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64話 ミスト、キリコと仮称し街に出て 朋広、激しい怒りを抱く
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「違う。 そうじゃない」
「で、でもライミーネ先生は......」
「だから、それを鵜呑みにしたから俺様がこうなったんだろうが」
ミストの部屋。 そして現在華音の前ではミストと猫(?)の三号が口論をしている。 論点はライミーネが国を出る際、ミストに置いていったという魔法の道具についてだ。 その中に三号の知っている道具がいくつかあり、ライミーネからミストへどんな風に説明されているかを聞いていたのだが、あまりのざっくり感なうえ微妙に間違っている点があり三号が頭をおさえながら正しい使い方を指摘していた。
「じゃあ次はこれだ。 そのライミーネ先生とやらはなんて説明したんだ?」
三号は一対のブレスレットを引っ張り出す。
「それは『遠話の腕輪』と言っていました。 片方ずつ装着した者同士なら離れていても会話が出来るようになると」
「じゃあそれをなんで先生とあんたが身につけていないんだ?」
「試したのですが相手の声が聞こえてくることはなく、結局壊れているのではないかと先生が。 それで置いていかれました」
それをきいて三号がため息をつく。
「はぁ。 壊れてねぇよ、それは。 そもそもそいつは『遠話の腕輪』じゃなくて『念話の腕輪』だ。 惜しいんだがどこかズレた結論を出すもんだな。 その先生とやらは」
「せ、先生を悪く言わないでください! じゃあなぜ壊れていないのに離れて会話が出来なかったのですか?」
「そりゃ無理に決まってる。 俺様の『人工霊石』の時と一緒で使い方が間違ってるんだからな。 ほれ、片方をそっちの嬢ちゃんに着けてもらいな。 あんたはもう片方を着けるんだ。 ああ、腕はどっちでも構わない」
言われて二人がブレスレットをつける。
「意思が伝わらなかった点だがな。 そもそも離れたって点が間違いなんだよ。 装着者同士、魔力がある事は最低条件ではあるんだが...... まぁとりあえず手でも繋いでみろ」
三号にそう言われるものの、ミストと華音はお互い顔を見合わせて赤くなった。
「な、なにか恥ずかしいですね」
「え、えへへ。 そうだねー」
「恥ずかしがってないではやくしやがれ。 で、そのまま相手に口には出さず挨拶でもしてみろ」
「じ、じゃあ失礼しますね?」
「し、失礼じゃないよ! 大丈夫!」
二人はぎこちない動きで手を繋ぐ。
《ええと...... き、聞こえますか? 華音様?》
《!? すごい! 聞こえるよミストちゃん!》
《あ!? 私も聞こえます!》
見ている三号にも二人の驚いている表情で意思の疎通が出来ている事がわかる。
「すごいよこれ!」
「すごいですね!」
だが喜ぶ二人とは対照的に三号の顔(猫)は渋い。
「すごくねぇよ。 それは失敗作だからな」
「「え?」」
「一、距離的欠陥。 有効距離が零距離とかなら、わざわざ魔力を消費しなくても普通に話した方が効率的。 二、用途的欠陥。 重要な情報を得た後、それを離れた相手に瞬時に伝えたいというのが本来の目的でな。 相手も同じ場所にいるんじゃ意味がないだろ。 どんな場所へも常にペアで行かせる事になるなら、そもそもそんな道具はいらんわな。 三、第三者への精神的ダメージ。 以上の点などからとても実用的とは言いがたく、失敗品とされたんだよ」
この三号の説明は華音には少し難しかったようだがミストは理解し、疑問も抱いた。
「あの...... 三号さん。 離れた相手と連絡がしたい、けれど失敗したというのはわかりますが、みっつめの、第三者への精神的ダメージというのは?」
「うん? 気になるか? これは俗っぽい理由だから聞かない方がいいと思うんだがな」
三号はやれやれという素振りをしながらも律儀に説明をしてくれる。
