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結
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「初めて出会った時に恋に落ちました。一生愛します、生涯大事にします。どうかこの私にクラウディアの傍にいる権利を頂きたい」
「あ、あの、その……」
何も考えられなかった私は思わずお父様に視線を向けましたが、お父様はこの突然の告白にも全く動じる気配がありません。それでようやく私はアーサー様が事前にお父様にも許可を頂いているのだと気づきました。
「隣国の、それも皇族の方に嫁ぐとなれば王家であろうとおいそれと手は出せまい。クラウディアの今後の安全と生活環境を考えるならこれ以上の最適解は無い」
それに、とお父様は付け加える。まるでここから語る方が本音だと言わんばかりに。
「私はクラウディアには聖女だの関係無しに幸せになってもらいたいんだ。アーサー殿下と分かれた顛末は報告を受けたが、それから数ヶ月間絶望に彩られた顔を見せられたらクラウディアの想いは嫌でも分かった」
「そ、そんなに面に出ていましたか?」
恥ずかしい。自分ではきちんと笑顔を張り付かせられてると思っていたのに。
「シンシア嬢の一件できな臭さを感じてから無理を承知でアーサー殿下にクラウディアの亡命の相談をしたのだが……まさかここまでするとは思わなんだ」
「当然だろう? 心から求めていた相手が自分のもとに来てくれる絶好の機会をふいになんてするものか」
臣籍降下して辺境伯になったのも最近の話だし、王国の聖女になる筈だった私を迎え入れる準備も整えてくれていたそうな。あとは私を迎え入れるだけだと語ってくださった。
「もちろん帝国としてもクラウディアを酷使するつもりはない。そして残念だけど王国の聖女としての使命は果たせなくなる。それは嫌だと言うのなら私も最大限に手を貸そう」
「聖女として……」
いえ。思い返せば、残念ながら私は言われるがままに聖女として有り続けました。労働の達成感こそありましたが、そういった生活が当然とばかり思っていたので、使命感や喜びは見いだせていませんでしたね。
だからいざ聖女でなくて良いと言われて寂しさこそ覚えましたが……未練はありません。私がいなくても必要となれば新たに聖女は造り続けられるでしょう。なら、用済みだと言われた私は潔く退場すべきなのでしょう。
「いえ、私はアーサー様のお嫁さんになりたいです」
「本当かい?」
「はい。ずっと前からお慕いしていました」
「ありがとう。一緒に幸せな毎日にしていこう」
それに、もう私にとっては救済の毎日よりアーサー様と過ごす穏やかな時間の方が魅力的に思えます。こんな俗物的な本性を見抜かれて神は本当の聖女を降臨させたのかも知れませんね。
神よ、私に愛することを許してくださってありがとうございます。
□□□
その後、ダグラス殿下はシンシア様と婚姻しました。少なからず反対意見も出ましたが、やはり本物の聖女が王家に嫁ぐことがめでたく、最終的には市民や貴族問わず王国中から歓迎されました。
そんなダグラス殿下ですが、地方を視察した際に瘴気の侵食に巻き込まれたそうです。お付きの騎士達は壊滅、ダグラス殿下ご本人も一生治らぬ後遺症が残り、寝具から起き上がれなくなったとのことでした。
せめて修業を終えた聖女がお供していたら最悪の事態は免れたのでしょうが、シンシア様を重宝するあまりに王宮に置いてきた采配があだとなりました。尤も、そのシンシア様がいらっしゃったところで防げたかは未知数ですが。
シンシア様は愛ゆえにダグラス殿下を献身的に看病なさったそうですが、いつまでたっても体調が改善しないことでその横暴な本性を表すようになりました。シンシア様は悲しみのあまりに心をお病みになって公爵家に戻されたようです。
こんな感じでしたので第二王子殿下が代わりに王太子に任命されたそうです。その伴侶は私の後輩だった人造聖女。男爵家の娘でしたが第二王子殿下との仲は良好ですし本人の能力も充分備わっていますので、まあ王国は安泰といったところでしょう。
「で、ダグラス王子は離宮に幽閉だってさ。瘴気に身体を蝕まれて衰弱する一方だって」
「それはお気の毒に」
「治療するよう懇願の文が届いているけれど、どうしようか?」
「本当の聖女すら治せないほど重体でしたら私には荷が重すぎます」
私はあの後すぐにアーサー様のもとに嫁いで挙式をあげました。王国は抗議したらしいのですが、これまでの私の待遇を報告書にまとめた帝国が糾弾し返したところ振り上げた拳を降ろさざるを得なかったそうです。
そして私はアーサー様にとても大切に扱われています。
昔のように修行に追われることもありません。浄化のために王国中を駆けずり回らなくてすみます。望んでもいない相手から悪口を言われなくなりました。聖女として敬われることもありませんが、代わりに私はかけがえのない愛を得ました。
「それに私はもう聖女ではありませんから」
「そうだね。私の愛しい妃になったのだから」
「そうですね、旦那様」
