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第一章番外編【エスト村】
第一章番外編3【エストの虐殺】
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「━━━ぁぁ、だれ、か」
戦場は静まり返っていた。胸を貫かれ、今にも消え入りそうなリックの声が妙に明瞭に聞こえる。ミラとしても本当は、今すぐにでも彼の事を助けてあげたい。
それでも、倒れたリックの後ろにいる男から目を離すことができない。それは自分だけでは無く、この場にいる全員が同じだった。
「ん?どうしたの、皆そんなに固まっちゃって。もしかして、僕らを見るのは初めてだったかな?だとしたら変な印象を与えるような登場をしちゃったかな」
全員が固まる中、一人だけ楽しそうにしゃべる男。この男が、仮に敵であったとしても、人族ならば、自分も即座に対応してただろう。
それができない、なぜならこの男は、
「貴様!!!よくもリックを!!!死ね!!!」
「待て!独りで突っ込むんじゃない!」
制止するヴァイスの言葉も無視し、激昂して飛び込む村の兵士。彼は突進した勢いでその男、魔族に斬りかかる。
「ちょっと!何すんのさ。いきなり殺そうとしてくるなんて。余りにも野蛮じゃない?」
「黙れ!!!この魔族が!!!死ね!!!」
「魔族って、君達は人族って呼ばれて嬉しいの?僕にだって名前くらいはあるんだから、」
「黙れ!!!」
兵士が斬りかかるも、それを全て躱しながら魔族の男は話を続ける。実力が自分とはかけ離れていることをミラは実感する。
魔族の男は、兵士の剣を暫く避け続けていたが、「もう、いいよ」と一言だけ言うと。
「人の話も聞けない奴は、もういらないよね」
剣を躱すと同時に腰から抜いた剣で、兵士の身体を下から上に、斜めに向かって両断する。声もなく倒れる兵士。まさに一瞬の出来事だった。魔族は特に何てことも無いように、2人の兵士の命を奪ったのだった。
「あー汚いなー。それで、まだやるの?」
両断した遺体を踏み服を血で濡らし、不満げながらも、こちらに笑いかける魔族。
「━━、わかった。君は、話がしたいのか?まずは名前を聞かせてくれないか」
静かに問いかけたのはヴァンだ。首筋に脂汗を搔きながらも、場を何とか落ち着かせるため、まずは冷静に声をかける。彼としても、これ以上誰かが無謀に突っ込むのは避けたかった。
「なんだ、話ができるじゃないか。あ、でもちょっと待っててね。死体が汚いからさー。ちょっと燃やしちゃうね。」
炎を放ち、死体を燃やす魔族。だが炎が強すぎるため、家にも燃え移り、村の家が燃えていく。
「もう、最初っからそう言ってくれれば、僕だって余計に君達を殺す必要は無かったのに」
「っ!!!何を馬鹿なことを、そもそも貴様が先にリックを━━、」
「まて、落ち着くんだゲイン。俺の名前は、ヴァン・ヴァイスだ。改めて聞こうか。君の名前は?」
「いいねー、話ができるってのは素晴らしいね。あ、僕の名前はリュウって言うんだ。よろしくね」
声を上げる兵士、ゲインを制止し、会話を続けるヴァン。リュウと名乗った魔族の男の目的は、未だに不明だった。不意打ちで一人を殺し、更に激昂して斬りかかった兵士までも両断したにもかかわらず、自分達と会話を望む。明らかに異常だ。
「そうか。それで、リュウ、君達の目的はなんだ?」
「目的か、まあ強いて言うなら、暇つぶしみたいな物なのかな。仲間とゲームをしてるんだよね」
仲間の兵士を2人殺されたにも関わらず、魔族を相手にヴァンは静かに会話をしている。しかも、相手が単独ではないという情報を引き出したことにミラは気付く。
これが、経験豊富なBランク冒険者。このまま会話を通して状況を打破できれば、
「そうか、仲間がいるのか。どんなゲームをしているんだ?」
「それは何人━━、人族を殺せるかだよ」
そう言った瞬間、リュウはこれまでの雰囲気を捨て、兵士達に突進する。会話の中で油断をしていた兵士が2人。彼に首を刎ねられ死亡する。頭の無くなった身体が倒れこみ、地面を鮮血で赤く染める。
「っ!!!貴様、卑怯な真似を!!!」
「卑怯ってなんだよ、こっちがちょっと話そうって言っただけですぐに油断して。そんなんでいいと思ってるの?ヴァン・ヴァイスって人は僕と話してても全く警戒を緩めなかったよ?」
「うわぁぁ!!」
「ひっ、た、助け、」
先程までの笑顔が嘘のように、無表情で兵士と村人を切り刻んでいくリュウ。そんなリュウと一瞬目があった気がした。
「━━ひっ」
だめだ脚が動かない。ミラは恐怖で身体を動かせずにいた。
あれが魔族。想像していたよりも遥かに残酷で、残忍だ。自分達の命をその辺の虫たちと、同じようにしか考えていないようなあの瞳。瞳が合った瞬間、まるで自分の心臓を握りつぶされたかのような感覚だ。あ、また瞳が合って、