「今回はお嬢ちゃん達だからまだいい。 しかしだな。 これがお嬢ちゃん達の嫌いな相手同士だったり、髭を生やしたいい年齢のじじい同士だったりしたところを想像してみろ! 瞬間的な握手までなら構わん。 しかし当事者はそのまま念話で盛りあがってるかも知れないが、こっちからはじじい同士が無言で見つめあってるようにしか見えないっての! 精神的に...... うぅ、くるわぁ」
三号は二本足で立ち、前足で毛が逆立っている自分の身体を器用に抱きしめて震える。
《ず、随分具体的な例えですね》
《どう聞いても実体験だよねー》
《まぁ、わからなくもありませんが》
《ミストちゃんわかるんだ、すごい!》
《嫌いな方同士が手を握って無言で見つめあっているところなんて私も見たいとは思いませんし》
《そう言えば華音の友達には男の子同士の組み合わせ最高って言ってた子がいたよ?》
《そ、そうなのですか? そこのところ詳しく......》
ミストと華音がなにやら見つめあって盛りあがっている(ように見える)中、三号は一人(一匹?)考える。
(ふーむ。 俺様が封印されている間に状況は色々と変わっていたようだがはっきり言ってなにもわからない。 これでは今後の行動方針も立てられんし、やはりまずは情報が必要だ。 幸いこの嬢ちゃんにはお偉いさんの立場があるようだから、今しばらくはこのまま様子を見つつ情報を集めるのが最善か)
しかしそんな三号の思惑をよそに華音が唐突に立ち上がる。
「あ! いけない! パパの事すっかり忘れてた!」
「お父様、ですか?」
「うん、お城の前で待っておくように言われてたんだった。 戻らないと」
「だ、誰にも見つからずに戻るのは大変なのでは......」
ミストが心配する。
「あ、それは大丈夫。 問題ないよー」
華音に間髪入れずに否定されミストは若干複雑に思う。 第三者が見つからずに城へ出入りできるというのは、それはそれで問題なのではないだろうかと。
「そ、そうなのですか。 ......あ、あの!」
とりあえずその問題を横に置くことにしたミストは、華音を呼び止めて再びそっとその手を握った。
~王城前~
「すまない華音、待たせちゃったかな...... うん? 一緒にいる子は誰だい?」
「ここで友達になった子でキリコちゃん(ミストお忍び用スタイル)とその飼い猫さん(三号無言スタイル)だよ。 パパと一緒にいるその子達こそ誰?」
「さっきのひったくりの子、ロシェ君とその妹のリシェちゃん。 ちょっと事情が複雑でね。 詳しくは宿で話すよ。 ショウカさんの意見も聞きたいしな」
「キリコちゃんも案内していいかな? 私お世話になったから」
朋広はそれを聞いてキリコに礼を言う。
「そうですか。 うちの娘がお世話になったみたいで。 よければ泊まっている宿屋でお礼をさせてください」
「あ、そんな。 私の方こそ華音様には命を助けていただいて......」
「わー! キリコちゃんパパにそんな丁寧に言わなくても私の事は華音ちゃんでいいってば! あ、あはは」
「じゃあ宿屋へみんなで行きましょう」
「あ、あれ?(パパが何も言ってこない?)」
下手なごまかしに対して何も言わず、そのまま宿に向かって歩きはじめる朋広に華音はどこか違和感をおぼえたが、この場で色々追求されても困るので今は様子を見る事にした。
~宿~
「皆様、只今戻りました」
「あ、お帰りショウカさん。 お姉さんとは...... げ! その鳥さんは!」
ショウカは木製のかごを持っていたが、声をかけた華音がその中身を見て固まる。 中にいたのは鳩くらいの大きさの全身がすごく綺麗なエメラルドグリーンの鳥さんだ。
「この鳥は賢く、とてもキレイな声で鳴くんですよ華音様」
「知ってるよ。 ......そして突然気味の悪い奇声をあげる事も」
華音はじりじりと鳥さんから距離を取った。
「え? 奇声ですか? そんな話は初めて聞きますが......」
「え? だ、だって華音の目の前で」
「あー、華音。 あれは実はシロッコの爺様がな?」
横から朋広が会話に参加し、シロッコに悪気はなかった旨を加えて真実をきかせる。 華音は絶句していたが、
