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第一章 勇者魔王編
聖女魔王、餌になりかけた人々を救う
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ロックコカトリス共が巣にしてた区域は洞窟の中でも比較的浅い部分で、食料庫らしき部屋に集められた犠牲者達は石化解除と回復両方の奇跡を併用して治した。
「あぁ……ありがとうございます、ありがとうございます……!」
「動ける……生きてる……!」
「あ……あぁぁ……あああっ……!」
「あー……」
生還した人々は半分ぐらいがミカエラに感謝して喜んだ。けれど何割かが石化して何も出来ずにいた長い時間の果てに精神をやられてしまい、精神を壊してしまったり廃人になったりしていた。
「どうにかならないのか?」
「余の奇跡じゃあ心の傷は治せません。それに正気を捨てることは死なないための防衛策でもあるんです。下手に思い出してしまったらどうなるか……」
「じゃあこのまま連れて帰るしかねえわけか。やるせねぇな」
そして、保育室に集められて苗床にされた犠牲者は……ほとんどがミカエラにも手の施しようがなかった。餌になって食い尽くされたかつて人だった石像の残骸、大きく膨れた腹が避けた中から魔物の雛が息絶えていた石像など、悲惨の一言だった。
「致命傷です。こうお腹が食い破られていると……石化を解除した途端に即死してしまいます」
「この状況でもまだ生きてるのか?」
「かろうじて、ですね。ゴーレムと同じで破損状況に比例して生命力が失われますから」
「石化したまま直せないのか?」
「石像として修理しても肉体は復元しませんよ。ゴーレム生成と同じ手順でならいけますが、人って存在からは離れてしまいますし」
「手遅れ、か。せめて人として最後を迎えさせてやりてぇな」
ミカエラは助かる犠牲者だけを救っていく。無事に助かった喜びとこれまで味わってきた地獄のような出来事の恐怖と絶望を一気に味わったためか、治った途端に情緒不安定に呻いたり叫んだりした。
そしてミカエラはもう救いようのない石像へ向けて権杖をかざし、意識を集中。長い沈黙の後、権杖から溢れ出る淡く光る粒子が石像へと溢れていき、優しく包みこんでいく。そして、粒子は徐々に天井……いや、天へと昇っていった。
「アセンション!」
全ての粒子が天井を突き抜けていった後、石像はもろく崩れていく。かつて人の形をしていた痕跡も残さないほど跡形もなく。それは石と化した身体に縛り付けられていた魂が解放された証なんだろうな。
「せめて痛みを知らずに安らかに天に召されてください」
昇天の奇跡アセンション。もう手の施しようのない瀕死の者、重度の病魔に冒された者などを救うための最終手段らしい。かなり高度な奇跡なので、習得してるのは自分だけでしょうとミカエラはいつも豪語している。
ミカエラは犠牲者に祈りを捧げ、次には生存者達を安心させるためにいつもの笑顔に戻った。それから松明を持つ俺に先導させて洞窟の出口へと向かう。生存者達はもう少しだからとお互いに励ましながら俺達に続いた。
「久しぶりの外ですね! お天道さまが眩しいです」
「俺達はそう長く洞窟に入っちゃいなかったがな」
「むー。茶々入れないで素直に感動させてくださいよ。それに、ほら」
「彼らは良いんだよ。どんだけ長い間洞窟の中にいたか分からないからな」
石化して洞窟の中に連れ込まれた際、きっともう助からないと思ったに違いない。こうしてたまたまミカエラが来ていなかったら最悪の結末が現実のものになってた。そう考えたら彼らは運が良かったんだろう。
生還者達が外に出れて感動するのもそこそこに、一同は林を抜けて山道の街道へと戻った。待機番を買って出ていた女弓使いが俺達に気付いて手を振ってくる。日が沈む前に集合と決めていたので、他の連中もぞろぞろと戻ってくる。
「その様子だと聖女様の方向が当たりだったみたいだな」
「こっちもアレから他のコカトリス共は見つからなかったぞ」
「じゃあ狩りする群れと巣での留守番役しかいなかったわけかい」
「討伐完了、とみなしていいか」
冒険者達と相談し、一区切りついたとみなして、麓の町まで戻ることにした。洞窟から連れて来た生存者達は町から戻ってきた幌馬車に乗せ、一同帰路につく。
太陽が山へと沈んでいき、段々と空が暗くなっていく。よほど急ぎじゃなきゃ夜間の移動なんてするもんじゃないんだが、生存者達を連れたまま野宿するわけにもいかねぇし。それに町自体そんな遠くねぇからな。
こうして完全に夜になった時間帯に、俺達は町に戻ってきたのだった。
「あぁ……ありがとうございます、ありがとうございます……!」
「動ける……生きてる……!」
「あ……あぁぁ……あああっ……!」
「あー……」
生還した人々は半分ぐらいがミカエラに感謝して喜んだ。けれど何割かが石化して何も出来ずにいた長い時間の果てに精神をやられてしまい、精神を壊してしまったり廃人になったりしていた。
「どうにかならないのか?」
「余の奇跡じゃあ心の傷は治せません。それに正気を捨てることは死なないための防衛策でもあるんです。下手に思い出してしまったらどうなるか……」
「じゃあこのまま連れて帰るしかねえわけか。やるせねぇな」
そして、保育室に集められて苗床にされた犠牲者は……ほとんどがミカエラにも手の施しようがなかった。餌になって食い尽くされたかつて人だった石像の残骸、大きく膨れた腹が避けた中から魔物の雛が息絶えていた石像など、悲惨の一言だった。
「致命傷です。こうお腹が食い破られていると……石化を解除した途端に即死してしまいます」
「この状況でもまだ生きてるのか?」
「かろうじて、ですね。ゴーレムと同じで破損状況に比例して生命力が失われますから」
「石化したまま直せないのか?」
「石像として修理しても肉体は復元しませんよ。ゴーレム生成と同じ手順でならいけますが、人って存在からは離れてしまいますし」
「手遅れ、か。せめて人として最後を迎えさせてやりてぇな」
ミカエラは助かる犠牲者だけを救っていく。無事に助かった喜びとこれまで味わってきた地獄のような出来事の恐怖と絶望を一気に味わったためか、治った途端に情緒不安定に呻いたり叫んだりした。
そしてミカエラはもう救いようのない石像へ向けて権杖をかざし、意識を集中。長い沈黙の後、権杖から溢れ出る淡く光る粒子が石像へと溢れていき、優しく包みこんでいく。そして、粒子は徐々に天井……いや、天へと昇っていった。
「アセンション!」
全ての粒子が天井を突き抜けていった後、石像はもろく崩れていく。かつて人の形をしていた痕跡も残さないほど跡形もなく。それは石と化した身体に縛り付けられていた魂が解放された証なんだろうな。
「せめて痛みを知らずに安らかに天に召されてください」
昇天の奇跡アセンション。もう手の施しようのない瀕死の者、重度の病魔に冒された者などを救うための最終手段らしい。かなり高度な奇跡なので、習得してるのは自分だけでしょうとミカエラはいつも豪語している。
ミカエラは犠牲者に祈りを捧げ、次には生存者達を安心させるためにいつもの笑顔に戻った。それから松明を持つ俺に先導させて洞窟の出口へと向かう。生存者達はもう少しだからとお互いに励ましながら俺達に続いた。
「久しぶりの外ですね! お天道さまが眩しいです」
「俺達はそう長く洞窟に入っちゃいなかったがな」
「むー。茶々入れないで素直に感動させてくださいよ。それに、ほら」
「彼らは良いんだよ。どんだけ長い間洞窟の中にいたか分からないからな」
石化して洞窟の中に連れ込まれた際、きっともう助からないと思ったに違いない。こうしてたまたまミカエラが来ていなかったら最悪の結末が現実のものになってた。そう考えたら彼らは運が良かったんだろう。
生還者達が外に出れて感動するのもそこそこに、一同は林を抜けて山道の街道へと戻った。待機番を買って出ていた女弓使いが俺達に気付いて手を振ってくる。日が沈む前に集合と決めていたので、他の連中もぞろぞろと戻ってくる。
「その様子だと聖女様の方向が当たりだったみたいだな」
「こっちもアレから他のコカトリス共は見つからなかったぞ」
「じゃあ狩りする群れと巣での留守番役しかいなかったわけかい」
「討伐完了、とみなしていいか」
冒険者達と相談し、一区切りついたとみなして、麓の町まで戻ることにした。洞窟から連れて来た生存者達は町から戻ってきた幌馬車に乗せ、一同帰路につく。
太陽が山へと沈んでいき、段々と空が暗くなっていく。よほど急ぎじゃなきゃ夜間の移動なんてするもんじゃないんだが、生存者達を連れたまま野宿するわけにもいかねぇし。それに町自体そんな遠くねぇからな。
こうして完全に夜になった時間帯に、俺達は町に戻ってきたのだった。
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