新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん

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第三章 幻獣魔王編

【閑話】首席聖女、教会教皇に謁見する(後)

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 ■(三人称視点)■

 頭巾の聖女は教皇の腋にあったサイドテーブル上の果物に手を伸ばした。頭巾の聖女が旬の果物を口に運んで咀嚼して飲み込むまでの間、イスラフィーラはただ静かに上座の聖女の言葉を待ち続ける。

「聖女ラファエラですが、他のパーティーメンバーと共に勇者にうつつを抜かしているとの連絡が入っています。人目を憚らずに愛を語り合うものだから目の毒だ、と市民からの苦情も教会に届けられているとか」
「個人的な恋愛までこちらから干渉しなくてもよろしい。目に余るようでしたら注意するよう各教会に指示を出しなさい」
「それと、聖女ミカエラについては――」
「聖女としての使命を全うし続けているのですから、もはやこれ以上踏み込んだ調査は不要でしょう。何か異変が生じてから対処する方針に切り替えます」
「承知しました」

 イスラフィーラは今後の聖女の活動方針について一つ一つ確認を行っていく。実際のところは逐次報告した上で指示を仰いでいるので、こうした対面でのやり取りは形式上のものに過ぎない。見栄えにばかり重視する輩への言い訳程度に過ぎない。

 しかし、一通りの報告作業を終えてもまだ頭巾の聖女はイスラフィーラに下がるよう命じなかった。怪訝に思い視線をお飾りの教皇から頭巾の聖女に向けるが、頭巾の聖女はイスラフィーラではなく天井……いや、天を見つめているようだった。

「イスラフィーラ。神の教えとは何なのか、貴女はどう思っていますか?」
「はい?」
「ここには誰もいません。素直に答えて頂戴」

 思ってもいなかった問いかけにイスラフィーラは若干戸惑ったものの、少しの間考えを巡らし、静かに口を開く。

「無論、人々の救済であり世界の秩序であります」
「余は万物への道しるべだと考えています。迷う人々をいかにして神の元へと導いていくか、それを指し示さなければなりません。このような神の偉大さを演出するための空間も、勇者や聖女という権威も、大衆に向けての案内標識に過ぎません」
「成程。そのようなお考えがあったとは。おみそれいたしました」
「しかしこうも思うのです。勇者や聖女などいなくても人々は困難に立ち向かわなければいけないのだ、と。神の教えを必要としないほどこの世を成熟させることこそが我々の使命なのでしょうね」

 それは聖女としてあるまじき発言だったが、イスラフィーラは彼女ほどの方がそう仰るのなら、と自分を納得させた。彼女が仕えるのは教皇にあらず、そして所属している教会でもなし。傅く相手は目の前にいる頭巾の聖女なのだから。

「ようやくです。魔王となるべき者が魔王とならなかったことでも期待で胸を膨らませていましたが、勇者や聖女もそうなりつつある。そう、世界はようやく道しるべなしに独り立ちし始めたのですよ!」
「アズラーイーラ様?」
「これで我が主が願われた真の救済が叶う! 全てを克服した者達が余の前に現れる瞬間が楽しみでなりませんよ。聖王も魔王も不要となる時代が到来するのですから……!」
「……」

 イスラフィーラが頭巾の聖女ことアズラーイーラについて知っていることはごく僅かだ。最低でもイスラフィーラが聖女候補者時代だったころには既にアズラーイーラは聖女を務めていた。同僚が志半ばに倒れ、使命を全うし、いつしか自分が首席聖女となるほどの時が過ぎても、アズラーイーラは何も変わらない。立場も、容姿も、思想も、アズラーイーラだけが古の過去を保ち続けている。

 故に、イスラフィーラは仮説を組み立てている。アズラーイーラこそがこの世界の救う存在であり、人類史に度々登場する勇者や聖女なども彼女が人生という道を歩む人々へ立てる道しるべに過ぎないのだ、と。

「今人類圏に侵攻している魔王軍が一掃された後、どうなるかを見守りましょう。貴女の出番もそう遠くないうちに回ってくるかもしれませんね」
「そうなったら全霊をかけて使命を全うしてみせましょう」
「それは心強い。話は終わりです、下がりなさい」
「はっ」

 イスラフィーラが退出し、アズラーイーラもまた踵を返して姿を消した。広大な謁見の間に取り残された教皇はなおも呆けたままだった。はどこか遠くに合わさり、浅く呼吸をし、顔を這う虫を払おうともしない有り様は異様と言えた。

 時刻を知らせる教会の鐘が鳴る。

 やがてゆっくりと立ち上がった教皇は足を引きずるような足取りで謁見の間を後にする。そうして謁見の間からは誰もいなくなり、ただ太陽の光がステンドグラスから差し込む幻想的な光景を演出するのみとなった。
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