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学園
阿重霞
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今日は学校が始まって初めての休日である。そこで俺は家庭教師のケインさんに稽古をつけてもらうことにした。俺らの屋敷の中にある、ケインさんの住居に足を運ぶ。すると、そこには虚空に向かって木剣を振るうケインさんの姿があった。
ケインさんの肩が上がると、木剣は振り上げられ、胸が沈むと木剣は振り下げられる。それによって空気は震え、鈍い音となって俺の耳に伝わる。
彼は一歩踏み出し、横から見えない敵を胴一閃に付す。目の前にしかと見えた厳かな敵は幻影となって霧散する。
彼がふっと一つ息を吐き、目を瞑ると、そこには鬼の形相の敵が幾重にも浮かび上がった。彼はいつの間にか平野にいて、地平線を埋め尽くさん限りである。
一つの幻影が剣を振るう。然し彼はまだ動かない。敵の剣は速度が上昇し、目では見えなくなった。然し彼はまだ動かない。そして敵の刃が彼の喉元を掻っ切ろうとしたその刹那――彼の姿はふっと消えて、五十数もの幻影が一気に消滅した。
彼は先ほどとは少し違う位置で目を閉じて構えている。幻影は先ほどの不可思議を見てもなお落ち着いていて、今度は組織だって攻撃を始めた。
彼はそのどれもをいなし、切り捨てていく。彼の剣は一振りごとに十数もの幻影を消す。そしてその光景に陶然としている間に――平野に残るのは彼一人になった。
俺達はいつの間にかケインさんの屋敷に戻っていた。俺は気を取り戻し、ケインさんにこう言う。
流石です。
「ああ、来ていたのか。声をかけてくれればよかったのに」
いえ、俺もケインさんの練習が見てみたかったので。
「ハハ!そうか!いい経験になったことを祈るよ」
ええ、いい経験でしたよ。
「……ところで、用は何かな?」
ああ、今日は休日なのでケインさんに稽古をつけてもらおうと思って。
「ハハ!努力熱心なのはいいことだね!」
痩身のケインさんは顎で奥を指した。あそこで稽古をしようということだろう。
俺は地面に大の字になって寝転んでいた。胸が苦しい。打ち身にされたところはまだジンジンと痛む。
「あんた、またこっぴどくやられたわね」
はぁ、はぁ、そりゃ、そうだろ、あの人を、誰だと思っている。
「いや、それでしょげないあんたもあんたよ」
そう言ってシャーロットは俺の隣に水を置く。俺は地べたに座り直してそれを飲み干す。
息は少し落ち着いた。
おい、シャーロット、というか、お前は何故当然のようにここにいるんだ。
「あら、門番の人は快く通してくれたわよ」
ちっ、あいつら……まあいい。ところでお前は今日友達とショッピングに行くとか言っていた気がするが?
「ああ、それなら終わったわ。このカチューシャを買ったの」
そう言ってシャーロットが取り出したのは花柄のカチューシャだった。
は、花柄?プハハハハ!お前に花柄か!これは傑作だ!
「な!なによ!友達に勧められたのよ!いいじゃない!」
ハハ!その友達も冗談で言ったんだろう!だって、お前に似合うって言ったらせめても鬼柄だろ!ハハハハハ!
「ちょっと?それはどういうことかしら?」
シャーロットは目を釣り上げて俺に迫ってくる。ま、まずい、あまりの疲れに頭がおかしくなってしまった。俺は怒らせてはいけない人間を怒らせてしまったようだ。ここはなんとか切り抜けなければ。
ま、まあ、鬼は人間の前に魅力的な異性の姿で出るらしいし?つまりシャーロットは魅力的だってことではないか?
