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母の旅路に 寄り添う
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「私、ここに泊まる、母さんの傍で寝るわ」
死に装束に身を包んだ母を、しんみりと見下ろす。
「えっ、俺はホテルに泊まるよ」
夫はたじろぎ、私の顔色を伺っている。
「いいわよ、かえって母さんと2人きりの方がいいわ。母さんには寂しい思いさせたから、最後は2人きりでいたいの」
夫は安堵の色を浮かべる。
自分もここに泊まることを強要されるとでも思ったのだろう。
「そうか、いくらお義母さんとはいえ、死んだ人と同じ部屋で寝るのは、ちょっとね」
ここは、葬儀社の遺体安置室。
約12畳ほどの和室で、家族も泊まれるような作りになっている。
母の傍らには、小ぢんまりとした祭壇があった。
線香の煙が細い筋となり、天井へ向かって揺らめいていた。
夫はビジネスホテルを予約し、明朝ここに来ると言い残して出て行くと、辺りは更にしん、と静まり返る。
母が息を引き取ってから、5時間程経過していた。
最初の悲しみと衝撃は、幾分去っていったかのように思われた。が、安置されている母に目を向けると、再び死の事実を突き付けられる。新たな悲しみがぶり返してくる。
今朝、電話の着信音で目が覚めた。
ドキリ、とした。
(きっと、病院からに違いない)
恐る恐る、スマホを手に取る。予感は的中していた。
(ああ、とうとう、この時が来たか)
血圧が下がり続けて危険な状態だから、今すぐ来てほしいと告げられた。
「分かりました。すぐ行きます」
電話を終えるや否や、体がぐらりと揺れる。
覚悟していたとはいえ、動揺した。
間もなく、母の命の灯が消えようとしている。
(こんな日、迎えたくなかった。できれば、もっと未来まで先延ばしになればいいのに)
この後、訪れるであろう現実に、果たして自分は
耐えられるだろうか?
夫と私は職場に、母の危篤のため急遽休む旨を電話で伝えた。
取る物も取り敢えず、夫の運転する車で病院へと向かった。
途中、胃の辺りが鉛でも飲み込んだかのように重苦しくなり、それにずっと耐えなければならなかった。
母が入院している病院は、車で約2時間の距離にある。その土地は私の故郷でもある。
私達が到着するまで、母がこの世に留まっていてほしい、そう祈り続けた。
が、望みは見事に打ち砕かれた。病院まで、あと30分という距離に差しかかった時、無情にも再び着信音が鳴った。
電話に出る前から私は、ほぼ絶望していた。
できれば、電話になど出たくなかった。
鼓動が激しくなり、胸が押し潰されそうだった。
一時、躊躇ったあと電話に出る。
たった今、母が息を引き取ったと、看護師さんの憂いを含んだ声が、そう伝えてきた。
電話の応対の様子に事情を察したのか、夫の顔に影が差す。そして、深い溜め息をついた。
毎回、車で帰省する度に眺めていた、車窓に見えるいつもと同じ風景は、今や全て色を失っていた。
私は虚空に視線を投げかけ、これから訪れる真の悲しみに対処できるよう、準備するより他なかった。
病院に到着し、すぐさま母のいる病室へと向かった。
既に、私の涙腺は緩んでいた。
そっと、病室に足を踏み入れベットに近寄る。
やや顔を歪め、横を向いて目を閉じた母が目に飛び込んできた。
一目見ただけで、死を実感した。
眉根を寄せた仄白い皮膚は、既に血が通っていない証拠であるのが一目瞭然だ。
私は母の両肩に手を添え、
「母さん、ごめんね、ごめんね、間に合わなくて
ごめんね、ごめんなさい」
そう、語りかけると涙が一気に溢れた。
そして再度、ごめんね、ごめんねと泣きながら言い続けた。
夫も目を赤くし、嗚咽が漏れそうになるのを耐えるかのように、口に手を当てた。
回想から我に返る。
母の傍に近寄り、座布団を敷いて座り込む。
母の髪に指を滑らせ、そっと撫でる。
「母さん、今日ここに泊まるから安心してね。
最後まで、ずっと一緒にいるからね」
当然のことだが、反応のない母を見ると、やっぱり本当に死んでしまったということを、イヤでも再認識させられる。
誰の身にも親の死は訪れるし、最終的に誰も死から逃れられないと分かっていても、この非日常の出来事を現実として受け入れるのは、甚だ困難なことだった。
ふと、ずっと感じていた疑問が頭をもたげる。
何故、母は死ななければならなかったのか?
末期癌や不治の病だったわけではないのに。
自宅で倒れた母は即入院し、入居できる施設が見つかるまで、病院で療養することになった。
たが、施設に空きがなく、入院が長引いてしまった。
その後、やっと施設が見つかり、入居の手続きをしている最中に、母の容態に異変が生じた。
肺に水が溜まったのだ。長引く入院生活で、ずっと寝たきりだったのがいけなかったのか?
次第に食事が摂れなくなり、点滴するしか手段がなかった。
そんなある日、病院から連絡があった。
だんだん意識が朦朧となり、酸素吸入せざるを得ない状態でもう長くはないだろうから、今のうちに一度会いに来られないですか? と。
何故、こうも急激に悪化したのか疑問を抱きつつ、私は母に会いに行った。
一目見て、愕然とした。
1ヶ月前に見舞いに来た時より、衰弱が激しい。
点滴だけでしか栄養が摂れていないせいか、体が一周り以上小さくなったようだ。その姿に悲しみが、ぐっと込み上げてくる。
眠っているのか、意識がなくて目を閉じているのか判然としない。
私は大きな声で、ゆっくりと母に話しかけた。
「母さん、元気になったら施設にいる父さんに会いに行こうね」
聞こえているのかどうか定かではないが、母は喉の奥から声を絞り出すように、
「うん、うん」
と返答した。
母の苦しそうな息使いに、やはり医師の言う通り
もう長くはないことを痛感せずにはいられなかった。
あの時、できることなら自宅に帰らず、仕事も休んでずっと母の傍にいたかった。が、そういうわけにもいかず、歯痒くて悔しくてどうしようもなかった。
例え、意思疎通ができなかったとしても、ずっと傍で母を見守っていたかった。
「ごめんね、母さん。私って、ホント親不孝だわ、きっと、怒ってるよね?」
母に寂しい思いをさせた私は、きっと因果応報で自身の晩年は、更に寂しい日々になるかもしれないことを覚悟しておかなければならない。
(そうだ、母に化粧してあげないと)
葬儀社の人に、死化粧することを勧められていたのだ。
「母さん、私が化粧してあげるね」
バッグから化粧ポーチを取り出し、再び母の傍に座った。顔にかけてある白い布を、そっとめくった。
母の素顔が現れる。やや、浅黒く変化していた。
(青白いかと思ってたけど、違うのね)
「じゃあ、化粧始めるね」
布を取り去ると、まずはリキッドファンデーションを指に取る。
母の顔全体に力を入れすぎないよう、優しく薄く伸ばす。
(母は、本当に死んだのだろうか? ただ、眠っているだけなのでは?)