「もー! おじいちゃんめー。 華音あの時本気で怖かったんだからー!」
と言いながらキリコの所に戻っていった。 逆にショウカの目線は華音を追っていき、そのまま奥のテーブルで一心不乱になって幸依の料理を食べているであろうと見受けられる少女と猫、幼い男女の子供に注がれる。
「奇遇ですね。 私もさっきまでこれとよく似た光景を目にしていましたが、こちらも随分と賑やかな様で。 いや、無言で頬張っていますから賑やかではないとも言えるのでしょうか?」
ショウカはくすりと笑い、すぐに真面目な顔になり朋広に向き直る。
「朋広様。 何がおありになりましたか?」
「うん。 実は怒っているんだけど、どうしたらいいかと思ってね」
朋広とショウカもテーブルへと移動し皆が食べおわった頃、朋広が知った事実を話はじめた。
身寄りのない子供達を窃盗に走らせ、利益を得ている犯罪者集団の存在。 子供達はほんのわずかな食事とひきかえに他人の持ち物に手を出している。 それでいながら組織の中での扱いは奴隷同然であり、衛兵に捕まろうが病気で倒れようが平気で無視される。 それでも子供達は他に頼る場所もなく、悪事に身を染めていくのだ。
そんな集団の中に置かれて善悪の判断がつかない子供達もいる、と朋広の説明に加えて当事者である七才のロシェ、その妹で五才のリシェに現場の状況をきかされた華音、キリコはショックを受ける。
「この二人、妹のリシェちゃんは罪悪感に苦しみ、ならばと兄のロシェ君が妹の分まで犯罪行為に手を染め妹がさらに苦しむ悪循環になっていた」
「抜け出せない仕組みができているのでしょうね」
「衛兵に言ってなんとかできないでしょうか。 こんなの許せません」
「キリコちゃんの言う通りだよ! ひどいよこれは」
「うん。 パパも怒りが爆発しそうになったんだけどその時はなんとか堪えた」
ふたつ違いの兄と妹の姿が朋広には正和と華音に重なってみえた。
「で、この子達はうちの村に連れていこうと思うんだ。 もちろん最終的な判断はこの子達の決断次第だけど」
皆の視線を受けて兄のロシェが口を開く。
「お、おいらはリシェがいいっていう場所ならどこでもいいよ。 盗みをやらなくていいならリシェも喜ぶし......」
「わたしはここはイヤです。 パパとママはなんでいなくなったんだろうって何度も考え泣いていました。 でも...... でも、こんなにおいしいご飯を食べさせてくれる人がまだいたんだと思うと...... ひく、ひっく」
「な、泣くなよリシェ。 もう大丈夫だから。 おじさん、おいらができる事ならなんでもするから連れていっておくれよ。 う、うう」
幼い兄妹が泣き出した。 その様子を見ていた華音とキリコももらい泣きしている。
「華音は賛成で大丈夫みたいだな。 ロシェ君にリシェちゃん。 子供は遊ぶのが仕事だとおじさんは思ってる。 これからは下手に遠慮などせずもっと堂々としているんだよ。 悪い事だけはしないようにね。 もうしなくていいんだから」
「う、うん!」
「はい。 ぐすっ」
朋広が笑顔で諭す。 そしてショウカの方を向きたずねた。
「彼らを連れていくのに何か手続きとか必要ですかね?」
「何も。 そもそも国が国民の管理をしっかりしていたなら、彼らが犯罪者集団に都合よく利用される可能性も低かったでしょう。 悪い言い方にはなりますが、王都で身寄りのない子供が数人消えたとしてもそれを気にする者はいないというのが現状です」
ショウカの一言をキリコは心の中で深く受け止める。 国の中枢の腐敗した状況を知っていながら、自分ではどうにもできない事も知っていたからだ。
《ミストちゃん大丈夫?》
《ありがとうございます。 何も出来ない自分が不甲斐ないですけど平気です》
華音がミストを気遣い肩に手を置いて心の声を送る。
《でも華音だって何も出来ないと思うし、パパだって...... あ?》
《? 華音様?》
ここにきて華音は朋広に抱いた違和感を本能的に察知した。
「まさかパパ、やろうとしてるのはそれだけじゃないんじゃ」
それをおぼろげに計画していたからミストの失言を気にもとめなかったのではないか?
