スリーピング・サーガ~世界が眠りに堕ちる前に~

秋月流弥

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第5章:英雄の街でアルバイト!

27.ダンス&ハプニング

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『フェアリーステージ』と書かれた店のドアを開けると、「いらっしゃーい!」と明るく弾んだ声が店内に響いた。

「「フェアリーステージへようこそーっ!」」
店内のウェイトレスたちが声を揃えてダミ子たちを出迎えた。
「店内はただいまランチ受付中で~す。夜のショーは八時開演でーす。お客様は2名様ですか?」
「あ、いや、私たちはアルバイトの求人を見て……」
可愛いフリルエプロンを着たウェイトレスがダミ子たちに駆け寄る。その頭には猫耳。
(う、ヤバい。方向性が自分と真逆!  これは間違えたか?)
隣のマースも似たような反応で固まっている。しかし猫耳ウェイトレスはその言葉を聞くと、
「あー!  バイトさんですね!  嬉しいなっ。今店長呼んできますねー」
店長呼ばれてしまった。

もう、ヒキカエセナイ。

「ウチは今“ウェイトレス”と“ダンサー”を募集しててな。ウェイトレス枠が1名。ダンサー枠が2名募集中なんでい」

お店の奥の控え室で店長の話を聞く。

呼び出された店長は可愛いフリフリの従業員と反対に服を脱いだら刺青がビッシリ入ってる系の方だった。面接室が裏の世界の事務所にしか見えない。
「んで、お宅らはどっちの枠に入りたい?」
三白眼の瞳がこちらを見つめる。口から覗くは噛みちぎれそうなくらい鋭い犬歯。

モウ、ニゲラレナイ。

「……ちなみにダンサーっつーのは夜のショーで観客の前で踊ってもらう。ラブリーでバブリー且つ官能的な魅力ある舞を頼むぜ」

黙っていると説明を補足された。

「(……マースくんどっちやりたい?)」
「(ウェイトレスに決まってるじゃないですか)」
「(私もだ。譲れ)」
「(ヤです)」

腹話術並みの小声で話しながら二人はソファの後ろで脇をつつきあう。

「(ゆ・ず・れ!)」
「(い・や・で・す!)」

「……おい、揉めてるのか。なんなら二人仲良くダンサーってのも……」
「「お断りします」」
「そうかい……」
同時に断られ組長店長はしょぼん、と肩を落とした。意外と話しやすい。
「ジャンケンで決めましょう。買った方がウェイトレス。負けた方がダンサーをやるってことで」
「恨みっこなしな」

じゃーんけーん……

バニーガールの姿をしてダミ子は立っていた。
「……」
「何も言うなぶっ飛ばすぞ」
「何も言ってませんよ……」
「ていうか君もなんだその格好は」
「何も言わないでください」

何故かマースもメイド姿だった。

「ウチの店、フェアリーステージでは可愛い萌えをコンセプトにしてんだ。世の連中は癒しに飢えてる。癒すのはなんたって可愛いモノだろ?  だから男だろうと女だろうとこの店で働く以上可愛くいてくれなきゃ困るワケ」
ウサギのぬいぐるみをワイン棚に飾りながら店長は言う。

「可愛いに男女差はないからな。嬢ちゃん生意気なバニーって感じでなかなかいいぞ」
「どーも……」
ヤケ糞気味に礼を言う。胸の空き具合が悲しい。
「兄ちゃんも、おしとやかなメイドって感じでいいぞ」
「うう……募集要項にも女装必須って表記しといてくださいよ……」
目を潤ませる不憫な助手には悪いが店長の言葉も一理ある。確かにそそるものを感じた。
世の中には女性よりも萌え要素のある男子がいる。
「これから仕事着はメイド服にするか?」
「冗談でもよしてください!」
「雑談はそこまでだ。じゃあ早速持ち場についてもらうぞ」

店長が指示を出す。

「兄ちゃんは料理とドリンクの提供……お運びを頼む。昼間はランチを食べに来るお客がほとんどで厨房が忙しい。とにかく空いた皿は下げ料理を運べ」
「わかりました」
「逆に嬢ちゃんは夜から忙しいぞ。ショーがあるからな。今日も夜8時からショータイムだ。残りの数時間、先輩ダンサーを講師につけるから、それまでに簡単な振り付けを覚えてくれ」
「もうショーに出るのか!?」
「ダンサーの数が足りねぇんだ。即戦力だ。まあ気張れや」


「じゃあ最初は簡単な曲から覚えましょう!」

面接室隣にある練習場にて、先輩のバニーガール(グラマラス!)が振り付けを指導され踊らされ三時間。

「ワン・ツー……そうそう!  可愛い!  いいわよ~はい!  そこでウィンク!」
「……(ウィンク)」
バイトしんどい。

そしてショー開演一時間前。
今はショーの時刻が迫るまでお運びタイム。ダンサーもショー以外ではウェイトレスと同じくお運びをする。ただ違うのはダンサーは飲み物……主にアルコールドリンクだけ。あくまでダンサーは踊るのが仕事。

「よォよォねーちゃん」
酒が存在するなら酔っ払いも存在する。
酔っ払い×3に遭遇。
テーブルにビールジョッキを差し出すとさっそく絡まれた。

「それ本物?  胸ぺったんこじゃん!」
「バーカそれは大きいモンに対して聞く言葉だろ!  絶壁に対して言う言葉じゃなーぜ」
「いやーあまりにも平らだから男かと思ったんだよガハハハ!」
「……」
(こっそり)下剤投入。

