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始めて殺意を抱いた元悪役令嬢
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「魅了の邪視とは何も好感度を高めるばかりではありません。自分を魅力的に映して嫉妬心を煽ることも出来ます。本当なら婚約者を蔑ろにして他の女と仲良くしている、などと親を通じて相手の家に抗議することも出来たでしょう。しかし礼儀正しい大人の対応をする冷静さを邪視が奪ってしまったとしたら?」
この訴えかけは会場の皆に向けて言いつつも、私に語り掛けているような気もした。それは、かつてレオノールとして私が抱いた醜い嫉妬心や憎悪はイサベルによって焚きつけられたものかもしれないのだ、と。
これで先程までの婚約破棄騒動の前提すら崩れてしまった。フェリペ様方はイサベルへの悪意を理由に婚約者を突き放したが、それすらもイサベルが仕組んだことだとすれば、自分達の勝手で汚名を着せたことになる。
「そんなの嘘です! わたし……そんなことしてません! 本当なんです、信じてください!」
「邪視持ちだと判明した以上は本当の想いが何だったかなんてもはや証明不可能でしょうよ。それなら白黒つけるためにもやっぱり司法の場に移した方がいいんじゃない?」
「い……嫌よ! そんなの不公平じゃないの!」
「不公平? まさかこの貴族社会において人は神の下で平等、とか思っているんじゃあないでしょうね?」
「~~ッ!」
イサベルの涙ながらの訴えもレオノールには通じない。それどころかジョアン様の指示でこれ以上魅了の邪視が悪用されないよう目隠しをされた。布との間に粘土を挟む念の入りようだ。そして手の枷をはめられた彼女は……罪人にしか見えなかった。
不公平だと非難したが、その通りだ。レオノールはあくまで可能性を提示しただけでイサベルが本当に魅了したかは分からない。しかし、裁判まで持ち込まれたらイサベルは確実に負ける。例えフェリペ様やアントニオ様方の助力があっても、だ。
(だってそうした方が都合がいいんだもの)
例えばドゥルセ様のご実家の侯爵家。今のままでは個人的な想いから暴走して邪視にまで手を伸ばした娘を輩出した、と没落ないしはお取り潰しになる可能性が高い。しかし邪視の影響で狂った被害者であったなら名誉はそれほど傷つかないだろう。
一方のフェリペ様のご実家は、責任を全てフェリペ様に被せてしまえばいい。廃嫡、勘当。いくらでも手はある。無論、家そのものへの影響も計り知れないだろうが、これもイサベルのせいにしてしまえばある程度緩和されるだろう。
さて、ではイサベル当人はどうだ? 彼女はしがない男爵令嬢、それも庶子に過ぎない。彼女一人いなくなったからと王国が揺らぐか? 否。幾人は困ったり悲しむだろうが、大勢の前では些事だろう。
悪いのは邪視で悪だくみしたイサベルである。それが真実であるべきだ。
そんな落としどころがある限り、もはやイサベルに助かる術はない。
「近衛兵、彼女を引っ立てろ」
「嫌よ、離して! どうしてわたしがこんな目に遭わなきゃ……」
ジョアン様の命令で引っ張られたイサベルは声を張り上げたが、不意に言葉を止めて顔を動かす。その先にいるのは……他でもない、この私だった。
「ジョアン様、わたしもきっと操られていたんです! いえ、絶対そうです!」
「ほう、誰にだ? 言ってみろ」
「勿論、そこで他人事のようにしているカレン……いえ、本当にイサベルにです!」
(はああぁぁ~~!?)
思わず怒鳴りたくなる衝動を堪えられたのは奇蹟に等しい。
落ち着け、と自分を言い聞かせてかろうじて怒りを抑えた私は、ふと一つの可能性に思い当たった。それは……可能な限り向き合いたくなかった最悪の可能性だった。至ってしまった私は、憎悪も嫉妬も通り越した想いをイサベルに抱いた。
「そこにいるイサベルはわたしの実の姉妹、ならわたしと同じように魅了の邪視を先天的に持っているに違いありません! わたしをイサベルに仕立て上げてこの混乱を起こしたのはイサベルのせいかもしれません!」
「イサベル。一つ聞きたいんだけれど、いいかな?」
「違うわ、わたしはカレン――」
「もうどっちがイサベルでどっちがカレンかなんてどうでもいいから。それより――」
――貧民街の火事は貴女の仕業?
