一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

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72話 オーシン、砦を訪れ キョウレイ、進軍を開始する

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 仮面をつけフードを被ったオーシンはさも当然とばかりに言った。

「だから言っただろう」
「そ、そんなバカな......」

 ガーディは喉元に短剣を突き付けられて茫然としている。 突き付けているのはアンだ。

「わ、私が...... 本当に?」

 アンの方も信じられないといった表情で動けなくなっていた。


 事の発端は『仮面の男』としてガーディ達を訪ねて砦にやってきたオーシンに、二人が砦の兵士の鍛練計画を持ちかけた時まで遡る。

 兵士達は隊長達から説明を受けていたので砦に入る手間はかからなかった。
 そして執務室でこの鍛練計画の話をされ、
 
「いつもという訳にはいかないが、手のあいている時で良いのならば引き受けよう」

 オーシンは少し考えたがこの提案を了承したのである。

「おお! ありがとうございます」
「これでここの武芸に関しての質は格段に上がりますね、隊長」
「ああ。 あとは各人がついてこれるかだな」
「そうですね」

 オーシンは言う。

「それは二人が見本を示さねばなるまい。 特に副隊長が励めば部下は不満を言えまいよ」
「わ、私がですか?」
「ああ。 隊長は武術大会に出た事もあり下地が出来ている。 だが副隊長は武術に関してはここの兵士とあまり差はないだろう」
「た、確かに仰る通りですが」

 オーシンはチラリとガーディを見てアンに視線を戻す。

「だが副隊長が隊長に勝つような事になれば兵士はその努力を認めるしかなくなるだろう? 自分だけ不満を言い続ける訳にもいくまい」

 それにはガーディが待ったをかける。

「お言葉ですがオーシン殿。 実現すればそうかもしれませんがそれは少々難しいと思いますが」
「ふ。 ガーディ隊長は副隊長に今まで負けた事はなく、これからも負けるつもりはない。 とでも言いたいのか?」
「......その通りです」

 アンもガーディの意見に同意した。

「は、恥ずかしながら私も隊長に勝てるようになるとはとても思えないのですが......」

 ガーディがオーシンの言葉に意地になったのが分かったが、意地になられなくても勝てないとアンは思う。

 オーシンはやりとりから二人の短所を自覚させる必要があると考え、ガーディを挑発するようにそれを伝える。

「そうか? 私なら二手で副隊長を隊長に勝たす事が出来る。 それも今現在の力量でな」

 ガーディが面白くなさそうな顔をするがオーシンにとっては計画通り。

「その気があるなら証明してやるが訓練場に行く勇気はあるか? 恥をかくのが嫌なら断るといい。 私は笑わない」
「っ! そこまで言われるのであれば...... いいでしょう。 アン、付き合ってもらうぞ?」
「え、ええ!? 私は何も言ってないのに」

 アンの嘆きは当たり前のようにオーシンとガーディに無視された。


 訓練場では何人かの兵士が剣の稽古をしていたが、ガーディとアン、そして仮面の男を見て場所を空ける。 そのまま兵士達は野次馬になってぼそぼそと会話を交わす。

「隊長と副隊長がやるのか? 副隊長も毎回隊長相手じゃ大変だなぁ」
「いや、隊長の相手はあの仮面の男じゃないのか? 確か隊長達が言ってた俺達の師範になるかもって人だろ?」

 オーシンの格好は砦に侵入した時のものとあまり変わらないのだが、当時倒された兵士は真っ向に対峙しておらず、いきなり強襲されすぐに気絶させられている。
 そのため襲撃時のオーシンを誰も確認していないという悲しい現実があった。

 もし隊長と仮面の男が勝負するのならこれはいい場面に居合わせたと娯楽の少ない兵士達は喜んだ。
 だが、仮面の男はアンに自分の短剣を渡し何やら短い話をするとガーディとアンから離れた。

「なんだやっぱり隊長と副隊長か。 じゃあ隊長の勝ちで決まりだな」

 野次馬兵士の意見は一致し、それは当事者のアンにも聞こえる。

(あいつら好き勝手な事を~)

 だが残念な事にアン自身も兵士達と同じ感想だった。

(オーシン様の指示も意味分からないわよ)

 アンはオーシンの言葉を頭の中で繰り返す。

(一手目で隊長の武器を狙い切断するつもりで剣を振れ。 なに、向こうの武器から寄ってくるから心配はいらん。 次に動きが止まった隊長の喉元に剣先を突き付けて二手で終わりだ。 いいな?)

