42 / 84
41話 ニース、英断によりルミナを救い 正和、難題に挑む
しおりを挟む
先日赤蟻達との戦闘で蟻達を撤退させた際、小型の赤蟻を気絶させて捕獲する事に成功。 赤蟻が亜人である事は判明しているので至急シロッコじいちゃんに手伝ってもらい、元の姿に戻す方法を探し始めたものの、僕とシロッコじいちゃんの二人で取り組んでも解呪(便宜上つけた呼称)は困難を極め、こちらの世界で初めて徹夜をした。 赤蟻はじいちゃんの結界で動けないように覆っているけど、亜人から赤蟻への変化は複雑な魔力の使い方をされていて何も出来ずに時間だけが過ぎていた。
「ぬぅ...... この儂にも解呪できぬとは神クラスの技なのか、特殊ななにかなのか」
「ふたつの別な力が絡みあってる感じなのはわかるんだけど...... 逆から解呪するとして...... せめて発動直後の瞬間がわかればなんとかなるかも」
「正和君が儂の結界を解除できるようになったみたいに、亜人を元の姿に戻せる可能性があるという訳じゃな?」
「あくまで可能性だけどね」
そう、確実とは言えない。
「何を言うんじゃ! その可能性を追い続けて儂の結界すら解除できるようになったではないか! そんな事ができる者はこの世界にはおらん。 これはむしろ偉業と言っても差し支えないわい」
「......ありがとうじいちゃん。 そうだよね。 諦めたらそこで終わりだよね。 何がきっかけで前に進むかわからないし」
「ガシュウイィィン! ワォン!」
突然ニースがくしゃみをしながらとびこんできた。 そしてその場で吠えながらクルクルと回り、部屋を出ていった。
「なんだろう? こんなニースは初めてだ」
僕はなんだか嫌な予感がして、
「じいちゃん、ここはお願い」
と言ってニースを追う...... までもなくニースは別の部屋の前にいた。 そこは亜人領とこちらを繋ぐ為の部屋だ。 ニースは今までこの部屋に興味を示した事はない。 先程の予感を含めて考えると、誰かが出てきたか入っていったかが考えられる。 前者ならニースが動き出すはずだけど動きはない。 後者なのか?
「誰かが向こうに行ったのかい?」
「ワンワン!」
家族の誰かなら僕に声をかけて行くと思うからそれはないし、ニースも騒がないと思う。 でももしキエルさん達が行ったんだとしたら......
「いけない! ニース行くよ!」
「ワォン!」
僕とニースは向こうへ繋がる空間へとびこんだ。 でた先は夜なので真っ暗だ。 僕は唯一使える照明魔法を遠慮なく使う。 小屋の中には誰もいない。 僕とニースはそのまま小屋の外にでる。 ニースが僕の前に走り出た。 角の先には小さな光の玉が浮かんでいる。 ニース、いつのまに照明魔法なんて覚えたんだろう。 ......侮れない。
小屋を出てすぐにルミナさんを発見できた。 ニースの様子からおそらくこちらに来たのは彼女だけなのだろう。 だけど安心した瞬間にその光景は始まった。
「あ...... あああ!」
突然ルミナさんが叫んだと思ったら、彼女を見えない何かの力が覆ったように感じた。 これはまさか! 僕は並列思考をフル回転させ、予測できる結果とその結果を打ち消す為の逆の計算式を組み立てる。 謎だった一番最初の公式が目の前で公開されたのだ。 間違えればルミナさんは赤蟻になってしまう。
「ここは絶対に間違えられない! いや、間違えない!」
彼女の両の手が赤蟻のものに変化した辺りで僕の力が彼女を覆う。 そのまま僕は彼女を蟻にしようとした存在と対峙する。
「僕の大切な仲間をそちらに引き込まないでいただけますか」
相手は僕の存在に驚きもせず、
「ほう。 そなたか? そなたじゃな!? おお、妾はとてもそなたに会いたかったのじゃぞ?」
気のせいか別の意味で驚いて喜んでいるように感じるんだけど。 ルミナさんは...... 良かった。 元の姿に戻っている。 成功したようだ。
