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 潜入成功したビターだったがほっとしたのは束の間。
 少ししたところで姫たちがおもむろに席を立ち始めた。

「お、おい。全員揃ってどこ行くんだあいつら」
 立ち上がるメルトの裾を引っ張って聞く。
「集団便所?」
「なんか鑑賞会があるらしいわよ。この別荘の中にシアターがあるみたい。そこで皆で映像見るんだって」
「シアターぁぁ?」
 シアターって画面で見る劇場と呼ばれてるアレか。最近金持ちの間で流行してるらしいあの。
 たしか最先端技術を使う国【ロリポップシティ】がカメラという映像や写真を撮れるアイテムを開発したのを耳に挟んだ。
『カメラで撮った映像をシアターの大画面で見るのが乙なのよ』
    数日前、デコレート城に滞在している時、メルトが自慢げにカメラを見せつけながら言っていた。

「ほへぇぇシアターねー」
 言われるがまま姫たちについていきシアターまでの廊下を歩く。
ビターの素っ頓狂な声を聞いてホイップ姫は小ばかにするような笑みを向け言う。

「そうでした。乱入者のトッピング王国は知る由もありませんわよね。お茶会の後半は別荘内のシアターにて鑑賞会をしますの。その際上映する内容は、各国の姫の生活や国内や国民の様子などを撮影した自国のプロモーション映像。私たち姫君は各国との交流のため定期的に自国の映像を撮ってこのシアターで上映して意見を交えますのよ」

「エエエエェ!?  聞いてないよ! なんだそれ!  初耳なんだけど!!」
「なんだそれって、私たちもトッピング王国が参加するなんて初耳ですわよ……」
「(おいメルト! どうすんだよ俺たちそんなもん用意してねェよ!)」
「(知らないわよ。私はちゃんと用意してきたもん)」
「(テメェ自分だけズルいだろ!  教えてくれたってよかったじゃねーか)」
「(奇遇ね!  私もその言葉そのままそっくりお返しするわ)」
ピキとメルトの額に青筋が浮かんでいた。自分たちが勝手にお茶会潜入したことに相当キてるらしい。
「と、とりあえず一回席外すわ」
ちょっと私おトイレーッ!!
そう言って皆と逆の方向へ廊下を走っていった。

***

 姫たちの鑑賞会が終わるまで、各国の執事たちは待機場所である応接間に悠々と過ごしていた。
 朗らかな雰囲気のなか、執事たちはのんびりと自分の国の姫について花を咲かせる。

「うちの姫は……」
「いえいえうちの姫なんて……」
「うちの姫なんてもっと」

 謙遜する態度もののどこの国の執事も自分の国の姫が一番という想いがひしひしと感じられた。
 フィナンシェもそうだ。なんたってメルトが一番かわいい。
(メルト様大丈夫でしょうか)
 ビターとカヌレらしき二人の姿も確認できた。
 不自然な金髪ロール髪の姫がビター、不自然なモジャモジャ頭の執事がカヌレだろう。
 先程カヌレだと思われる方に室内の遠くからお辞儀をすると四十五度のピシッと硬いお辞儀を返してくれた。
 カヌレとフィナンシェは執事室で待機だが、ビターはシアターでメルトと一緒にいるはず。
(あともう少しの辛抱ですよメルト様。がんばって)
 そっと前肢を合わせ、フィナンシェはシアターに行ったメルトの健闘を祈った。

 一方、トッピング王国の執事として参加したカヌレ(偽名クグロフ)は近くに立っていた雰囲気イケメンのマジパン国の執事にぼそぼそ話をふられていた。

「ねぇモジャ男の国の姫はどんな感じなの」
「モジャオ?」
「君のあだ名」
「そうですか」
「モジャモジャ頭パないじゃん。映えるよ。バズり素材だよ君の頭。チックタック撮っとく?」

 バズ……さすが他国との交流。言ってる意味が摩訶不思議。これは学びの機会だ。

「そうですね。うちの姫はとにかくワガママで食いしん坊でスイーツに目がなくて、おまけに目を離せばぐうたらして……」
カヌレは完全にメルトの顔を思い浮かべていた。
「でもとても思いやりがあって心優しい姫なのです。気どらないところも無邪気で素敵ですね。あと気さくで明るい……なにより笑顔が花が咲くように可愛らしい」
 自分が現在デコレート王国の執事ではなくでっち上げのトッピング王国の執事であることをすっかり忘れて語り続けるカヌレ。

「え、笑顔……」
「あの姫が……?」
「ラフレシア?」

 執事たちはカヌレの言葉をすべてビターの顔で再現し困惑していた。

「それと、今は亡き王妃、母君にもとても似ていらっしゃる。母君もとても美しく慈愛に満ちていました。幼いながらも既にその面影が感じられます」

「あの姫の母上……」
 ビターの面影を残してもう一人を複製、さらにワンサイズ大きくした母親を想像する執事たち。
    出来上がった母親像がそっくりな娘を連れてパラリラパラリラ~と執事たちの脳内を走り去っていく。
「いかん幻聴が!」
 ホイップ国の執事が耳を押さえた。
「あのクグロフさん」
 グラニュー島の執事が饒舌に語り続けるカヌレに声をかける。
「それは“貴方の”王国の姫君のことですよね?」
「そうですが……はっ!!」

 やっと己の失態に気づきカヌレは顔を青褪めさせた。
 横を見るといつの間にか隣に立っていたビターが照れるやい、と鼻をかいていた。

「お前じゃなーーいッ!!」
「あいでッ!?  だから何で殴るんだよ!」
「というか何故貴様がここにいる!?」
「ヤバいんだって!!  今からあいつら鑑賞会みたいでカメラ? かなんかで国の様子撮った映像流すっぽい!!」
「なに提出課題だと。メルト様は大丈夫なのか!?」
「ああ。あいつは用意してたらしい(たぶんろくな内容じゃないと思うが)。映像が無いのは俺たちだけだ」
「メルト様……!  すっかり成長なされて……!  カヌレは嬉しゅうございます」
「嬉しゅうございます~じゃねェんだよ!  どうすんだよ俺たち!?  プロモーションなんか撮ってねーぞ」
「そう騒ぐな。録画可能なカメラなら私が持っている。とりあえずそれらしい映像に内容を考えればなんとかなるだろう」
「マジで!?  スゲーなお前。よく持ってたなカメラ」
「メルト様の勇姿を撮るために忍ばせておいたのだ。くっ、致し方ない……」
「よし!  そこらで早く撮るぞ。順番が来ちまう」

 ごめぇんあそばァせ~。

 すたこらさっさとカヌレはビターと共に執事控え室から出ていった。

『(たぶん心配でついてきたんだろうなぁ)』
 二人の様子を見て察する各国の執事たちにフィナンシェはぺこり、とお辞儀をした。

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