命を救った美女令嬢の家でVRMMOをプレイする。いつか彼女と付き合いたい。

茜色 一凛

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三十五話 『エリカのカニバサミ』

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 顔に朝日がかかり眩しい。俺はどこにいるんだ。背中がふかふかで気持ちがいい。宿屋のいつものベッドか。でも、誰かに抱きしめられている……。

 懐かしい背中の感覚。あーそうだ。踏切でエリカをおんぶした時の、あの胸の柔らかさ、Cカップのあれだ。あれに似てる。うん。うん。それで間違いないはず。

 寝息が背中の方から聞こえたから、そっと起こさないように振り向くとやっぱり、エリカが俺を抱き枕と勘違いしてるのか、脚でカニのように挟み込んでいた。

「う、う、うーんっ」

 俺を抱きしめていた手を離し伸びをするエリカ。

「お、おはよう。なんでここに?」

 エリカは眠そうに目を擦りながら、俺の顔をまじまじと見る。

「わー。よかったあああああー。なんで? 覚えてないの? ユウキ宿屋の前で倒れてたのよ! 皆でヒーリングかけたりして大変だったんだから。しかも見つけたのは私なの」

 頬には泣きあかした涙の跡がうっすらと残っていた。

 俺の為に泣いてくれたんだ。

「ユウキどうせ私の事守ろうとして喧嘩吹っかけてきたんでしょ? 下手な演技だったからバレバレよ。私も何とかしようと思ってVRMMOの企業に連絡入れといたの」

 俺はエリカのいつもながらの行動の速さに驚く。

「で、どうだった? 何か分かったのか?」

 エリカは自信満々な表情を浮かべながら、

「それがね。ロットナンバーの新しい私達のハードはゲームのデータをダウンロードした時点で、それは独立したデーターとして存在するみたい」

 つまりそれは、1回ダウンロードすれば更新しなくてもゲームとしては存続可能ということか?

 部屋のクローゼットを見るとドレッサーミラーの前の椅子にツグが腰掛けていた。

 そしてツグミはベッドに向かってトコトコ歩いてくる。

「私が助けたのです。感謝してくださいよ」
「ほんとにツグミが? 悪いけど信じられない」

 ツグミはエリカの方を見て微笑むが、エリカは表情を少し曇らせる。

「ツグミは、ユウキの腕のかすり傷をヒーリングで治そうとしたんだけど、やっぱり無理だったみたい。威張れるような事は何一つしてないじゃない!」

 ツグミはバレたことが気恥しいのか笑って誤魔化していた。

「まあでも、形だけでも魔法かけてくれてありがとな。そもそも助ける気持ちがない人に僧侶が初期の職業で当たるとかありえない。いっそのこと転職した方がいいんじゃないか?」

 俺の言葉にエリカは首をブンブン振りながら、

「違うのよ! 他の人にはヒーリングがしっかり効くの。大怪我した人もこの間、ツグミがバッチリ治してたわよ。腕がない人も再生呪文でもない初期魔法のヒーリングで治せるのはこのゲームでもツグミだけと言われてるし」

 後ろで腕を組んでツグミはエッヘンみたいな感じになっている。いつの間につぐはそんな凄い僧侶になってたんだ。

「ここ数日で、私は感覚を掴んだんです。限定魔法というのが有りまして、人を限定することで回復量を飛躍的にあげる特殊スキルです。でもおかしいです。こんな回復しない人今まで見たことないのです」

 不思議そうに俺を見るツグミに合わせて、エリカも天井を眺め何か考えている。

「分かんない。ツグ何を限定にしたの? 他の人に無くてユウキだけにしかないものよね? 人よりユウキがあるものだと、アイディアが豊富とか? そろそろ教えてくれない?」

 ツグミは迷ってた。うーんとか唸りだし出来れば言いたくなさそうなそんな雰囲気を出している。なのにエリカは言いなさいよと、つぐの脇をこちょこちょしだす。

「ご、ごめ、わっ、やめってーっ! 言いますから。言いますー!」

 必死になってエリカに懇願するツグミ。

 部屋のドアの前にたつと、

「あのね、このゲームで一番クズな人だけ回復魔法では治せないことにしたの」

 そういうと、ツグミは後ろのドアをパッと開けて一目散に何処かに逃げていく。

 俺とエリカはポカーンと口を大きく開けてそのドアを見つめる。少し空いた窓からは涼しい気持ちの良い風が吹き込んできた。

 それから俺とエリカは朝食のパンを焼き始めた。時計を見ると八時半そろそろジャンヌたちのところに行かなければならない。
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