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皆の前で愛を告白する元悪役令嬢
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ジョアン様が取り返しのつかない宣言をする前に私は彼に飛び掛かり、その口を手で塞いだ。まさか私に邪魔されるとは想像していなかったようで、ジョアン様は目を見開いてこちらを見つめてくる。
彼は細い私の手首を掴んで引きはがしにかかってきた。私は力ずくで退けられる前にレオノールへと振り向く。私の大胆な行動にはさすがの彼女も想定外だったようで、驚きを隠せないでいた。
「レオノール様! わたし、カレンはジョアン様を愛しています!」
そして、自分の想いを皆の前で告げた。
「大それた想いだと諦めようと何度も思いました! けれどどうしてもこの想いは捨てられません! ジョアン様を想うと胸が熱くなって、この方が別の女性に優しくすると嫉妬で狂いそうです! ジョアン様に拒絶されたらきっと生きていけないでしょう!」
「……で、何が言いたいの?」
「わたしもジョアン様に愛されたいです! その許しをいただきたく、お願いします!」
ジョアン様はレオノールとの婚約を破棄した上で私と添い遂げると宣言したかったのだろう。自分勝手で無責任な愚行だとしても、だ。その結果王太子の座から降りようと、廃嫡すら言い渡されようと、彼の決意は揺るぎないに違いない。
そんな真似はさせられない。
ジョアン様はこのルシタニア王国の未来になくてはならない存在……いや、そんな建前はもはやどうでもいい。
私が添い遂げたいと願い続けた相手は『王太子である』ジョアン様だ。そんな彼を私のいる位置まで引きずり下ろすなんて出来ない。
誓うが私個人はもはや王太子妃の座にはこだわらない。王太子のジョアン様が好きになったからそのままでいてほしいだけで、もし私が大工の息子だったジョアン様に出会っていたら大工の息子のままでいてほしいと思っただろう。
ジョアン様には私が愛したありのままでいてほしい。
それは私の我儘であり、その為なら私はためらいなく退こうではないか。
「貴族ではない貴女は側室になれないわ。まさかイサベルさんのように男爵令嬢を名乗るつもり? それともここにいらっしゃっているどなたかに養子にしてほしいと頼む?」
「正妃でも側室じゃなくても構いません。わたしはジョアン様に愛されればそれでいいです」
「つまり愛人になりたい、と言いたいのね」
私が頷いたのとジョアン様が私を引きはがしたのはほぼ同時だった。
ジョアン様は私の申し出に怒っているのか、痛いほどに私の手首を強く握る。
「カレン、一体何を言っているんだ!?」
「今のわたしなんかのために泥をかぶるなんて駄目です!」
「お前はそれでいいのか!? 俺には見えているんだぞ、お前の本当の想いが――!」
「そんなのどうだっていいんです!」
ああ、そうだ。ジョアン様が見透かすとおり私はジョアン様を独占したい。彼の愛が他の女に向けられたら胸が張り裂けそうだ。自分を抑えきれなくなってかつてのレオノールのように戻れない罪を犯すかもしれない。
それでも、これが最良の選択だと確信できる。妾なんて嫌だ、私だけを向いていて、との本音は心の奥底にしまってしまおう。この先どんなに苦しもうが、どれだけ我慢が必要だろうと、ジョアン様の傍にいられればそれでいいのだから。
「二人とも、言い争いはそこまでにしてください。そもそも、私はジョアン様が愛人を作って良いなどと許した覚えはありません」
繰り広げられる私とジョアン様の言い争いを止めたのはやはりレオノールだった。容赦のない否定を私が理解する間もなく彼女はこちらへと歩み始めた。そして彼女はジョアン様ではなく、私の目の前に立つ。
「カレンには私の野望に役立ってもらわないといけないもの」
そして、彼女は私の眼鏡を外した。
私にもイサベルと同じ魅了の邪視が宿っているにも拘わらず、邪視殺しを取ったのだ。
これでは私の邪視の影響を受けて……と思うよりも前に、レオノールの瞳が怪しく光った、ような気がした。しかし彼女と目と目を合わせた直後、急に意識が遠くなるのを感じた。