「わかるかい華音。 実は都を出発する前にその集団と話し合いをしておこうと思ってね」
(((!?)))
((これは絶対話し合いで終わらす気じゃない!))
朋広の爆弾発言にミスト、ロシェ、リシェは驚き、華音とショウカは真意を見抜いた。 普通の猫を装っている三号は様子見に徹している。
「き、危険すぎます! そんな相手が話し合いだけで済ますとは思えません。 衛兵に言って対応してもらった方がいいですよ! わ、私も証言位ならできますから!」
「いや、衛兵に怪我をされても困るからいない方がいいかな」
「あ、それは華音も同感」
「!? 華音さ、華音ちゃん!?」
「「衛兵呼ぶならその後だよねー」」
朋広と華音が台詞を被らせ、こぶしを付き合わせている姿にショウカと三号以外は呆気にとられるが無理もないだろう。 ショウカと華音は朋広がその組織を壊滅させようとしていると悟り、華音は賛同の意を示す。 だが、ショウカはそれと同時にそれでは根本的な解決にはならず、すぐに新たな問題が発生する事も見抜いた。 そこでショウカは今こそ最善の方法を献策するべく頭を働かせる。 この後の朋広の行動を予想するなら間違いなく最後は自分の意見を確認してくれると信じていたからだ。
「どうだろう。 ショウカさんはどう思う?」
―来た。 ショウカは今こそその才能の片鱗を見せるべく口を開く。
「で、でもライミーネ先生は......」
「だから、それを鵜呑みにしたから俺様がこうなったんだろうが」
ミストの部屋。 そして現在華音の前ではミストと猫(?)の三号が口論をしている。 論点はライミーネが国を出る際、ミストに置いていったという魔法の道具についてだ。 その中に三号の知っている道具がいくつかあり、ライミーネからミストへどんな風に説明されているかを聞いていたのだが、あまりのざっくり感なうえ微妙に間違っている点があり三号が頭をおさえながら正しい使い方を指摘していた。
「じゃあ次はこれだ。 そのライミーネ先生とやらはなんて説明したんだ?」
三号は一対のブレスレットを引っ張り出す。
「それは『遠話の腕輪』と言っていました。 片方ずつ装着した者同士なら離れていても会話が出来るようになると」
「じゃあそれをなんで先生とあんたが身につけていないんだ?」
「試したのですが相手の声が聞こえてくることはなく、結局壊れているのではないかと先生が。 それで置いていかれました」
それをきいて三号がため息をつく。
「はぁ。 壊れてねぇよ、それは。 そもそもそいつは『遠話の腕輪』じゃなくて『念話の腕輪』だ。 惜しいんだがどこかズレた結論を出すもんだな。 その先生とやらは」
「せ、先生を悪く言わないでください! じゃあなぜ壊れていないのに離れて会話が出来なかったのですか?」
「そりゃ無理に決まってる。 俺様の『人工霊石』の時と一緒で使い方が間違ってるんだからな。 ほれ、片方をそっちの嬢ちゃんに着けてもらいな。 あんたはもう片方を着けるんだ。 ああ、腕はどっちでも構わない」
言われて二人がブレスレットをつける。
「意思が伝わらなかった点だがな。 そもそも離れたって点が間違いなんだよ。 装着者同士、魔力がある事は最低条件ではあるんだが...... まぁとりあえず手でも繋いでみろ」
三号にそう言われるものの、ミストと華音はお互い顔を見合わせて赤くなった。
「な、なにか恥ずかしいですね」
「え、えへへ。 そうだねー」
「恥ずかしがってないではやくしやがれ。 で、そのまま相手に口には出さず挨拶でもしてみろ」
「じ、じゃあ失礼しますね?」
「し、失礼じゃないよ! 大丈夫!」
二人はぎこちない動きで手を繋ぐ。
《ええと...... き、聞こえますか? 華音様?》