そんな思いが駆け巡った。
次は、ペンシルで眉を書く。
私と同じように、母の眉も薄い。何度もペンシルを引いて、重ね塗りする。茶色い、ほんのりとした眉が出来上がった。
そういえば、こんなふうに母に化粧を施してあげたことは、今までなかった。
「母さんに化粧するの、これで最初で最後だね、
ねっ! ねっ! 母さん!」
私は語尾を強める。
何か、言葉を返してほしいと思った。
「聞こえてるんでしょう? 母さん」
無言で横たわる母を、じっと見つめる。
「何で黙ってるの? 聞こえてないの? 眠いの?具合悪いの?」
感情が高ぶるのを、止められなかった。
目頭が熱くなる。
涙が滲み、溢れ、零れた。
もっと頻繁に見舞いに来れば良かった。
そして、もっとたくさん母と話しをしたかった。
見舞いを終えて帰ろうとすると、母は寂しいと言って、いつも暗い顔をしていた。
「寂しい思いさせて、ごめんね。きっと、怒ってるよね? 怒ってるから、口きかないのよね?」
語りかけているうちに、幾筋もの涙が頬を伝い、私はハンカチを取り出し拭った。
深い溜め息をつき、
「母さん、ちょっと言いすぎちゃった。ごめんね。化粧、続けるね」
紅筆を口紅に当て、少しづつすくい取り、母の唇に塗り重ねていく。
母の唇が朱に染まった。
「ちょっと、赤かったかな? でも、今これしか持ってないから許してね」
最後に、パウダーをパフで取って顔に優しく押し当て、全体に広げていく。
「うん、綺麗になったよ。気に入ってくれたかな?」
私は、しげしげと母を眺めた。
こうして、母の傍に寄り添える時間は、刻々と過ぎていく。
(ずっと、ずっと、ここで母と一緒にいたい)
「母さん……」
再び、涙が止めどなく溢れてくる。
母を見つめながら、私は泣き続けた。
(昨年、父が亡くなって、今度は母が……)
たった1人の肉親だった母が亡くなり、自分が天涯孤独になってしまったように思えた。
私は、ひとしきり泣いた。
これで、私のことを心底心配してくれる肉親は
誰もいなくなってしまった。
いつかは、こんな日がくることを恐れていたが、まだまだ先のことだと思っていた。
そして、いざ現実のこととなると、非常に現実味に欠ける。夢か、作り話しのように感じる。
私はひとりっ子だったせいか、昔から母は何かと私のことを心配していた。
中学生の頃、進路のことで母と口論になり、私は衝動的に家出をした。家出と言っても、近所の山に数時間込もっていただけなのだが。
夕方、薄暗くなってもいつまでも帰宅しない私を、きっと母は死ぬほど心配しただろう。
市内にいる親戚の叔父さんに電話し、捜索の応援を頼んでいた。
夜まで山にいるのは気味が悪かったので、私は、すっかり暗くなってしまう前に帰宅することにした。
帰宅したら、心配しているであろう母に何と言えばいいのか、ずっと言い訳を考えていた。
だが、言い訳の言葉が決まらないうちに、自宅の前に着いてしまった。こうなったら、ただごめんなさいと言うしかない。
私は恐る恐る玄関に足を踏み入れた。
「ただいま……。」
すぐさま、叔父さんが出てきた。
父は、まだ帰宅してないようだった。
「どこに行ってたんだ? さっきまで、あちこち探してたんだぞ」
「叔父さん、ごめんね。ちょっと山の方まで行ってた」
居間に入ると、母は俯きハンカチを目に当てていた。
私が来たことに気づくと、母は顔を上げた。
ドキリとした。
母は、目を真っ赤にしていた。
途端に、罪悪感が私を襲った。
自分の軽はずみな行動が、こんなにも母に打撃を与えていた。バカなことをした自分が情けなかった。
「母さん、ごめんなさい……。」
私は素直に謝った。
「ゆっこ、もう、どこ行ってたの? 母さん、本当に心配してたのよ」
母の泣き腫らした顔を見ていると、心底申し訳ない気持ちになった。
「ごめん、本当に、ごめんなさい……。」
再度、謝った。
「母さん、すごい心配してたんだぞ」
叔父さんが言った。
「うん、叔父さんにも迷惑かけてしまって、悪いと思ってる。もう、こんなことしないからね、ごめんね」
とりあえず、ごめんなさいと謝った私は、当時中学生とはいえ、まだ子供だったと思う。親が子を心配するという当たり前のことが、その時は充分に理解していなかったかもしれない。
その後、社会人になって1人暮らしをするようになってからも、帰省する度に母はいつも、こう言っていた。
「ゆっこが家を出て行ってから、もう毎日心配なんだよ、いつも案じてるんだよ」
当時は、もう大人なんだから、母は何をそんなに心配してるんだろう、と少し大げさに思っていた。
でも、自分も年齢を重ねてくると、母の気持ちも少しずつ理解できるようになってきた。
「母さん、今までいろいろ心配かけて、ごめんね。家出以外にも、何かといろいろあったもんね。感謝してるよ、母さん。これからは毎日毎日、母さんのこと思い出すわ。私の声、聞こえてるよね? 母さん……。」
横たわる母に、しんみりと語りかけた。
ふと、思った。そういえば、母に父の死を知らせていなかった。
母が倒れて入院し、その約3ヶ月後に施設に入居していた父が息を引き取ったのだ。
もし知らせると、入院中の母がショックを受けて、急激に弱ってしまうのではないかと思ったからだ。
時々、母は父の様子を尋ねてきた。
元気に暮らしてるよ、と私は嘘をついた。
(そうだ、父も母さんが心配だ、と言ってた)
父には、母が倒れて入院したことは伝えていなかった。父に心配をかけたくないと思ったからだ。
もし死後の世界があるなら、既に母は父と対面して、今頃驚いているかもしれない。
その時、あることがひらめいた。
(お経を唱えてあげよう)
以前、写経のテキストに乗っていた般若心経を、何回か声に出して唱えてみたことがあったのだ。
バッグからスマホを取り出し、祭壇の前に座った。
お経を唱えている動画があるのではないかと思い、探した。
予想通り、動画が幾つかあった。
「母さん、お経を読んであげる」
画面に表示されている般若心経の字幕を見ながら、僧侶の声に合わせて一緒に唱えた。祭壇に置かれていた木魚も、お坊さんになったつもりで同時に叩いてみた。
そうして10分ほどのお経を唱え終わると、少し心が落ち着き、幾分悲しみも薄らいでいった。
「あまり上手じゃなかったよね? 母さん、許してね。あっ、そうだ。明日、セイ子伯母さん来るって言ってたよ」
