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第四十七回 逃亡者
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その日王倫とその義弟、林冲と楊志は釣りに出かけた。三人の絆は強かったが一緒に釣りに出かけるというのは初めての事だ。
朝早くからの行動であったが、王倫は出かける前に日課の礼拝と二本の木の世話を済ませた。
準備が出来た彼は今度は釣具を持って船着場へと向かう。途中桃香と瓢姫の様子を覗くと二人はすやすやと眠っていた。思わず笑顔になるも近くで寝ている白勝の妻に会釈をして部屋を出る。夜は交代制で二人についてくれているようで、これは彼女達が話し合って決めたのだとか。
阮小二の妻が言うには、二人は常にご機嫌で聞き分けが良いので余り手がかからないらしい。
「まだ言葉も分からないはずなんですけど、やっぱり特別だからなんですかねぇ? ウチの子の時には……」
という様な事を言っていた。
「いい子すぎて林冲様と白勝さんとこの奥さんにはいい予行練習ですよぉ」
けたけたと笑っていた事も思い出す。
(果たしてどんな子に育つのだろうか)
そんな事を考えていると待ち合わせの船着場に到着した。林冲も楊志もまだ来ていないようだ。適当な場所に腰をおろし待つ事にする。
「お? 王倫様じゃないですか。おはようございます」
声をかけてきたのは阮三兄弟だ。
「早いな三人共。いつも感謝しておるぞ」
「何言ってんですか! 感謝してるのは俺達ですって」
「ほんとほんと。こんな日々が送れるようになるとは思ってませんでしたからね」
「へへへ、働きがいがあるってもんでさぁ」
三人は口々に王倫への感謝を述べた。
「それを聞くと私もやってきて良かったと思える。これからも迷惑をかけるがよろしく頼むぞ。特に今は阮小二の奥方にも色々手伝ってもらっているからな」
「ははは。あいつにも良く言われますよ。王倫様は立派なお方なんだから足引っ張ったりしたら容赦しないからね、と」
「前の村では喧嘩も絶えなかったのにな」
「ここに来てからはこの調子であてられてるんですよ」
「お、お前ら余計な事まで言うな!」
三人は世間話をし、
「今度は俺達とも釣りをしましょう。絶好の穴場を教えますから」
こう締めくくって仕事へと戻っていった。
「義兄上は皆の心を掴んでおいでですな」
「すまん義兄、少し寝坊して林冲の義兄に起こされた」
「……見ておったのか」
林冲と楊志が合流する。楊志は年甲斐もなく今日が楽しみで中々寝られず変な時間に寝付いてしまったらしい。
「ははは。気にするな。待つのも中々楽しかった」
「義兄上、楊志よ。妻が皆で食べて欲しいと料理を作ってくれましてな」
「お」
「ほほう。では適当な時間に頂くとしよう」
三人は近場の適当な場所に移動して釣り糸を垂らす。楊志に早速アタリが来る。
「おぉ? 一番手柄は俺がもらったぞ義兄達!」
「これは負けておれん。武芸は譲ってもな」
「義兄上には徳と智謀があるではないですか」
三人はしばし釣りに興じた。時間が過ぎてアタリも落ち着き、用意してもらった食事をしながら梁山泊へ行き来する舟を眺める。
「旨い! 相変わらずの腕だ」
「奥方殿も桃香と瓢姫の世話までしてもらっておるというのに食事まで用意させて。申し訳なかったな」
「何を言われるのですか義兄上。あいつも喜んでやっておりましたから。妻も私も義兄上には感謝しているのです」
「俺もだぞ王倫の義兄。ここは本当にいい所だ」
「楊志の言う通りです。義兄上に救われてからの妻の記憶は常に笑顔しかありません。罪を着せられ流罪になり、どん底にまで落ちた私がこうも充実した日々を送れるようになるなど」
その話を王倫は遮る。
「よいよい。朝から皆に持ち上げられすぎて身体中が痒くなる。皆の日々は私が望んだ事。せめてこの梁山泊の中だけでもとな」
(それに私が変われたのは北斗聖君様と南斗聖君様のおかげ。本来ならば既にこの世にいなかった)
王倫自身もまた感謝の思いを二人の神に捧げていた。
釣りを終わらせ船着場に戻った三人。そこでは一人の男が手下達に遮られて揉めていた。
同じ頃、留守を任された晁蓋と呉用のもとにも一人の手下がある情報を持ってやってきていた。
「王倫殿に会わせてくれよ! 人を殺しちまって行く所がないんだ! 開封府からやって来たんだぞ?」
「だから手順を踏めって言ってるだろう! 王倫様はお忙しい方。自分の都合で会えると思うな牛二とやら」
その騒ぎの内容に楊志が反応する。
「開封府の……牛二だと?」
晁蓋達の方は
「な、なんだと!? 宋江殿が人を殺して逃亡しているだと!?」
晴天の霹靂といった状態になっていた。
朝早くからの行動であったが、王倫は出かける前に日課の礼拝と二本の木の世話を済ませた。
準備が出来た彼は今度は釣具を持って船着場へと向かう。途中桃香と瓢姫の様子を覗くと二人はすやすやと眠っていた。思わず笑顔になるも近くで寝ている白勝の妻に会釈をして部屋を出る。夜は交代制で二人についてくれているようで、これは彼女達が話し合って決めたのだとか。
阮小二の妻が言うには、二人は常にご機嫌で聞き分けが良いので余り手がかからないらしい。
「まだ言葉も分からないはずなんですけど、やっぱり特別だからなんですかねぇ? ウチの子の時には……」
という様な事を言っていた。
「いい子すぎて林冲様と白勝さんとこの奥さんにはいい予行練習ですよぉ」
けたけたと笑っていた事も思い出す。
(果たしてどんな子に育つのだろうか)
そんな事を考えていると待ち合わせの船着場に到着した。林冲も楊志もまだ来ていないようだ。適当な場所に腰をおろし待つ事にする。
「お? 王倫様じゃないですか。おはようございます」
声をかけてきたのは阮三兄弟だ。
「早いな三人共。いつも感謝しておるぞ」
「何言ってんですか! 感謝してるのは俺達ですって」
「ほんとほんと。こんな日々が送れるようになるとは思ってませんでしたからね」
「へへへ、働きがいがあるってもんでさぁ」
三人は口々に王倫への感謝を述べた。
「それを聞くと私もやってきて良かったと思える。これからも迷惑をかけるがよろしく頼むぞ。特に今は阮小二の奥方にも色々手伝ってもらっているからな」
「ははは。あいつにも良く言われますよ。王倫様は立派なお方なんだから足引っ張ったりしたら容赦しないからね、と」
「前の村では喧嘩も絶えなかったのにな」
「ここに来てからはこの調子であてられてるんですよ」
「お、お前ら余計な事まで言うな!」
三人は世間話をし、
「今度は俺達とも釣りをしましょう。絶好の穴場を教えますから」
こう締めくくって仕事へと戻っていった。
「義兄上は皆の心を掴んでおいでですな」
「すまん義兄、少し寝坊して林冲の義兄に起こされた」
「……見ておったのか」
林冲と楊志が合流する。楊志は年甲斐もなく今日が楽しみで中々寝られず変な時間に寝付いてしまったらしい。
「ははは。気にするな。待つのも中々楽しかった」
「義兄上、楊志よ。妻が皆で食べて欲しいと料理を作ってくれましてな」
「お」
「ほほう。では適当な時間に頂くとしよう」
三人は近場の適当な場所に移動して釣り糸を垂らす。楊志に早速アタリが来る。
「おぉ? 一番手柄は俺がもらったぞ義兄達!」
「これは負けておれん。武芸は譲ってもな」
「義兄上には徳と智謀があるではないですか」
三人はしばし釣りに興じた。時間が過ぎてアタリも落ち着き、用意してもらった食事をしながら梁山泊へ行き来する舟を眺める。
「旨い! 相変わらずの腕だ」
「奥方殿も桃香と瓢姫の世話までしてもらっておるというのに食事まで用意させて。申し訳なかったな」
「何を言われるのですか義兄上。あいつも喜んでやっておりましたから。妻も私も義兄上には感謝しているのです」
「俺もだぞ王倫の義兄。ここは本当にいい所だ」
「楊志の言う通りです。義兄上に救われてからの妻の記憶は常に笑顔しかありません。罪を着せられ流罪になり、どん底にまで落ちた私がこうも充実した日々を送れるようになるなど」
その話を王倫は遮る。
「よいよい。朝から皆に持ち上げられすぎて身体中が痒くなる。皆の日々は私が望んだ事。せめてこの梁山泊の中だけでもとな」
(それに私が変われたのは北斗聖君様と南斗聖君様のおかげ。本来ならば既にこの世にいなかった)
王倫自身もまた感謝の思いを二人の神に捧げていた。
釣りを終わらせ船着場に戻った三人。そこでは一人の男が手下達に遮られて揉めていた。
同じ頃、留守を任された晁蓋と呉用のもとにも一人の手下がある情報を持ってやってきていた。
「王倫殿に会わせてくれよ! 人を殺しちまって行く所がないんだ! 開封府からやって来たんだぞ?」
「だから手順を踏めって言ってるだろう! 王倫様はお忙しい方。自分の都合で会えると思うな牛二とやら」
その騒ぎの内容に楊志が反応する。
「開封府の……牛二だと?」
晁蓋達の方は
「な、なんだと!? 宋江殿が人を殺して逃亡しているだと!?」
晴天の霹靂といった状態になっていた。
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