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④《最終話》
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***
信じられない。
かつて私の生徒だった相沢カナタがいる。
あの頃と何も変わらない姿で。
忌々しい生徒だった。
相沢カナタは生まれながら声を出せない病気だった。
声が出すことが出来ず、他の園児たちと仲良くなれなかったカナタは一人で幼稚園の庭の草花を見ているのが好きだった。
カナタがずっと一人でいることに痺れを切らした私は強引に集団の中へ入れようと庭で遊んでいる彼を無理矢理引っ張った。
カナタは顔を歪め必死に抵抗する。
そして私の引っ張る腕から自分の腕を引き抜いた。
しかし、運が悪かった。
引き抜いたと同時に自由となったカナタの身体は宙に投げ出され、そのまま大きな岩の尖った先に頭を打ち付け、帰らぬ人となってしまった。
動揺した私はすぐ近くにあった体育倉庫に彼の死体を隠した。
可笑しいことに、それが一番の解決策だと思ってしまったのだ。
体育倉庫は何らかの理由をでっち上げ、すぐに使用禁止にした。
それから私は理事長をたぶらかし結婚に結びつけ園長となった。
園長となれば園の権限も自分に采配される。
そして、何より自分には味方という名の共犯者が欲しかった。
数年後には娘も生まれ、いづれ園に携わらせようとした。
家族でこの罪を背負っていく。
この罪を隠していく。
自分に降りかかる責任を少しでも軽くする。
協力者と罪を共有する。
利用できるものは全て利用すればいい。
そうやって、上手くいっていたのに。
エミさえいなければ。
エミさえこの倉庫に来なければこんなことにはならなかった。
憎しみからかエミを掴む腕には予想以上の力が入った。
気がつくと私はエミを思いきり岩のある方向へ投げ飛ばしていた。
あれはカナタが死ぬ原因となった岩だ。
自分は数十年前と同じやり方で園の生徒を殺そうとしている。
しかし、それは阻まれた。
彼によって。
相沢カナタがここにいる。
あの頃と、全く変わらない姿で。
カナタは静かにこちらをじっと見て、そして口を開いた。
『先生は、どこまでも僕を一人にするんだね』
響く声。
声の発せられない彼の口からは、そう言ったように聞き取れた。
ギィ……、と後ろから音がする。
体育倉庫の扉がゆっくりと開いていた。
何重も鍵をかけた筈の倉庫の鉄の扉はギィギィと開いていく。
扉が開いた先には原形をとどめていない腐敗しきった『彼だったモノ』がこちらを見つめていた。
***
「初園幼稚園、閉園するんだって」
「え! 少子化とかで?」
「それが殺人みたい。園長とその家族がグルで殺害した教え子の遺体を隠してたみたいなの」
「やだ、こわーい……」
「ほんと、教育機関だからって安心して預けられやしない」
ご近所さんたちの間をそろりと静かに通り過ぎる。
自分の通っていた幼稚園の噂をする人物たちの群れに進んで挨拶するほど私に勇気はまだない。
先に駐車場へ行ってしまった母親を少し恨む。
今日から私は新しい幼稚園へ通う。
これから新しい毎日と戦うことになるんだなーと、ちょっと憂うつな気分。
「あ」
駐車場の片すみの緑の群れに私は目をやると、しゃがみこんだ。
「エミー。何してるの。早く行くわよー」
「はーい」
母が急かすので返事をし、車へ向かった。
これから送る毎日は退屈か新鮮か。
『がんばって』
「……ありがとう。がんばるね」
駐車場の片すみに佇む四つ葉のクローバーの方から声がしたような気がした。
青色のリボンをつけたクローバーは風に揺れ、いつまでもエミを見送っていた。
信じられない。
かつて私の生徒だった相沢カナタがいる。
あの頃と何も変わらない姿で。
忌々しい生徒だった。
相沢カナタは生まれながら声を出せない病気だった。
声が出すことが出来ず、他の園児たちと仲良くなれなかったカナタは一人で幼稚園の庭の草花を見ているのが好きだった。
カナタがずっと一人でいることに痺れを切らした私は強引に集団の中へ入れようと庭で遊んでいる彼を無理矢理引っ張った。
カナタは顔を歪め必死に抵抗する。
そして私の引っ張る腕から自分の腕を引き抜いた。
しかし、運が悪かった。
引き抜いたと同時に自由となったカナタの身体は宙に投げ出され、そのまま大きな岩の尖った先に頭を打ち付け、帰らぬ人となってしまった。
動揺した私はすぐ近くにあった体育倉庫に彼の死体を隠した。
可笑しいことに、それが一番の解決策だと思ってしまったのだ。
体育倉庫は何らかの理由をでっち上げ、すぐに使用禁止にした。
それから私は理事長をたぶらかし結婚に結びつけ園長となった。
園長となれば園の権限も自分に采配される。
そして、何より自分には味方という名の共犯者が欲しかった。
数年後には娘も生まれ、いづれ園に携わらせようとした。
家族でこの罪を背負っていく。
この罪を隠していく。
自分に降りかかる責任を少しでも軽くする。
協力者と罪を共有する。
利用できるものは全て利用すればいい。
そうやって、上手くいっていたのに。
エミさえいなければ。
エミさえこの倉庫に来なければこんなことにはならなかった。
憎しみからかエミを掴む腕には予想以上の力が入った。
気がつくと私はエミを思いきり岩のある方向へ投げ飛ばしていた。
あれはカナタが死ぬ原因となった岩だ。
自分は数十年前と同じやり方で園の生徒を殺そうとしている。
しかし、それは阻まれた。
彼によって。
相沢カナタがここにいる。
あの頃と、全く変わらない姿で。
カナタは静かにこちらをじっと見て、そして口を開いた。
『先生は、どこまでも僕を一人にするんだね』
響く声。
声の発せられない彼の口からは、そう言ったように聞き取れた。
ギィ……、と後ろから音がする。
体育倉庫の扉がゆっくりと開いていた。
何重も鍵をかけた筈の倉庫の鉄の扉はギィギィと開いていく。
扉が開いた先には原形をとどめていない腐敗しきった『彼だったモノ』がこちらを見つめていた。
***
「初園幼稚園、閉園するんだって」
「え! 少子化とかで?」
「それが殺人みたい。園長とその家族がグルで殺害した教え子の遺体を隠してたみたいなの」
「やだ、こわーい……」
「ほんと、教育機関だからって安心して預けられやしない」
ご近所さんたちの間をそろりと静かに通り過ぎる。
自分の通っていた幼稚園の噂をする人物たちの群れに進んで挨拶するほど私に勇気はまだない。
先に駐車場へ行ってしまった母親を少し恨む。
今日から私は新しい幼稚園へ通う。
これから新しい毎日と戦うことになるんだなーと、ちょっと憂うつな気分。
「あ」
駐車場の片すみの緑の群れに私は目をやると、しゃがみこんだ。
「エミー。何してるの。早く行くわよー」
「はーい」
母が急かすので返事をし、車へ向かった。
これから送る毎日は退屈か新鮮か。
『がんばって』
「……ありがとう。がんばるね」
駐車場の片すみに佇む四つ葉のクローバーの方から声がしたような気がした。
青色のリボンをつけたクローバーは風に揺れ、いつまでもエミを見送っていた。
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