明日、母の妹が大阪から来る予定だ。
普段から遠く離れていても、いつも母のことを気にかけていた。
裁縫が得意な伯母さんは、時々手作りの洋服やバッグを、宅急便で母に送ってきた。
電話も時々かけてきては、よく母とお喋りしているようだった。
毎年、帰省する度に母にも会いに来て、何日か泊まっていく。
本当に仲の良い姉妹で、ひとりっ子だった私は羨ましいと思って見ていた。
そんな伯母さんも、今頃悲しみに沈んでいることだろう。
母の世話をおろそかにしていた自分のせいで、伯母さんを悲しませることになってしまい、申し訳ないと思った。
(伯母さん、ごめんね。私のせいで、母さんが……。)
白い布を母の顔に、かけ直した。
私は立ち上がり、浴室へと向かった。
バスタブにお湯を落とす。
明日の朝は早めに起床するため、そろそろ寝る準備をしないといけない。
「母さん、お風呂入ってくるね」
バスタブに身を沈め、目を閉じた。
全身がお湯の温もりに包まれ、ホッとすると同時に目の奥が熱くなった。再び、涙が込み上げてくる。
(あぁ、また泣いてしまった。もう、何回泣けばいいんだろう)
よく、泣くとスッキリして精神が安定すると言われているが、泣けば泣くほど余計に悲しみが増していくような気がするのだった。
(私って、やはり親不孝だ。もっと、母さんの世話をするべきだった。そしたら、母さんはまだ生きてたかもしれないのに……。)
泣く度に罪悪感も増し、母への申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
バスタブの中で、私は1人さめざめと泣いた。
風呂から上がり部屋に戻ると、母の隣に布団を敷いた。隣と言っても、母との間に祭壇があるため、1メートル以上の間隔が空いている。
パジャマに着替えながら、
「母さん、一緒の部屋で寝るの、私が小学生の時以来だね。あっ、そうだ。母さんの好きな缶コーヒーあるけど、飲むよね?」
部屋に備え付けの冷蔵庫から缶コーヒーを1本取り出し、母の枕元に置いた。生前、母が好んで飲んでいた種類のコーヒーだ。
「あっ、寝る前に飲むと、眠れなくなっちゃうかな? でも、ずっと飲んでないから飲みたいよね? あっ、ちょっと待っててね」
冷蔵庫から、もう1本缶コーヒーを取り出し、母の枕元に置いた。
「1本だと、足りないと思って」
私は慈しみを込めた眼差しを、母に向ける。
(本当に、飲んでくれたらいいのに……。)
生前、母はよく言っていた。
「やっぱり、この缶コーヒーが1番美味しいね。
苦味と甘さが、ちょうどいいんだよ。たまに、他の缶コーヒーも飲んでみたりするけど美味しくないね。これは、量もちょうどいいよ」
帰省する度に、母のお気に入りの缶コーヒーを箱で買い、プレゼントした。
母は美味しそうに飲みほすと、満足した笑みを浮かべた。
そんな母の笑顔を、もう見ることはできない。
日常の、いつもは見過ごしがちなありふれた光景は、その時は何の感慨も持たない。だが、もう二度とそのような場面が巡って来ることはないと思うと、母と過ごした日常が、実に幸せに満ちていたことに気づかされる。
もっともっと、母と一緒の時間を過ごしたかった。平凡な幸せは、唯一無二の幸せだったのだ。
(母さんが亡くなってから気づくなんて、遅いよね……。)
「じゃあ、そろそろ寝ようか」
室内の照明を消し、布団に入る。
母の方に顔を向け、
「母さん、おやすみなさい」
目を閉じると、燃え尽きた線香の香りがした。
思えば、朝に病院からの電話で目覚め、それから今までの時間は長いようで、でもあっという間だった。
いつかはこんな日が、母が最期の日を迎える時が来るのは分かっていた。でも、いざ現実のことになると、どこか実感に欠ける。夢を見ているような感覚なのだ。
非日常の出来事で、いつの間にか疲れが溜まっていたせいか、次第に眠気が押し寄せてきた。
悲しみは根底に流れているのだが、母の隣で寝ることは私に安心感を与え、穏やかな心地にさせた。
その夜、夢を見た。
昔、実家で飼っていた犬を、私と母が散歩させていた。何やら会話をして、笑い合っていた。
(なんだ、母さん生きてたんだ。死んだと思ったのは、間違いだったんだ。そっかそっか、良かった。母さんは生きてるんだ)
そう夢の中で安堵していた。
私は心底、嬉しかった。
翌朝、目覚めると見慣れない白い天井が目に入った。自分が今、どこにいるのか認識するまで、多少の時間を要した。
線香の香りを嗅ぎ付け、そこでやっと昨日の一部始終が蘇った。
首を横に向けると、祭壇と布団に横たわる母が見える。同時に、現実に引き戻される。
(母と犬を散歩させていたのは、夢だったんだ。母が生きていて良かったと、本当に喜んでいたのに)
私は、酷く落胆した。
(なんで、なんであのような夢を見たんだろう。結局、がっかりすることになるんだから、夢なんか見たくなかった)
どんよりとした気分で、しばし布団の中で、
ぐずぐずしていた。
「そうだ、今日は伯母さんが来るんだ。起きないと」
私は半身を起こし、母の方に目を向けた。
「母さん、おはよう」
手早く布団を畳み、所定の場所に仕舞う。
母の傍に行き、座り込む。
「コーヒー飲んだ? 美味しかった? 今日、セイ子伯母さんを、駅に迎えに行くからね!」
少しの間、物言わぬ母を見つめ感傷に浸った。
死ぬ、ということは、もう二度と口をきけない。
話しかけても、決して答えることはない。
そんな当たり前のことが、母の死によってまざまざと思い知らされる。生まれて初めて知ったかのようにさえ思える。
いつの間にか、目の奥が熱くなっていた。
私は涙を拭うと、立ち上がった。
急いで洗顔と化粧を済ませ、着替えた。
やがて夫が到着すると、車で近くの駅に向かった。
待合室に入ると程なく、電車がホームに滑り込んでくる。
降りてくる乗客を、1人1人確かめる。
改札を通り過ぎたのは約10人くらいだったが、
その中に伯母さんの姿はなかった。
ホームに目を転じると、最後の乗客らしき1人の女性が、改札に向かって歩いて来るのが見えた。背中を丸め疲労感のようなものが漂い、かなり高齢に感じた。
伯母さんではなく、見知らぬ他人と私は判断した。
(確かこの電車だったと思うが、私の聴き間違いで、もしかして次の電車なのかしら? それとも、乗り遅れたのかしら?)