「そうやって、怯えているだけじゃ、殺されるだけだよ」
魔族がこちらに接近してくる。駄目だ、まだ脚が動かない。このままじゃ殺され、
「ミラちゃん!!!」
動けなかったミラを庇ったのはリサだ。弓ではなく。近距離戦闘用の短剣を構えたリサがリュウと対峙する。
「君は、結構いいね。場数を踏んでる。その雰囲気でわかるよ」
「貴方に褒められても何も嬉しくないわよ。それで貴方が言っていた、お仲間さんはどこにいるのかしら?」
「もう少ししたら来るんじゃないかな。ほら、来たよ」
「え?どういう……事なの」
ミラは自分の目が信じられなかった。新たな魔族が、多くの魔物を引き連れてやってくる。だがおかしい、どうして、正門からではなく。村の中から来たのか?それではまるで。
「ウィル、遅いって。もう何人か殺しちゃったよ。僕の勝ちでいいんだよね?」
「リュウ、同意もしていない勝負を勝手に始めるのは止めろ。思ったよりも、人が多かった。それで時間がかかったんだ」
ウィルと呼ばれた魔族は何と言ったのか。思ったよりも、人が多かった。しかもあの魔族は村の正門の反対の方向から来た。まさか、あっちに行ったクー、お母さん。皆あいつに、
「ミラちゃん!!!」
大きな声で呼びかけられ、はっとする。リサがこちらの瞳を覗き込んでいる。
「……リサおばさん、でも皆が」
「いまは、自分の事だけを考えなさい。自分が生き残るのを考えるのよ」
リサの言葉で現実に戻される。今は生きなければいけない、村の反対側に行った皆が全員殺されたかどうかなんて、まだわからない。だったら自分が生き残って、確認するしかない。だから、今は生き残ることだけを考えよう。
「そうそう、頑張って生き残ることを考えなよ。僕達に殺されないようにね」
「貴方達は、随分と余裕そうね」
「ん?まあ君達には負ける気がしないからね」
「貴方が言ったのよ。油断するから寝首を掻かれるって」
「はぁ?それはどういう━━、」
その瞬間、リュウが何かに大きく吹き飛ばされる。そのまま吹き飛んでいったリュウは、その先にあった家を突き破り、外壁に激突する。
「はぁ、馬鹿が。お前はすぐに油断する。いい加減学習しろ、リュウ!」
残っていたもう一人のウィルという魔族に、誰かが横から斬りかかるが、ウィルは素早く剣を抜き対応する。斬りかかったのはヴァンだ。忍び寄っていたヴァンが不意打ちを喰らわせたのだった。
ヴァンの剣を防いだウィルは一度距離を取る。彼は新たに来た、リュウを吹き飛ばした男を警戒しているのだろう。歳は取っている顔つきだが、その鋼のような筋肉に覆われた全身からは闘気に溢れており。タダ者ではない雰囲気を纏わりつかせている。
そんな彼を見て、ヴァンは笑う。まるで、ここからが反撃かのように、表情が安堵と自身で満ちている。
「遅かったじゃないですか、会話しての時間稼ぎにも限界があるんですよ。しっかりしてください」
「うむ、すまない。ワシのせいで皆に迷惑をかけたが、ここまでじゃの。かっかっか!!!!」
ようやく来た。ジャンはここには来ていないが。彼が呼んでくれたこの村で一番強い人が。ようやくだ。
恐らくここに来るまでにその素手で魔物達を蹴散らしてきたのだろう。その両手は真っ赤に染まっている。状況によってはその両手は恐怖だが、今この場では頼もしい。
「俺とリサ、それにミラはこの魔族を抑えます。村長と他の皆は魔物を!!!」
「かっかっか!!!任せておけ!!!」
「3人で俺を抑えられると思っているのか?」
「できるわよ、彼と私、それにミラちゃんならね」
自分にできるだろうか、先程まで魔族に怯え、身体を動かせなかった自分などに、あの二人と肩を並べて戦うことができるだろうか。
いまでも魔族は怖いし、震えが止まらない。それでも、
「シュウだったら、絶対に引かない、よね」
頭に浮かぶのは、自分の幼馴染の少年。どんな状況でも諦めることを知らない、英雄を目指す少年だ。
「そうだ!ミラちゃんやるぞ!!!」
何としてでもあの魔族を倒してみせる。でなければシュウにあわせる顔が無い。守ってみせるんだシュウと私達の村を。
「━━、はい、はい、わかりました」
ウィルと呼ばれた魔族は光る何かを手に持って、恐らく誰かと会話しているのだろう。見たことのない物だが魔導具の一種か何かだろうか。
「━、了解しました、では。っち、面倒だ。おい!!!リュウ!!!まだ死んでないだろうな!!!」
「うん、まだ生きてるよ。かなり効いたけどね。心配してくれるなんて優しいじゃん」
村長に殴られ、吹き飛ばされたリュウがこちらに戻ってくる。このままではまずい。魔族1人相手なら、自分達で何とかできるかもしれないが、2人となるとかなり厄介だ。
「ベロニカ様からの命令だ!いまここの近くを通りかかった行商人の馬車を始末してこい。奴らがこちらに気付き、街に引き返している!増援を呼ばれるのは厄介だ」
「えーそれ別に、ウィルがやればよくない?」
「黙れ!!!ベロニカ様の命令だ!!!」
「はぁ、わかったって」
ウィルに叫ばれたリュウは正門から外に向かって走り去ってしまった。これはチャンスだ、魔族一人相手ならなんとかなるかもしれない。
「お前は、さっきのリュウってやつに比べると、まともみたいだな」
「あんな奴と一緒にされるのは心外だ。リュウは実力はあるが、ただの馬鹿だ」
「━━、それはつまり、お前はあいつより弱いってことでいいんだよな?」
「舐めるなよ、人族が」
「いくぞ、リサ、ミラちゃん」
ミラ達の戦いが始まった。ヴァンが剣で斬りかかり、ウィルが防御をする。剣を弾き返し、ウィルが距離を詰めようとするが、ヴァンが魔法で石の礫を放ち、牽制する。
「ちっ!」
距離を開けられたウィルは狙いをリサとミラに移し、風魔法を放つ。だが、それを事前に察知したヴァンが射線に魔法で土壁を作り、彼女たちを守る。
次の瞬間、ヴァンが一瞬リサに目配せをして、再びウィルに接近して斬りかかる。
「ミラちゃん、魔法お願い!形状は細長くして、狙いはヴァンの背中!」
「は、はい!」
リサに指示をされ、ミラは炎の形を変化させ、炎の槍をヴァンに向かって発射。
「なにっ!」
事前に目配せをして、タイミングを計っていたヴァンは、魔法が到達する直前に横に跳び射線を作る。直前までヴァンが背中によってウィルの視界から隠していた炎の槍を間一髪の所で躱すウィルだが、回避先にリサが弓を放つ。
頭に向かって放たれた弓を剣でギリギリ迎撃するウィルだが、そこに息をつく間もなくヴァンが魔法を放ちながら接近し、斬撃。
ヴァンが剣で接近戦を挑みながら、リサとミラが弓と魔法で援護をする。戦っていてわかる。ウィルは確かに、リュウに比べると戦いは苦手みたいだ。
「っち、小癪な!」
弓と魔法を潰すため、彼女達に狙いを変えようとするが、ヴァンがそれを許さない。戦況はかなり有利になりつつある。
一方で、
「かっかっか!!!行くぞ、皆の衆!!!ワシについてこい!!!」
「「「はい!村長!」」」
村長と兵士達が魔物を相手にしているが。村長の強さが圧倒的だ。彼は武器も使わずに、その両腕のみで、強力な魔物を殴り飛ばしている。村長が強力な、そして兵士達が他の魔物を相手にすることで魔物達を押し返している。
「くっ!あの人族は想定外だ!」
「うちの村で一番強いのは村長なんだよ!ミラちゃん!いまだ!」
「はぁぁっっ!!!!!」
ヴァンが稼いだ時間を使い、溜めた魔力を一気に開放する。ミラの周囲に10本を優に超す数の炎の弓が現れ、ウィルに降り注いだ。
「くそっ!」
殆どの炎の弓は回避、または迎撃されてしまったが、彼の身体も1つだ。数には敵わない。数本の弓が直撃し、ウィルの脚を貫く。これで奴の機動力は大きく落ちたはずだ。
「いくぞ、リサ!一気に攻め込むぞ」
「ええ!」
機動力が落ちたウィルを攻め込むため、リサも短剣を装備し、ヴァンと共に接近戦を仕掛け、勝負をかける。今はここにいないリュウが帰ってくる前に何としても決着をつけなければいけない。
「くそ、こんなはずでは」
2人に攻め込まれ焦りの色を隠せないウィル。2人の後ろで、ミラはいつでも魔法を放てるように魔力を高める。ここで一気に決めるしかない。3人が同時に思った、
「そ、村長!!!!!」
そんな3人の思考を叫びが乱す。思わず一時的に攻撃を止めたヴァンとリサ。同じくミラは、魔物を相手にしていた村長と兵士たちを見る。
「そ、そんな。村長が」
兵士達が震えている。その言葉からも絶望的な感情が伝わってくるほどだ。そんな兵士達の目線の先で村長が、魔族の女性に巨大な剣で胸を貫かれて力をなくしていた。
「かっか、か、なるほど、そ、そういうこと、か。ぬかったわ、い」
「今までご苦労様、後は私が全部やるから。貴方はもういいわ」
そう言い剣を力強く引き抜く魔族の女性。そんな彼女はこちらを見やると。
「ウィル、貴方までそんなに苦戦するだなんて、魔族として恥ずかしくないのかしら」
「━━、申し訳ありません、ベロニカ様」
「まあいいわ、さっさと終わらせちゃいましょうか」
ベロニカと呼ばれた魔族の女性がそう言うと、魔物達が一斉に動き出し、残った兵士達に襲い掛かる。村長がいなくなった今では、強力な魔物を相手にできない兵士達は、魔物に蹂躙されるだけだ。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「や、止めろ!!!た、助けてくれぇ!!!!」
「離せ!!止めろ!!!止めてくれえええ!!!」
「いかん!リサ、ミラちゃん!!!お前達は兵士達の援護に!」