《!? すごい! 聞こえるよミストちゃん!》
《あ!? 私も聞こえます!》
見ている三号にも二人の驚いている表情で意思の疎通が出来ている事がわかる。
「すごいよこれ!」
「すごいですね!」
だが喜ぶ二人とは対照的に三号の顔(猫)は渋い。
「すごくねぇよ。 それは失敗作だからな」
「「え?」」
「一、距離的欠陥。 有効距離が零距離とかなら、わざわざ魔力を消費しなくても普通に話した方が効率的。 二、用途的欠陥。 重要な情報を得た後、それを離れた相手に瞬時に伝えたいというのが本来の目的でな。 相手も同じ場所にいるんじゃ意味がないだろ。 どんな場所へも常にペアで行かせる事になるなら、そもそもそんな道具はいらんわな。 三、第三者への精神的ダメージ。 以上の点などからとても実用的とは言いがたく、失敗品とされたんだよ」
この三号の説明は華音には少し難しかったようだがミストは理解し、疑問も抱いた。
「あの...... 三号さん。 離れた相手と連絡がしたい、けれど失敗したというのはわかりますが、みっつめの、第三者への精神的ダメージというのは?」
「うん? 気になるか? これは俗っぽい理由だから聞かない方がいいと思うんだがな」
三号はやれやれという素振りをしながらも律儀に説明をしてくれる。
「今回はお嬢ちゃん達だからまだいい。 しかしだな。 これがお嬢ちゃん達の嫌いな相手同士だったり、髭を生やしたいい年齢のじじい同士だったりしたところを想像してみろ! 瞬間的な握手までなら構わん。 しかし当事者はそのまま念話で盛りあがってるかも知れないが、こっちからはじじい同士が無言で見つめあってるようにしか見えないっての! 精神的に...... うぅ、くるわぁ」
三号は二本足で立ち、前足で毛が逆立っている自分の身体を器用に抱きしめて震える。
《ず、随分具体的な例えですね》
《どう聞いても実体験だよねー》
《まぁ、わからなくもありませんが》
《ミストちゃんわかるんだ、すごい!》
《嫌いな方同士が手を握って無言で見つめあっているところなんて私も見たいとは思いませんし》
《そう言えば華音の友達には男の子同士の組み合わせ最高って言ってた子がいたよ?》
《そ、そうなのですか? そこのところ詳しく......》
ミストと華音がなにやら見つめあって盛りあがっている(ように見える)中、三号は一人(一匹?)考える。
(ふーむ。 俺様が封印されている間に状況は色々と変わっていたようだがはっきり言ってなにもわからない。 これでは今後の行動方針も立てられんし、やはりまずは情報が必要だ。 幸いこの嬢ちゃんにはお偉いさんの立場があるようだから、今しばらくはこのまま様子を見つつ情報を集めるのが最善か)
しかしそんな三号の思惑をよそに華音が唐突に立ち上がる。
「あ! いけない! パパの事すっかり忘れてた!」
「お父様、ですか?」
「うん、お城の前で待っておくように言われてたんだった。 戻らないと」
「だ、誰にも見つからずに戻るのは大変なのでは......」
ミストが心配する。
「あ、それは大丈夫。 問題ないよー」
華音に間髪入れずに否定されミストは若干複雑に思う。 第三者が見つからずに城へ出入りできるというのは、それはそれで問題なのではないだろうかと。
「そ、そうなのですか。 ......あ、あの!」
とりあえずその問題を横に置くことにしたミストは、華音を呼び止めて再びそっとその手を握った。
~王城前~
「すまない華音、待たせちゃったかな...... うん? 一緒にいる子は誰だい?」
「ここで友達になった子でキリコちゃん(ミストお忍び用スタイル)とその飼い猫さん(三号無言スタイル)だよ。 パパと一緒にいるその子達こそ誰?」