伯母さんに電話してみようと思った矢先、私は自分の名前を呼ばれて、ハッとした。
目の前に、さっき見た最後の乗客らしき女性がいた。伯母さんではないと思っていたが、どうやら伯母さんのようだ。
最後に伯母さんに会ったのは、約6年前だ。
それくらいの歳月が過ぎれば、誰でも多少は老けるのは当然だろう。
でも、老けて見える原因は歳月のせいだけではなく、慕っていた姉の死によるものかもしれない。
喪失感に打ちのめされ、憔悴したことが外見に現れ、実年齢より上に見えたのだろう。
そういう私も自分が気づいていないだけで、伯母さんの目には私の姿が、以前より老けて見えているのかもしれないが。
「伯母さん、遠いところ、ありがとうね。じゃあ、車待たせてるから、行こうか」
伯母さんは、無言で頷いた。
葬儀社に戻り、遺体安置室に入る。
神妙な顔つきだった伯母さんは、祭壇の奥で横たわる母を見やると、すぐさま駆け寄った。
「姉さん、セイ子だよ! セイ子が来たよ!」
大きな声で呼びかけ、掛け布団をめくった。
母の肩に手を置き、
「セイ子だよ、分かる? セイ子が来たんだよ!
セイ子だよ! セイ子だよ!」
伯母さんはますます大きな声を発し、母の顔や腕にも触れていった。
伯母さんの声音に次第に悲哀が込もっていくのを感じ、私はいたたまれなかった。
「セイ子だよ! セイ子だよ! こんなに痩せちゃって……。」
恐らく伯母さんも、母の死が受け入れ難いのかもしれない。昨日、私が病院に到着し最初に母に対面した時のように、悲しみと絶望が一挙に押し寄せているのだろう。
もしかしたら伯母さんも、母と2人きりになりたいのではないかと思い、
「伯母さん、ちょっと食べるもの、買ってくるね」
そう声をかけ、夫と外に出る。
買い物を終えると、再び葬儀社に戻った。
伯母さんは虚ろな目をして、テーブルの前に座っていた。きっと私と同じように、母にいろいろ話しかけたのだろう。
「ちょっと時間早いけど、お昼ごはん買ってきたよ」
私は弁当やパン、お菓子をテーブルの上に並べた。
「食欲ないから、お菓子でいいわ」
伯母さんはお菓子に手を伸ばした。
「さっき、姉さんの全身を見たよ。足が、ずいぶん痩せてしまって、すごく細かったよ」
「うん、母さん、すごく痩せてしまったね。肺に水が溜まってから、だんだん食事も摂れなくなってきて、最後は点滴だけになって……。病院で、ずっと寝たきりで動かなかったのが、結局体に良くなかったんだわ。早めに施設が見つかって入居できていたら、もっと長生きできたかもしれないのに。ごめんね、伯母さん。私が母さんをちゃんと世話しなかったから、こうなったんだわ。」
私は深く溜め息をついた。
「まあ、施設に入らなくても、在宅で介護サービスを受けることができれば、それでも良かったかもね。でも、別々に暮らしてたから、無理だったとは思うけど」
そう、伯母さんは言った。
「うん、でも母さん、私と一緒に暮らしたいと言ってた。何とか母さんの願いを叶えてあげれば、もしかしたら死ななくてすんだかもしれないのに」
今さらだが、後悔の念が湧いてくる。
「お互い離れた場所にいたから、実際に一緒に住むのは、かなり難しかったんじゃない? それに、旦那の両親もいるんだし」
「うん、そうかもしれないけど……。」
「姉さんには長生きしてほしかったけど、高齢でもあったし、仕方ないよ」
伯母さんは、自分を納得させるかのように、しんみりと呟く。
口ではそう言っても、きっと母の死は私と同様に、相当なダメージを伯母さんに与えているのではないかと思った。
午後になると、納官の儀を執り行なった。
棺桶の中に、母が普段着用していた衣服を何点か置いて、幾つかの花々も所々に配置した。
蓋をして、何か所か釘を打つ度に、新たな悲しみがぶり返してきた。
母は、やはり死んだ。それを、まざまざと思い知らされた。
旅立ちの準備を終えた母は、少しだけ遠くに行ってしまったかのように感じた。
夫と伯母さんと3人で納官を見届けた後、火葬までの間、少し休憩することにした。
「もう、兄弟は私だけになってしまったよ」
伯母さんは、神妙な面持ちで言った。
母は4人兄弟だった。兄と弟は、もう何年も前に亡くなった。
伯母さんは兄弟の中でも、特に姉である母を慕っていたから、喪失感は比べようもないほど深いのだろう。
「伯母さんは、長生きしてね」
私は心底、そう思った。
「さあ、あとどれだけ元気でいれるかな」
寂しそうに、伯母さんは言った。
私は母の兄弟の中でも、伯母さんとは親しくしていた。だから、本当に長生きしてくれるのを望んだ。
斉場に向かう時刻になった。
とうとう、この時が来た。私は身構える。
葬儀社の社員達が、母の棺桶を霊柩車へと運んだ。
私も霊柩車に乗り込み、棺桶の傍のシートに座った。
夫と伯母さんは、夫の車で霊柩車の後ろを付いてくることになっている。
白いカバーで覆われた棺桶を、じっと見つめた。
火葬されると昨夜のように母の顔を見て、話しかけたり触れたりすることは、もうできない。
(母さん、もっと一緒にいたかっね。昨夜は母さんと2人きりで過ごせて満足できたけど。母さんも満足したかな?)
この後、真の別れがやってくる。
母が、母の肉体が無くなるとは考えたくもない。
悲しみと喪失感は、今より更に増すだろう。
それに、耐えられるだろうか?
私はゆっくりと息を吸い、それ以上にゆっくりと息を吐いていった。
斉場に到着した。
試練の最終段階の始まりだ。
生身の母と、今生の別れを体験しなければいけない。
母が火葬されるなんて、これほど残酷で恐ろしいことがあるだろうか。
私は暗澹たる思いで、ホールに足を踏み入れた。
程なくして、母の棺桶の周りに親戚も数名集まってきた。
伯母さんは茫然としたように立ち尽くし、目を潤ませている。
私も既に熱いものが込み上げ、溢れる寸前だった。
できることなら、火葬を中止にしたかった。
母の姪が棺桶の中を覗き込み、母に語りかけた。
「ねぇ、逝くの、まだ早いよ……。」
姪の言葉に、私は心を震わせた。
(そう、母にはまだまだ生きていてほしかった)
皆、順番に母を見つめて、言葉をかけていった。
本当に、これで最後の見納め……。
皆の悲しみをよそに、永遠の眠りに就いている母。
私が引いた口紅が、まだほんのり色づいている。
(イヤだ、イヤだ。もう、母さんの顔が見れなくなるなんて!)