魔物達に喰われ、殺され、いたぶられる兵士達。そんな彼らを助けるためにリサとミラは援護に向かう
「やめろ!!!」
リサが叫びながら魔物達に炎を放つ。多くの魔物が燃える中、数体の魔物が炎を気にせずこちらに向かってくる。
「ミラちゃん、下がって!!!援護を!!!」
リサに従い、後ろに下がるミラ。代わりに前に出たリサは弓を放った後、短剣を装備し、魔物達を切り刻んでいく。
その間にミラは魔力を高め、魔法の準備をする。
ミラの魔法の準備が整ったことを確認したリサが射線を作り、そこに先程のように大量の炎の矢を打ち込む。炎の矢によって多くの魔物が貫かれ、焼かれる中、数体の魔物が接近してくる。
「くそっ、何なのよこいつら。炎魔法が効かない!」
「この魔物達は、フラムベアーって言って炎に強い魔物なの!もう一回、私が前に━━、」
「はぁ、もういいでしょ?」
いままで魔物の後ろから動かなかったベロニカが一気に動く。そのままリサとの距離を一気に詰めて、
「っ!がっ!ごっ!」
「どうせ勝てないんだから諦めなさいって」
「リサおばさん!!!」
ベロニカに肉弾戦で殴られ続けるリサ。どうにかしようにもミラはこの位置から魔法は打てない。撃つとリサも巻き添えになってしまうからだ。
「ほら、まだやるの?」
「うっ!」
もはやリサは意識が朦朧としていて、立っているのがやっとの状態だ。それでも彼女の心は折れない。
「ま、まだよ、私は、あの子の、かえ、る、ばしょ、を」
「はいはい、ご自由にどうぞ」
ベロニカにリサはフラムベアー達の前に投げ飛ばされる。自分達の前に獲物が来たが、フラムベアー達は動かない。まるで飼い主からの命令を待っているようだ。
「あ、あ、や、止め━、」
「ほら、好きにしていいわよ」
「いやぁぁぁぁ!!!やめて!!!やめて!!!ごめんなさい!!!ごめんなさい!!!」
一斉に動き出し、目の前に転がってきた獲物に群がり、貪り始めるフラムベアー。
「くそっ!!!リサ!!!待ってろ!!!いま助け━━、」
「油断したな、人族」
「ぐはっ、」
リサを助けようとして一瞬目を離したヴァンの胴体を、ウィルの剣が貫いていた。そのまま剣を引き抜き、剣を収める。刺されたヴァンは力なく、倒れこんだ。
「リ……サ……」
「所詮は人族か。戦いの最中、他の事に現を抜かすとは」
魔物に喰われるリサと、剣で刺され地面にひれ伏すヴァン。
「━━━━━━」
そんな2人をミラは黙って見ることしかできなかった。
* * * * *
どうして私はただ見ているんだろう。
「いやぁぁぁぁ!!!やめて!!!やめて!!!ごめんなさい!!!ごめんなさい!!!」
わかっている。わかっているんだ。助けなければ。リサおばさんを。
「リ……サ……」
ヴァンおじさんを。でも身体が動かない。まるで私の身体じゃなくなってしまったみたいに。動かない。
「あとは、貴方一人だけね」
「……え?」
「一応言っておくけど、この村から逃げた人は誰もいないわよ」
そんなはずがない。じゃあ、ここにいるおじさん、おばさんだけでなく、
「……いや」
そんなわけがあるはずがない。今日の昼に市場で、結婚の事を恥ずかしそうに話していたクーも、さっきまで一緒に料理をしていた母さんも。そんなことが、
「皆、死んだのよ。それで、貴方が最後よ」
「……いや、いや、いや。いやぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
「あら、壊れちゃった?」
感情と共に魔力が、炎が溢れるのが止まらない。止めることができない。
もう嫌だ。もう耐えられない。魔族も魔物も誰もいない場所に。
あの家に皆で帰りたい。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
* * * * *
「━━━」
「貴方凄いわね、魔力切れまで魔法を使い続けて、フラムベアーを無理やり炎魔法だけで押し切るなんて」
「━━━」
「でもおかげで、この村は全部燃えちゃったわね。まあ、寒かったからちょうどいいけど」
「……ぁ」
その言葉に、冷静になって周りを見渡す。そこにはもう、かつてのエスト村はなかった。燃える家と死体があるだけ。
「……」
思い出が消えていく。家族との、皆との思い出が消えていく。自分の炎によって全てが燃え、灰となって消えていく。
「それじゃあ、これで終わりにしましょうか」
ベロニカがこちらに剣を向ける。
「……ぁ」
ベロニカが剣を振る瞬間、頭に一人の少年がよぎった。
(最後に…会いたかったな)
ここにいない彼はこの後、私が全てを燃やした村を見て、どう思うだろうか。
(お祝いできなくて……ごめんね……シュウ)
━ ━ ━ ━ ━
番外編がまさかの第一章最長となってしまった、、、
書いてて辛かった。でも英雄にも全ては救えないんですよ。どんなに手を伸ばそうとしても、届かないものはあります。英雄にも身体は一つしかありませんから。
