魔王と魔女と魔竜は悪役令嬢になりたい

福留しゅん

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部活①・魔王達は状況整理をする

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 学園生活を送るようになってから月日が経ち、新入生は初となる中間試験を迎えた。

「アンネローゼよ。中間試験の結果はどうであったか?」
「上々ね。これなら生徒会員にも抜擢されると思うわ。お姉様の方は?」
「悲報だがわたしはそこまで勉強が得意ではないらしい」
「ちょっと答案を見せて。……散々に言ってるけれど平均点よりは大分上じゃないの」
「嫌味か? そなたに負けている科目が多いのに」
「……そのお姉様が勝っている科目があるのが問題なのよ」

 アーデルハイドは日々の積み重ねが物を言うと主張して試験勉強は特に行わずに挑んだ。一方のアンネローゼは持ち前の社交性から情報を収集して試験の傾向を掴み、その対策を取る形で試験勉強を行った。
 結果、アーデルハイドはそこそこ優秀な成績を収めたものの特段目立たない位置に付け、アンネローゼが新学年でも二位に入る程の高得点を残した。そのアンネローゼからすれば普段通りだったアーデルハイドの思わぬ得点の高さが不満なようだが。

「しかしこの中間試験と授業態度から一学年の生徒会員を決めるんだったか? 良く務める気になったものだなあ」
「神聖帝国が誇る学園の生徒会役員を務める事がどれだけ名誉なのか分かってないからそう言えるのよ」
「知識としては知っているが理解出来ぬと申しておるのだ。余計な苦労を買って出るなど気が知れないぞ」
「またそんな風に言う。間違っても皇太子殿下の前でそんな不敬な事言うんじゃないわよ」

 学園生徒会の役員は立候補するだけでなく優等生からも選出される。一学年役員の場合はこれまでの学園生活の在り方を見定められての推薦形式が主だった。家柄や資産などは全く加味されない完全なる個々の実力により勝ち取る椅子になる。故に学園を卒業した後も高く評価される実績となるのだ。
 そんな狭き門をアンネローゼの他にユリアーナも通っていた。学年三位の成績を収めて。

「ヒロインさんは頑張ったようですねえ。他の英才教育を受ける方々を退けての高位とは」
「そこは評価してやっても良いな」

 アーデルハイドとジークリットはユリアーナがどこまで先の展開を知っているのか未だに把握出来ていなかった。ユリアーナは普段慎ましい学園生活を送っており、貪欲に攻略対象者に気にかけてもらおうとする兆候は無かった。
 ただ彼女は健気にも与えられた役を演じきっている。ひた向きで頑張る純粋なヒロインを。アーデルハイドは途中で破綻するのではとも考えていたが、中々どうして根性があるようだ。効果は現れていて段々と子息や令嬢達からの評判が上がってきていた。

「ジークリットよ。うかうかしているとそなたのマクシミリアンをかすめ取られるのではないのか?」
「わたくしは毎日愛妻弁当を届けていますし、休日には会瀬を重ねております。そう仰るアーデルハイドさんこそ皇太子殿下はご自分にぞっこんだとたかをくくっていたらいつの間にか、になるんじゃありません?」
「ううむ、別にあ奴と添い遂げなくても構わないのだがヒロインめに奪われるのは癪だな」
「難儀ですねえ」

 ジークリットはマクシミリアンと時間が許す限り会うようにしていた。ただし積極的に声をかけたのは最初の内だけで徐々に頻度を下げていった。これは鬱陶しいと思われないようにするのと、焦らして向こうから誘わせるようにするためになる。その効果は覿面だった。
 ある日、ジークリットは昼を学食で済ませた。するとマクシミリアンが一学年の教室までやってきて「弁当は?」と尋ねてきたのだ。ジークリットは材料が無かった申し訳ない明日は作ると心を込めて謝罪したが、頭を下げながらも内心では舌を出していた。
 またある休日では彼女はマクシミリアンを蔑ろにしてアーデルハイドと劇場に足を運んだ。すると平日の朝マクシミリアンがジークリットに何をしていたかと尋ねたのだ。ジークリットは来週は貴方様と一緒に過ごしますと甘ったるい言葉を耳元で囁いた。

 初めはマクシミリアンの気を惹くために健気に通っていた。
 しかし今ではマクシミリアンの方がジークリットに依存し始めている。
 婚約者を弄ぶようなジークリットを、誰が呼んだか分からないが、魔女だと恐れた。

「順調ではないか。マクシミリアンはそのうち頭がそなたの事で一杯になるぞ」
「ええ、ヒロインさんを考える余地も無いぐらいが丁度ようございます。してそちらの方は?」
「余の方は何と申すか、突き放しても迫ってくる感じではあるな」