母は、自分がこれから火葬されることなど分かっていないかのように、穏やかに目を閉じている。
やがて、斉場の職員が棺桶に蓋をし、そろりそろりと移動させていく。
棺桶が火葬炉の中に入ると、扉がガタン、と音を立てて閉まった。
ガタン、という音は私の胸に、ずしんと響いた。その重々しい音は、この世から遮断した、という合図にも聞こえる。
隣にいる伯母さんは、目を真っ赤にして閉じられた扉を見つめていた。
私も零れる涙をハンカチで押さえながら、同じ方向を見つめる。
(母さん、私も母さんと一緒に逝きたいよ。
母さん、母さん、母さん、さようなら、母さん……。)
私は両手を胸の前で合わせると、ぎゅっと目を閉じた。
死に装束に身を包んだ母を、しんみりと見下ろす。
「えっ、俺はホテルに泊まるよ」
夫はたじろぎ、私の顔色を伺っている。
「いいわよ、かえって母さんと2人きりの方がいいわ。母さんには寂しい思いさせたから、最後は2人きりでいたいの」
夫は安堵の色を浮かべる。
自分もここに泊まることを強要されるとでも思ったのだろう。
「そうか、いくらお義母さんとはいえ、死んだ人と同じ部屋で寝るのは、ちょっとね」
ここは、葬儀社の遺体安置室。
約12畳ほどの和室で、家族も泊まれるような作りになっている。
母の傍らには、小ぢんまりとした祭壇があった。
線香の煙が細い筋となり、天井へ向かって揺らめいていた。
夫はビジネスホテルを予約し、明朝ここに来ると言い残して出て行くと、辺りは更にしん、と静まり返る。
母が息を引き取ってから、5時間程経過していた。
最初の悲しみと衝撃は、幾分去っていったかのように思われた。が、安置されている母に目を向けると、再び死の事実を突き付けられる。新たな悲しみがぶり返してくる。
今朝、電話の着信音で目が覚めた。
ドキリ、とした。
(きっと、病院からに違いない)
恐る恐る、スマホを手に取る。予感は的中していた。
(ああ、とうとう、この時が来たか)
血圧が下がり続けて危険な状態だから、今すぐ来てほしいと告げられた。
「分かりました。すぐ行きます」
電話を終えるや否や、体がぐらりと揺れる。
覚悟していたとはいえ、動揺した。
間もなく、母の命の灯が消えようとしている。
(こんな日、迎えたくなかった。できれば、もっと未来まで先延ばしになればいいのに)
この後、訪れるであろう現実に、果たして自分は
耐えられるだろうか?
夫と私は職場に、母の危篤のため急遽休む旨を電話で伝えた。
取る物も取り敢えず、夫の運転する車で病院へと向かった。
途中、胃の辺りが鉛でも飲み込んだかのように重苦しくなり、それにずっと耐えなければならなかった。
母が入院している病院は、車で約2時間の距離にある。その土地は私の故郷でもある。
私達が到着するまで、母がこの世に留まっていてほしい、そう祈り続けた。
が、望みは見事に打ち砕かれた。病院まで、あと30分という距離に差しかかった時、無情にも再び着信音が鳴った。
電話に出る前から私は、ほぼ絶望していた。
できれば、電話になど出たくなかった。
鼓動が激しくなり、胸が押し潰されそうだった。
一時、躊躇ったあと電話に出る。
たった今、母が息を引き取ったと、看護師さんの憂いを含んだ声が、そう伝えてきた。
電話の応対の様子に事情を察したのか、夫の顔に影が差す。そして、深い溜め息をついた。
毎回、車で帰省する度に眺めていた、車窓に見えるいつもと同じ風景は、今や全て色を失っていた。
私は虚空に視線を投げかけ、これから訪れる真の悲しみに対処できるよう、準備するより他なかった。
病院に到着し、すぐさま母のいる病室へと向かった。
既に、私の涙腺は緩んでいた。
そっと、病室に足を踏み入れベットに近寄る。
やや顔を歪め、横を向いて目を閉じた母が目に飛び込んできた。
一目見ただけで、死を実感した。
眉根を寄せた仄白い皮膚は、既に血が通っていない証拠であるのが一目瞭然だ。
私は母の両肩に手を添え、
「母さん、ごめんね、ごめんね、間に合わなくて
ごめんね、ごめんなさい」
そう、語りかけると涙が一気に溢れた。
そして再度、ごめんね、ごめんねと泣きながら言い続けた。
夫も目を赤くし、嗚咽が漏れそうになるのを耐えるかのように、口に手を当てた。
回想から我に返る。
母の傍に近寄り、座布団を敷いて座り込む。
母の髪に指を滑らせ、そっと撫でる。
「母さん、今日ここに泊まるから安心してね。
最後まで、ずっと一緒にいるからね」
当然のことだが、反応のない母を見ると、やっぱり本当に死んでしまったということを、イヤでも再認識させられる。
誰の身にも親の死は訪れるし、最終的に誰も死から逃れられないと分かっていても、この非日常の出来事を現実として受け入れるのは、甚だ困難なことだった。
ふと、ずっと感じていた疑問が頭をもたげる。
何故、母は死ななければならなかったのか?
末期癌や不治の病だったわけではないのに。
自宅で倒れた母は即入院し、入居できる施設が見つかるまで、病院で療養することになった。
たが、施設に空きがなく、入院が長引いてしまった。
その後、やっと施設が見つかり、入居の手続きをしている最中に、母の容態に異変が生じた。
肺に水が溜まったのだ。長引く入院生活で、ずっと寝たきりだったのがいけなかったのか?
次第に食事が摂れなくなり、点滴するしか手段がなかった。
そんなある日、病院から連絡があった。
だんだん意識が朦朧となり、酸素吸入せざるを得ない状態でもう長くはないだろうから、今のうちに一度会いに来られないですか? と。
何故、こうも急激に悪化したのか疑問を抱きつつ、私は母に会いに行った。
一目見て、愕然とした。
1ヶ月前に見舞いに来た時より、衰弱が激しい。
点滴だけでしか栄養が摂れていないせいか、体が一周り以上小さくなったようだ。その姿に悲しみが、ぐっと込み上げてくる。
眠っているのか、意識がなくて目を閉じているのか判然としない。
私は大きな声で、ゆっくりと母に話しかけた。
「母さん、元気になったら施設にいる父さんに会いに行こうね」
聞こえているのかどうか定かではないが、母は喉の奥から声を絞り出すように、
「うん、うん」
と返答した。
母の苦しそうな息使いに、やはり医師の言う通り
もう長くはないことを痛感せずにはいられなかった。
あの時、できることなら自宅に帰らず、仕事も休んでずっと母の傍にいたかった。が、そういうわけにもいかず、歯痒くて悔しくてどうしようもなかった。
例え、意思疎通ができなかったとしても、ずっと傍で母を見守っていたかった。
「ごめんね、母さん。私って、ホント親不孝だわ、きっと、怒ってるよね?」
母に寂しい思いをさせた私は、きっと因果応報で自身の晩年は、更に寂しい日々になるかもしれないことを覚悟しておかなければならない。
(そうだ、母に化粧してあげないと)
葬儀社の人に、死化粧することを勧められていたのだ。
「母さん、私が化粧してあげるね」
バッグから化粧ポーチを取り出し、再び母の傍に座った。顔にかけてある白い布を、そっとめくった。
母の素顔が現れる。やや、浅黒く変化していた。
(青白いかと思ってたけど、違うのね)
「じゃあ、化粧始めるね」
布を取り去ると、まずはリキッドファンデーションを指に取る。
母の顔全体に力を入れすぎないよう、優しく薄く伸ばす。
(母は、本当に死んだのだろうか? ただ、眠っているだけなのでは?)