「まさ...... かず...... さん?」
「良かった。 どうにか間に合ったようです」
「わたしは......?」
「話は後で。 まずは急いで向こうに戻ってください。 ニース!」
ニースがルミナの傍に行く。
「え? ニース? その額の角は......」
「ほう! 聖獣か? 聖獣まで従えておるとは益々興味深い。 妾の力を打ち消すそなた自身の力とあわせてな」
「聖獣...... ひっ!?」
ルミナさんも混乱していたが、だんだんと自分の身に起きた事を思い出したのだろう。 ニースから相手に視線を移して怯えている。 僕は再度ニースについて向こうに戻るように促す。
「で、でも......」
ルミナさんは何故か相手の顔色を伺っているように思えた。
「よい。 そなたへの興味はすでに失せておる。 こやつを妾の前に呼んでくれた礼として今回は見逃してやろうぞ」
その女の子に笑顔で言われてルミナさんはニースと共に戻って行った。 去り際に僕に気をつけて...... と言って。 外見からだと年齢は僕と同じ位だろうか。 頭の触角と複眼を含めても可愛い女の子だと思う。 僕はゲームでこういうキャラクターには耐性がついているから他の家族よりは衝撃は受けないですむと思う。 ありかなしかで言えば全然あり。 ......などと下らない思考をしている間も別の思考は色々な仮説をたてては答えを出そうとしていた。
彼女の正体は? 現段階では断定できず。 聖獣を知っている事から見た目より長く生きている可能性もある。
亜人が赤蟻になり、さらに進化して彼女のような姿になる可能性は? その可能性は考えられる。 ただその場合、赤蟻の目撃例がなかった点と整合性がとれない。
そのような固体は他にもいるのか? 可能性がない訳ではないが現時点で判明している点では疑問が残る。
その疑問とは? 赤蟻、そしてこのタイプの目撃例のなさと、亜人を赤蟻に変える特性。 この特性をこのタイプが持つと仮定すると亜人はもっと短期間で絶滅し、このタイプにとってかわられていたと推測できる。 しかし現在そうなってはいない点から、能力、外見ともにユニーク固体であることを推奨する。
「あなたが蟻達の指導者ですか?」
「左様。 女王と言ったところかの?」
存在を懸念していた通り女王蟻と認定。 先程の疑問に彼女をその存在として認識し、回答に修正を加える。
「じゃが、それではちと語弊があるのぅ」
「え?」
「妾はこの世界の神じゃからな」
「え?」
......彼女の言う事を全部信じるなら僕は黒蟻と赤蟻と戦っただけで神に挑まされる事になる。 うん、なるべく戦闘は回避する方向でいこう。
「まずは礼を言うぞ。 そちが蟻と赤蟻を蹴散らしてくれたおかげで妾もこうして出歩けるようになった」
どういう事だろう? 仲間を倒されて文句を言われるならわかるんだけど、お礼を言われるとは考えてなかった。
「えーと、蟻に捕まっていたとかって事ですか?」
「似たようなものじゃな。 過保護すぎるのよ、あやつらは」
なんか世間話が始まり毒気が抜かれたような気分だけど、女王蟻なので女王さんと呼ぶ事にしよう。 女王さんは隠そうともせず自分の事情を語ってくれた。 なるほどそういう事か。
「僕が蟻達の手に負えなければ、あなたが出てくるしかない。 それは自由に出歩く為の口実になる」
「そうなのじゃ! どうせそち達では件の者、つまりお主の事じゃな。 お主を、妾の前に連れて来ることなど出来ぬであろうが! とな?」
なんだろう? ......よく分からないけど、これ、話し合いで解決できるんじゃないかって気がしてきたよ。
「亜人の攻撃が通じぬ蟻どもを赤子扱いどころか妾の力をも打ち消し、さらに頭の良さまで兼ねておるとはのぅ。 聖獣まで従えておるし、もしこれで気遣いも出来るなら最高なのじゃがな......」
