44 / 45
それから
しおりを挟む
あの一連の大騒動から日が経った。それまで目まぐるしく色々とあった。
まず王太子。彼は正式に王太子の座を取り上げられた。しかしポーラが語ったように廃嫡にする動きまでは国王が思い留まったらしく、王位継承権を大きく下げる方向で調整したらしい。
その上で王太子は王族のままポーラと結婚し、公爵家に婿入りした。ポーラはかろうじて公爵家一族の血を受け継いでおり、ミッシェルの推薦もあったものの、事実上の愛人と王家による公爵家の乗っ取りだろう。
王太子の座はトレヴァーの弟が継いだらしい。弟はトレヴァーに負けず劣らず優秀との評判だから、特に問題ないだろう。ちなみにその弟、実はミッシェルに密かに恋を抱いていたらしく、あの後告白したけれどミッシェルに全く意識してもらえなかったので、大人しく身を引いたのだとか。
「うわ、可哀想。ミッシェルったら王族の男を二人も弄んだ魔性の女じゃん」
「あの方はトレヴァー様と違って利用価値が無いもの。検討にも値しないわ」
「でも、王太子妃教育が無駄になるから、あの方の婚約者になるよう要望されなかったの?」
「その可能性を潰すために自由を契約の条件に盛り込んだのよ」
デヴィットはあの後逮捕された。女公爵暗殺については何が真実かもはや調査出来ず、証拠不十分で訴えられなかった。しかし女公爵の遺体を燃やした容疑はしっかりと立証された。本人の希望無く遺体を焼く行為は宗教上極めて重い罪なので、火炙りによる処刑は免れないそうだ。
「前公爵閣下の遺体が墓から暴かれて焼かれた、ってミッシェルは知ってたの?」
「ええ。情報は掴んでいたわ。その上で聞かなかったことにしたの」
「死者への冒涜だ、とかは思わなかったの?」
「お母様は献身的な教徒だったわ。お母様が信じた神を私が信じると思う?」
「……ちなみに、前公爵閣下は本当に突然死だったの?」
「ええ、そうよ。お医者様はそう言っていたわ。お父様の毒殺は失敗だったのよ」
「ミッシェルがそういうことに改ざんしたんじゃなくて?」
「違うわ。本当に違うの。けれど、そうね。お母様が信じた神様がお母様に与えた死がこれなんだ、と哀れみを覚えたものよ」
母はデヴィットの逮捕を受けて公爵夫人代行でなくなった。しばらくは居候という形で公爵邸には留まるものの、状況が落ち着いたら出ていく予定だそうだ。既に事務所兼住まいの物件を見つけていて、生活の基盤も徐々に移すつもりらしい。
「私、シャロンさんの娘に生まれたかったわ。そしてジュリーやポーラと一緒に馬鹿をやりたかった。貧民街でも、公爵家でもね」
「母さんだったらそんなもしもの話じゃなくてもミッシェルのことも娘として可愛がってくれるよ。だってもう前公爵閣下は関係ないもの」
「……止めておくわ。甘えるとここに未練が残っちゃうもの」
「そう。母さんも残念がってたよ。これからなら本当の家族になれたかも、ってね」
わたしも近いうちにこの家を出て、ピーターに嫁ぐことになっている。
ちなみにそのピーター、家を継がずに独立すると宣言した。そして家督はわたしが会ったことのない三人目の兄弟に継いでもらうつもりらしい。その補佐を、なんと宰相が毒殺するとか言ってたクリフォードが務めるんだとかなんとか。
「は? どういうことなの?」
「ここだけの話、身分や立場を全く考慮しない実力至上主義の宰相閣下、ラドクリフ家一族内外で相当不満を抱かれてたらしくてさ。極めつけがクリフォードの毒杯宣言でしょう。ピーターが「こりゃ駄目だ」と見切りをつけて兄弟同士で調整、宰相閣下には引退していただくことになったってわけ」
「……。ねえジュリー」
「で、当主の座は妾の子である自分には荷が重いってピーターが辞退したの。あ、宰相閣下が持ってた子爵位を分けてもらうことになったから、貴族ではいられるみたい。だからわたしは子爵夫人になるってことかな」
「ジュリー」
「……え、と。何?」
「あの兄弟が手を取り合うなんて冗談でしょう? 何をしたのよ?」
「いや、別に……。強いて言うならわたしは自分の考えを口にしただけで……」
一回失敗しただけで後継者候補を殺そうとした宰相とは合わない、とわたしはピーターに感想を漏らしただけだ。反省をすることで改善に繋げられるわけで、クリフォードはそれが出来ないほど愚かではないのだから。
まず王太子。彼は正式に王太子の座を取り上げられた。しかしポーラが語ったように廃嫡にする動きまでは国王が思い留まったらしく、王位継承権を大きく下げる方向で調整したらしい。
その上で王太子は王族のままポーラと結婚し、公爵家に婿入りした。ポーラはかろうじて公爵家一族の血を受け継いでおり、ミッシェルの推薦もあったものの、事実上の愛人と王家による公爵家の乗っ取りだろう。
王太子の座はトレヴァーの弟が継いだらしい。弟はトレヴァーに負けず劣らず優秀との評判だから、特に問題ないだろう。ちなみにその弟、実はミッシェルに密かに恋を抱いていたらしく、あの後告白したけれどミッシェルに全く意識してもらえなかったので、大人しく身を引いたのだとか。
「うわ、可哀想。ミッシェルったら王族の男を二人も弄んだ魔性の女じゃん」
「あの方はトレヴァー様と違って利用価値が無いもの。検討にも値しないわ」
「でも、王太子妃教育が無駄になるから、あの方の婚約者になるよう要望されなかったの?」
「その可能性を潰すために自由を契約の条件に盛り込んだのよ」
デヴィットはあの後逮捕された。女公爵暗殺については何が真実かもはや調査出来ず、証拠不十分で訴えられなかった。しかし女公爵の遺体を燃やした容疑はしっかりと立証された。本人の希望無く遺体を焼く行為は宗教上極めて重い罪なので、火炙りによる処刑は免れないそうだ。
「前公爵閣下の遺体が墓から暴かれて焼かれた、ってミッシェルは知ってたの?」
「ええ。情報は掴んでいたわ。その上で聞かなかったことにしたの」