そんな思いが駆け巡った。
次は、ペンシルで眉を書く。
私と同じように、母の眉も薄い。何度もペンシルを引いて、重ね塗りする。茶色い、ほんのりとした眉が出来上がった。
そういえば、こんなふうに母に化粧を施してあげたことは、今までなかった。
「母さんに化粧するの、これで最初で最後だね、
ねっ! ねっ! 母さん!」
私は語尾を強める。
何か、言葉を返してほしいと思った。
「聞こえてるんでしょう? 母さん」
無言で横たわる母を、じっと見つめる。
「何で黙ってるの? 聞こえてないの? 眠いの?具合悪いの?」
感情が高ぶるのを、止められなかった。
目頭が熱くなる。
涙が滲み、溢れ、零れた。
もっと頻繁に見舞いに来れば良かった。
そして、もっとたくさん母と話しをしたかった。
見舞いを終えて帰ろうとすると、母は寂しいと言って、いつも暗い顔をしていた。
「寂しい思いさせて、ごめんね。きっと、怒ってるよね? 怒ってるから、口きかないのよね?」
語りかけているうちに、幾筋もの涙が頬を伝い、私はハンカチを取り出し拭った。
深い溜め息をつき、
「母さん、ちょっと言いすぎちゃった。ごめんね。化粧、続けるね」
紅筆を口紅に当て、少しづつすくい取り、母の唇に塗り重ねていく。
母の唇が朱に染まった。
「ちょっと、赤かったかな? でも、今これしか持ってないから許してね」
最後に、パウダーをパフで取って顔に優しく押し当て、全体に広げていく。
「うん、綺麗になったよ。気に入ってくれたかな?」
私は、しげしげと母を眺めた。
こうして、母の傍に寄り添える時間は、刻々と過ぎていく。
(ずっと、ずっと、ここで母と一緒にいたい)
「母さん……」
再び、涙が止めどなく溢れてくる。
母を見つめながら、私は泣き続けた。
(昨年、父が亡くなって、今度は母が……)
たった1人の肉親だった母が亡くなり、自分が天涯孤独になってしまったように思えた。
私は、ひとしきり泣いた。
これで、私のことを心底心配してくれる肉親は
誰もいなくなってしまった。
いつかは、こんな日がくることを恐れていたが、まだまだ先のことだと思っていた。
そして、いざ現実のこととなると、非常に現実味に欠ける。夢か、作り話しのように感じる。
私はひとりっ子だったせいか、昔から母は何かと私のことを心配していた。
中学生の頃、進路のことで母と口論になり、私は衝動的に家出をした。家出と言っても、近所の山に数時間込もっていただけなのだが。
夕方、薄暗くなってもいつまでも帰宅しない私を、きっと母は死ぬほど心配しただろう。
市内にいる親戚の叔父さんに電話し、捜索の応援を頼んでいた。
夜まで山にいるのは気味が悪かったので、私は、すっかり暗くなってしまう前に帰宅することにした。
帰宅したら、心配しているであろう母に何と言えばいいのか、ずっと言い訳を考えていた。
だが、言い訳の言葉が決まらないうちに、自宅の前に着いてしまった。こうなったら、ただごめんなさいと言うしかない。
私は恐る恐る玄関に足を踏み入れた。
「ただいま……。」
すぐさま、叔父さんが出てきた。
父は、まだ帰宅してないようだった。
「どこに行ってたんだ? さっきまで、あちこち探してたんだぞ」
「叔父さん、ごめんね。ちょっと山の方まで行ってた」
居間に入ると、母は俯きハンカチを目に当てていた。
私が来たことに気づくと、母は顔を上げた。
ドキリとした。
母は、目を真っ赤にしていた。
途端に、罪悪感が私を襲った。
自分の軽はずみな行動が、こんなにも母に打撃を与えていた。バカなことをした自分が情けなかった。
「母さん、ごめんなさい……。」
私は素直に謝った。
「ゆっこ、もう、どこ行ってたの? 母さん、本当に心配してたのよ」
母の泣き腫らした顔を見ていると、心底申し訳ない気持ちになった。
「ごめん、本当に、ごめんなさい……。」
再度、謝った。
「母さん、すごい心配してたんだぞ」
叔父さんが言った。
「うん、叔父さんにも迷惑かけてしまって、悪いと思ってる。もう、こんなことしないからね、ごめんね」
とりあえず、ごめんなさいと謝った私は、当時中学生とはいえ、まだ子供だったと思う。親が子を心配するという当たり前のことが、その時は充分に理解していなかったかもしれない。
その後、社会人になって1人暮らしをするようになってからも、帰省する度に母はいつも、こう言っていた。
「ゆっこが家を出て行ってから、もう毎日心配なんだよ、いつも案じてるんだよ」
当時は、もう大人なんだから、母は何をそんなに心配してるんだろう、と少し大げさに思っていた。
でも、自分も年齢を重ねてくると、母の気持ちも少しずつ理解できるようになってきた。
「母さん、今までいろいろ心配かけて、ごめんね。家出以外にも、何かといろいろあったもんね。感謝してるよ、母さん。これからは毎日毎日、母さんのこと思い出すわ。私の声、聞こえてるよね? 母さん……。」
横たわる母に、しんみりと語りかけた。
ふと、思った。そういえば、母に父の死を知らせていなかった。
母が倒れて入院し、その約3ヶ月後に施設に入居していた父が息を引き取ったのだ。
もし知らせると、入院中の母がショックを受けて、急激に弱ってしまうのではないかと思ったからだ。
時々、母は父の様子を尋ねてきた。
元気に暮らしてるよ、と私は嘘をついた。
(そうだ、父も母さんが心配だ、と言ってた)
父には、母が倒れて入院したことは伝えていなかった。父に心配をかけたくないと思ったからだ。
もし死後の世界があるなら、既に母は父と対面して、今頃驚いているかもしれない。
その時、あることがひらめいた。
(お経を唱えてあげよう)
以前、写経のテキストに乗っていた般若心経を、何回か声に出して唱えてみたことがあったのだ。
バッグからスマホを取り出し、祭壇の前に座った。
お経を唱えている動画があるのではないかと思い、探した。
予想通り、動画が幾つかあった。
「母さん、お経を読んであげる」
画面に表示されている般若心経の字幕を見ながら、僧侶の声に合わせて一緒に唱えた。祭壇に置かれていた木魚も、お坊さんになったつもりで同時に叩いてみた。
そうして10分ほどのお経を唱え終わると、少し心が落ち着き、幾分悲しみも薄らいでいった。
「あまり上手じゃなかったよね? 母さん、許してね。あっ、そうだ。明日、セイ子伯母さん来るって言ってたよ」