なんだろう? ......こちらを見て赤くなってモジモジし始めたように見えるけど、最後の方は何て言ったか聞き取れなかった。 でも話し合いで円満解決する為にここは贈り物でもしてみるかな? 蟻の女の子みたいだし、甘いものなら好物のはずだろう。
「そうだ。 もし良かったら珍しい甘味などはいかがですか?」
僕はアイテムボックスからこちらの世界のみんなを驚かせたキャンディを取り出す。 万が一を考えてハッカは避ける。
「ほほう、甘味か。 ふふん、よい心掛けじゃが、妾は甘味にはうるさいぞ?」
そういいながらも触角がピコピコ動いていて、興味津々なのが丸わかりだ。 ヒラリエさんを思い出してなんだか微笑ましい。 僕はキャンディを一つ渡す。 女王さんは僕の手より小さい手でそれを受け取り、
「なるほど。 ......見た目にもこだわっておるのか。 蜜だけ持ってくるあやつらにも見習わせたい部分よな。 さて肝心の味じゃが...... つっ!?」
あ、触角の先の曲がってる部分までピーンと伸びた。
「な、なんと! この上品な甘さは!? 果実のようでそうではないような...... 花の蜜でも蜂の蜜でもない...... 砂糖も少し混ざっておるな!」
やはりキャンディは強かった! そう思って安心した時、
「なるほど。 人工的に作り出した甘味にしては見た目といい見事なものであった。 じゃがそれだけ。 甘味にうるさい妾にとっては珍品レベルであったのう」
そのままバリボリと噛み砕かれた。 触角も期待はずれと言わんばかりに垂れているように見える。
なんて事だ! どうしてこうなった? 蟻は人工甘味料には近寄らず砂糖に群がる嗜好を持つため。 そのため女王の味覚は蟻寄りで、嗜好に合わなかった可能性が高い。 味覚が亜人寄りなら喜ばれたと推測できる。
「まさか...... こんな事があるなんて......」
起死回生の作戦がこんな時に裏目に出た!
「さて...... 他にまだ何かあるのかのう?」
女王さんからの圧力が一気に増した気がする。 何とかしないといけない! 僕は口を開く。
「も、もちろんです。 今のは言葉通り『珍しい甘味』でしかありません」
「ほう?」
「今度は女王様にとってまごう事なき至高の逸品を提供しましょう」
「面白い。 では本当に妾を感動させる事が出来たならこちらも褒美を用意しようぞ」
うう...... 戦闘は回避できたのに、話し合いからなぜかグルメバトルになってしまった。 だがもう僕はこのアイテムに賭けるしか手はなかったのである。 本当に、なんでこんな事になったのか。
「あ、あのう....... 大丈夫ですか、女王様?」
「............」
女王さんは地面に座り込んでいる。 あまりのショックに立っていられなかったのだ。 触角はピーンと伸びたまま、小刻みに震え続けている。 俗にいう放心状態というやつだろうか。
実は僕が発した、まさかこんな事があるなんてという台詞は、作戦が裏目に出た事だけを指している訳じゃなかった。 おそらく女王さんに最適な物を、本当に『偶然』持っていた事に気付いたからこその台詞でもあったんだ。 その渡した物とは......『角砂糖』
先日亜人のラビニアンさん達が仲間になった時、華音が兎さんもお馬さんもニンジンが好きだと言っていた事があった。 僕が調べて華音にそれは正解じゃないと教えた事がある。 好奇心の強い華音なら、じゃあお馬さんは何が好きなの? となる流れは必然で、角砂糖が大好物という事を教えて二人で母さんに角砂糖を分けてもらい、実際に確認した時のものが馬さん用のおやつとしてアイテムボックスに入っていたのである。
