新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん

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第二章 焦熱魔王編

戦鎚聖騎士、火の神殿へと向かう

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 聖地は山の向こう側にある。俺達はまた山道を進まなきゃいけない。

 今度の山は活火山らしい。本来なら何百年かに一度噴火を起こして周囲一体を壊滅させる被害をもたらすのだとか。噴火の力を蓄える山に惹かれて火の精霊が集まるのはごく自然の成り行きであり、噴火しないよう神殿を築いて崇め奉るのもまた道理だったわけだ。

 そんな山の頂上に築かれた火の神殿だが、ここ最近音信不通らしい。何か異常があったのではないか、と判断されて麓の町から冒険者が調査に行ったが帰還せず。そんな時に水の神殿で起こった異変の情報がもたらされ、火の神殿もまた邪精霊の手に落ちたのでは、と危惧されているわけだ。

「聖女様! どうか火の神殿の様子を確認していただき、邪精霊共を退治していただきたいのです!」

 麓の町の教会に足を運んだところ、案の定そんなふうな依頼をされたわけで。勿論断る理由がなかったミカエラは二つ返事で引き受けたのだった。危なくなったら俺が守ってくれるから、と当たり前のように公言するのはどうよと思わなくもないが。

 ティーナも冒険者ギルドに顔を出したところ、同じような依頼を受けたらしい。魔王軍に与しているかもしれない魔物に個々で立ち向かえる実力のある冒険者は数少ない。ティーナが立ち寄ったのは神の導きだ、と大歓迎状態だったそうな。

「それじゃあ出発ー!」

 こうしてまた過酷な山登りが始まった。しかも今度は山の反対側に抜ける山道じゃなくて登山道を登るせいで、いつも以上に疲れが激しかった。やっぱ全身鎧なんて山登りには全然向いてないよなぁ。

 こういう山間部での異変が起こった場合、ドラゴンライダーやヒッポグリフライダーなど、飛行集団のある兵士や冒険者が行くべきなのだ。重戦士が完全装備かつ登山道具を背負って向かうなんて馬鹿の所業としか思えない。

「ぜえっ、ぜえっ。く、空気が薄いぞ~……」

 そんな中、俺以上に息を切らしながら汗だらだらなのはティーナだった。どうやらエルフにとって森の無い高山地域は相性が悪いらしい。しきりに風の魔法を唱えて酸素を吸いながらかろうじて俺達の後を付いてきている。

「ニッコロさんもティーナも軟弱ですねー」
「もっと僕達みたいに身体を鍛えるべきだね」
「む、むしろ何でミカエラ達はへっちゃらなんだよ……」

 一方のミカエラとイレーネ、一向に速度が衰えない。爽やかに汗を流していい運動だとかのたまう始末。息も絶え絶えな俺達をずっと向こうで待ちながら絶景を楽しむ余裕すらあるようだった。

 そう言えばミカエラは野外授業でも体力面は聖騎士候補者顔負けだったっけな。あれか、魔王は人間と体の作りが違うのか? それとも聖女の奇跡やら魔法やらで自然回復を早めているとかか?

 イレーネの方は勇者と呼ばれた大聖女の肉体を持つぐらいだ。ただの山登りぐらいで音を上げるほど軟弱ではないか。俺もそれなりに持久力には自信はあるが、戦闘と登山じゃあ話が違うだろ。

「ほら、山の頂上が見えてきましたよ。あと少しですから頑張りましょう!」

 日が昇り始める早朝から登山を開始し、既に太陽は真上まで登りつつある。神殿で一泊明かすことを前提で登山計画を立てたから、神殿内の魔物の一掃が前提だ。その前にへばっちまいそうだがな。

 死ぬ思いでやっと頂上に到着したころにはお昼すぎになっていた。頂上は尖っておらず中央の火口が凹んでいる。上から覗くと赤く光りどろどろした溶岩がうごめいており、今なおこの山が生きているんだと実感する。

「火の神殿は一番高い岳に立てられてるみたいですね。お昼ご飯を食べたら行きましょうか」
「助かった……。そのまま突入するとか言い出すと思った」
「むー。余はお腹が空いたんです。腹が減っては戦はできぬ、とは東方の言葉でしたっけね」
「何にせよ休憩だ休憩。今のままじゃあ立って歩くのが精一杯なんでね」

 というわけで昼休みに入る。今日の昼食は干し肉と野菜と水。携帯食としては充分だろう。さもしいんだがこの一件が終われば麓の町で思う存分飲み食い出来る、と想像して我慢する。あ、こらミカエラ! 俺の果物を横取りするんじゃない!

 腹ごしらえが終わったところで俺達は火の神殿に足を踏み入れた。火の精霊を祀っていた神官達の姿は見られず、ところどころに灰や炭が散らばり、床や壁に黒ずみが多々見られた。

「消し炭になるぐらいの火力でやられたのか……」
「そろそろお喋りの時間は終わりみたいだね」

 廊下の奥、照明の消えた向こうからのそりと姿を現したのは大型の蜥蜴……いや、背中が文字通り燃え盛っている姿は火の精霊サラマンダーを彷彿とさせる。しかし、目の前の魔物はサラマンダーと違い、以前討伐したパイロレクスのように知性を感じさせない野性味あふれる獰猛な……とどのつまり魔物でしかない雰囲気だった。
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