 渡された短剣を握りアンは考える。
武に長けたオーシン様が言うのだ。 当然考えがあるのだとは思う。 しかし......

(この短剣は驚く程軽い。 でもそれだけ。 体格もリーチもパワーもスタミナも技量すらも隊長の方が全然上。
 なのにリーチに関しては短剣になった事でさらに隊長と差がついてしまった。 隊長が私を懐に飛び込ませてくれるとは到底思えない。
 だから武器を弾いて体勢を崩せってことなんでしょうけど、それだと間違いなく体勢を崩されるのは私の方よね)

「準備はいいか? では...... 始め!」

 ......そして勝負は一瞬で決まった。

 茫然として動かない二人。 地面に転がるガーディの刀身。 目の前で起きた出来事に反応できず無言で固まる野次馬達。

「勝負あり! 勝者、アン!」

 オーシンの宣言で野次馬達の時間が動き出す。

「え...... あ、副隊長が勝ったのか!?」
「み、みたいだ。 あっという間だった」
「ふ、副隊長カッコ良かったですよー!」
「隊長の武器を叩き斬るなんてどんな技なんですかぁ!」

 野次馬の騒音でガーディ達も我にかえった。

「お、俺の...... 俺の負けだ」

 ガーディはまだ信じられないという表情で負けを宣言する。

「え? あ!」

 アンは慌ててガーディの喉元に突き付けたままの剣先を引いた。 信じられないのはアンも一緒で、野次馬達が彼女に近いて驚きと称賛を述べる。 オーシンもまた二人に近付いてきた。

「すごいじゃないですか副隊長、いつの間にあんな技を!」
「あ、いや私は何も......」

 オーシンの指示を実行しただけでこうなったアンにも状況がよく飲み込めていない。

「説明...... お願いできますか?」
「だ、だから私にもなんだか分からないと! あ、隊長でしたか。 失礼しま...... あれ?」

 それは部下ではなくガーディだった。
 だがその視線はアンではなくオーシンに向いている。 ガーディは再度オーシンに問いかけた。

「貴方には理由が分かっていたのでしょう? オー...... か、仮面師範殿!」

 ガーディは部下の前でオーシンの名前を出すのを咄嗟に避けたが本当に咄嗟だったのでオーシンをトンデモな呼び名にしてしまう。
 これが以後オーシンが砦で呼ばれる名でデビューした瞬間であった。

「仮面...... 師範」

 野次馬兵士がきょとんと固まってオーシンを見ているがオーシンは動じない。

「二人の欠点を武器の性能で突いた一度限りの勝利だよ。 二度目はない」
「俺達の...... 欠点...... ですか?」
「そうだ。 隊長は今回に限っては慢心。 副隊長は武器適性の部分だ」
「お、俺。 いや、私は慢心などは」

 オーシンがガーディの言葉を遮る。

「負けた事もない、だから勝つ。 そこまでは自信で構わない。 だが全てにおいて有利な状況に加えて副隊長はリーチの部分でさらに不利になった。 ......だから武器を弾いて速攻で勝負を決めてやろう。 そう考えたな?」
「!!」
「それがすでに慢心だ。 そして副隊長は皆と同じ剣では筋力の差で振りが遅くなる。 その剣を有効に使うなら筋力をつけるか突きを磨くといい。 なので武器を変えさせた」
「!! それで私に短剣を......」