明日、母の妹が大阪から来る予定だ。
普段から遠く離れていても、いつも母のことを気にかけていた。
裁縫が得意な伯母さんは、時々手作りの洋服やバッグを、宅急便で母に送ってきた。
電話も時々かけてきては、よく母とお喋りしているようだった。
毎年、帰省する度に母にも会いに来て、何日か泊まっていく。
本当に仲の良い姉妹で、ひとりっ子だった私は羨ましいと思って見ていた。
そんな伯母さんも、今頃悲しみに沈んでいることだろう。
母の世話をおろそかにしていた自分のせいで、伯母さんを悲しませることになってしまい、申し訳ないと思った。
(伯母さん、ごめんね。私のせいで、母さんが……。)
白い布を母の顔に、かけ直した。
私は立ち上がり、浴室へと向かった。
バスタブにお湯を落とす。
明日の朝は早めに起床するため、そろそろ寝る準備をしないといけない。
「母さん、お風呂入ってくるね」
バスタブに身を沈め、目を閉じた。
全身がお湯の温もりに包まれ、ホッとすると同時に目の奥が熱くなった。再び、涙が込み上げてくる。
(あぁ、また泣いてしまった。もう、何回泣けばいいんだろう)
よく、泣くとスッキリして精神が安定すると言われているが、泣けば泣くほど余計に悲しみが増していくような気がするのだった。
(私って、やはり親不孝だ。もっと、母さんの世話をするべきだった。そしたら、母さんはまだ生きてたかもしれないのに……。)
泣く度に罪悪感も増し、母への申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
バスタブの中で、私は1人さめざめと泣いた。
風呂から上がり部屋に戻ると、母の隣に布団を敷いた。隣と言っても、母との間に祭壇があるため、1メートル以上の間隔が空いている。
パジャマに着替えながら、
「母さん、一緒の部屋で寝るの、私が小学生の時以来だね。あっ、そうだ。母さんの好きな缶コーヒーあるけど、飲むよね?」
部屋に備え付けの冷蔵庫から缶コーヒーを1本取り出し、母の枕元に置いた。生前、母が好んで飲んでいた種類のコーヒーだ。
「あっ、寝る前に飲むと、眠れなくなっちゃうかな? でも、ずっと飲んでないから飲みたいよね? あっ、ちょっと待っててね」
冷蔵庫から、もう1本缶コーヒーを取り出し、母の枕元に置いた。
「1本だと、足りないと思って」
私は慈しみを込めた眼差しを、母に向ける。
(本当に、飲んでくれたらいいのに……。)
生前、母はよく言っていた。
「やっぱり、この缶コーヒーが1番美味しいね。
苦味と甘さが、ちょうどいいんだよ。たまに、他の缶コーヒーも飲んでみたりするけど美味しくないね。これは、量もちょうどいいよ」
帰省する度に、母のお気に入りの缶コーヒーを箱で買い、プレゼントした。
母は美味しそうに飲みほすと、満足した笑みを浮かべた。
そんな母の笑顔を、もう見ることはできない。
日常の、いつもは見過ごしがちなありふれた光景は、その時は何の感慨も持たない。だが、もう二度とそのような場面が巡って来ることはないと思うと、母と過ごした日常が、実に幸せに満ちていたことに気づかされる。
もっともっと、母と一緒の時間を過ごしたかった。平凡な幸せは、唯一無二の幸せだったのだ。
(母さんが亡くなってから気づくなんて、遅いよね……。)
「じゃあ、そろそろ寝ようか」
室内の照明を消し、布団に入る。
母の方に顔を向け、
「母さん、おやすみなさい」
目を閉じると、燃え尽きた線香の香りがした。
思えば、朝に病院からの電話で目覚め、それから今までの時間は長いようで、でもあっという間だった。
いつかはこんな日が、母が最期の日を迎える時が来るのは分かっていた。でも、いざ現実のことになると、どこか実感に欠ける。夢を見ているような感覚なのだ。
非日常の出来事で、いつの間にか疲れが溜まっていたせいか、次第に眠気が押し寄せてきた。
悲しみは根底に流れているのだが、母の隣で寝ることは私に安心感を与え、穏やかな心地にさせた。
その夜、夢を見た。
昔、実家で飼っていた犬を、私と母が散歩させていた。何やら会話をして、笑い合っていた。
(なんだ、母さん生きてたんだ。死んだと思ったのは、間違いだったんだ。そっかそっか、良かった。母さんは生きてるんだ)
そう夢の中で安堵していた。
私は心底、嬉しかった。
翌朝、目覚めると見慣れない白い天井が目に入った。自分が今、どこにいるのか認識するまで、多少の時間を要した。
線香の香りを嗅ぎ付け、そこでやっと昨日の一部始終が蘇った。
首を横に向けると、祭壇と布団に横たわる母が見える。同時に、現実に引き戻される。
(母と犬を散歩させていたのは、夢だったんだ。母が生きていて良かったと、本当に喜んでいたのに)
私は、酷く落胆した。
(なんで、なんであのような夢を見たんだろう。結局、がっかりすることになるんだから、夢なんか見たくなかった)
どんよりとした気分で、しばし布団の中で、
ぐずぐずしていた。
「そうだ、今日は伯母さんが来るんだ。起きないと」
私は半身を起こし、母の方に目を向けた。
「母さん、おはよう」
手早く布団を畳み、所定の場所に仕舞う。
母の傍に行き、座り込む。
「コーヒー飲んだ? 美味しかった? 今日、セイ子伯母さんを、駅に迎えに行くからね!」
少しの間、物言わぬ母を見つめ感傷に浸った。
死ぬ、ということは、もう二度と口をきけない。
話しかけても、決して答えることはない。
そんな当たり前のことが、母の死によってまざまざと思い知らされる。生まれて初めて知ったかのようにさえ思える。
いつの間にか、目の奥が熱くなっていた。
私は涙を拭うと、立ち上がった。
急いで洗顔と化粧を済ませ、着替えた。
やがて夫が到着すると、車で近くの駅に向かった。
待合室に入ると程なく、電車がホームに滑り込んでくる。
降りてくる乗客を、1人1人確かめる。
改札を通り過ぎたのは約10人くらいだったが、
その中に伯母さんの姿はなかった。
ホームに目を転じると、最後の乗客らしき1人の女性が、改札に向かって歩いて来るのが見えた。背中を丸め疲労感のようなものが漂い、かなり高齢に感じた。
伯母さんではなく、見知らぬ他人と私は判断した。
(確かこの電車だったと思うが、私の聴き間違いで、もしかして次の電車なのかしら? それとも、乗り遅れたのかしら?)