そう言えばレオノールはこの前邪視を宿したんだった。
そんなことを思いながら私の意識は暗転した。
彼は細い私の手首を掴んで引きはがしにかかってきた。私は力ずくで退けられる前にレオノールへと振り向く。私の大胆な行動にはさすがの彼女も想定外だったようで、驚きを隠せないでいた。
「レオノール様! わたし、カレンはジョアン様を愛しています!」
そして、自分の想いを皆の前で告げた。
「大それた想いだと諦めようと何度も思いました! けれどどうしてもこの想いは捨てられません! ジョアン様を想うと胸が熱くなって、この方が別の女性に優しくすると嫉妬で狂いそうです! ジョアン様に拒絶されたらきっと生きていけないでしょう!」
「……で、何が言いたいの?」
「わたしもジョアン様に愛されたいです! その許しをいただきたく、お願いします!」
ジョアン様はレオノールとの婚約を破棄した上で私と添い遂げると宣言したかったのだろう。自分勝手で無責任な愚行だとしても、だ。その結果王太子の座から降りようと、廃嫡すら言い渡されようと、彼の決意は揺るぎないに違いない。
そんな真似はさせられない。
ジョアン様はこのルシタニア王国の未来になくてはならない存在……いや、そんな建前はもはやどうでもいい。
私が添い遂げたいと願い続けた相手は『王太子である』ジョアン様だ。そんな彼を私のいる位置まで引きずり下ろすなんて出来ない。
誓うが私個人はもはや王太子妃の座にはこだわらない。王太子のジョアン様が好きになったからそのままでいてほしいだけで、もし私が大工の息子だったジョアン様に出会っていたら大工の息子のままでいてほしいと思っただろう。
ジョアン様には私が愛したありのままでいてほしい。
それは私の我儘であり、その為なら私はためらいなく退こうではないか。
「貴族ではない貴女は側室になれないわ。まさかイサベルさんのように男爵令嬢を名乗るつもり? それともここにいらっしゃっているどなたかに養子にしてほしいと頼む?」
「正妃でも側室じゃなくても構いません。わたしはジョアン様に愛されればそれでいいです」
「つまり愛人になりたい、と言いたいのね」
私が頷いたのとジョアン様が私を引きはがしたのはほぼ同時だった。
ジョアン様は私の申し出に怒っているのか、痛いほどに私の手首を強く握る。
「カレン、一体何を言っているんだ!?」
「今のわたしなんかのために泥をかぶるなんて駄目です!」
「お前はそれでいいのか!? 俺には見えているんだぞ、お前の本当の想いが――!」
「そんなのどうだっていいんです!」
ああ、そうだ。ジョアン様が見透かすとおり私はジョアン様を独占したい。彼の愛が他の女に向けられたら胸が張り裂けそうだ。自分を抑えきれなくなってかつてのレオノールのように戻れない罪を犯すかもしれない。
それでも、これが最良の選択だと確信できる。妾なんて嫌だ、私だけを向いていて、との本音は心の奥底にしまってしまおう。この先どんなに苦しもうが、どれだけ我慢が必要だろうと、ジョアン様の傍にいられればそれでいいのだから。
「二人とも、言い争いはそこまでにしてください。そもそも、私はジョアン様が愛人を作って良いなどと許した覚えはありません」
繰り広げられる私とジョアン様の言い争いを止めたのはやはりレオノールだった。容赦のない否定を私が理解する間もなく彼女はこちらへと歩み始めた。そして彼女はジョアン様ではなく、私の目の前に立つ。
「カレンには私の野望に役立ってもらわないといけないもの」
そして、彼女は私の眼鏡を外した。
私にもイサベルと同じ魅了の邪視が宿っているにも拘わらず、邪視殺しを取ったのだ。
これでは私の邪視の影響を受けて……と思うよりも前に、レオノールの瞳が怪しく光った、ような気がした。しかし彼女と目と目を合わせた直後、急に意識が遠くなるのを感じた。
そう言えばレオノールはこの前邪視を宿したんだった。
そんなことを思いながら私の意識は暗転した。
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