 オーシンは二人との以前の戦いで両者の特徴を見抜いていた。

「だがそれだけならこの二人の決着がついた形はおかしい。 そこのお前、何故かわかるか?」

 突然指名された兵士が動揺する。

「た、隊長が勝つはずだったとかでしょうか。 わ、わかりません!」

 それにはガーディが答えた。

「武器をかえて速度に重点を置いたのだとしたら、私の一撃をかわして懐に入り剣先を突き付ける形になるから。 ですね」
「そうだ。 だがそれだけで副隊長が懐に潜り込める程隊長の技量は甘くない。 だからこそ隊長は副隊長の武器をあえて弾きにいっただろう?」

 ガーディはハッとする。

(読まれていた。 ......それも当然じゃないか。 俺とアンはオーシン殿にことごとく攻め手を封じられた事があったのだから! 失念していた!)

「だから私に最初から武器を狙い切断するつもりでいけとおっしゃった......」
「初見の相手ではない副隊長が、不利な状況で隊長の剣を狙うだろうとは考えないと読んだのだ」
(なるほど。 確かに慢心だ。 知らない相手ならもっと警戒した)

「その状態で予想できない事が起これば隊長は思考を乱しその動きは必ず止まる。 後はそこを突けばいい。 これで二手で副隊長の勝ちだ」

 兵士が感嘆の声をもらす。 
 ガーディが気になった事を尋ねる。

「俺の剣が半ばから斬られたのが予想外な事でしたが、まさか最初から斬れると?」

 これを待ってましたとばかりにオーシンは仮面の下でニヤリと笑った。

「ああ。 それは剣に秘密がある」

 オーシンの目的。 それはこのミスリルの短剣を誰かに見せたくて仕方ないという子供みたいな理由だった。 オーシンはその場の者にこんこんと説明し、満足して最後にこう締めくくった。

「いいか。 戦場で再び同じ相手と出会う確率は限りなく低い。 なので切り札になる技や武器があるなら最初からそれを使え。 命を落とす確率がグッと下がるからな」

 アンと兵士達は納得している。 ガーディは渡されたミスリルの剣を握り思う。

(俺の振りに合わせにきたのは分かった。
 逆にそれに合わせてこの剣を弾くつもりが俺の予想した振りの速さより速く、俺が力を込める瞬間より先に届き武器の性能差で俺の剣が斬られた...... 軽さと強度が予想外過ぎたんだ)

「武器も発想次第でとんでもなく化けるってことですかね」

 ガーディがぽつりと漏らすとオーシンが同意する。

「ああ。 私もあるきっかけで武器に対する概念が変わった。 これが広まればこれからは武器も進化していくかもしれないな」
「武器が、という事は戦い方も変化する可能性がありますね」

 アンも参加し兵士達も盛り上がった。

「じゃあこんな剣でもいつか地面そのものを斬れたりするかもしれませんね」

 ガーディが膝をついてミスリルの短剣を地面に刺すような仕種をする。

 その瞬間。 わずかな地鳴りと共に地面が揺れ始めた。



~人間領北東部・ジラーフ平原~

 空に轟音が響く。 直後に絶叫と怒号が入り交じる。

 覇権を狙うキョウレイが大義名分(策による盟主指名)を得て遂に進軍を開始した。
 キョウレイ軍千に対してそれを認めないオルウェン率いる盟主軍は三千。 キョウレイが選んだ戦場は障害物の少ない平原であり、仕掛けた時刻も空が明るい晴天時。

 迎撃に出た盟主軍の中にはキョウレイが痺れを切らしただけの無謀な戦いと考えた者は多い。
 両軍は陣地をつくり陣の前に柵を構築して対峙する。 その形は正面からの決戦だ。

 すでに勝敗は決まっていると思われた戦いだった。 キョウレイ軍の後方に『それ』が姿を現すまでは。
 オルウェン側にそれが何かを知る者は誰もいなかった。

 そして...... キョウレイから『戦車』と呼ばれるそれが火を噴いた時、オルウェン側の陣地は大混乱に陥ったのである。
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