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愛した人 5
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「天気もいいし、海でも見に行こうか」
隼人の提案に、美紀は2つ返事で同意した。
海岸線に沿って、隼人は車を走らせた。
久しぶりに乗る隼人の車。包み込むようなシートの感触が心地良い。
陽の光を受け、きらめく水面を眺めながら、美紀の顔が自然と綻ぶ。昨日、隼人とお互いの愛を確かめ合い、心が満ち足りていた。
不意に隼人が手を伸ばし、美紀の手を握った。
隼人を見つめ、美紀も握り返す。
(もう、1人じゃない。未来には隼人がいる)
海辺の公園に車を停めると、2人は手を繋いで
散策した。
頬に当たる海風が心地良くて、美紀は目を細めた。
隼人が隣にいる今、生きてるって素晴らしいと、心からそう思えた。
(自暴自棄にならず、今日まで何とか生きてきて本当に良かった)
しばらくして、2人はベンチに腰を下ろした。
美紀は霞む水平線を眺めながら
「気持ちいいわね。あっ、そうだ。夕食、私が作るわ。隼人、何が食べたい?」
美紀の問いかけに、隼人は無言でいる。
不思議に思い目を向けると、隼人は少し思い詰めたような顔をしている。心なしか、青ざめているようにも見えた。
「隼人、どうしたの? どこか具合でも悪いの?」
少しの沈黙の後、
「ごめん……」
「ごめんって、何が? 何で謝るの?」
「もう、行かないと」
「行くって、どこに行くの?」
美紀は不安になった。
「そろそろ、さよならの時間だ……」
「隼人、何言ってるの? さよならって、どういうこと?」
「もう、ここにはいられないんだ」
「隼人、どうしちゃったのよ」
美紀は隼人の手を取り、握った。途端に、ゾクっとする冷たさが伝わってくる。
美紀は驚き、
「隼人、ホントにどうしちゃったの? やっぱり具合悪いんじゃないの?」
「イヤ、何ともないよ。さよならの時間が迫ってるんだ。美紀、会えて良かった……」
隼人は寂しさと愛しさが入り混じった眼差しで、掬い上げるように美紀を見つめる。
「さよならなんて、イヤよ。隼人、一緒に住もうって言ってたじゃない」
「うん、ごめんね。無責任なこと言って。でも美紀のこと、忘れないよ。愛してる…。」
「私も愛してる。死ぬまで、ううん、死んでも忘れない。ずっと愛してる。だから行かないで!」
もう、ほとんど隼人の姿が見えなくなっていた。
「隼人、隼人!」
(こんなこと、受け止められない)
「さ、よ、なら……。美紀……」
隼人の声だけが、辺りに響く。
「隼人、愛してる、愛してる、隼人、行かないで!」
最早、隣にいた隼人の痕跡はなかった。
手を伸ばしても、空を掴むだけた。
ただ、隼人の残り香だけが漂っている。
辺りは何事もなかったかのように、規則的な波の音だけが響いている。
風が少し冷たくなってきたようだ。
美紀は泣きじゃくっていた。
(隼人がいない人生なんて、生きる意味がないわ。私もこのまま、消えてしまいたい……)
つづく
隼人の提案に、美紀は2つ返事で同意した。
海岸線に沿って、隼人は車を走らせた。
久しぶりに乗る隼人の車。包み込むようなシートの感触が心地良い。
陽の光を受け、きらめく水面を眺めながら、美紀の顔が自然と綻ぶ。昨日、隼人とお互いの愛を確かめ合い、心が満ち足りていた。
不意に隼人が手を伸ばし、美紀の手を握った。
隼人を見つめ、美紀も握り返す。
(もう、1人じゃない。未来には隼人がいる)
海辺の公園に車を停めると、2人は手を繋いで
散策した。
頬に当たる海風が心地良くて、美紀は目を細めた。
隼人が隣にいる今、生きてるって素晴らしいと、心からそう思えた。
(自暴自棄にならず、今日まで何とか生きてきて本当に良かった)
しばらくして、2人はベンチに腰を下ろした。
美紀は霞む水平線を眺めながら
「気持ちいいわね。あっ、そうだ。夕食、私が作るわ。隼人、何が食べたい?」
美紀の問いかけに、隼人は無言でいる。
不思議に思い目を向けると、隼人は少し思い詰めたような顔をしている。心なしか、青ざめているようにも見えた。
「隼人、どうしたの? どこか具合でも悪いの?」
少しの沈黙の後、
「ごめん……」
「ごめんって、何が? 何で謝るの?」
「もう、行かないと」
「行くって、どこに行くの?」
美紀は不安になった。
「そろそろ、さよならの時間だ……」
「隼人、何言ってるの? さよならって、どういうこと?」
「もう、ここにはいられないんだ」
「隼人、どうしちゃったのよ」
美紀は隼人の手を取り、握った。途端に、ゾクっとする冷たさが伝わってくる。
美紀は驚き、
「隼人、ホントにどうしちゃったの? やっぱり具合悪いんじゃないの?」
「イヤ、何ともないよ。さよならの時間が迫ってるんだ。美紀、会えて良かった……」
隼人は寂しさと愛しさが入り混じった眼差しで、掬い上げるように美紀を見つめる。
「さよならなんて、イヤよ。隼人、一緒に住もうって言ってたじゃない」
「うん、ごめんね。無責任なこと言って。でも美紀のこと、忘れないよ。愛してる…。」
「私も愛してる。死ぬまで、ううん、死んでも忘れない。ずっと愛してる。だから行かないで!」
もう、ほとんど隼人の姿が見えなくなっていた。
「隼人、隼人!」
(こんなこと、受け止められない)
「さ、よ、なら……。美紀……」
隼人の声だけが、辺りに響く。
「隼人、愛してる、愛してる、隼人、行かないで!」
最早、隣にいた隼人の痕跡はなかった。
手を伸ばしても、空を掴むだけた。
ただ、隼人の残り香だけが漂っている。
辺りは何事もなかったかのように、規則的な波の音だけが響いている。
風が少し冷たくなってきたようだ。
美紀は泣きじゃくっていた。
(隼人がいない人生なんて、生きる意味がないわ。私もこのまま、消えてしまいたい……)
つづく
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