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第四回 時期外れの桃
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王倫が日課になっている木々の世話に碁の対局を加えてから三日目のこと、不思議な事が起きる。
彼が見越した通り二人の碁の腕前はとても卓越しており勝つのは容易い事ではなく、挑んだものの勝ち星はあげられなかった。皆純粋に勝負を楽しんでいる様子だったので、王倫はふと二人が興味を抱いていた木々の話を振ってみた。
「そういえばお二人はそこの木々から良い気が出ていると仰っていましたね?」
「うむ。そうじゃな」
「ええ、確かに」
「そのせいかはわかりませんが、熟した実は大変美味なのですよ。育てた私のただの贔屓目かもしれませんが」
照れくさそうにいう王倫だが二人は真顔で頷く。
「そうじゃろうなぁ。出来る事なら儂らも食べてみたかった」
食べられないのは今が実がなる時期ではないからだ。
「間違いなく美味でしょうね」
何故言いきるのか不思議ではあったが、二人が初めて悔しそうな表情をしたので王倫は桃の木の所に行き幹を撫でながら、
「こちらは私が心から歓待したいと思った方々。そんな方々に自慢のお前の実を食べてもらえたらどれほど嬉しい事であろうか」
と言い、さらに
「せめて良い酒を取り寄せそちらの瓢箪で作成してある筒(水筒)にいれて差し上げたいと思うのですがいかがですか?」
こう続けた。それに対し老氏の方は
「な、なに。良い酒か?」
「はい。これも贔屓目からでしょうが、その瓢箪に注いだ酒は元の物より上品な味わいに感じるのですよ」
「う、うむむ……」
老氏は腕を組み考えこんでしまう。何やら葛藤しているようだ。その様子を苦笑いしながら若氏が眺めていた。
手配を済ませその日は解散し次の日の朝。
王倫が手入れの為に早目にいつもの場所に行くとそこにはすでに二人が来ていた。
「おや先生方今日はお早いですな」(先生)※ある程度親しくなったのと碁の腕前に敬意を払う意味を込めて王倫は使いだした。
「ふと王倫殿の手入れの様子も拝見させていただこうと思いましてな」
「……それはかまいませんがもう十分育っておりますし、別に大した事はいたしませぬぞ?」
「はっはっは。何、桃と瓢箪がやたらとせっつくものでしてな。お気になさらず」
「は?」
「! ああ、それもお気になさらず」
若氏が割って入る。老氏の最後の発言の意味は良く分からなかったがとりあえず王倫は桃の木の様子を見るため近付く。
「うむ。今日も調子は良さそうだ。葉のツヤも良い。ほのかに甘い香りも感じる気がするぞ。…………や、やや!?」
王倫は二人の所へ慌てた顔をして戻ってきた。
「せ、先生方! 驚くべき事が起こりましたぞ!」
手には二つの桃を持っている。
「今は時期ではないのに何故か二つだけ。昨日はなかったはずなのです」
二人は桃を見せられ僅かに驚いた表情をしたものの、
「ほう、こういう事じゃったか」
「……ですね」
「?」
不思議がる王倫をよそに二人は笑顔で頷いていた。
その後王倫が腰の刀で桃を切り三人で味わうと老氏が突然語り出す。
「いやいや大変美味で感動しましたぞ。……その礼になるかはわかりませんが、ひとつ話をいたしましょう」
この時の話が王倫にとってその身に雷が落ちたような衝撃を受ける事になり、後々まで影響を与えるのだが、彼はそれを知る由もなかった。
彼が見越した通り二人の碁の腕前はとても卓越しており勝つのは容易い事ではなく、挑んだものの勝ち星はあげられなかった。皆純粋に勝負を楽しんでいる様子だったので、王倫はふと二人が興味を抱いていた木々の話を振ってみた。
「そういえばお二人はそこの木々から良い気が出ていると仰っていましたね?」
「うむ。そうじゃな」
「ええ、確かに」
「そのせいかはわかりませんが、熟した実は大変美味なのですよ。育てた私のただの贔屓目かもしれませんが」
照れくさそうにいう王倫だが二人は真顔で頷く。
「そうじゃろうなぁ。出来る事なら儂らも食べてみたかった」
食べられないのは今が実がなる時期ではないからだ。
「間違いなく美味でしょうね」
何故言いきるのか不思議ではあったが、二人が初めて悔しそうな表情をしたので王倫は桃の木の所に行き幹を撫でながら、
「こちらは私が心から歓待したいと思った方々。そんな方々に自慢のお前の実を食べてもらえたらどれほど嬉しい事であろうか」
と言い、さらに
「せめて良い酒を取り寄せそちらの瓢箪で作成してある筒(水筒)にいれて差し上げたいと思うのですがいかがですか?」
こう続けた。それに対し老氏の方は
「な、なに。良い酒か?」
「はい。これも贔屓目からでしょうが、その瓢箪に注いだ酒は元の物より上品な味わいに感じるのですよ」
「う、うむむ……」
老氏は腕を組み考えこんでしまう。何やら葛藤しているようだ。その様子を苦笑いしながら若氏が眺めていた。
手配を済ませその日は解散し次の日の朝。
王倫が手入れの為に早目にいつもの場所に行くとそこにはすでに二人が来ていた。
「おや先生方今日はお早いですな」(先生)※ある程度親しくなったのと碁の腕前に敬意を払う意味を込めて王倫は使いだした。
「ふと王倫殿の手入れの様子も拝見させていただこうと思いましてな」
「……それはかまいませんがもう十分育っておりますし、別に大した事はいたしませぬぞ?」
「はっはっは。何、桃と瓢箪がやたらとせっつくものでしてな。お気になさらず」
「は?」
「! ああ、それもお気になさらず」
若氏が割って入る。老氏の最後の発言の意味は良く分からなかったがとりあえず王倫は桃の木の様子を見るため近付く。
「うむ。今日も調子は良さそうだ。葉のツヤも良い。ほのかに甘い香りも感じる気がするぞ。…………や、やや!?」
王倫は二人の所へ慌てた顔をして戻ってきた。
「せ、先生方! 驚くべき事が起こりましたぞ!」
手には二つの桃を持っている。
「今は時期ではないのに何故か二つだけ。昨日はなかったはずなのです」
二人は桃を見せられ僅かに驚いた表情をしたものの、
「ほう、こういう事じゃったか」
「……ですね」
「?」
不思議がる王倫をよそに二人は笑顔で頷いていた。
その後王倫が腰の刀で桃を切り三人で味わうと老氏が突然語り出す。
「いやいや大変美味で感動しましたぞ。……その礼になるかはわかりませんが、ひとつ話をいたしましょう」
この時の話が王倫にとってその身に雷が落ちたような衝撃を受ける事になり、後々まで影響を与えるのだが、彼はそれを知る由もなかった。
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