「さっきのひったくりの子、ロシェ君とその妹のリシェちゃん。 ちょっと事情が複雑でね。 詳しくは宿で話すよ。 ショウカさんの意見も聞きたいしな」
「キリコちゃんも案内していいかな? 私お世話になったから」
朋広はそれを聞いてキリコに礼を言う。
「そうですか。 うちの娘がお世話になったみたいで。 よければ泊まっている宿屋でお礼をさせてください」
「あ、そんな。 私の方こそ華音様には命を助けていただいて......」
「わー! キリコちゃんパパにそんな丁寧に言わなくても私の事は華音ちゃんでいいってば! あ、あはは」
「じゃあ宿屋へみんなで行きましょう」
「あ、あれ?(パパが何も言ってこない?)」
下手なごまかしに対して何も言わず、そのまま宿に向かって歩きはじめる朋広に華音はどこか違和感をおぼえたが、この場で色々追求されても困るので今は様子を見る事にした。
~宿~
「皆様、只今戻りました」
「あ、お帰りショウカさん。 お姉さんとは...... げ! その鳥さんは!」
ショウカは木製のかごを持っていたが、声をかけた華音がその中身を見て固まる。 中にいたのは鳩くらいの大きさの全身がすごく綺麗なエメラルドグリーンの鳥さんだ。
「この鳥は賢く、とてもキレイな声で鳴くんですよ華音様」
「知ってるよ。 ......そして突然気味の悪い奇声をあげる事も」
華音はじりじりと鳥さんから距離を取った。
「え? 奇声ですか? そんな話は初めて聞きますが......」
「え? だ、だって華音の目の前で」
「あー、華音。 あれは実はシロッコの爺様がな?」
横から朋広が会話に参加し、シロッコに悪気はなかった旨を加えて真実をきかせる。 華音は絶句していたが、
「もー! おじいちゃんめー。 華音あの時本気で怖かったんだからー!」
と言いながらキリコの所に戻っていった。 逆にショウカの目線は華音を追っていき、そのまま奥のテーブルで一心不乱になって幸依の料理を食べているであろうと見受けられる少女と猫、幼い男女の子供に注がれる。
「奇遇ですね。 私もさっきまでこれとよく似た光景を目にしていましたが、こちらも随分と賑やかな様で。 いや、無言で頬張っていますから賑やかではないとも言えるのでしょうか?」
ショウカはくすりと笑い、すぐに真面目な顔になり朋広に向き直る。
「朋広様。 何がおありになりましたか?」
「うん。 実は怒っているんだけど、どうしたらいいかと思ってね」
朋広とショウカもテーブルへと移動し皆が食べおわった頃、朋広が知った事実を話はじめた。
身寄りのない子供達を窃盗に走らせ、利益を得ている犯罪者集団の存在。 子供達はほんのわずかな食事とひきかえに他人の持ち物に手を出している。 それでいながら組織の中での扱いは奴隷同然であり、衛兵に捕まろうが病気で倒れようが平気で無視される。 それでも子供達は他に頼る場所もなく、悪事に身を染めていくのだ。
そんな集団の中に置かれて善悪の判断がつかない子供達もいる、と朋広の説明に加えて当事者である七才のロシェ、その妹で五才のリシェに現場の状況をきかされた華音、キリコはショックを受ける。
「この二人、妹のリシェちゃんは罪悪感に苦しみ、ならばと兄のロシェ君が妹の分まで犯罪行為に手を染め妹がさらに苦しむ悪循環になっていた」
「抜け出せない仕組みができているのでしょうね」
「衛兵に言ってなんとかできないでしょうか。 こんなの許せません」
「キリコちゃんの言う通りだよ! ひどいよこれは」
「うん。 パパも怒りが爆発しそうになったんだけどその時はなんとか堪えた」
ふたつ違いの兄と妹の姿が朋広には正和と華音に重なってみえた。