「ッ!?」
その問いかけを突き付けられたイサベルが示した反応は、私の仮説が正しいことを示していた。
お母さんを殺したのは、コイツだ。
この訴えかけは会場の皆に向けて言いつつも、私に語り掛けているような気もした。それは、かつてレオノールとして私が抱いた醜い嫉妬心や憎悪はイサベルによって焚きつけられたものかもしれないのだ、と。
これで先程までの婚約破棄騒動の前提すら崩れてしまった。フェリペ様方はイサベルへの悪意を理由に婚約者を突き放したが、それすらもイサベルが仕組んだことだとすれば、自分達の勝手で汚名を着せたことになる。
「そんなの嘘です! わたし……そんなことしてません! 本当なんです、信じてください!」
「邪視持ちだと判明した以上は本当の想いが何だったかなんてもはや証明不可能でしょうよ。それなら白黒つけるためにもやっぱり司法の場に移した方がいいんじゃない?」
「い……嫌よ! そんなの不公平じゃないの!」
「不公平? まさかこの貴族社会において人は神の下で平等、とか思っているんじゃあないでしょうね?」
「~~ッ!」
イサベルの涙ながらの訴えもレオノールには通じない。それどころかジョアン様の指示でこれ以上魅了の邪視が悪用されないよう目隠しをされた。布との間に粘土を挟む念の入りようだ。そして手の枷をはめられた彼女は……罪人にしか見えなかった。
不公平だと非難したが、その通りだ。レオノールはあくまで可能性を提示しただけでイサベルが本当に魅了したかは分からない。しかし、裁判まで持ち込まれたらイサベルは確実に負ける。例えフェリペ様やアントニオ様方の助力があっても、だ。
(だってそうした方が都合がいいんだもの)
例えばドゥルセ様のご実家の侯爵家。今のままでは個人的な想いから暴走して邪視にまで手を伸ばした娘を輩出した、と没落ないしはお取り潰しになる可能性が高い。しかし邪視の影響で狂った被害者であったなら名誉はそれほど傷つかないだろう。
一方のフェリペ様のご実家は、責任を全てフェリペ様に被せてしまえばいい。廃嫡、勘当。いくらでも手はある。無論、家そのものへの影響も計り知れないだろうが、これもイサベルのせいにしてしまえばある程度緩和されるだろう。
さて、ではイサベル当人はどうだ? 彼女はしがない男爵令嬢、それも庶子に過ぎない。彼女一人いなくなったからと王国が揺らぐか? 否。幾人は困ったり悲しむだろうが、大勢の前では些事だろう。
悪いのは邪視で悪だくみしたイサベルである。それが真実であるべきだ。
そんな落としどころがある限り、もはやイサベルに助かる術はない。
「近衛兵、彼女を引っ立てろ」
「嫌よ、離して! どうしてわたしがこんな目に遭わなきゃ……」
ジョアン様の命令で引っ張られたイサベルは声を張り上げたが、不意に言葉を止めて顔を動かす。その先にいるのは……他でもない、この私だった。
「ジョアン様、わたしもきっと操られていたんです! いえ、絶対そうです!」
「ほう、誰にだ? 言ってみろ」
「勿論、そこで他人事のようにしているカレン……いえ、本当にイサベルにです!」
(はああぁぁ~~!?)
思わず怒鳴りたくなる衝動を堪えられたのは奇蹟に等しい。
落ち着け、と自分を言い聞かせてかろうじて怒りを抑えた私は、ふと一つの可能性に思い当たった。それは……可能な限り向き合いたくなかった最悪の可能性だった。至ってしまった私は、憎悪も嫉妬も通り越した想いをイサベルに抱いた。
「そこにいるイサベルはわたしの実の姉妹、ならわたしと同じように魅了の邪視を先天的に持っているに違いありません! わたしをイサベルに仕立て上げてこの混乱を起こしたのはイサベルのせいかもしれません!」
「イサベル。一つ聞きたいんだけれど、いいかな?」
「違うわ、わたしはカレン――」
「もうどっちがイサベルでどっちがカレンかなんてどうでもいいから。それより――」
――貧民街の火事は貴女の仕業?
「ッ!?」
その問いかけを突き付けられたイサベルが示した反応は、私の仮説が正しいことを示していた。
お母さんを殺したのは、コイツだ。
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