良識のある異世界生活を

Hochschuler

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学園

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油然とした佇まいの校舎に集う学徒どもは入学式の元気溌剌な顔とは打って変わってハイレベルな授業に神妙な面持ちを湛えて下向きに登校するのだった。かく言う俺はかくかくしかじか、そんな言葉ではまとめられないほどの憂鬱を浮かべていた。それは何故か。この校舎に龍の気配がするからだ。それもよく慣れ親しんだ、そう、裸を知っているくらいには慣れ親しんだ龍の気配だ。
「ねぇ、なんでそんなに顔が青ざめているのよ」
シャーロットが怪訝な顔をしながら俺を覗き込む。
いや、なんでもない。
俺はシャーロットの疑念を遮り足早に校舎に入ろうとする。
「なんでもないなんてことはないでしょう。ほら、言ってごらんなさい」
いや、本当になんでもないんだ。
「いやいや、絶対そんなわけ――」
刹那、マイケルが俺たちに合流しその話は有耶無耶に終わるのだった。マイケル、お前ってやつは――最高だな。

担任は喧騒の教室内を見渡すと、一声で静寂へと変え、こう述べるのだった。
「ヤァ諸君、君たちには朗報かもしれないし、悲報かもしれない。だが、どうやら時が来たようだ。新しい仲間を迎える時がね」
瞬間、静寂は教室を滔々と流れ渡り、煩瑣な現実の其々が遠くへ忘却し、そして彼らの眦は――気味の悪い笑みと共に興味の炎を内に燃え滾らせるのだった。担任はその視線を、肩をすくめて笑って見せると教室の外にいる人影に一つ、合図を飛ばした。
そして入ってきた人物は、彼女は、種族的隔絶の頂点にいる彼女は周りの奇異の視線を一瞥もせず、堂々たる立ち姿で教壇の横に立つ。
「転校生のリリー・ミドガルズ・オルムだ。好きなものは肉、嫌いなものは野菜。金科玉条は一撃滅殺だ。宜しく」
ええ、あんたは肉が好きでしょうね。いつも龍皇が俺に用意してくれた料理に肉がある時は、あんたが奪い去っていましたからね。まあそんなことはともかく、俺の予想、と言うより直感は当たってしまったようだ。ここで慌てるのは三流、そしてあいつに話しかけるのも三流、真の一流って言うのはクラスの一員として歓迎しながら、なおも無関係を装うのだ。やれやれ、これだから有能の俺ってば――
「因みに私とアル、アルバートはとっても仲がいい」
刹那、クラス中の視線が俺を穿つ。
は、ははっ、こ、こんなことで動揺せず無関心を装うのが――いや待て、シャーロット、お前は何故そんなに睨んでる。まさか、怒ってないよな?お前が怒ったらものすごく面倒臭いのだが。お願いだ!この際神様に願ってもいい!あいつを怒らせないでくれ!
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