この過酷な異世界は君だけには優しい~不死の力で生き抜く英雄~

東雲潮音

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第一章【プロローグ:旅立ち】

第一章18【運命の分かれ道】

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「どうだ、シュウ?装備の調子は?何か不具合があったら言ってくれ」

「凄い!初めて着るとは思えないくらいです!ありがとうございます、ボルクさん」

 翌日、シュウはボルクの鍛冶屋に来て装備を受け取っていた。綺麗に研がれた剣に、シュウの体型に合わせて調整された鎧。正直、未だにFランクである自分には勿体ないほどだとシュウは感じるが、それも今日までだ、

「それで?今日は依頼に行くのか?」

「はい、今日はランクアップのために高いランクの依頼をやろうと思っています」

「そうか!まあ、お前なら心配いらないだろうな!俺が作った物を装備しているし、なによりヴァンとリサの息子だ!頑張って来いよ!」

「はい、ありがとうございます!」

 ボルクの鍛冶屋を後にするシュウ。依頼は既に受注したので、目指すはいつも通りエストの森だ。シュウは独りで森を目指す。今回は久しぶりの独りでの依頼だ。独りでの討伐なら、ギルドにランクアップの際の文句は言われないだろうとの理由もあるが、今回、シュウが独りなのはそれだけではない。とある出来事が原因だ。
 その原因は、今朝まで遡る。



 * * * * *



「シュウ?今日こそは、ランクアップの為に依頼をやるのか?」

「うん、まずはボルグさんの所に行って、それから依頼をやるつもりだよ」

「なるほど、お前ならEランクになれるさ!なんたって我が息子だ!」

「そうねー、シュウならEランクどころか、お父さんとお母さんを越えて、Aランクまでいっちゃうんじゃないかしら。あら、ヒスイちゃんもおはよー」

 父さん、母さんと朝食を取りながら今日の予定を話す。母さんは昨日から家に来たヒスイと仲良く遊んでいる。今まで猫は飼っていなかったが、母さんも父さんも猫が好きだったようで、ヒスイのことを気に入ってくれたのは幸いだ。

 ちなみに今日こそは、必ずランクアップをしてみせる。まずはランクだけでも肩を並べないと、彼女には決して届かないのだから。だが、自分が目指すのはEランクでもなければCランクでもない。なんならランクなど関係ない。英雄にランクなど関係ないのだ。だから出来る限りのことをするしかない。

「シュウ?どうしたの?」

「どうした?依頼に向けて緊張でもしているのか?」

「ん、ちょっと考え事してただけ、大丈夫だよ」

 まだ自分はFランクなのだからもう少し冷静に考えた方が良いだろう。まずは着々とランクを上げるところから━、
 
 深く考えていると家の扉がノックされた。いつものパターンならここで来るのは、

「おはようございます、今日もいい天気ですね」

「おはよう、ミラちゃん」

「おはよう、そうね、いい天気ねー」

 当然ながらミラだ。いつも通り来た彼女だが、なんだかいつもと様子が違う気がする。それでも彼女は、いつも通りの元気さで、自分に「今日も一緒に依頼を頑張ろう」と言うだろう。

 そんなミラは呑気にヒスイに触れようと奮闘している。それでもやはり、ヒスイの警戒心は高く、未だに彼女は近づくことすらできていないようだ。そんな彼女はこちらに背を向けたまま、

「まあ、いいや、それじゃあ今日も一緒に……ゴホン、依頼を頑張ろうか!」

「……」

「あれ?シュウ?聞いてる?ゴホン、今日も一緒に依頼をがんばろーって言ったんだけど?聞いてなかった?」

 流石におかしい。まさか、こいつ。

「おい、ミラ」

「え?何?」

「ちょっと、こっちこい」

 手招きをするとこっちに来るミラ。心なしか、いつもより顔が赤い気がする。

「お前、風邪ひいてるだろ」

「えー!?そ、そんなことないよー!私、元気一杯だヨ!」

 何か焦っているのか、瞳が泳いでるミラ。嘘をつくのが下手な幼馴染だ。

「お前は今日、村で休んでろ」

「えー!?やだ、私も行く!!!」

「今、薬飲んで休めば、午後には風邪は治るだろ。安静にしてなさい」

 ミラは目で拒否を示している。これは何とか理由付けをするしかない。
 何かないか……そうだ、

「そう!今日、俺はランクアップするつもりなのはミラも知ってるだろ?。ミラにはお祝いの夜御飯の用意をして、俺を待っててほしいんだ!」

「お祝いの用意?私が?」

「今、休めば、午後には治るだろうし。準備もできる!この前の食事の時は、ミラは不満そうにしてただろ?だからお互いにEランクになった記念に皆で祝おう!今回は俺達だけじゃなくて、フランおばさんに父さんと母さんも一緒だ!」

 ミラが「皆でお祝いか」と呟いている。彼女がEランクになった時は、自分は昇格できなかったので彼女は不満そうだった。だが今回自分がEランクになり、家族皆で祝うことになるのなら、彼女も喜んで用意をするはずだ。