「で、この子達はうちの村に連れていこうと思うんだ。 もちろん最終的な判断はこの子達の決断次第だけど」
皆の視線を受けて兄のロシェが口を開く。
「お、おいらはリシェがいいっていう場所ならどこでもいいよ。 盗みをやらなくていいならリシェも喜ぶし......」
「わたしはここはイヤです。 パパとママはなんでいなくなったんだろうって何度も考え泣いていました。 でも...... でも、こんなにおいしいご飯を食べさせてくれる人がまだいたんだと思うと...... ひく、ひっく」
「な、泣くなよリシェ。 もう大丈夫だから。 おじさん、おいらができる事ならなんでもするから連れていっておくれよ。 う、うう」
幼い兄妹が泣き出した。 その様子を見ていた華音とキリコももらい泣きしている。
「華音は賛成で大丈夫みたいだな。 ロシェ君にリシェちゃん。 子供は遊ぶのが仕事だとおじさんは思ってる。 これからは下手に遠慮などせずもっと堂々としているんだよ。 悪い事だけはしないようにね。 もうしなくていいんだから」
「う、うん!」
「はい。 ぐすっ」
朋広が笑顔で諭す。 そしてショウカの方を向きたずねた。
「彼らを連れていくのに何か手続きとか必要ですかね?」
「何も。 そもそも国が国民の管理をしっかりしていたなら、彼らが犯罪者集団に都合よく利用される可能性も低かったでしょう。 悪い言い方にはなりますが、王都で身寄りのない子供が数人消えたとしてもそれを気にする者はいないというのが現状です」
ショウカの一言をキリコは心の中で深く受け止める。 国の中枢の腐敗した状況を知っていながら、自分ではどうにもできない事も知っていたからだ。
《ミストちゃん大丈夫?》
《ありがとうございます。 何も出来ない自分が不甲斐ないですけど平気です》
華音がミストを気遣い肩に手を置いて心の声を送る。
《でも華音だって何も出来ないと思うし、パパだって...... あ?》
《? 華音様?》
ここにきて華音は朋広に抱いた違和感を本能的に察知した。
「まさかパパ、やろうとしてるのはそれだけじゃないんじゃ」
それをおぼろげに計画していたからミストの失言を気にもとめなかったのではないか?
「わかるかい華音。 実は都を出発する前にその集団と話し合いをしておこうと思ってね」
(((!?)))
((これは絶対話し合いで終わらす気じゃない!))
朋広の爆弾発言にミスト、ロシェ、リシェは驚き、華音とショウカは真意を見抜いた。 普通の猫を装っている三号は様子見に徹している。
「き、危険すぎます! そんな相手が話し合いだけで済ますとは思えません。 衛兵に言って対応してもらった方がいいですよ! わ、私も証言位ならできますから!」
「いや、衛兵に怪我をされても困るからいない方がいいかな」
「あ、それは華音も同感」
「!? 華音さ、華音ちゃん!?」
「「衛兵呼ぶならその後だよねー」」
朋広と華音が台詞を被らせ、こぶしを付き合わせている姿にショウカと三号以外は呆気にとられるが無理もないだろう。 ショウカと華音は朋広がその組織を壊滅させようとしていると悟り、華音は賛同の意を示す。 だが、ショウカはそれと同時にそれでは根本的な解決にはならず、すぐに新たな問題が発生する事も見抜いた。 そこでショウカは今こそ最善の方法を献策するべく頭を働かせる。 この後の朋広の行動を予想するなら間違いなく最後は自分の意見を確認してくれると信じていたからだ。
「どうだろう。 ショウカさんはどう思う?」
―来た。 ショウカは今こそその才能の片鱗を見せるべく口を開く。
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