この結果を出す為には、『オーシンさんの不運』『オーシンさんが馬を利用して僕らの所へ逃亡』『オーシンさんの馬』『僕に救出されたラビニアンさん達』『ラビニアンさん達が持っていたニンジン』『華音が兎や馬がニンジン好きだと思っていた事』『僕が同じ場所にいた事と正しい事を教える気になった事』『華音の好奇心』『正解を調べられる僕の能力』『母さんが向こうで角砂糖を購入していた事実』『家ごと転移』『シロッコじいちゃん』『意気投合した父さん』『アイテムボックスと性能の変化』などの要因が必要で、これらが全て揃っていたから
『女王さんに角砂糖を渡す』
という選択が可能になった。 正直、この行動をする為にこんなにいろんな要因が絡んでいるなんて思わないよね? これはまさに出来事の錬金術? たったひとつの選択肢を出現させる為にこれだけの事が関わってくるなら、『因果応報』とか『自業自得』とか『一期一会』などという言葉が生まれたのも納得できるね。
「ご......」
あ、女王さんが放心状態から戻ってきた。
「合格ぞよー! 文句なしの合格じゃ。 まさかこのような甘味の最高傑作が味わえるとは思っておらなんだわ。 思い出しても......。 はぅぅ」
「女王様がアイテムボックスをお持ちならまだいくつかお分けできますよ?」
「な! なんと、あれがまだいくつもあるのかや!? うむ、あるぞ。 妾もアイテムボックスくらい持っておる」
「では女王様に」
「アリマじゃ」
「え?」
「アリマでよい。 妾の名じゃ」
名前を教えてもらった。 ここまでくれば危機回避だよね?
「ではアリマ様にこれを」
「! ふぉ! ふぉぉぉ!」
アリマさんに五つほど渡すと両手で大事そうに受け取り、奇声を発しながら目を輝かせて見入っている。 もちろん触角は小刻みに震えている。
「そうじゃ! 妾とした事が......。 そなた、名はなんという?」
「正和です。 アリマ様」
あ、アリマって蟻の魔物なので『蟻魔』なのかな?
「では正和。 妾からそなたに褒美を渡そう」
そういえばそんな事言ってくれてたな。 気にしないのに。
「お主は文句の付けようのない最高の男じゃ。 よって...... 妾の婿になる栄誉を与えよう」
女王蟻のアリマ様は顔を赤らめながらそう言った。
「ぬぅ...... この儂にも解呪できぬとは神クラスの技なのか、特殊ななにかなのか」
「ふたつの別な力が絡みあってる感じなのはわかるんだけど...... 逆から解呪するとして...... せめて発動直後の瞬間がわかればなんとかなるかも」
「正和君が儂の結界を解除できるようになったみたいに、亜人を元の姿に戻せる可能性があるという訳じゃな?」
「あくまで可能性だけどね」
そう、確実とは言えない。
「何を言うんじゃ! その可能性を追い続けて儂の結界すら解除できるようになったではないか! そんな事ができる者はこの世界にはおらん。 これはむしろ偉業と言っても差し支えないわい」
「......ありがとうじいちゃん。 そうだよね。 諦めたらそこで終わりだよね。 何がきっかけで前に進むかわからないし」
「ガシュウイィィン! ワォン!」
突然ニースがくしゃみをしながらとびこんできた。 そしてその場で吠えながらクルクルと回り、部屋を出ていった。
「なんだろう? こんなニースは初めてだ」
僕はなんだか嫌な予感がして、
「じいちゃん、ここはお願い」
と言ってニースを追う...... までもなくニースは別の部屋の前にいた。 そこは亜人領とこちらを繋ぐ為の部屋だ。 ニースは今までこの部屋に興味を示した事はない。 先程の予感を含めて考えると、誰かが出てきたか入っていったかが考えられる。 前者ならニースが動き出すはずだけど動きはない。 後者なのか?
「誰かが向こうに行ったのかい?」
「ワンワン!」
家族の誰かなら僕に声をかけて行くと思うからそれはないし、ニースも騒がないと思う。 でももしキエルさん達が行ったんだとしたら......