伯母さんに電話してみようと思った矢先、私は自分の名前を呼ばれて、ハッとした。
目の前に、さっき見た最後の乗客らしき女性がいた。伯母さんではないと思っていたが、どうやら伯母さんのようだ。
最後に伯母さんに会ったのは、約6年前だ。
それくらいの歳月が過ぎれば、誰でも多少は老けるのは当然だろう。
でも、老けて見える原因は歳月のせいだけではなく、慕っていた姉の死によるものかもしれない。
喪失感に打ちのめされ、憔悴したことが外見に現れ、実年齢より上に見えたのだろう。
そういう私も自分が気づいていないだけで、伯母さんの目には私の姿が、以前より老けて見えているのかもしれないが。
「伯母さん、遠いところ、ありがとうね。じゃあ、車待たせてるから、行こうか」
伯母さんは、無言で頷いた。
葬儀社に戻り、遺体安置室に入る。
神妙な顔つきだった伯母さんは、祭壇の奥で横たわる母を見やると、すぐさま駆け寄った。
「姉さん、セイ子だよ! セイ子が来たよ!」
大きな声で呼びかけ、掛け布団をめくった。
母の肩に手を置き、
「セイ子だよ、分かる? セイ子が来たんだよ!
セイ子だよ! セイ子だよ!」
伯母さんはますます大きな声を発し、母の顔や腕にも触れていった。
伯母さんの声音に次第に悲哀が込もっていくのを感じ、私はいたたまれなかった。
「セイ子だよ! セイ子だよ! こんなに痩せちゃって……。」
恐らく伯母さんも、母の死が受け入れ難いのかもしれない。昨日、私が病院に到着し最初に母に対面した時のように、悲しみと絶望が一挙に押し寄せているのだろう。
もしかしたら伯母さんも、母と2人きりになりたいのではないかと思い、
「伯母さん、ちょっと食べるもの、買ってくるね」
そう声をかけ、夫と外に出る。
買い物を終えると、再び葬儀社に戻った。
伯母さんは虚ろな目をして、テーブルの前に座っていた。きっと私と同じように、母にいろいろ話しかけたのだろう。
「ちょっと時間早いけど、お昼ごはん買ってきたよ」
私は弁当やパン、お菓子をテーブルの上に並べた。
「食欲ないから、お菓子でいいわ」
伯母さんはお菓子に手を伸ばした。
「さっき、姉さんの全身を見たよ。足が、ずいぶん痩せてしまって、すごく細かったよ」
「うん、母さん、すごく痩せてしまったね。肺に水が溜まってから、だんだん食事も摂れなくなってきて、最後は点滴だけになって……。病院で、ずっと寝たきりで動かなかったのが、結局体に良くなかったんだわ。早めに施設が見つかって入居できていたら、もっと長生きできたかもしれないのに。ごめんね、伯母さん。私が母さんをちゃんと世話しなかったから、こうなったんだわ。」
私は深く溜め息をついた。
「まあ、施設に入らなくても、在宅で介護サービスを受けることができれば、それでも良かったかもね。でも、別々に暮らしてたから、無理だったとは思うけど」
そう、伯母さんは言った。
「うん、でも母さん、私と一緒に暮らしたいと言ってた。何とか母さんの願いを叶えてあげれば、もしかしたら死ななくてすんだかもしれないのに」
今さらだが、後悔の念が湧いてくる。
「お互い離れた場所にいたから、実際に一緒に住むのは、かなり難しかったんじゃない? それに、旦那の両親もいるんだし」
「うん、そうかもしれないけど……。」
「姉さんには長生きしてほしかったけど、高齢でもあったし、仕方ないよ」
伯母さんは、自分を納得させるかのように、しんみりと呟く。
口ではそう言っても、きっと母の死は私と同様に、相当なダメージを伯母さんに与えているのではないかと思った。
午後になると、納官の儀を執り行なった。
棺桶の中に、母が普段着用していた衣服を何点か置いて、幾つかの花々も所々に配置した。
蓋をして、何か所か釘を打つ度に、新たな悲しみがぶり返してきた。
母は、やはり死んだ。それを、まざまざと思い知らされた。
旅立ちの準備を終えた母は、少しだけ遠くに行ってしまったかのように感じた。
夫と伯母さんと3人で納官を見届けた後、火葬までの間、少し休憩することにした。
「もう、兄弟は私だけになってしまったよ」
伯母さんは、神妙な面持ちで言った。
母は4人兄弟だった。兄と弟は、もう何年も前に亡くなった。
伯母さんは兄弟の中でも、特に姉である母を慕っていたから、喪失感は比べようもないほど深いのだろう。
「伯母さんは、長生きしてね」
私は心底、そう思った。
「さあ、あとどれだけ元気でいれるかな」
寂しそうに、伯母さんは言った。
私は母の兄弟の中でも、伯母さんとは親しくしていた。だから、本当に長生きしてくれるのを望んだ。
斉場に向かう時刻になった。
とうとう、この時が来た。私は身構える。
葬儀社の社員達が、母の棺桶を霊柩車へと運んだ。
私も霊柩車に乗り込み、棺桶の傍のシートに座った。
夫と伯母さんは、夫の車で霊柩車の後ろを付いてくることになっている。
白いカバーで覆われた棺桶を、じっと見つめた。
火葬されると昨夜のように母の顔を見て、話しかけたり触れたりすることは、もうできない。
(母さん、もっと一緒にいたかっね。昨夜は母さんと2人きりで過ごせて満足できたけど。母さんも満足したかな?)
この後、真の別れがやってくる。
母が、母の肉体が無くなるとは考えたくもない。
悲しみと喪失感は、今より更に増すだろう。
それに、耐えられるだろうか?
私はゆっくりと息を吸い、それ以上にゆっくりと息を吐いていった。
斉場に到着した。
試練の最終段階の始まりだ。
生身の母と、今生の別れを体験しなければいけない。
母が火葬されるなんて、これほど残酷で恐ろしいことがあるだろうか。
私は暗澹たる思いで、ホールに足を踏み入れた。
程なくして、母の棺桶の周りに親戚も数名集まってきた。
伯母さんは茫然としたように立ち尽くし、目を潤ませている。
私も既に熱いものが込み上げ、溢れる寸前だった。
できることなら、火葬を中止にしたかった。
母の姪が棺桶の中を覗き込み、母に語りかけた。
「ねぇ、逝くの、まだ早いよ……。」
姪の言葉に、私は心を震わせた。
(そう、母にはまだまだ生きていてほしかった)
皆、順番に母を見つめて、言葉をかけていった。
本当に、これで最後の見納め……。
皆の悲しみをよそに、永遠の眠りに就いている母。
私が引いた口紅が、まだほんのり色づいている。
(イヤだ、イヤだ。もう、母さんの顔が見れなくなるなんて!)
母は、自分がこれから火葬されることなど分かっていないかのように、穏やかに目を閉じている。
やがて、斉場の職員が棺桶に蓋をし、そろりそろりと移動させていく。
棺桶が火葬炉の中に入ると、扉がガタン、と音を立てて閉まった。
ガタン、という音は私の胸に、ずしんと響いた。その重々しい音は、この世から遮断した、という合図にも聞こえる。
隣にいる伯母さんは、目を真っ赤にして閉じられた扉を見つめていた。
私も零れる涙をハンカチで押さえながら、同じ方向を見つめる。
(母さん、私も母さんと一緒に逝きたいよ。
母さん、母さん、母さん、さようなら、母さん……。)
私は両手を胸の前で合わせると、ぎゅっと目を閉じた。
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