「なんで疑問系なのよ。……まあいいわ」
そう言ってシャーロットはカチューシャをつけた。その姿は――すごく可愛かった。
「どう?」
……ああ、似合ってるよ。
俺はそっぽを向く。
「そう?なら良かったわ」
シャーロットが自慢げな笑みを浮かべていることは横目でもわかったが、これ以上彼女を見たら何かもっと墓穴を掘るような気がして、ケインさんの屋敷の埃のみを見つめていた。
ケインさんの肩が上がると、木剣は振り上げられ、胸が沈むと木剣は振り下げられる。それによって空気は震え、鈍い音となって俺の耳に伝わる。
彼は一歩踏み出し、横から見えない敵を胴一閃に付す。目の前にしかと見えた厳かな敵は幻影となって霧散する。
彼がふっと一つ息を吐き、目を瞑ると、そこには鬼の形相の敵が幾重にも浮かび上がった。彼はいつの間にか平野にいて、地平線を埋め尽くさん限りである。
一つの幻影が剣を振るう。然し彼はまだ動かない。敵の剣は速度が上昇し、目では見えなくなった。然し彼はまだ動かない。そして敵の刃が彼の喉元を掻っ切ろうとしたその刹那――彼の姿はふっと消えて、五十数もの幻影が一気に消滅した。
彼は先ほどとは少し違う位置で目を閉じて構えている。幻影は先ほどの不可思議を見てもなお落ち着いていて、今度は組織だって攻撃を始めた。
彼はそのどれもをいなし、切り捨てていく。彼の剣は一振りごとに十数もの幻影を消す。そしてその光景に陶然としている間に――平野に残るのは彼一人になった。
俺達はいつの間にかケインさんの屋敷に戻っていた。俺は気を取り戻し、ケインさんにこう言う。
流石です。
「ああ、来ていたのか。声をかけてくれればよかったのに」
いえ、俺もケインさんの練習が見てみたかったので。
「ハハ!そうか!いい経験になったことを祈るよ」
ええ、いい経験でしたよ。
「……ところで、用は何かな?」
ああ、今日は休日なのでケインさんに稽古をつけてもらおうと思って。
「ハハ!努力熱心なのはいいことだね!」
痩身のケインさんは顎で奥を指した。あそこで稽古をしようということだろう。
俺は地面に大の字になって寝転んでいた。胸が苦しい。打ち身にされたところはまだジンジンと痛む。
「あんた、またこっぴどくやられたわね」
はぁ、はぁ、そりゃ、そうだろ、あの人を、誰だと思っている。
「いや、それでしょげないあんたもあんたよ」
そう言ってシャーロットは俺の隣に水を置く。俺は地べたに座り直してそれを飲み干す。
息は少し落ち着いた。
おい、シャーロット、というか、お前は何故当然のようにここにいるんだ。
「あら、門番の人は快く通してくれたわよ」
ちっ、あいつら……まあいい。ところでお前は今日友達とショッピングに行くとか言っていた気がするが?
「ああ、それなら終わったわ。このカチューシャを買ったの」
そう言ってシャーロットが取り出したのは花柄のカチューシャだった。
は、花柄?プハハハハ!お前に花柄か!これは傑作だ!
「な!なによ!友達に勧められたのよ!いいじゃない!」
ハハ!その友達も冗談で言ったんだろう!だって、お前に似合うって言ったらせめても鬼柄だろ!ハハハハハ!
「ちょっと?それはどういうことかしら?」
シャーロットは目を釣り上げて俺に迫ってくる。ま、まずい、あまりの疲れに頭がおかしくなってしまった。俺は怒らせてはいけない人間を怒らせてしまったようだ。ここはなんとか切り抜けなければ。
ま、まあ、鬼は人間の前に魅力的な異性の姿で出るらしいし?つまりシャーロットは魅力的だってことではないか?
「なんで疑問系なのよ。……まあいいわ」
そう言ってシャーロットはカチューシャをつけた。その姿は――すごく可愛かった。
「どう?」
……ああ、似合ってるよ。
俺はそっぽを向く。
「そう?なら良かったわ」
シャーロットが自慢げな笑みを浮かべていることは横目でもわかったが、これ以上彼女を見たら何かもっと墓穴を掘るような気がして、ケインさんの屋敷の埃のみを見つめていた。
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