「いけない! ニース行くよ!」
「ワォン!」
僕とニースは向こうへ繋がる空間へとびこんだ。 でた先は夜なので真っ暗だ。 僕は唯一使える照明魔法を遠慮なく使う。 小屋の中には誰もいない。 僕とニースはそのまま小屋の外にでる。 ニースが僕の前に走り出た。 角の先には小さな光の玉が浮かんでいる。 ニース、いつのまに照明魔法なんて覚えたんだろう。 ......侮れない。
小屋を出てすぐにルミナさんを発見できた。 ニースの様子からおそらくこちらに来たのは彼女だけなのだろう。 だけど安心した瞬間にその光景は始まった。
「あ...... あああ!」
突然ルミナさんが叫んだと思ったら、彼女を見えない何かの力が覆ったように感じた。 これはまさか! 僕は並列思考をフル回転させ、予測できる結果とその結果を打ち消す為の逆の計算式を組み立てる。 謎だった一番最初の公式が目の前で公開されたのだ。 間違えればルミナさんは赤蟻になってしまう。
「ここは絶対に間違えられない! いや、間違えない!」
彼女の両の手が赤蟻のものに変化した辺りで僕の力が彼女を覆う。 そのまま僕は彼女を蟻にしようとした存在と対峙する。
「僕の大切な仲間をそちらに引き込まないでいただけますか」
相手は僕の存在に驚きもせず、
「ほう。 そなたか? そなたじゃな!? おお、妾はとてもそなたに会いたかったのじゃぞ?」
気のせいか別の意味で驚いて喜んでいるように感じるんだけど。 ルミナさんは...... 良かった。 元の姿に戻っている。 成功したようだ。
「まさ...... かず...... さん?」
「良かった。 どうにか間に合ったようです」
「わたしは......?」
「話は後で。 まずは急いで向こうに戻ってください。 ニース!」
ニースがルミナの傍に行く。
「え? ニース? その額の角は......」
「ほう! 聖獣か? 聖獣まで従えておるとは益々興味深い。 妾の力を打ち消すそなた自身の力とあわせてな」
「聖獣...... ひっ!?」
ルミナさんも混乱していたが、だんだんと自分の身に起きた事を思い出したのだろう。 ニースから相手に視線を移して怯えている。 僕は再度ニースについて向こうに戻るように促す。
「で、でも......」
ルミナさんは何故か相手の顔色を伺っているように思えた。
「よい。 そなたへの興味はすでに失せておる。 こやつを妾の前に呼んでくれた礼として今回は見逃してやろうぞ」
その女の子に笑顔で言われてルミナさんはニースと共に戻って行った。 去り際に僕に気をつけて...... と言って。 外見からだと年齢は僕と同じ位だろうか。 頭の触角と複眼を含めても可愛い女の子だと思う。 僕はゲームでこういうキャラクターには耐性がついているから他の家族よりは衝撃は受けないですむと思う。 ありかなしかで言えば全然あり。 ......などと下らない思考をしている間も別の思考は色々な仮説をたてては答えを出そうとしていた。
彼女の正体は? 現段階では断定できず。 聖獣を知っている事から見た目より長く生きている可能性もある。
亜人が赤蟻になり、さらに進化して彼女のような姿になる可能性は? その可能性は考えられる。 ただその場合、赤蟻の目撃例がなかった点と整合性がとれない。
そのような固体は他にもいるのか? 可能性がない訳ではないが現時点で判明している点では疑問が残る。
その疑問とは? 赤蟻、そしてこのタイプの目撃例のなさと、亜人を赤蟻に変える特性。 この特性をこのタイプが持つと仮定すると亜人はもっと短期間で絶滅し、このタイプにとってかわられていたと推測できる。 しかし現在そうなってはいない点から、能力、外見ともにユニーク固体であることを推奨する。
