きと魅力に満ちた、蠱惑の空間。

 そんな場所にミッシェルが何の用だ?
 まさか、いけないことをするつもりなのだろうか?
 公爵令嬢であり王太子の婚約者である、貴族令嬢の鏡といえる義妹が……?

 止めなくては、と駆け出したわたしは、次の瞬間信じられない光景を目にした。

「まさか本当に来るとは、ね」
「お義母様……」

 ミッシェルが目的としていただろう高級男娼の店の前ではなんと母が腕を組んで待ち構えていた。

 母は眉間にしわを寄せて唇を固く結び、これでもかというぐらい鋭い眼差しでミッシェルを睨みつける。それを受けてさすがのミッシェルもたじろいで母から距離を置こうとする。その反応に母が目尻を動かし、礼儀や品などかなぐり捨てた大股でミッシェルへと歩み寄った。

「こそこそと界隈の事情を調べていたようだから何事かと思ってたらまさか男娼を買おうとしてたなんて! 一体何を考えているのよ!」
「どうしてそれを……!」
「この店も私が出資してる、と言えば分かるかしら? 逐一報告を受けてるのよ」
「そこまで手を広げてるとまでは把握していませんでした……」

 母はミッシェルの手首を掴むと強引に連れ去ろうとする。ミッシェルも抵抗を示すもののさすがに騒ぎに発展しかねないためか振りほどこうとまではしない。母のあまりの気迫におされたミッシェルはよろけながらも小刻みに足を動かして付いていく。

「あのブス女の娘だからと蔑ろにしてたのは自覚してるけれど、こればかりは見過ごせないわ。今日ミッシェルが感受するのは男娼からの甘やかしじゃなくて私からの説教よ!」
「痛い、そんな強く握らないで……!」
「お黙り! 旦那様にバラされたくなかったら大人しく全部話してもらいますからね!」
「っ……! 分かり、ました……」
「アンタもよ! ボケっと見てないでどうしてミッシェルを止めないのよ!?」
「いっ! 痛い痛い痛い止めて!」

 母は少年風に変装したわたしを横切る間際、なんとわたしの耳を掴んで引っ張ってきた。激痛が走って悲鳴を出すわたしはやっとの思いで母の手から逃れたものの、そのまま母に連行されるしかなかった。
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