アーサー様との間には子宝も授かりまして、とても賑やかな毎日を送っています。
私、聖女でなくなりましたがとても幸せです。
「あ、あの、その……」
何も考えられなかった私は思わずお父様に視線を向けましたが、お父様はこの突然の告白にも全く動じる気配がありません。それでようやく私はアーサー様が事前にお父様にも許可を頂いているのだと気づきました。
「隣国の、それも皇族の方に嫁ぐとなれば王家であろうとおいそれと手は出せまい。クラウディアの今後の安全と生活環境を考えるならこれ以上の最適解は無い」
それに、とお父様は付け加える。まるでここから語る方が本音だと言わんばかりに。
「私はクラウディアには聖女だの関係無しに幸せになってもらいたいんだ。アーサー殿下と分かれた顛末は報告を受けたが、それから数ヶ月間絶望に彩られた顔を見せられたらクラウディアの想いは嫌でも分かった」
「そ、そんなに面に出ていましたか?」
恥ずかしい。自分ではきちんと笑顔を張り付かせられてると思っていたのに。
「シンシア嬢の一件できな臭さを感じてから無理を承知でアーサー殿下にクラウディアの亡命の相談をしたのだが……まさかここまでするとは思わなんだ」
「当然だろう? 心から求めていた相手が自分のもとに来てくれる絶好の機会をふいになんてするものか」
臣籍降下して辺境伯になったのも最近の話だし、王国の聖女になる筈だった私を迎え入れる準備も整えてくれていたそうな。あとは私を迎え入れるだけだと語ってくださった。
「もちろん帝国としてもクラウディアを酷使するつもりはない。そして残念だけど王国の聖女としての使命は果たせなくなる。それは嫌だと言うのなら私も最大限に手を貸そう」
「聖女として……」
いえ。思い返せば、残念ながら私は言われるがままに聖女として有り続けました。労働の達成感こそありましたが、そういった生活が当然とばかり思っていたので、使命感や喜びは見いだせていませんでしたね。
だからいざ聖女でなくて良いと言われて寂しさこそ覚えましたが……未練はありません。私がいなくても必要となれば新たに聖女は造り続けられるでしょう。なら、用済みだと言われた私は潔く退場すべきなのでしょう。
「いえ、私はアーサー様のお嫁さんになりたいです」
「本当かい?」
「はい。ずっと前からお慕いしていました」
「ありがとう。一緒に幸せな毎日にしていこう」
それに、もう私にとっては救済の毎日よりアーサー様と過ごす穏やかな時間の方が魅力的に思えます。こんな俗物的な本性を見抜かれて神は本当の聖女を降臨させたのかも知れませんね。
神よ、私に愛することを許してくださってありがとうございます。
□□□
その後、ダグラス殿下はシンシア様と婚姻しました。少なからず反対意見も出ましたが、やはり本物の聖女が王家に嫁ぐことがめでたく、最終的には市民や貴族問わず王国中から歓迎されました。
そんなダグラス殿下ですが、地方を視察した際に瘴気の侵食に巻き込まれたそうです。お付きの騎士達は壊滅、ダグラス殿下ご本人も一生治らぬ後遺症が残り、寝具から起き上がれなくなったとのことでした。
せめて修業を終えた聖女がお供していたら最悪の事態は免れたのでしょうが、シンシア様を重宝するあまりに王宮に置いてきた采配があだとなりました。尤も、そのシンシア様がいらっしゃったところで防げたかは未知数ですが。
シンシア様は愛ゆえにダグラス殿下を献身的に看病なさったそうですが、いつまでたっても体調が改善しないことでその横暴な本性を表すようになりました。シンシア様は悲しみのあまりに心をお病みになって公爵家に戻されたようです。
こんな感じでしたので第二王子殿下が代わりに王太子に任命されたそうです。その伴侶は私の後輩だった人造聖女。男爵家の娘でしたが第二王子殿下との仲は良好ですし本人の能力も充分備わっていますので、まあ王国は安泰といったところでしょう。
「で、ダグラス王子は離宮に幽閉だってさ。瘴気に身体を蝕まれて衰弱する一方だって」
「それはお気の毒に」
「治療するよう懇願の文が届いているけれど、どうしようか?」
「本当の聖女すら治せないほど重体でしたら私には荷が重すぎます」
私はあの後すぐにアーサー様のもとに嫁いで挙式をあげました。王国は抗議したらしいのですが、これまでの私の待遇を報告書にまとめた帝国が糾弾し返したところ振り上げた拳を降ろさざるを得なかったそうです。
そして私はアーサー様にとても大切に扱われています。
昔のように修行に追われることもありません。浄化のために王国中を駆けずり回らなくてすみます。望んでもいない相手から悪口を言われなくなりました。聖女として敬われることもありませんが、代わりに私はかけがえのない愛を得ました。
「それに私はもう聖女ではありませんから」
「そうだね。私の愛しい妃になったのだから」
「そうですね、旦那様」
アーサー様との間には子宝も授かりまして、とても賑やかな毎日を送っています。
私、聖女でなくなりましたがとても幸せです。
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