次回、第二章開始です。
戦場は静まり返っていた。胸を貫かれ、今にも消え入りそうなリックの声が妙に明瞭に聞こえる。ミラとしても本当は、今すぐにでも彼の事を助けてあげたい。
それでも、倒れたリックの後ろにいる男から目を離すことができない。それは自分だけでは無く、この場にいる全員が同じだった。
「ん?どうしたの、皆そんなに固まっちゃって。もしかして、僕らを見るのは初めてだったかな?だとしたら変な印象を与えるような登場をしちゃったかな」
全員が固まる中、一人だけ楽しそうにしゃべる男。この男が、仮に敵であったとしても、人族ならば、自分も即座に対応してただろう。
それができない、なぜならこの男は、
「貴様!!!よくもリックを!!!死ね!!!」
「待て!独りで突っ込むんじゃない!」
制止するヴァイスの言葉も無視し、激昂して飛び込む村の兵士。彼は突進した勢いでその男、魔族に斬りかかる。
「ちょっと!何すんのさ。いきなり殺そうとしてくるなんて。余りにも野蛮じゃない?」
「黙れ!!!この魔族が!!!死ね!!!」
「魔族って、君達は人族って呼ばれて嬉しいの?僕にだって名前くらいはあるんだから、」
「黙れ!!!」
兵士が斬りかかるも、それを全て躱しながら魔族の男は話を続ける。実力が自分とはかけ離れていることをミラは実感する。
魔族の男は、兵士の剣を暫く避け続けていたが、「もう、いいよ」と一言だけ言うと。
「人の話も聞けない奴は、もういらないよね」
剣を躱すと同時に腰から抜いた剣で、兵士の身体を下から上に、斜めに向かって両断する。声もなく倒れる兵士。まさに一瞬の出来事だった。魔族は特に何てことも無いように、2人の兵士の命を奪ったのだった。
「あー汚いなー。それで、まだやるの?」
両断した遺体を踏み服を血で濡らし、不満げながらも、こちらに笑いかける魔族。
「━━、わかった。君は、話がしたいのか?まずは名前を聞かせてくれないか」
静かに問いかけたのはヴァンだ。首筋に脂汗を搔きながらも、場を何とか落ち着かせるため、まずは冷静に声をかける。彼としても、これ以上誰かが無謀に突っ込むのは避けたかった。
「なんだ、話ができるじゃないか。あ、でもちょっと待っててね。死体が汚いからさー。ちょっと燃やしちゃうね。」
炎を放ち、死体を燃やす魔族。だが炎が強すぎるため、家にも燃え移り、村の家が燃えていく。
「もう、最初っからそう言ってくれれば、僕だって余計に君達を殺す必要は無かったのに」
「っ!!!何を馬鹿なことを、そもそも貴様が先にリックを━━、」
「まて、落ち着くんだゲイン。俺の名前は、ヴァン・ヴァイスだ。改めて聞こうか。君の名前は?」
「いいねー、話ができるってのは素晴らしいね。あ、僕の名前はリュウって言うんだ。よろしくね」
声を上げる兵士、ゲインを制止し、会話を続けるヴァン。リュウと名乗った魔族の男の目的は、未だに不明だった。不意打ちで一人を殺し、更に激昂して斬りかかった兵士までも両断したにもかかわらず、自分達と会話を望む。明らかに異常だ。
「そうか。それで、リュウ、君達の目的はなんだ?」
「目的か、まあ強いて言うなら、暇つぶしみたいな物なのかな。仲間とゲームをしてるんだよね」
仲間の兵士を2人殺されたにも関わらず、魔族を相手にヴァンは静かに会話をしている。しかも、相手が単独ではないという情報を引き出したことにミラは気付く。
これが、経験豊富なBランク冒険者。このまま会話を通して状況を打破できれば、
「そうか、仲間がいるのか。どんなゲームをしているんだ?」
「それは何人━━、人族を殺せるかだよ」
そう言った瞬間、リュウはこれまでの雰囲気を捨て、兵士達に突進する。会話の中で油断をしていた兵士が2人。彼に首を刎ねられ死亡する。頭の無くなった身体が倒れこみ、地面を鮮血で赤く染める。
「っ!!!貴様、卑怯な真似を!!!」
「卑怯ってなんだよ、こっちがちょっと話そうって言っただけですぐに油断して。そんなんでいいと思ってるの?ヴァン・ヴァイスって人は僕と話してても全く警戒を緩めなかったよ?」
「うわぁぁ!!」
「ひっ、た、助け、」
先程までの笑顔が嘘のように、無表情で兵士と村人を切り刻んでいくリュウ。そんなリュウと一瞬目があった気がした。
「━━ひっ」
だめだ脚が動かない。ミラは恐怖で身体を動かせずにいた。
あれが魔族。想像していたよりも遥かに残酷で、残忍だ。自分達の命をその辺の虫たちと、同じようにしか考えていないようなあの瞳。瞳が合った瞬間、まるで自分の心臓を握りつぶされたかのような感覚だ。あ、また瞳が合って、
「そうやって、怯えているだけじゃ、殺されるだけだよ」
魔族がこちらに接近してくる。駄目だ、まだ脚が動かない。このままじゃ殺され、