「あなたが蟻達の指導者ですか?」
「左様。 女王と言ったところかの?」
存在を懸念していた通り女王蟻と認定。 先程の疑問に彼女をその存在として認識し、回答に修正を加える。
「じゃが、それではちと語弊があるのぅ」
「え?」
「妾はこの世界の神じゃからな」
「え?」
......彼女の言う事を全部信じるなら僕は黒蟻と赤蟻と戦っただけで神に挑まされる事になる。 うん、なるべく戦闘は回避する方向でいこう。
「まずは礼を言うぞ。 そちが蟻と赤蟻を蹴散らしてくれたおかげで妾もこうして出歩けるようになった」
どういう事だろう? 仲間を倒されて文句を言われるならわかるんだけど、お礼を言われるとは考えてなかった。
「えーと、蟻に捕まっていたとかって事ですか?」
「似たようなものじゃな。 過保護すぎるのよ、あやつらは」
なんか世間話が始まり毒気が抜かれたような気分だけど、女王蟻なので女王さんと呼ぶ事にしよう。 女王さんは隠そうともせず自分の事情を語ってくれた。 なるほどそういう事か。
「僕が蟻達の手に負えなければ、あなたが出てくるしかない。 それは自由に出歩く為の口実になる」
「そうなのじゃ! どうせそち達では件の者、つまりお主の事じゃな。 お主を、妾の前に連れて来ることなど出来ぬであろうが! とな?」
なんだろう? ......よく分からないけど、これ、話し合いで解決できるんじゃないかって気がしてきたよ。
「亜人の攻撃が通じぬ蟻どもを赤子扱いどころか妾の力をも打ち消し、さらに頭の良さまで兼ねておるとはのぅ。 聖獣まで従えておるし、もしこれで気遣いも出来るなら最高なのじゃがな......」
なんだろう? ......こちらを見て赤くなってモジモジし始めたように見えるけど、最後の方は何て言ったか聞き取れなかった。 でも話し合いで円満解決する為にここは贈り物でもしてみるかな? 蟻の女の子みたいだし、甘いものなら好物のはずだろう。
「そうだ。 もし良かったら珍しい甘味などはいかがですか?」
僕はアイテムボックスからこちらの世界のみんなを驚かせたキャンディを取り出す。 万が一を考えてハッカは避ける。
「ほほう、甘味か。 ふふん、よい心掛けじゃが、妾は甘味にはうるさいぞ?」
そういいながらも触角がピコピコ動いていて、興味津々なのが丸わかりだ。 ヒラリエさんを思い出してなんだか微笑ましい。 僕はキャンディを一つ渡す。 女王さんは僕の手より小さい手でそれを受け取り、
「なるほど。 ......見た目にもこだわっておるのか。 蜜だけ持ってくるあやつらにも見習わせたい部分よな。 さて肝心の味じゃが...... つっ!?」
あ、触角の先の曲がってる部分までピーンと伸びた。
「な、なんと! この上品な甘さは!? 果実のようでそうではないような...... 花の蜜でも蜂の蜜でもない...... 砂糖も少し混ざっておるな!」
やはりキャンディは強かった! そう思って安心した時、
「なるほど。 人工的に作り出した甘味にしては見た目といい見事なものであった。 じゃがそれだけ。 甘味にうるさい妾にとっては珍品レベルであったのう」
そのままバリボリと噛み砕かれた。 触角も期待はずれと言わんばかりに垂れているように見える。
なんて事だ! どうしてこうなった? 蟻は人工甘味料には近寄らず砂糖に群がる嗜好を持つため。 そのため女王の味覚は蟻寄りで、嗜好に合わなかった可能性が高い。 味覚が亜人寄りなら喜ばれたと推測できる。
「まさか...... こんな事があるなんて......」
起死回生の作戦がこんな時に裏目に出た!