「「ぐええぇぇお腹痛いーッ!」」

トイレに駆け込む酔っ払い×3。

「ダミ子さん」
「すまんつい」
通りすがりのマースが見逃さなかった。

午後八時。
夜はいっそう賑やかになり、アルコールの匂いと料理の芳香が店中に漂う。酒も入り客の喧騒も一際大きくなる。

「新人ダンサーのポテ子ちゃんでーす!」
「どうもー」

一応ダミ子は伏せて偽名にした。
生涯で源氏名を使うとは思わなかった。
(もーいーや。どうにでもなれ!)
ヤケ糞で踊ってやった。

「あ~……疲れたぁ……」
「お疲れ様です」

地獄のショータイムを乗り越え、バーカウンターの裏の死角を盾に休んでいると、ウェイトレス姿の助手にジンジャーエールの入ったグラスを差し出された。

「本当にお疲れだよ私は……」
「休憩まであと少しですよ。まかない食べ放題らしいですから頑張りましょう」
そう言って隠れるようにマースもジンジャーエールを傾ける。
「まさか、まかない目当てでこんな目に遭うとは……」
ヤンキー座りのままジンジャーエールを喉に流し込む。柄の悪いバニーガールだ我ながら。カウンター裏なので客から見えないのでセーフ。

(ドクダミンP以外の飲み物も悪くないな)
そんなことを思いながら甘い炭酸で喉を潤していると、入り口でカランカランとベルが鳴った。

「あー!  兄さんもうショー終わっちゃってるー!!」

「大声を出すなオレガノ!  まったく。お前がいつまでも観光気分で買い物してるからだろ」


二人してジンジャーエールを噴き出す。

こ、この声は。

「だって可愛いモノたくさんあるんだもん。兄さん、ここのお店も可愛いがコンセプトなのよ」
「なんだかピンクばかりで落ち着かん店だな」

「ほら!  ここのメイドさんだって皆かわいい…………んん?」

マースがカウンター裏スペースに突っ込んできた。
「(押すな押すな!  狭いだろう!)」
「(ダミ子さん自分だけ隠れてズルイ!)」
「(話しかけるな私までバレる!  不自然と思われるだろ!  大丈夫君ならバレない女装してるんだから)」
「(そういう問題じゃなーい!)」
ぎゅうぎゅうと押し合い圧し合いの攻防がカウンター裏で行われていると、目敏く先輩バニーガールがダミ子たちを見つけ注意する。
「なに二人でじゃれあってるの~。イチャイチャも良いけどお客さん入ってきたからお水注ぎにいって」
「あ、いや、でも」
席についたタイムが手を挙げた。

「あ、すいません注文いいですか?」

「ヤバい!  呼ばれてる!」
「ヤバいじゃないでしょ。ほーら、いってらっしゃ~い!」
バニーガール先輩が言うと同時にダミ子は脚で隣のマースを蹴飛ばした。
「(グッドラック!)」
「(裏切り者~っ!)」

よろめきバランスをとるように前進すると、その先にはつい最近再会したばかりの元同僚(とその妹)の姿。
「いらっしゃいませ~。フェアリーステージへようこそ!  ご、ご注文は?」
「えーと、カルパッチョとシーザーサラダを一つずつと、ホーリーバジルのパスタを二つお願いします」
普通に注文するタイム。
気づいてない。鈍い男でよかった。
「ん?」
視線を感じた。オレガノが不思議そうにこちらを見つめていた。
「じーっ……」
何かを感じ取ったのか、注文をとるマースの仕草を蟻の観察をするように瞳をそらさない。
ニコ、と笑ってみせるも冷や汗が流れる。仮にも自分に想いを寄せてる相手に女装姿を見られるのはマースにも堪えた。

「ウェイトレスのお姉さんさー」
「はっ、はい(裏声)?」
「どっかで会ったことない?  なーんかすごい最近見たことある顔してるのよねぇ」
「そ、そうでございましょうか」
「ていうか私の好きな人に似てる」
「おい、オレガノ」
そこでタイムが口を挟んだ。

「失礼だろ。女性に対してマースに似てると言うのは」
「兄さん余計に墓穴掘ってるし。好きな人って言っただけじゃん」
「すまない。男に似てるなんて失礼なことを妹が言って。でも男でも容姿も整ってる方でナヨナヨしてるから女に見えなくもない奴なんだ。許してやってくれ」
お前が一番失礼だろ。
心の中でツッコミを入れるも、
「いえいえ~美人なんて言われたら照れちゃいますー」
微笑み浮かべなんとかその場をやり過ごした。

注文表を持ってテーブルを去ると、カウンター裏からサムズアップをした白い腕がにゅっと生えてきた。
「お疲れ」
「やってくれましたね」
帰還した勇者を称える如く迎える上司にマースは珍しく憎まれ口を叩いた。

***

オレガノは去っていったウェイトレスを目で追っていた。
カウンターから生えた腕と会話するウェイトレス。カウンターからはミルクティー色のウェーブのかかった髪がはみ出していた。
「そういうことね」
オレガノはレモン水の入るグラスを傾けながら呟いた。
「おもしろー。こんな場所でなにやってんだか」

「可憐なお方だ」
「は?」

向かいの兄が惚けた顔でそんなことを呟いたのでオレガノは凍った。
「え?  兄さん気づいてないの?  鈍くない?  ていうか、え、マジ?  マジなの?」

兄と恋のライバル関係を築くのはごめんだとオレガノはテーブルに突っ伏した。
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