「死者への冒涜だ、とかは思わなかったの?」
「お母様は献身的な教徒だったわ。お母様が信じた神を私が信じると思う?」
「……ちなみに、前公爵閣下は本当に突然死だったの?」
「ええ、そうよ。お医者様はそう言っていたわ。お父様の毒殺は失敗だったのよ」
「ミッシェルがそういうことに改ざんしたんじゃなくて?」
「違うわ。本当に違うの。けれど、そうね。お母様が信じた神様がお母様に与えた死がこれなんだ、と哀れみを覚えたものよ」
母はデヴィットの逮捕を受けて公爵夫人代行でなくなった。しばらくは居候という形で公爵邸には留まるものの、状況が落ち着いたら出ていく予定だそうだ。既に事務所兼住まいの物件を見つけていて、生活の基盤も徐々に移すつもりらしい。
「私、シャロンさんの娘に生まれたかったわ。そしてジュリーやポーラと一緒に馬鹿をやりたかった。貧民街でも、公爵家でもね」
「母さんだったらそんなもしもの話じゃなくてもミッシェルのことも娘として可愛がってくれるよ。だってもう前公爵閣下は関係ないもの」
「……止めておくわ。甘えるとここに未練が残っちゃうもの」
「そう。母さんも残念がってたよ。これからなら本当の家族になれたかも、ってね」
わたしも近いうちにこの家を出て、ピーターに嫁ぐことになっている。
ちなみにそのピーター、家を継がずに独立すると宣言した。そして家督はわたしが会ったことのない三人目の兄弟に継いでもらうつもりらしい。その補佐を、なんと宰相が毒殺するとか言ってたクリフォードが務めるんだとかなんとか。
「は? どういうことなの?」
「ここだけの話、身分や立場を全く考慮しない実力至上主義の宰相閣下、ラドクリフ家一族内外で相当不満を抱かれてたらしくてさ。極めつけがクリフォードの毒杯宣言でしょう。ピーターが「こりゃ駄目だ」と見切りをつけて兄弟同士で調整、宰相閣下には引退していただくことになったってわけ」
「……。ねえジュリー」
「で、当主の座は妾の子である自分には荷が重いってピーターが辞退したの。あ、宰相閣下が持ってた子爵位を分けてもらうことになったから、貴族ではいられるみたい。だからわたしは子爵夫人になるってことかな」
「ジュリー」
「……え、と。何?」
「あの兄弟が手を取り合うなんて冗談でしょう? 何をしたのよ?」
「いや、別に……。強いて言うならわたしは自分の考えを口にしただけで……」
一回失敗しただけで後継者候補を殺そうとした宰相とは合わない、とわたしはピーターに感想を漏らしただけだ。反省をすることで改善に繋げられるわけで、クリフォードはそれが出来ないほど愚かではないのだから。
48
あなたにおすすめの小説
妹に婚約者を奪われた上に断罪されていたのですが、それが公爵様からの溺愛と逆転劇の始まりでした
水上
恋愛
濡れ衣を着せられ婚約破棄を宣言された裁縫好きの地味令嬢ソフィア。
絶望する彼女を救ったのは、偏屈で有名な公爵のアレックスだった。
「君の嘘は、安物のレースのように穴だらけだね」
彼は圧倒的な知識と論理で、ソフィアを陥れた悪役たちの嘘を次々と暴いていく。
これが、彼からの溺愛と逆転劇の始まりだった……。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私シーラは、伯爵令息レヴォクに婚約破棄を言い渡されてしまう。
レヴォクは私の妹ソフィーを好きになったみたいだけど、それは前から知っていた。
知っていて、許せなかったからこそ――私はこの日の為に準備していた。
私は婚約破棄を言い渡されてしまうけど、すぐに受け入れる。
そして――レヴォクの後悔が、始まろうとしていた。
冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。
水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。
しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。
マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。
当然冤罪だった。
以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。
証拠は無い。
しかしマイケルはララの言葉を信じた。
マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。
そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。
もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
自称聖女の従姉に誑かされた婚約者に婚約破棄追放されました、国が亡ぶ、知った事ではありません。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『偽者を信じて本物を婚約破棄追放するような国は滅びればいいのです。』
ブートル伯爵家の令嬢セシリアは不意に婚約者のルドルフ第三王子に張り飛ばされた。華奢なセシリアが筋肉バカのルドルフの殴られたら死の可能性すらあった。全ては聖女を自称する虚栄心の強い従姉コリンヌの仕業だった。公爵令嬢の自分がまだ婚約が決まらないのに、伯爵令嬢でしかない従妹のセシリアが第三王子と婚約しているのに元々腹を立てていたのだ。そこに叔父のブートル伯爵家ウィリアムに男の子が生まれたのだ。このままでは姉妹しかいないウィルブラハム公爵家は叔父の息子が継ぐことになる。それを恐れたコリンヌは筋肉バカのルドルフを騙してセシリアだけでなくブートル伯爵家を追放させようとしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる