元悪役令嬢なヒロインはモブキャラになり損ねる

福留しゅん

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元凶の裁きを見届けた元悪役令嬢

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「落ち着いたか?」
「……お見苦しいところを見せちゃいました」

 泣くばかりの私を落ち着かせようとジョアン様は別室に連れて行こうとするが、レオノールがまだ私に立ち会って欲しいことがあると主張したため、私は会場の隅の椅子に座って涙が枯れるのを待つことにした。

 隣ではジョアン様が私の涙を拭ってくださる。もはや私の涙を吸ったジョアン様のハンカチは結構濡れてしまった。後で洗って返すと申し出ても彼は取り合わず、構わず私が手を伸ばしたら自分のポケットにしまってしまう。

「おそらくイサベルの裁判が始まったらカレンも証人として呼ばれることもあるだろう。その時は何も考えずにただ事実を話せばいい。後は俺達の仕事だ」
「……イサベルはどうなるんでしょうか?」
「有罪は間違いないだろうがどこまで重い刑になるか、だな。これだけの騒動になってしまったら死刑でもおかしくないが……」
「そんな簡単にお母さんの所に行かせたくないです」
「それも一理あるな。もう少し別の償い方法を検討させよう」
「ところで……レオノール様は先ほどから何をやっているんですか?」
「イサベルが起こした騒動の後始末だ」

 ジョアン様は泣く私を連れてその場を離れようとする間際、レオノールに向けて「後は任せた」と言っていた。「貸しですよ」と答えた通り、彼女は引き続き皆の注目を集めて更に一同を驚かせる事態を起こした。

 なんとレオノールは残った王宮近衛兵に命じて親睦会に参加していた私とレオノールの実の父親である男爵を捕らえたのだ。背中側で両腕に手枷をはめられた彼はレオノールの前にひざまずかされている。

「イザベルを引き取った男爵が何かしていたんですか?」
「貧民街の火事が男爵の手引きによる犯行だとは分かったんだが、奴はもう一つ看破出来ない計画を企てていてな」

 ジョアン様が調べさせたところ、なんと男爵は邪視によって成り上がろうとしていたらしい。その手駒として選ばれたのがイサベル。王太子や宰相の外戚になれば確かに貴族社会において優位に立てるだろうから。

「邪視持ちの子は邪視を授かって生まれやすい。貴族の特権で邪視持ちの平民を手籠めにし、生まれた子に教育という名の洗脳を施し、俺やフェリペと言った連中に取り入るように仕向けたわけだ」
「……確かに、魅了の邪視を悪用すれば国王陛下すら傀儡として操れますから」
「男爵はカレン達の母親が子を宿したと知ってからすぐに彼女を閉じ込める準備に入ったらしい」
「お母さんを監禁するつもりだったんですか!?」
「カレンは確か母親は妊娠中に屋敷を追い出された、と言っていたな。見かねた当時の家政婦長が独断で母親を解雇したのが真相だそうだ」
「そう、だったんですか……」

 場面は丁度男爵の企みを突き付けている最中だった。男爵はイサベルの独断だと主張するが、「見苦しい」と一蹴したのはなんと来賓として姿を見せていた国王陛下だった。その厳格な声が会場内に伝わると、皆が背筋を正して陛下に向けて頭を垂れる。

「貴様が邪視により将来国を担う人材を傀儡とし王権を脅かしたこと、誠に遺憾である。よって余の名において貴様の領土と爵位は召し上げる」
「なっ……!?」
「後はその罪に相応しい罰を受けるが良い。連れて行け」
「はっ!」
「は、離せ……!」

 陛下の命令により近衛兵が男爵を連行する。抵抗する中で偶然私を見つけた男爵はこちらに向けて何か喚いてきたのだが、「聞くな。耳が腐る」とジョアン様が耳を塞いできたので何を言っていたかは全く分からなかった。

 こうして、婚約破棄から端を発した一連の騒動は幕を下ろした。
 けれどまだ懇談会は続いている――。
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