2 / 4
承
しおりを挟む
殿下の宣言に会場全体がどよめきました。それもそうでしょう、本当の聖女の誕生ともなれば国を揺るがす一大事。どの貴族も血眼になって探す存在ですもの。いかに公爵家のご令嬢であろうとこれまで秘密にしておけたのが不思議でなりませんね。
「なるほど、それはおめでとうございます。聖女の使命を全うするよう命を受けた者を代表し、お祝い申し上げます」
「ほう、珍しく身の程をわきまえてるじゃないか」
「それで、本当の聖女だとは国王陛下や教会は認めていらっしゃるのですか?」
「当然だ。父上も教皇もシンシアが真の聖女だと認定してくれたぞ」
「だから私はもはや用無しだ、と?」
「最初からそう言っているだろう。辺境伯家の娘風情が一時的でも俺の婚約者だったんだ。それだけでも満足だろう?」
聖女となれば王家の方の妃になることが確定します。にも関わらず、侯爵家はおろか伯爵家ですらご息女を聖女となさる動きはあまり見られません。と、申しますのも、聖女の因子を移植されて適合する娘がごくわずかで、多くが拒絶反応で命を落とすからです。
王家との繋がりが無くても栄華を保てる家柄は敬遠し、かと言って奇跡的に妃を輩出した家も夫婦仲が良くならなければそこまで重宝されはしません。使命と恋愛は別物でして、歴代の聖女で幸せに過ごせた方は半分にも満たないでしょう。
この人を見下す眼差しで口角を吊り上げてくるダグラス殿下との婚約が決まったのは幼少の頃。私としては出来れば聖女の座は御免被りたかったのですが、真面目な器質が祟って一番優秀になってしまったのがいけませんでしたね。
何せこの王子、最初から私を忌み嫌っていましたから。
事あるごとに「お前とは義務で付き合ってやってるんだ」だとか「王太子であるこの俺に少しでも近づけることを光栄に思え」とか何かと尊大なんですもの。贈り物を頂いたこともございませんし、優しいお言葉も下さった記憶もありませんわ。
私とダグラス殿下との婚約は所詮義務です。聖女と王子だったからに過ぎません。
私より相応しい存在が現れたのであれば、喜んで身を引きましょう。
「かしこまりました。婚約破棄の旨、お受けいたします」
「ほう、すがりついて許しをこうかとも想定したのだが、案外素直だな」
「私個人は王太子妃という身分に興味はございませんので」
「……っ。そういった生意気な態度も最初から気に入らなかったんだ!」
ダグラス殿下を個人的にお慕い出来るようになる、などという希望はついに叶いませんでした。彼に惹かれる要素が何一つ無かった以上、これまで関係を継続できたのは単なる使命感に他なりませんね。
まあ、彼から言わせればそうした義務的にしか接してこない私が全然可愛くないのは当然でしょう。そして愛くるしくて庇護欲をかきたてる少女に心惹かれるのは仕方がありません。
「教会には私より説明しますので、国王陛下や王家の方々にはダグラス殿下よりご連絡お願いいたします」
「そうさせてもらおう」
「このような公の場で宣言なさったのですから、私……いえ、シンシア様の名誉のためにも、くれぐれも論破されないように」
「そんなことお前に言われるまでもない! いちいちうるさいぞ!」
あら、やはりダグラス殿下、事前の根回しを完全に怠っていたようですね。
こんな大事にするぐらいですからてっきり事前に国王陛下や教会の許可を得てからの宣言かとも期待したのですが……。
最悪の場合、国王陛下がお認めにならずに私達の婚約を継続すると王命を出しかねません。ここまでこけにされた以上、もはやこの王子を支えていく気力は根こそぎ奪われましたので、絶対に避けたいところですが……。
「それでは私はまず父に報告いたしますので、この場は早退させていただきます。ダグラス殿下ならびに学友の皆様、ご卒業おめでとうございます」
私は深々と頭を垂れて会場を後にしました。
私が背を向けた会場からは「シンシア、ようやく貴女と添い遂げられる。幸せになろう」とか「ダグラス様……わたし、嬉しいです」とか聞こえてきました。きっと二人は情熱的に見つめ合って二人だけの世界を作っていたことでしょう。
「呑気だこと」
正直呆れるばかりでため息が出るのをこらえるのが精一杯でした。
「なるほど、それはおめでとうございます。聖女の使命を全うするよう命を受けた者を代表し、お祝い申し上げます」
「ほう、珍しく身の程をわきまえてるじゃないか」
「それで、本当の聖女だとは国王陛下や教会は認めていらっしゃるのですか?」
「当然だ。父上も教皇もシンシアが真の聖女だと認定してくれたぞ」
「だから私はもはや用無しだ、と?」
「最初からそう言っているだろう。辺境伯家の娘風情が一時的でも俺の婚約者だったんだ。それだけでも満足だろう?」
聖女となれば王家の方の妃になることが確定します。にも関わらず、侯爵家はおろか伯爵家ですらご息女を聖女となさる動きはあまり見られません。と、申しますのも、聖女の因子を移植されて適合する娘がごくわずかで、多くが拒絶反応で命を落とすからです。
王家との繋がりが無くても栄華を保てる家柄は敬遠し、かと言って奇跡的に妃を輩出した家も夫婦仲が良くならなければそこまで重宝されはしません。使命と恋愛は別物でして、歴代の聖女で幸せに過ごせた方は半分にも満たないでしょう。
この人を見下す眼差しで口角を吊り上げてくるダグラス殿下との婚約が決まったのは幼少の頃。私としては出来れば聖女の座は御免被りたかったのですが、真面目な器質が祟って一番優秀になってしまったのがいけませんでしたね。
何せこの王子、最初から私を忌み嫌っていましたから。
事あるごとに「お前とは義務で付き合ってやってるんだ」だとか「王太子であるこの俺に少しでも近づけることを光栄に思え」とか何かと尊大なんですもの。贈り物を頂いたこともございませんし、優しいお言葉も下さった記憶もありませんわ。
私とダグラス殿下との婚約は所詮義務です。聖女と王子だったからに過ぎません。
私より相応しい存在が現れたのであれば、喜んで身を引きましょう。
「かしこまりました。婚約破棄の旨、お受けいたします」
「ほう、すがりついて許しをこうかとも想定したのだが、案外素直だな」
「私個人は王太子妃という身分に興味はございませんので」
「……っ。そういった生意気な態度も最初から気に入らなかったんだ!」
ダグラス殿下を個人的にお慕い出来るようになる、などという希望はついに叶いませんでした。彼に惹かれる要素が何一つ無かった以上、これまで関係を継続できたのは単なる使命感に他なりませんね。
まあ、彼から言わせればそうした義務的にしか接してこない私が全然可愛くないのは当然でしょう。そして愛くるしくて庇護欲をかきたてる少女に心惹かれるのは仕方がありません。
「教会には私より説明しますので、国王陛下や王家の方々にはダグラス殿下よりご連絡お願いいたします」
「そうさせてもらおう」
「このような公の場で宣言なさったのですから、私……いえ、シンシア様の名誉のためにも、くれぐれも論破されないように」
「そんなことお前に言われるまでもない! いちいちうるさいぞ!」
あら、やはりダグラス殿下、事前の根回しを完全に怠っていたようですね。
こんな大事にするぐらいですからてっきり事前に国王陛下や教会の許可を得てからの宣言かとも期待したのですが……。
最悪の場合、国王陛下がお認めにならずに私達の婚約を継続すると王命を出しかねません。ここまでこけにされた以上、もはやこの王子を支えていく気力は根こそぎ奪われましたので、絶対に避けたいところですが……。
「それでは私はまず父に報告いたしますので、この場は早退させていただきます。ダグラス殿下ならびに学友の皆様、ご卒業おめでとうございます」
私は深々と頭を垂れて会場を後にしました。
私が背を向けた会場からは「シンシア、ようやく貴女と添い遂げられる。幸せになろう」とか「ダグラス様……わたし、嬉しいです」とか聞こえてきました。きっと二人は情熱的に見つめ合って二人だけの世界を作っていたことでしょう。
「呑気だこと」
正直呆れるばかりでため息が出るのをこらえるのが精一杯でした。
115
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。
ぽっちゃりおっさん
恋愛
公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。
しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。
屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。
【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。
差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。
そこでサラが取った決断は?
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
お飾りの聖女様は裏で私達が必死にフォローしていたなんて、まったく気付いていなかったのでしょうね?
木山楽斗
恋愛
聖女の親衛隊の一員であるアメリアは、聖女ファルティアの振る舞いに辟易していた。
王女でもあるファルティアは、魔法に関する才能がないにも関わらず、王国の権威の象徴として聖女に任命されている。それなのに彼女は、非常にわがままに振る舞っていたのだ。
ある時ファルティアは、アメリアにクビを言い渡してきた。
些細なことからアメリアに恨みを抱いたファルティアは、自らの権力を用いて、アメリアを解雇したのである。
ファルティアの横暴は止まらなかった。
彼女は、自分が気に入らない者達をどんどんと排除していったのである。
しかしそれによって、聖女ファルティアという存在は瓦解することになった。
彼女は自分を親衛隊が必死の思いで支えていたということを、まったく理解していなかったのである。
聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!
ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。
ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。
そこで私は重要な事に気が付いた。
私は聖女ではなく、錬金術師であった。
悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!
