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第二章【冒険者と復讐者】

第二章11【レゴン村】

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「こっちよ!ついてきて!」

 トビアスとアイリスは、ルカの後を追っていた。シュウが他の冒険者に襲い掛かり、ルカの事を魔法で吹き飛ばしたというのは一体どういうことなのだろう。

「ルカ!走りながらでいいから、何があったのか細かい状況も含めて、詳しい状況を教えてくれないか?」

 ルカは、彼が他の冒険者に襲い掛かり、止めようとした彼女を吹き飛ばしたと言ったが、自分には今でも信じられない。シュウは無愛想だが、無差別に誰かを襲うような人物ではないはずだ。何か理由があるに違いない。

「ええ、説明するわ━」

 ルカの説明によるとこうだ。彼女達は自分達と同様に魔物の痕跡を見つけて追跡をしていた。その先に魔物はいなく、いたのはシュウのようにフードを被った他の男性冒険者だったらしい。彼がこちらに気付き、最初、彼女はその冒険者を警戒していたが、彼は思ったよりも友好的だったので少し会話をしていたらしい。

「━そしたら、突然後ろにいたシュウが、その冒険者に斬りかかったのよ。彼もシュウにすぐ対応して、大丈夫だったんだけど」

「それでルカは、シュウを止めようとした」

 彼女の話を聞いている限り、シュウがやったことは確かにあまりにも唐突だ。訓練場などでない限り、多少の喧嘩ならともかく、武器を振るうのはギルド規約に乗っ取り犯罪となる。シュウがそんなことを知らないはずがないのだが、

「シュウが君を吹き飛ばした、彼の様子はどうだった?」

「……別にいつも通りよ、吹き飛ばすときにも『邪魔だ』としか言わなかったし!!!」

 その時の事を思い出し、ルカが苛立っている。まずはシュウと合流しなければいけない。それで詳しい話を彼から━、

「トビ、あれを見てください!」

 走っている最中、アイリスが右斜め前方向を指さす。自分がそちらを見ると、今となっては見慣れたローブを着た人物が走って街の方へ向かっていた。

「ルカ!!!止まれ!!!」

「な、何よ急に!」

「シュウがいた!彼は森を抜けて街に向かうつもりだ!」

「な、なんですって!」

「シュウ!!!待ってくれ!!!」

 前を走っていたルカを止め、自分達を通り過ぎたシュウの後を追う。声は聞こえているだろうが、こちらがいくら叫んでも彼は止まらない。彼はどこに行くつもりなんだ。

「トビ、シュウ君が向かっている方向はヴァイグルじゃないですよ」

「うん、あっちの方向にあるのは、レゴン村だ」



 * * * * *



「……」

「こ、これは……」

「ど、どういう事ですか?」

 シュウの後を追いかけてレゴン村に到着した自分達が見たのは信じられない光景だった。

「ね、ねえ、ここって本当に、レゴン村なの?」

 ルカが聞いてくるが、自分達には答える事ができなかった。レゴン村は、見る影も無い程に壊滅していたからだ。

「ま、まずは話しを聞こう」

 シュウは先に村の中へ行ってしまったので、3人で村に入る。家は破壊され、住民の死体が一箇所に集められ、布で隠されている。それでも、村全体に異様な匂いが漂っており、吐き気を催す程だ。

「こ、こんなことって……うっ」

「アイリス!あんたは無理しないで村の外で待っててもいいのよ」

「ルカちゃん……だ、大丈夫です。大丈夫……ですから」

 思わず口を手で押さえるアイリス。村の中を確認する限り、無事な住民もいるみたいで、兵士達に保護されている。彼らはヴァイグルから来た兵士だろうか。

「僕達はヴァイグルの冒険者です、この村で、何が起きたんですか?」

 近くにいた兵士に話を聞く。ギルドカードを見せたことでこちらを信用してくれたのだろう。その兵士は状況を教えてくれた。

「このレゴン村が魔物を率いた魔族イフトに襲撃されたんだ」

「魔物に、魔族ですか!?」

 再び魔族達が動き出したというのか。半年前にエスト村が襲われたように、今度はこの村が、

「魔物は倒したんだが、魔族には逃げられてしまったんだ」

 話を詳しく聞くと、エストの虐殺以降に配備された兵士達が緊急でレゴン村に来たので、村が完全に壊滅するのを防ぐことができたらしい。彼らによって魔物は討伐されたが、魔族を仕留めることができずに、逃がしてしまったそうだ。

「そ、それで、魔族達はどこに?」

「方向から察するに、奴らは森の中にあるシュルルク古城に行ったと考えられている」

「シュルルク古城って、あそこに見える古城ですか?」

 シュルルク古城と言えば、先日の湖での依頼の際に話題に上がった古城だ。確かあそこは立ち入り禁止区域になっているはずである。

「ああ、あの古城は、立ち入り禁止区域になっていたから、奴らにとっては絶好の━」

「おい!君、独りで行くんじゃない!!!」

「ちょっと、シュウ!あんたどこに行くのよ!!!」

 ルカが叫んだ方を見るとシュウが馬に乗って去ってしまった。周りにいた兵士が止めようと叫んでいるが、強引に行ってしまったようだ。

「すいません、ありがとうございました!」

「トビ、シュウはさっきまであの人と話しをしてたわ!」

 兵士にお礼を言って、ルカが指したのは馬屋にいた住民だ。幸いにも怪我もなく生き残っており、馬も無事なようだ。

「すいません、今行ってしまった彼は、僕らのパーティーメンバーなんです!何かあったんですか!」

「と、突然、あの顔を隠した兄ちゃんが馬を貰うって言って、金を置いて行っちまったんだよ」

 どうやら彼は、この馬屋の主らしいが、突然大量のマニーが入った袋を渡されて困惑しているようだ。

「トビ、まずいですよ!シュウ君のあの方向」

「あいつ!独りで古城に向かうつもりなの!?」

 シュウは馬を使って独りで魔族と魔物達がいる古城に向かっていったに違いない。それは余りにも危険だ。彼の実力があっても死んでしまう。そんなのは駄目だ。
 
「……すいません、僕にも馬を下さい」

「トビ……行くんですね」

 声をかけられ後ろを振り向く。アイリスとルカは笑顔でこちらを見ている。彼女達も自分と同じ考えのようだ。

「そりゃ、行くよ。彼に力を貸すって決めたんだから」

「それでこそ、私達のリーダーよ!」

「おじさん、変更で馬を3匹お願いします。代金は貴族のエルゴン家に請求してください」

「お、おう」

 馬を3頭貰い、村を出ようとしたら、兵士たちに止められた。彼らも無駄な犠牲者を出したくないのだろう。だがそれはこちらも同じだ。

「君達、行くんじゃない!もうすぐしたら、ヴァイグルから新たに開発された魔導具を装備した増援が来る。そしたらあの古城に攻撃を仕掛けるつもりだ。それまで待つんだ」

 その新たな魔導具がどんなものなのかは分からないが、増援を待っていてはシュウは独りで魔族と魔物と戦いを始めてしまう。そうなっては、いくらシュウであっても死んでしまう可能性が高いはずだ。

「……大丈夫ですよ、彼を連れ戻すだけです。彼を説得したらすぐに戻ってきます」

「駄目だ!だとしても危険すぎる!森には大量の魔物がいるはず!君達まで危険に晒させるわけにはいかない!」

 こちらが何を言っても、彼らも引く気は無いようだ。ならば仕方がない。ここは使いたくなかったがこの手を使うしかない。

「これを見ろ」

 トビアスが服の中から取り出したのは、ネックレスだった。その金でできたネックレスには星の印がついており、星の中央には盾が刻まれている。

「そ、その紋章は……」

「僕は王都の貴族、エルゴン家次男。トビアス・エルゴンだ。たかが一兵士が僕らの道を塞ぐつもりか?」

「そ、そういうわけでは」

「だったら、そこを退け。僕らの邪魔をするな」

「は、はい、失礼しました」

「……行こう、2人とも」

「……」

 道を開けた兵士を通り過ぎ、下を俯き無言のアイリスとルカを連れ、自分達もシュルルク古城を目指す。本当はこんな風に権力を振りかざす真似はしたくなかった。なぜなら、

「……ぷっ、あははは!!!聞いたアイリス!『たかが一兵士が僕らの道を塞ぐつもりか?』ですって!!!はははは!!」

「……ふふっ、わ、笑っちゃ駄目ですよ、ルカちゃん!わ、私はそんなトビもカッコいいと思います……ふふっ」

「はぁ、これだから嫌なんだよ。貴族みたいな振る舞いをするのは」

 冒険者生活が長いため、彼女達も自分が貴族のような振る舞いをするのを殆ど見たことが無い。そのため、貴族らしい振る舞いをする度、彼女達はその自分に似合わない振る舞いをこうしてからかうのだ。

「いつもは忘れちゃいますけど、トビってやっぱり貴族なんですね」

「……まあお陰様で、こうしてシュウを追いかけてるって事だし感謝しないとね。エルゴン家次男様!」

「……はぁ、権力を使った代償が、ちょっと大きすぎるかな」

 今後暫くは、この力を使わないようにするしかない。さもないと自分の精神が削れてしまう。なにはともあれ、

「なんとしても、シュウに追いつこう。彼をここで死なすわけにはいかない」

「はい、そうですね!」

「シュウは、ほっといたらすぐに死んじゃいそうだものね!」

 シュウを追いかけ、自分達もシュルルク古城を目指す。今回の目的は、

「兵士さんには連れ戻すって言ったけど、正直それはシュウ次第なんだよね」

「あいつは、絶対に帰んないわよ。魔族を殺さない限りはね」

「皆の、仇なんですもんね」

 もしもシュウが魔族を討つと言うのであれば、自分達も力を貸すつもりだ。彼はこのパーティーの一員なのだから。

「取り敢えず、シュウとの合流。これが最初の目標だ!行くよ2人とも!」

「はい!」

「わかってるってーの!」

 元気に返事をする2人と共に僕達はシュルルク古城がある森、シュルルクの森へと入って行った。
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