片翼で空は翔べるか

秋月流弥

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 それから二ヶ月が過ぎ、六月。
 原稿修正の締め切り日を迎えた。
 「ラストだけは修正を入れずあのままにさせてほしい」そう祝井さんに電話で頼んだ。
 祝井さんは私の電話越しの声に譲れないなにかを感じたのか、思ったよりあっさりと承諾してくれた。こうして校正作業は無事に終えることができた。

 そして夏の暑さ残る初秋の九月頃。
 私の処女作【片翼で空は翔べるか】は発売された。

 作者の名前は天野真琴ではなく星野真実ほしのまみと記されている。ペンネームだ。
 一応本名は避けた方が無難だと思い、直前に祝井さんに頼みペンネームにしてもらった。

 発売日にくーちゃんと一緒に学校帰りに書店へ直行した。
 一目散に小説の並ぶ棚へ向かったが、発売されたばかりの本は新刊コーナーにある事実を小説コーナーを三周してから知り、自分たちがいかに本屋離れしていたかを知らされる。
 新刊コーナーに行くと自分の本が平積みされていた。
 それをを見て胸が熱くなる。
 やっぱりこうして並んでるのを見ると感動するものがあった。
 見本本は出版社から届いていたが、私は一冊をとってお会計へ向かった。後ろの列にはくーちゃんが立っていた。彼は同じ本を二冊持っていた。

 本が発売されてから私の生活が劇的に変わることはなかった。
 実琴の物語はたしかにこの世に羽ばたいた。実琴の人生は物語を通して多くの人に認知されるだろう。
 ひとまず、私の“目的”はここで一段落・・・を迎えたのだ。

 なぜ一段落だって?
 それはこの物語がまだここで終わらないから。

 むしろここからが始まりだった。


***




 時は流れ、小説発売から三年後。

    私たちは桜平坂高校を卒業してそれぞれ別の大学へ進学した。
 私は私立の文系大学……いわゆる普通の四年生大学だ。
 県内だけど自宅から通うには距離があるので大学近くのアパートを借りて一人暮らしに踏みきった。

 そしてくーちゃん。
 彼はなんと、東京の美大へ進学した。
 高校一年のあの雨の日。
 くーちゃんが私に自分の本当の気持ちを話してくれたあの日。
 彼の将来への気持ちは固まった。
 くーちゃんは絵の勉強を必死に始め、高校二年の夏休み頃、東京の美大のオープンキャンパスへ生き、そして高校三年になった春に両親に自分の進みたい道について話した。
 彼の必死の説得を受けて、両親は「お前の進みたい方向へ進め。後悔だけは残すな」と背中を押してくれたという。
 美大の合格通知を貰ったくーちゃんは今までで一番嬉しそうな笑顔を見せた。


 私たちは大学入学後もたまに連絡を取り合っている。
 実習が多いくーちゃんとは滅多に顔を会わせることはないがメールでは元気な文面を見せてくれるから寂しくはない。
 ただ、一人暮らしは未だに慣れなかった。
 実家のように声をかけてくれる母も父もいない。自分が声を出さないかぎり静まり返る部屋に慣れなくてラジオを購入した。初めて賞金で買い物をした。


 ……ここまでがそれまでの話。


 私の物語が再び大きく動き出したのは、一本の電話からだった。


『もしもし天野さん? ご無沙汰してます祝井です。【片翼で空は翔べるか】今現在でも凄い反響よ! 重版も続々とかかってるわ。主に中学生や高校生などの若い世代からのウケが良くてね、ライトノベルはままあることだけど文芸界では珍しいことなのよ。ああ、そうだ! ここからが本題。驚かないでね。なんと【片翼で空は翔べるか】の映像作品化……実写映画化のオファーが届いたの!』


 たぶん今自分は相当まぬけな顔をしているだろう。
 テンション高めの祝井さんとの通話が切れ受話器を置く。
    しばらく電話の前で固まった。

「おぉぅ」

 変な鳴き声が出た。
 今、この瞬間。自分の作品の映画化が決まった。

「映画化って、あの映画館に行って見る大きいスクリーンで見るあれだよね?」
 信じられない。
 私の作品が劇場で公開される。
 今までよりもっと多くの人の目に触れられる。
 しばらく固まっていたら再び電話のベルが鳴った。携帯を見ると祝井さんの名前。
 もしかしてやっぱり間違いだったとか!? 
    もしくは『ドッキリ大成功ー!』というパターンも!?

リリリリリーン!
もう一度電話のベルが鳴り跳び跳ねる。

『ごめんごめん!  大事なこと言い忘れてた。それで今度キャストを決めるオーディションがあるの。原作者である天野さんにもいてほしくて。ある程度ふるいにかけてあるから、後は天野さんがコレと思った役者を選ぶだけなんだけど、待ち合わせは来月十一日の土曜日。午前十時にうちのビルの三階、前に授賞式をやったところね。出版社の場所は覚えてる?』

「は、はい」

    私が返事をすると、
『では来月に!』
    電話が切れた。
    祝井さんは物凄くはりきっていた。

「ていうか、キャストって芸能人だよね。やだ、緊張する」
 今からでもスキンケア頑張らないと。
 くーちゃんに映画化のことを知らせようと電話すると、彼はとても興奮していた。
「凄いじゃんか! 真琴サイン貰ってきてよ。色紙渡すから! 十枚で足りる!?」
「イヤ」
 丁重に断った。
 だから私も緊張するんだってば。


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