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第一章【プロローグ:旅立ち】
プロローグ【死の淵で蘇る記憶】
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「━━━━━━」
とある村で、一人の少年が原因不明の病により死の淵にいる。ベッドの上で息を荒くし、病に伏した少年━━シュウ・ヴァイスは意識が混濁しており、既に3日もの長い時間、碌に喋ることもできていなかった。
「シュウ!頼む、頑張ってくれ!」
「シュウの容態はどうなんですか?」
彼に励ましの声を掛けるのは父親のヴァン・ヴァイス、医療魔導士のダルに心配そうに質問をするのは母親のリサ・ヴァイスだ。
「これは……かなり危険な状態だ。このままだと彼の命は、あと数日かもしれない。それでも分からないんだ。何が原因でこの子がこんなに苦しんでいるのか」
「そんな……私達が頼れる医療魔導士はダルさんだけなんです。どうかお願いします。この子を助けてください」
リサがダルに懇願するのも、彼らがとある理由から、ダル以外の医療魔導士を呼べないことが理由である。それでも当の本人であるダルの表情は険しく、彼らに希望を伝えることができずにいた。
「正直に言うと、原因が全く分からないから、手の施しようがないんだ。体内の臓器と彼の魔力に問題はないし、魔力回路は少し変わってはいるが、それでここまで具合が悪くなるなんてあり得ないんだ。だから、俺にできることは、この子の体力回復させる意外にはないんだよ」
ダルがこれを苦しんでいる子供の前で言ったことは、彼が医療魔導士としての敗北宣言と同義だった。彼は今のシュウの容態を治療することは間接的に不可能だとヴァンとリサに告げたのだった。
そんなダルの言葉を聞いて絶望しかけるリサだったが、父親のヴァンはリサの肩を抱き彼女を励まし続ける。
「シュウなら大丈夫だ!すぐに元気になるさ!シュウは俺達の子供なんだぞ!こんな病気なんかに負けるはずがない!」
彼が言っていることは、実際にはただの精神論であり、根拠も何もない。それでも彼はシュウの父親として、最後まで決して諦めない意思を示し、彼女もそれを理解した。今ここで彼らが絶望したところでシュウの容態は良くならない。ならば彼らがやるべきことは、自分達の子を信じ、声をかけ続けるだけだ。
「……そうね、今はシュウを信じて、声をかけ続けましょう。ダルさん、今日はありがとうございました」
「いや、気にしないでくれ。親友のヴァンの頼みなら何時だって来るさ。それと、リサさんは定期的に、この子に治癒魔法をかけてあげてくれ。それじゃあな、ヴァン、リサさん」
ダルが家を去った後、ヴァンとリサは1日中看病をし続けた。ヴァンはシュウに励ましの声を、リサは治癒魔法をシュウにかけ続けた。
その甲斐もあり、その日の夜、シュウの容態は僅かながら回復したのであった。
「お父さん……お母さん……」
「「シュウ!!」」
約3日ぶりにシュウは会話ができる程度まで容態が回復したのだった。顔は紅潮しており、目も虚ろだ。それでも3日ぶりに息子の声を彼らは聞く。
「具合はどうだ?心配するな!すぐに良くなるぞ」
「何か食べたい物や、飲みたい物はある?お母さんがすぐに用意するわよ?」
「……大丈夫だよ」
慌てる2人をよそに、シュウは2人を虚ろな目で天井を見つめながらゆっくりと喋り始めた。
「今日、僕、夢を見たんだ」
「そうか、どんな夢を見たんだ?」
「なんだか、見たこともない……知らない場所で……僕が暮らしているんだ」
小さな声で話し続けるシュウの話を、両親は微笑みながら聴き続ける。愛する息子の言葉を一言一句聞き逃してはならないと、静かに耳を傾ける。
「そこに……知らない友達もいて。楽しく……遊んでる」
シュウが言っていることは、ヴァンとリサは完璧には理解できなかった。それでも彼らは自分達の息子の口で紡がれる言葉を聞き逃すわけにはいかなかった。彼らは否定し続けているが、無意識のうちに、これがもしかしたら最期の彼の言葉なのではないかと思っていたからだ。
「友達が、そこだと、僕の……違う、名………で」
「シュウ?」
「でも、楽し……なく……て、悲し……寂し……だ」
「シュウ、眠いのか?」
「か……さ、ねえ……みん、な……しん……で」
元々虚ろな目と、曖昧な意識で喋っていたシュウの言葉が、これまで以上に途切れ途切れとなり、何かを喋っているのは分かるが、理解はできない。それ程までに彼の意識は既に混濁していた。本人でさえ自分が起きているのか、寝ているのかわからない程に。
「あの……ねこ……あぶな………くる…………ま……」
「シュウ!」
「あ、ぼく……は、ゆ……と」
そして、シュウは目を閉じた。一瞬シュウが死んでしまったのではないかと思い、焦るヴァンとリサだったが、ここ3日間と違い、気持ちよさそうに寝息をたてるシュウを見て彼らは安心した。
ヴァンとリサは、シュウは久しぶりに喋り、疲れて眠ってしまったのだろうと思い、交代で看病をしつつ、夜が明けたのだった。
そして、それから5日間、シュウは目を覚まさなかった。
とある村で、一人の少年が原因不明の病により死の淵にいる。ベッドの上で息を荒くし、病に伏した少年━━シュウ・ヴァイスは意識が混濁しており、既に3日もの長い時間、碌に喋ることもできていなかった。
「シュウ!頼む、頑張ってくれ!」
「シュウの容態はどうなんですか?」
彼に励ましの声を掛けるのは父親のヴァン・ヴァイス、医療魔導士のダルに心配そうに質問をするのは母親のリサ・ヴァイスだ。
「これは……かなり危険な状態だ。このままだと彼の命は、あと数日かもしれない。それでも分からないんだ。何が原因でこの子がこんなに苦しんでいるのか」
「そんな……私達が頼れる医療魔導士はダルさんだけなんです。どうかお願いします。この子を助けてください」
リサがダルに懇願するのも、彼らがとある理由から、ダル以外の医療魔導士を呼べないことが理由である。それでも当の本人であるダルの表情は険しく、彼らに希望を伝えることができずにいた。
「正直に言うと、原因が全く分からないから、手の施しようがないんだ。体内の臓器と彼の魔力に問題はないし、魔力回路は少し変わってはいるが、それでここまで具合が悪くなるなんてあり得ないんだ。だから、俺にできることは、この子の体力回復させる意外にはないんだよ」
ダルがこれを苦しんでいる子供の前で言ったことは、彼が医療魔導士としての敗北宣言と同義だった。彼は今のシュウの容態を治療することは間接的に不可能だとヴァンとリサに告げたのだった。
そんなダルの言葉を聞いて絶望しかけるリサだったが、父親のヴァンはリサの肩を抱き彼女を励まし続ける。
「シュウなら大丈夫だ!すぐに元気になるさ!シュウは俺達の子供なんだぞ!こんな病気なんかに負けるはずがない!」
彼が言っていることは、実際にはただの精神論であり、根拠も何もない。それでも彼はシュウの父親として、最後まで決して諦めない意思を示し、彼女もそれを理解した。今ここで彼らが絶望したところでシュウの容態は良くならない。ならば彼らがやるべきことは、自分達の子を信じ、声をかけ続けるだけだ。
「……そうね、今はシュウを信じて、声をかけ続けましょう。ダルさん、今日はありがとうございました」
「いや、気にしないでくれ。親友のヴァンの頼みなら何時だって来るさ。それと、リサさんは定期的に、この子に治癒魔法をかけてあげてくれ。それじゃあな、ヴァン、リサさん」
ダルが家を去った後、ヴァンとリサは1日中看病をし続けた。ヴァンはシュウに励ましの声を、リサは治癒魔法をシュウにかけ続けた。
その甲斐もあり、その日の夜、シュウの容態は僅かながら回復したのであった。
「お父さん……お母さん……」
「「シュウ!!」」
約3日ぶりにシュウは会話ができる程度まで容態が回復したのだった。顔は紅潮しており、目も虚ろだ。それでも3日ぶりに息子の声を彼らは聞く。
「具合はどうだ?心配するな!すぐに良くなるぞ」
「何か食べたい物や、飲みたい物はある?お母さんがすぐに用意するわよ?」
「……大丈夫だよ」
慌てる2人をよそに、シュウは2人を虚ろな目で天井を見つめながらゆっくりと喋り始めた。
「今日、僕、夢を見たんだ」
「そうか、どんな夢を見たんだ?」
「なんだか、見たこともない……知らない場所で……僕が暮らしているんだ」
小さな声で話し続けるシュウの話を、両親は微笑みながら聴き続ける。愛する息子の言葉を一言一句聞き逃してはならないと、静かに耳を傾ける。
「そこに……知らない友達もいて。楽しく……遊んでる」
シュウが言っていることは、ヴァンとリサは完璧には理解できなかった。それでも彼らは自分達の息子の口で紡がれる言葉を聞き逃すわけにはいかなかった。彼らは否定し続けているが、無意識のうちに、これがもしかしたら最期の彼の言葉なのではないかと思っていたからだ。
「友達が、そこだと、僕の……違う、名………で」
「シュウ?」
「でも、楽し……なく……て、悲し……寂し……だ」
「シュウ、眠いのか?」
「か……さ、ねえ……みん、な……しん……で」
元々虚ろな目と、曖昧な意識で喋っていたシュウの言葉が、これまで以上に途切れ途切れとなり、何かを喋っているのは分かるが、理解はできない。それ程までに彼の意識は既に混濁していた。本人でさえ自分が起きているのか、寝ているのかわからない程に。
「あの……ねこ……あぶな………くる…………ま……」
「シュウ!」
「あ、ぼく……は、ゆ……と」
そして、シュウは目を閉じた。一瞬シュウが死んでしまったのではないかと思い、焦るヴァンとリサだったが、ここ3日間と違い、気持ちよさそうに寝息をたてるシュウを見て彼らは安心した。
ヴァンとリサは、シュウは久しぶりに喋り、疲れて眠ってしまったのだろうと思い、交代で看病をしつつ、夜が明けたのだった。
そして、それから5日間、シュウは目を覚まさなかった。
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