 一方、アーデルハイドは未だ自分からルードヴィヒに声をかけた試しが無い。と言うのもルードヴィヒが積極的に迫ってくるものだから。とは言えアーデルハイドが不快に感じる程頻度は高くなく、匙加減が絶妙だと彼女は高く評価していた。
 アーデルハイドは皇太子を相手にしても取り繕うとはしなかった。喜怒哀楽が分かりやすかったり思っている事はすぐ口に出す。これまで周囲が傅いたり敬ったりする令嬢ばかりだったルードヴィヒには彼女の何にも縛られない在り方は眩いものだった。
 そんなアーデルハイドは特にルードヴィヒに物をねだったりはしていない。むしろ宝石をふんだんにちりばめた高価な首飾りでも露店の髪留めでも、贈り物には全て笑顔で感謝を述べた。気に入ったなら例え安物でも臆さずに身に付ける。アーデルハイドは贅沢とは無縁だった。

「アーデルハイドさん、陰口を叩かれてるってご存知です? 神聖帝国の誇る公爵家の令嬢がそんなちゃちな銀細工の髪飾りをするだなんてって」
「言いたい奴には言わせておけ。宝石をあしらえばいいってものではないからな」
「左様でございますか。して、ヴァルプルギスさんの方はどうなのです?」
「レオンハルトなら一心不乱に自分を追い込んでいるな」

 ヴァルプルギスはレオンハルトを拒絶し続けた。レオンハルトも身に染みているらしく、彼女と廊下をすれ違っても最低限の会釈に留まった。ヴァルプルギスによる婚約破棄騒動は学園中の噂となり、レオンハルトの醜態よりむしろヴァルプルギスの強さに論点が向かった。
 レオンハルトは惨敗の後に父親に嘆願して帝国正規軍の訓練を受けるようになった。さすがに学園生活は続けていたそれ以外の自由時間を全て費やして。誰に対しても紳士的だった態度は鳴りを潜め、段々と歴戦の戦士のような雰囲気を発し始めていった。
 一方のヴァルプルギスはあの後辺境伯たる親から勝手な申し出を咎められた。それでもヴァルプルギスは考えを改めようとせず、終いには決闘に発展。父親を完膚なきまでに叩きのめした。辺境伯家でヴァルプルギスに意見出来る者はもはやいなかった。

「なら余達は引き続きヒロインめの動向を注視しつつ各々の婚約者との絆を深めていけばよいわけだな」
「そんな単純な話で済むなら恋愛小説になりませんよ。波乱万丈あってこそでしょう」

 三人の悪役令嬢がいるのは学園内の一角。半分ほど何も置かれずに空間が広がり、もう半分ほどにテーブルや椅子、ソファー等の調度品が置かれた部屋だった。大抵の者が不思議に思うだろうこの内装、三人の意向が全て詰まっている。
 何もない空間ではヴァルプルギスが汗を流しながら拳と脚を振るっていた。下着にしか思えない程薄着の彼女は時にはゆっくり、時には素早く己の四肢を突き出す。身体が重そうに見えるのは彼女が自身に負荷をかけて効率を上げているからになる。

 その傍らではアーデルハイドが剣を振るう。こちらは病弱だった公爵令嬢の体力作りの一環。始めた当初は得物をやっとの思いで振っていたが、今では早素振りが出来る程に筋力が付いてきていた。

 一方、そんな二人を尻目にジークリットは読書に勤しんでいた。テーブルに積み重ねた本は全て学園図書室からの借りたもの。優雅に紅茶を口に含みながら繊細な指で頁をめくっていく。日光に照てらされた彼女はとても様になっていた。

 この三人の集まりは学園で活発に行われる部活動によるもの。
 その名も悪役令嬢同好会。予言の書の脚本を覆すべく動く悪役令嬢の集いだった。

「で、だ。直近でヒロインめが攻略対象者との関係を発展させる出来事はあるか?」
「ええっと、ヒロインさんからの提案で次の休日に生徒会一同が帝都中の視察を行うみたいですねえ」
「それは余の予言の書にも記されていたな。共通事項なのかな?」
「入学から半年間は前座として普通の貴族令嬢が悪役になりますからねえ。そう大きくずれは無いんじゃないかと」
「生徒会の活動を中止には追い込めぬな。少し搦め手を使うとしよう」

 そして今日もまた活動する。
 悪役令嬢として。
 ヒロインの想いを打ち砕き、攻略対象者を我が物とする為に。
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