「だからさ、頼むよ?今日だけは、独りで行かせてくれないか?」

「うーん……仕方がないな!じゃあ、今日は私が夜ご飯を作って、シュウの事を待っててあげるよ!美味しい物、沢山作っておくから期待して帰ってきてよね!ゴホン」

「ああ、ありがとう、ミラ。取り敢えず、一回家に帰って休もうな?」

 用意をすると決めたミラは、嬉しそうに母さんと話している。

「それじゃあ、リサおばさん!お母さんと一緒に何を作るか決めましょう!」

「そうねー、今日は豪勢にしましょうね。でもその前にミラちゃんは、一回薬を飲んで休んできてね?」

「はい……わかりました。あ、でもその前に、ヒスイちゃーん、元気ですかー?痛っ!やっぱりだめかー」

 後ろから忍び寄り、ヒスイの事を抱こうとしたミラだったが、ヒスイに察知され、またひっかかれている。彼女がヒスイと仲良くなるにはもう少し時間が必要なようだ。

「よし、それじゃあ、俺は行ってくるよ」

「あ、まって、シュウ」

 家を出ようとしたら、珍しく母さんに呼び止められた。振り向くと、母さんが抱えてたヒスイの腕を掴み、振りながら微笑んでいる。

「いってらっしゃい」

 母さんの声に合わせて、ヒスイが鳴く。出会ったのが昨日なのに、こんなに仲良くなっているとは。母さんは誰とでもすぐに打ち解けられるが、それが人だけでなく、猫も含まれるとは。本当に凄い母親だ。

「うん、行ってきます」



 * * * * *




「依頼の討伐対象、Eランク、ビッグヘルシュヴァイン」

 今日の討伐対象は名前の通り、通常よりも大きな個体のヘルシュヴァインだ。ただ大きいだけでなく、常に数匹のヘルシュヴァインを子分として連れ歩くため、脅威度は普通のヘルシュヴァインとは比較にならない。油断せずに行かなければ、

「あれは、ヘルシュヴァインの死体、それに足跡か?」

 道の脇に、ヘルシュヴァインの死体と、その先に続く不自然な足跡があった。大きさ的にビッグヘルシュヴァインとその子分である可能性が高いが、何かが変だ。

「足跡が、重なってない?」

 奴らの生態はギルドの本で調べてきた。奴らは自分達の数を知られないように、縦に並んで動くらしいのだ。先頭のビッグヘルシュヴァインの大きな足跡に重なるように、子分が歩き戦力を隠蔽する。それが奴らの知恵のはずだ。

「何かに追われている」

 足跡から見るに、自分達よりも強い冒険者に追われているのだろう。冒険者の足跡も、森の奥へと続いて行っている。
 
 これは厄介だ。仮に追っているのが冒険者の場合、彼らに魔物が先に討伐されてしまったら、依頼は失敗となってしまう。そうなると当然ランクアップも不可能だ。どうにかして先にビッグヘルシュヴァインを討伐しなければ。

「誰かー!!!!!」

「っ!なんだ!?」

 足跡が続く先から人の声が聞こえる。助けを求める声だ。まさか油断してビッグヘルシュヴァインにやられたのか。助けに行かなければ。

 森を駆け抜け、声のする方へと突き進む。先へ進むと、以前ギフトスネークと闘ったような、切り開かれた空間にたどり着いた。そこには冒険者が一人倒れていた。冒険者は片腕がちぎれており、そこから血が流れ出ている。

 シュウはすぐさま駆け寄り、回復薬を手渡す。

「おい!大丈夫か!」

「あ、ああ、すまない」

 回復薬を何とか飲むも、震えが止まらない様子だ。ここには彼一人しかいないが、他のパーティメンバーは既にやられてしまったのだろうか?

「他の仲間は?」

「━━、皆、殺されたよ」

 震えた声でいう冒険者。今ここには魔物はいないが、一体何に、

「ビッグヘルシュヴァインか?」

「違う、俺達は、ビッグヘルシュヴァインを追いかけてたんだ。それで、ここまで奴を追い詰めて、討伐しようとして……そしたら、」

 震える声で喋る冒険者が言葉を止め、息を吞む。何かがこちらに近づいてきているのが分かる。

「あれは……」

「あ、あいつだ!あ、あれに俺の仲間は!」

 茂みの向こうから魔物が出てきた。それはビッグヘルシュヴァインかとシュウは思った。だが、それは違った。あれは、ビッグヘルシュヴァインの死体。死体を咥えながら、何かがこちらに近づいてきている。

 それは巨大な熊。シュウの2倍近くはありそうな巨体をした熊だ。毛皮は赤黒く、魔物と冒険者を喰らったのであろう口元は血で真っ赤に染まっている。

「おい、さっさと逃げろ」

「え?で、でもあんたは、」

「どうせ2人同時には逃げられないし、あんたは片腕がない。俺が時間を稼ぐ。早く行け、助けを呼んで来い」

 こちらに謝罪をしながら去っていく冒険者。彼が助けを呼んで来るまでは、何とかここで持ちこたえなければいけない。こうなったら自分はこいつから逃げられない。逃げられるはずがない。なにせこいつは、

「━━、Cランク、フラムベアー」

 これは、本当に笑えないぞ。
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