「ミラちゃん!!!」
動けなかったミラを庇ったのはリサだ。弓ではなく。近距離戦闘用の短剣を構えたリサがリュウと対峙する。
「君は、結構いいね。場数を踏んでる。その雰囲気でわかるよ」
「貴方に褒められても何も嬉しくないわよ。それで貴方が言っていた、お仲間さんはどこにいるのかしら?」
「もう少ししたら来るんじゃないかな。ほら、来たよ」
「え?どういう……事なの」
ミラは自分の目が信じられなかった。新たな魔族が、多くの魔物を引き連れてやってくる。だがおかしい、どうして、正門からではなく。村の中から来たのか?それではまるで。
「ウィル、遅いって。もう何人か殺しちゃったよ。僕の勝ちでいいんだよね?」
「リュウ、同意もしていない勝負を勝手に始めるのは止めろ。思ったよりも、人が多かった。それで時間がかかったんだ」
ウィルと呼ばれた魔族は何と言ったのか。思ったよりも、人が多かった。しかもあの魔族は村の正門の反対の方向から来た。まさか、あっちに行ったクー、お母さん。皆あいつに、
「ミラちゃん!!!」
大きな声で呼びかけられ、はっとする。リサがこちらの瞳を覗き込んでいる。
「……リサおばさん、でも皆が」
「いまは、自分の事だけを考えなさい。自分が生き残るのを考えるのよ」
リサの言葉で現実に戻される。今は生きなければいけない、村の反対側に行った皆が全員殺されたかどうかなんて、まだわからない。だったら自分が生き残って、確認するしかない。だから、今は生き残ることだけを考えよう。
「そうそう、頑張って生き残ることを考えなよ。僕達に殺されないようにね」
「貴方達は、随分と余裕そうね」
「ん?まあ君達には負ける気がしないからね」
「貴方が言ったのよ。油断するから寝首を掻かれるって」
「はぁ?それはどういう━━、」
その瞬間、リュウが何かに大きく吹き飛ばされる。そのまま吹き飛んでいったリュウは、その先にあった家を突き破り、外壁に激突する。
「はぁ、馬鹿が。お前はすぐに油断する。いい加減学習しろ、リュウ!」
残っていたもう一人のウィルという魔族に、誰かが横から斬りかかるが、ウィルは素早く剣を抜き対応する。斬りかかったのはヴァンだ。忍び寄っていたヴァンが不意打ちを喰らわせたのだった。
ヴァンの剣を防いだウィルは一度距離を取る。彼は新たに来た、リュウを吹き飛ばした男を警戒しているのだろう。歳は取っている顔つきだが、その鋼のような筋肉に覆われた全身からは闘気に溢れており。タダ者ではない雰囲気を纏わりつかせている。
そんな彼を見て、ヴァンは笑う。まるで、ここからが反撃かのように、表情が安堵と自身で満ちている。
「遅かったじゃないですか、会話しての時間稼ぎにも限界があるんですよ。しっかりしてください」
「うむ、すまない。ワシのせいで皆に迷惑をかけたが、ここまでじゃの。かっかっか!!!!」
ようやく来た。ジャンはここには来ていないが。彼が呼んでくれたこの村で一番強い人が。ようやくだ。
恐らくここに来るまでにその素手で魔物達を蹴散らしてきたのだろう。その両手は真っ赤に染まっている。状況によってはその両手は恐怖だが、今この場では頼もしい。
「俺とリサ、それにミラはこの魔族を抑えます。村長と他の皆は魔物を!!!」
「かっかっか!!!任せておけ!!!」
「3人で俺を抑えられると思っているのか?」
「できるわよ、彼と私、それにミラちゃんならね」
自分にできるだろうか、先程まで魔族に怯え、身体を動かせなかった自分などに、あの二人と肩を並べて戦うことができるだろうか。
いまでも魔族は怖いし、震えが止まらない。それでも、
「シュウだったら、絶対に引かない、よね」
頭に浮かぶのは、自分の幼馴染の少年。どんな状況でも諦めることを知らない、英雄を目指す少年だ。
「そうだ!ミラちゃんやるぞ!!!」
何としてでもあの魔族を倒してみせる。でなければシュウにあわせる顔が無い。守ってみせるんだシュウと私達の村を。
「━━、はい、はい、わかりました」
ウィルと呼ばれた魔族は光る何かを手に持って、恐らく誰かと会話しているのだろう。見たことのない物だが魔導具の一種か何かだろうか。
「━、了解しました、では。っち、面倒だ。おい!!!リュウ!!!まだ死んでないだろうな!!!」
「うん、まだ生きてるよ。かなり効いたけどね。心配してくれるなんて優しいじゃん」
村長に殴られ、吹き飛ばされたリュウがこちらに戻ってくる。このままではまずい。魔族1人相手なら、自分達で何とかできるかもしれないが、2人となるとかなり厄介だ。
「ベロニカ様からの命令だ!いまここの近くを通りかかった行商人の馬車を始末してこい。奴らがこちらに気付き、街に引き返している!増援を呼ばれるのは厄介だ」
「えーそれ別に、ウィルがやればよくない?」
「黙れ!!!ベロニカ様の命令だ!!!」
「はぁ、わかったって」