嘘吐きは悪役聖女のはじまり ~婚約破棄された私はざまぁで人生逆転します~
上下左右
恋愛
「クラリスよ。貴様のような嘘吐き聖女と結婚することはできない。婚約は破棄させてもらうぞ!」
男爵令嬢マリアの嘘により、第二王子ハラルドとの婚約を破棄された私!
正直者の聖女として生きてきたのに、こんな目に遭うなんて……嘘の恐ろしさを私は知るのでした。
絶望して涙を流す私の前に姿を現したのは第一王子ケインでした。彼は嘘吐き王子として悪名高い男でしたが、なぜだか私のことを溺愛していました。
そんな彼が私の婚約破棄を許せるはずもなく、ハラルドへの復讐を提案します。
「僕はいつだって君の味方だ。さぁ、嘘の力で復讐しよう!」
正直者は救われない。現実を知った聖女の進むべき道とは……
本作は前編・後編の二部構成の小説になります。サクッと読み終わりたい方は是非読んでみてください!!
前世の記憶を持つ守護聖女は婚約破棄されました。
さざれ石みだれ
恋愛
「カテリーナ。お前との婚約を破棄する!」
王子殿下に婚約破棄を突きつけられたのは、伯爵家次女、薄幸のカテリーナ。
前世で伝説の聖女であった彼女は、王都に対する闇の軍団の攻撃を防いでいた。
侵入しようとする悪霊は、聖女の力によって浄化されているのだ。
王国にとってなくてはならない存在のカテリーナであったが、とある理由で正体を明かすことができない。
政略的に決められた結婚にも納得し、静かに守護の祈りを捧げる日々を送っていたのだ。
ところが、王子殿下は婚約破棄したその場で巷で聖女と噂される女性、シャイナを侍らせ婚約を宣言する。
カテリーナは婚約者にふさわしくなく、本物の聖女であるシャイナが正に王家の正室として適格だと口にしたのだ。
捨てられた聖女は穢れた大地に立つ
宵森 灯理
恋愛
かつて聖女を輩出したマルシーヌ聖公家のソフィーとギルレーヌ王家のセルジュ王子とは古くからの慣わしにより婚約していたが、突然王子から婚約者をソフィーから妹のポレットに交代したいと言われる。ソフィーの知らぬ間に、セルジュ王子とソフィーの妹のポレットは恋仲になっていたのだ。
両親も王族もポレットの方が相応しいと宣い、ソフィーは婚約者から外されてしまった。放逐された失意のソフィーはドラゴンに急襲され穢れた大地となった隣国へ救済に行くことに決める。
実際に行ってみると、苦しむ人々を前にソフィーは、己の無力さと浅はかさを痛感するのだった。それでも一人の神官として浄化による救助活動に勤しむソフィーの前に、かつての学友、ファウロスが現れた。
そして国と民を救う為、自分と契約結婚してこの国に留まって欲しいと懇願されるのだった。
ソフィーは苦しむ民の為に、その契約を受け入れ、浄化の活動を本格化させる。人々を救っていく中でファウロスに特別な感情を抱きようになっていったが、あくまで契約結婚なのでその気持ちを抑え続けていた。
そんな中で人々はソフィーを聖女、と呼ぶようになっていった。彼女の名声が高まると、急に故郷から帰ってくるように、と命令が来た。ソフィーの身柄を自国に戻し、名声を利用とする為に。ソフィーとファウロスは、それを阻止するべく動き出したのだった。
【完結】婚約破棄された聖女はもう祈れない 〜妹こそ聖女に相応しいと追放された私は隣国の王太子に拾われる
冬月光輝
恋愛
聖女リルア・サウシールは聖地を領地として代々守っている公爵家の嫡男ミゲルと婚約していた。
リルアは教会で神具を用いて祈りを捧げ結界を張っていたのだが、ある日神具がミゲルによって破壊されてしまう。
ミゲルに策謀に嵌り神具を破壊した罪をなすりつけられたリルアは婚約破棄され、隣国の山中に追放処分を受けた。
ミゲルはずっとリルアの妹であるマリアを愛しており、思惑通りマリアが新たな聖女となったが……、結界は破壊されたままで獰猛になった魔物たちは遠慮なく聖地を荒らすようになってしまった。
一方、祈ることが出来なくなった聖女リルアは結界の維持に使っていた魔力の負担が無くなり、規格外の魔力を有するようになる。
「リルア殿には神子クラスの魔力がある。ぜひ、我が国の宮廷魔道士として腕を振るってくれないか」
偶然、彼女の力を目の当たりにした隣国の王太子サイラスはリルアを自らの国の王宮に招き、彼女は新たな人生を歩むことになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる