水滸幸伝 ~王倫・梁山泊にて予知夢を見る~

シャア・乙ナブル

文字の大きさ
33 / 166

第三十三回 残された四人

しおりを挟む
 林冲と楊志は晁蓋を追ってきた役人を恫喝し追い払った。王倫の読み通り元々梁山泊には近付く事すら及び腰だったのだろう。一斉に騒いだだけで一目散に逃げて行った。

「あれじゃ手下達も痛快だっただろう」
「うむ。だが本命はあくまでこの後だ。義兄上の読み通りなら次は本当の戦いになる」

 二人は次に来る場面を想定しながら王倫のもとに戻ろうとするが中腹辺りで突然聞こえた

「このまま指をくわえて待ってろっていうのか!」

 という声に足をとめる。二人は騒いでいる輩が晁蓋の仲間である事はすぐに見当がついたので気配を殺して建物に近付く。中では武器を持って激高している男が四人にそれを諌めようとしている女が一人。女の腰には子供がしがみついている。

「あんた。晁蓋様が言っていただろう。無茶はやめとくれ」
「晁天王や先生達が危険なんだ! 何が無茶なものか!」

 林冲と楊志は状況を察して顔を見合わせて苦笑した。

(なるほどな。立場が逆ならと考えると気持ちは分かる)
(まぁな。しかし実際その時に役目を果たすのは俺と義兄だ。俺達がここにいる以上晁蓋達はまだ無事なんだがな)

「さっきの騒ぎが聞こえたろう! あれはきっと俺達とは無関係じゃない! 急がないと手遅れになる!」
「急いだばかりに手遅れになる事だってあるんだよ! あんたにもしもの事があったら私とこの子はどうするんだい!」

 男の妻と思われる女は屈強な男達四人を必死に食い止めている。

「だからそうなる前に王倫の野郎を仕留めてやるんだ」
「馬鹿をお言いでないよ! 腕っぷしがちょっと強いだけの漁師が」
「な、何ぃ」
「ここは山賊の砦なんだろ? あんた達だって敵わない相手がいるかもしれないじゃないか! 向こうが泳ぎや潜りで勝負してくれるとでも思うのかい!?」

(義兄上を仕留めるという発言は面白くないな)
(確かに。そろそろ止めるか?)
(うむ。そうしよう)

 林冲と楊志が動こうとしたその時、

「何言ってやがんでぃ! こっちは生辰網をあの青面獣の楊志から奪ったんだぞ」
「またそれかい。痺れ薬でだろ! 腕前は関係ないじゃないか」

 というやり取りになりそこに劉唐が割って入った。

「元々は晁天王と俺達四人の五人で楊志を斬るはずだったんだ。先生に万が一があれば計画に支障が出るからと止められたが、実際やっていれば勝っていたに決まってる」
「そうだ! 劉唐もっと言ってやれ!」

(あ……)

 林冲は楊志を見る。楊志は梁山泊入山までの経緯でも分かるように気位が高い。

(……ほほう。そんな計画だったのか。いい事を聞かせてもらった)
(よ、楊志落ち着け)
(俺は冷静だよ義兄。その証拠にアイツらがその計画できてくれた方がこっちにとって有難かったと教えてやれる。……義兄は手を出さないでくれ)

 林冲はやれやれといった表情で、

(仕方ない。やり過ぎるなよ?)

 と、楊志を信じて見守る事にした。もちろん危険になるようなら迷わず飛び込むだろうが、楊志と林冲を同時に相手するなど腕の立つ武芸者であっても不幸であるとしか言えない。

「随分と元気が有り余っているお客人だ。よければ疲弊するのに協力しようか?」

 楊志は無遠慮に踏み込んでいき言い放つ。

「な、なんだてめぇ!」

 林冲も後に続く。

「……余り他人(ひと)様の家で家主の悪口を大声で叫ぶのは遠慮した方がいい」

 だが林冲はあくまで入口を塞ぐ様に位置をとるだけだ。楊志が軽口で挑発する。

「おいおい。誰だとはご挨拶だな。自分達が痺れ薬を盛った相手をもう忘れたのかい?」
 
 その一言で四人の緊張感が一気に高まった!
阮小二は自分の前に立ち塞がっていた妻としがみついていた子供を素早く自分の後ろに移動させ、それを庇うように劉唐、阮小五、阮小七が前に出てくる!

「北京大名府の楊志! さ、さっきの騒ぎは官軍が来やがったってのか!」

 梁山泊の楊志には当然なる訳がない。林冲の忠告もそれと結びつけて考えられなかった。四人は武器を持っていて楊志と林冲も武器の所持を王倫に許されている身。武器を持った者同士が出会えばこうなるのは必然なのか。

「く、くそ! 捕まってたまるか!」

 梁山泊の楊志と事情を知らない四人との屋内での戦いが始まった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

讃美歌 ② 葛藤の章               「崩れゆく楼閣」~「膨れ上がる恐怖」

エフ=宝泉薫
青春
少女と少女、心と体、美と病。 通い合う想いと届かない祈りが織りなす終わりの見えない物語。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...