「さて...... 他にまだ何かあるのかのう?」
女王さんからの圧力が一気に増した気がする。 何とかしないといけない! 僕は口を開く。
「も、もちろんです。 今のは言葉通り『珍しい甘味』でしかありません」
「ほう?」
「今度は女王様にとってまごう事なき至高の逸品を提供しましょう」
「面白い。 では本当に妾を感動させる事が出来たならこちらも褒美を用意しようぞ」
うう...... 戦闘は回避できたのに、話し合いからなぜかグルメバトルになってしまった。 だがもう僕はこのアイテムに賭けるしか手はなかったのである。 本当に、なんでこんな事になったのか。
「あ、あのう....... 大丈夫ですか、女王様?」
「............」
女王さんは地面に座り込んでいる。 あまりのショックに立っていられなかったのだ。 触角はピーンと伸びたまま、小刻みに震え続けている。 俗にいう放心状態というやつだろうか。
実は僕が発した、まさかこんな事があるなんてという台詞は、作戦が裏目に出た事だけを指している訳じゃなかった。 おそらく女王さんに最適な物を、本当に『偶然』持っていた事に気付いたからこその台詞でもあったんだ。 その渡した物とは......『角砂糖』
先日亜人のラビニアンさん達が仲間になった時、華音が兎さんもお馬さんもニンジンが好きだと言っていた事があった。 僕が調べて華音にそれは正解じゃないと教えた事がある。 好奇心の強い華音なら、じゃあお馬さんは何が好きなの? となる流れは必然で、角砂糖が大好物という事を教えて二人で母さんに角砂糖を分けてもらい、実際に確認した時のものが馬さん用のおやつとしてアイテムボックスに入っていたのである。
この結果を出す為には、『オーシンさんの不運』『オーシンさんが馬を利用して僕らの所へ逃亡』『オーシンさんの馬』『僕に救出されたラビニアンさん達』『ラビニアンさん達が持っていたニンジン』『華音が兎や馬がニンジン好きだと思っていた事』『僕が同じ場所にいた事と正しい事を教える気になった事』『華音の好奇心』『正解を調べられる僕の能力』『母さんが向こうで角砂糖を購入していた事実』『家ごと転移』『シロッコじいちゃん』『意気投合した父さん』『アイテムボックスと性能の変化』などの要因が必要で、これらが全て揃っていたから
『女王さんに角砂糖を渡す』
という選択が可能になった。 正直、この行動をする為にこんなにいろんな要因が絡んでいるなんて思わないよね? これはまさに出来事の錬金術? たったひとつの選択肢を出現させる為にこれだけの事が関わってくるなら、『因果応報』とか『自業自得』とか『一期一会』などという言葉が生まれたのも納得できるね。
「ご......」
あ、女王さんが放心状態から戻ってきた。
「合格ぞよー! 文句なしの合格じゃ。 まさかこのような甘味の最高傑作が味わえるとは思っておらなんだわ。 思い出しても......。 はぅぅ」
「女王様がアイテムボックスをお持ちならまだいくつかお分けできますよ?」
「な! なんと、あれがまだいくつもあるのかや!? うむ、あるぞ。 妾もアイテムボックスくらい持っておる」
「では女王様に」
「アリマじゃ」
「え?」
「アリマでよい。 妾の名じゃ」
名前を教えてもらった。 ここまでくれば危機回避だよね?
「ではアリマ様にこれを」
「! ふぉ! ふぉぉぉ!」
アリマさんに五つほど渡すと両手で大事そうに受け取り、奇声を発しながら目を輝かせて見入っている。 もちろん触角は小刻みに震えている。
「そうじゃ! 妾とした事が......。 そなた、名はなんという?」
「正和です。 アリマ様」
あ、アリマって蟻の魔物なので『蟻魔』なのかな?
「では正和。 妾からそなたに褒美を渡そう」
そういえばそんな事言ってくれてたな。 気にしないのに。
「お主は文句の付けようのない最高の男じゃ。 よって...... 妾の婿になる栄誉を与えよう」
女王蟻のアリマ様は顔を赤らめながらそう言った。
10
あなたにおすすめの小説
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる