転生した俺、金髪美少女に拾われて旅を始めます

ピコサイクス

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第2話 神殿での目覚めと嫉妬

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――柔らかい匂いがした。
 どこか花のようで、少し甘い香り。
 鼻をくすぐる感覚で目が覚めると、天井が白く光っていた。

 どうやら、森の中ではない。
 木の壁、石の床、窓から差し込む朝の光。
 俺はベッドの上に寝かされていた。

「……ここは?」

 体を起こそうとして、毛布が滑り落ちた。
 その瞬間、気づく。

「……え、服、ないんだけど!?」

 慌てて毛布を引き寄せる。
 上半身は裸。ズボンも――半分脱げかけている。
 パニックになった俺の耳に、足音が近づいた。

「起きたんですね、カイさん!」

 扉を開けて入ってきたのはリリアだった。
 白い神官服をまとい、手に盆を持っている。
 その笑顔がやけに眩しい。

「おはようございます。体の具合はどうですか?」
「ぐ、具合っていうか、俺、なんで裸なの!?」
「えっ!? あ、あのっ、それはっ!」

 リリアの顔が一瞬で真っ赤になった。
 両手をぶんぶん振りながら慌てて言葉を探す。

「違うんです! 別に変なことはしてません! 汗で濡れてましたから、拭いてあげただけで!」
「ふ、拭いた!? どこを!?」
「ぜ、全身……!」

 言ってからリリア自身が固まった。
 その頬が耳まで真っ赤になる。

「ち、違うんです! 怪我がないか確認しただけで! やましいことはしてません!」
「お、おう……いや、俺もそんなつもりは……!」

 ……いや、ほんとはちょっと動揺してるけど。
 だって目の前の美少女が、自分の体を“拭いた”って言うんだぞ?
 どんな冷静な男でも、想像するに決まってる。

(やばい……脳が変な方向にいきそう)

 毛布を強く握りしめていると、リリアが視線を逸らしたまま小声でつぶやいた。

「……でも、その……思ったより、筋肉ありますね」
「えっ?」
「い、いえ! 何でもないですっ!」

 リリアがトレーをテーブルに置き、ぎこちなく笑う。
 可愛いけど、見ているこっちが落ち着かない。

「これ、朝ごはんです。スープとパン。お薬もあります」
「ありがとう。助かるよ」

 リリアが席を外したあと、俺はようやく息をついた。
 体が軽い。昨日の戦いの疲れも残っていない。
 それにしても、リリアの看病……あれ、夢じゃなかったんだな。

 食後、神殿の外に出ると、清らかな風が吹いていた。
 境内の庭では、もう一人の少女が花を摘んでいる。
 亜麻色の髪、あどけない顔立ち。
 リリアより年下だろうか。

「おはようございます。昨日、森で倒れてた方ですよね?」
「あ、うん。君は……?」
「ティナです。リリア様の手伝いをしてます」

 ティナは柔らかく微笑んだ。
 その笑顔が、どこかリリアに似ていて、つい見惚れてしまう。

「リリア様、すごく心配してたんですよ。夜通しで看病して……」
「そ、そうだったのか。ほんと感謝しないとな」

 俺が素直にそう言うと、背後から声がした。

「……カイさん?」

 振り返ると、リリアが立っていた。
 笑ってはいるが、目が笑っていない。

「仲良くしてますね。ティナ、もう仕事はいいの?」
「ひっ……す、すみませんっ!」

 ティナは小走りで去っていった。
 残された俺は、リリアの視線に凍りつく。

「リ、リリア? どうしたの?」
「いえ? 別に。……ただ、朝から元気そうだなって思っただけです」

 声のトーンが低い。
 背筋が寒くなる。
 俺はあわてて弁解する。

「いや、ほんとに話しただけだよ! 助けてもらったお礼を――」
「ふーん。ティナに、ですか」
「……うん」

 その瞬間、リリアがぷいっと顔をそらした。
 頬をふくらませ、つんとした表情。

(え、これ……嫉妬? まさか……)

 まさかとは思うが、態度が完全にそれだった。
 可愛いけど、ちょっと怖い。

「カイさん、私、少し用事があるので」
「え、どこ行くの?」
「お祈りです。……お一人で散歩でもどうぞ」

 リリアはそう言い残して、神殿の奥へ消えた。
 足取りは静かだが、なんとなく怒っているのが分かる。

「……俺、なんかしたか?」

 正直、思い当たるのはティナと話したくらい。
 まさかそれで怒るなんて。
 でも、あのときの視線――完全に嫉妬だった。

(ああ、俺また面倒なことになってるな……)

 昼過ぎ、神殿の裏手に回ると、リリアが祈りを終えていた。
 光に包まれる姿は神聖で、見とれてしまう。
 近づいて声をかける。

「リリア、さっきは悪かった。気に障ったならごめん」
「……別に。怒ってません」
「でも、あんな顔してたじゃん」
「顔って……どんな顔ですか?」
「えっと……なんか、ちょっと寂しそうな?」

 リリアの肩がぴくりと動いた。
 それから、ゆっくり振り向く。
 金の髪が陽の光を反射し、瞳がまっすぐ俺を射抜いた。

「……カイさん、私、寂しかったです」
「え?」
「あなたが倒れて、すごく怖かった。だから……そのあと、他の女の子と笑ってるの見て、胸がもやもやして」

 小さく拳を握り、視線を落とす。
 その仕草が、やけに胸に刺さった。

「ごめん。そんなつもりじゃなかった」
「……知ってます。でも、そういうところ、ちょっと心配になります」

 リリアが微笑む。その笑顔がどこか切ない。
 そしてふいに、一歩近づいてきた。
 距離が近い。さっきよりもずっと。

「ねえ、カイさん」
「な、なんだ?」
「旅……一緒にしてくれますか?」

 唐突な申し出に、頭が真っ白になる。
 でも、その瞳に込められた想いを感じた瞬間、答えは決まっていた。

「ああ、もちろん。俺もそのつもりだった」
「……うれしい」

 リリアが微笑んだ。
 風が吹き、金の髪が頬に触れる。
 その距離のまま、彼女がそっと言葉を落とした。

「じゃあ、これからは……他の女の子にあまり優しくしないでくださいね?」
「え、あ、うん……気をつけます」

 リリアは満足そうに微笑むと、歩き出した。
 俺はただ、その背中を見つめることしかできなかった。

(ああ……やっぱりこの子、可愛いな)

 本人は気づいていない。
 けれどまた、心のどこかが静かに惹かれていた。
 無自覚な“惚れ癖”は、転生しても治る気配がなかった。
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