ウィルに叫ばれたリュウは正門から外に向かって走り去ってしまった。これはチャンスだ、魔族一人相手ならなんとかなるかもしれない。
「お前は、さっきのリュウってやつに比べると、まともみたいだな」
「あんな奴と一緒にされるのは心外だ。リュウは実力はあるが、ただの馬鹿だ」
「━━、それはつまり、お前はあいつより弱いってことでいいんだよな?」
「舐めるなよ、人族が」
「いくぞ、リサ、ミラちゃん」
ミラ達の戦いが始まった。ヴァンが剣で斬りかかり、ウィルが防御をする。剣を弾き返し、ウィルが距離を詰めようとするが、ヴァンが魔法で石の礫を放ち、牽制する。
「ちっ!」
距離を開けられたウィルは狙いをリサとミラに移し、風魔法を放つ。だが、それを事前に察知したヴァンが射線に魔法で土壁を作り、彼女たちを守る。
次の瞬間、ヴァンが一瞬リサに目配せをして、再びウィルに接近して斬りかかる。
「ミラちゃん、魔法お願い!形状は細長くして、狙いはヴァンの背中!」
「は、はい!」
リサに指示をされ、ミラは炎の形を変化させ、炎の槍をヴァンに向かって発射。
「なにっ!」
事前に目配せをして、タイミングを計っていたヴァンは、魔法が到達する直前に横に跳び射線を作る。直前までヴァンが背中によってウィルの視界から隠していた炎の槍を間一髪の所で躱すウィルだが、回避先にリサが弓を放つ。
頭に向かって放たれた弓を剣でギリギリ迎撃するウィルだが、そこに息をつく間もなくヴァンが魔法を放ちながら接近し、斬撃。
ヴァンが剣で接近戦を挑みながら、リサとミラが弓と魔法で援護をする。戦っていてわかる。ウィルは確かに、リュウに比べると戦いは苦手みたいだ。
「っち、小癪な!」
弓と魔法を潰すため、彼女達に狙いを変えようとするが、ヴァンがそれを許さない。戦況はかなり有利になりつつある。
一方で、
「かっかっか!!!行くぞ、皆の衆!!!ワシについてこい!!!」
「「「はい!村長!」」」
村長と兵士達が魔物を相手にしているが。村長の強さが圧倒的だ。彼は武器も使わずに、その両腕のみで、強力な魔物を殴り飛ばしている。村長が強力な、そして兵士達が他の魔物を相手にすることで魔物達を押し返している。
「くっ!あの人族は想定外だ!」
「うちの村で一番強いのは村長なんだよ!ミラちゃん!いまだ!」
「はぁぁっっ!!!!!」
ヴァンが稼いだ時間を使い、溜めた魔力を一気に開放する。ミラの周囲に10本を優に超す数の炎の弓が現れ、ウィルに降り注いだ。
「くそっ!」
殆どの炎の弓は回避、または迎撃されてしまったが、彼の身体も1つだ。数には敵わない。数本の弓が直撃し、ウィルの脚を貫く。これで奴の機動力は大きく落ちたはずだ。
「いくぞ、リサ!一気に攻め込むぞ」
「ええ!」
機動力が落ちたウィルを攻め込むため、リサも短剣を装備し、ヴァンと共に接近戦を仕掛け、勝負をかける。今はここにいないリュウが帰ってくる前に何としても決着をつけなければいけない。
「くそ、こんなはずでは」
2人に攻め込まれ焦りの色を隠せないウィル。2人の後ろで、ミラはいつでも魔法を放てるように魔力を高める。ここで一気に決めるしかない。3人が同時に思った、
「そ、村長!!!!!」
そんな3人の思考を叫びが乱す。思わず一時的に攻撃を止めたヴァンとリサ。同じくミラは、魔物を相手にしていた村長と兵士たちを見る。
「そ、そんな。村長が」
兵士達が震えている。その言葉からも絶望的な感情が伝わってくるほどだ。そんな兵士達の目線の先で村長が、魔族の女性に巨大な剣で胸を貫かれて力をなくしていた。
「かっか、か、なるほど、そ、そういうこと、か。ぬかったわ、い」
「今までご苦労様、後は私が全部やるから。貴方はもういいわ」
そう言い剣を力強く引き抜く魔族の女性。そんな彼女はこちらを見やると。
「ウィル、貴方までそんなに苦戦するだなんて、魔族として恥ずかしくないのかしら」
「━━、申し訳ありません、ベロニカ様」
「まあいいわ、さっさと終わらせちゃいましょうか」
ベロニカと呼ばれた魔族の女性がそう言うと、魔物達が一斉に動き出し、残った兵士達に襲い掛かる。村長がいなくなった今では、強力な魔物を相手にできない兵士達は、魔物に蹂躙されるだけだ。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「や、止めろ!!!た、助けてくれぇ!!!!」
「離せ!!止めろ!!!止めてくれえええ!!!」
「いかん!リサ、ミラちゃん!!!お前達は兵士達の援護に!」
魔物達に喰われ、殺され、いたぶられる兵士達。そんな彼らを助けるためにリサとミラは援護に向かう
「やめろ!!!」
リサが叫びながら魔物達に炎を放つ。多くの魔物が燃える中、数体の魔物が炎を気にせずこちらに向かってくる。
「ミラちゃん、下がって!!!援護を!!!」
リサに従い、後ろに下がるミラ。代わりに前に出たリサは弓を放った後、短剣を装備し、魔物達を切り刻んでいく。
その間にミラは魔力を高め、魔法の準備をする。
ミラの魔法の準備が整ったことを確認したリサが射線を作り、そこに先程のように大量の炎の矢を打ち込む。炎の矢によって多くの魔物が貫かれ、焼かれる中、数体の魔物が接近してくる。
「くそっ、何なのよこいつら。炎魔法が効かない!」
「この魔物達は、フラムベアーって言って炎に強い魔物なの!もう一回、私が前に━━、」
「はぁ、もういいでしょ?」
いままで魔物の後ろから動かなかったベロニカが一気に動く。そのままリサとの距離を一気に詰めて、
「っ!がっ!ごっ!」
「どうせ勝てないんだから諦めなさいって」
「リサおばさん!!!」
ベロニカに肉弾戦で殴られ続けるリサ。どうにかしようにもミラはこの位置から魔法は打てない。撃つとリサも巻き添えになってしまうからだ。
「ほら、まだやるの?」
「うっ!」
もはやリサは意識が朦朧としていて、立っているのがやっとの状態だ。それでも彼女の心は折れない。
「ま、まだよ、私は、あの子の、かえ、る、ばしょ、を」
「はいはい、ご自由にどうぞ」
ベロニカにリサはフラムベアー達の前に投げ飛ばされる。自分達の前に獲物が来たが、フラムベアー達は動かない。まるで飼い主からの命令を待っているようだ。
「あ、あ、や、止め━、」
「ほら、好きにしていいわよ」
「いやぁぁぁぁ!!!やめて!!!やめて!!!ごめんなさい!!!ごめんなさい!!!」
一斉に動き出し、目の前に転がってきた獲物に群がり、貪り始めるフラムベアー。
「くそっ!!!リサ!!!待ってろ!!!いま助け━━、」
「油断したな、人族」
「ぐはっ、」
リサを助けようとして一瞬目を離したヴァンの胴体を、ウィルの剣が貫いていた。そのまま剣を引き抜き、剣を収める。刺されたヴァンは力なく、倒れこんだ。
「リ……サ……」
「所詮は人族か。戦いの最中、他の事に現を抜かすとは」
魔物に喰われるリサと、剣で刺され地面にひれ伏すヴァン。
「━━━━━━」
そんな2人をミラは黙って見ることしかできなかった。
* * * * *
どうして私はただ見ているんだろう。
「いやぁぁぁぁ!!!やめて!!!やめて!!!ごめんなさい!!!ごめんなさい!!!」
わかっている。わかっているんだ。助けなければ。リサおばさんを。
「リ……サ……」
ヴァンおじさんを。でも身体が動かない。まるで私の身体じゃなくなってしまったみたいに。動かない。
「あとは、貴方一人だけね」
「……え?」
「一応言っておくけど、この村から逃げた人は誰もいないわよ」
そんなはずがない。じゃあ、ここにいるおじさん、おばさんだけでなく、
「……いや」
そんなわけがあるはずがない。今日の昼に市場で、結婚の事を恥ずかしそうに話していたクーも、さっきまで一緒に料理をしていた母さんも。そんなことが、
「皆、死んだのよ。それで、貴方が最後よ」
「……いや、いや、いや。いやぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
「あら、壊れちゃった?」
感情と共に魔力が、炎が溢れるのが止まらない。止めることができない。
もう嫌だ。もう耐えられない。魔族も魔物も誰もいない場所に。
あの家に皆で帰りたい。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
* * * * *
「━━━」
「貴方凄いわね、魔力切れまで魔法を使い続けて、フラムベアーを無理やり炎魔法だけで押し切るなんて」
「━━━」
「でもおかげで、この村は全部燃えちゃったわね。まあ、寒かったからちょうどいいけど」
「……ぁ」
その言葉に、冷静になって周りを見渡す。そこにはもう、かつてのエスト村はなかった。燃える家と死体があるだけ。
「……」
思い出が消えていく。家族との、皆との思い出が消えていく。自分の炎によって全てが燃え、灰となって消えていく。
「それじゃあ、これで終わりにしましょうか」
ベロニカがこちらに剣を向ける。
「……ぁ」
ベロニカが剣を振る瞬間、頭に一人の少年がよぎった。
(最後に…会いたかったな)
ここにいない彼はこの後、私が全てを燃やした村を見て、どう思うだろうか。
(お祝いできなくて……ごめんね……シュウ)
━ ━ ━ ━ ━
番外編がまさかの第一章最長となってしまった、、、
書いてて辛かった。でも英雄にも全ては救えないんですよ。どんなに手を伸ばそうとしても、届かないものはあります。英雄にも身体は一つしかありませんから。
次回、第二章開始です。
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