不思議な部屋

メキシコ

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 その日、僕は途方に暮れていた。いや、途方にくれるほどの大事では無いのかもしれないし、途方にくれるほどの手立てを尽くしたわけでもなかった。しかしながら、レポートの提出期限まで残すところ5時間しか無い早朝4時に目覚めてしまい、机の上のパソコンはワードを開いたまま白紙であった。こうなると、レポートの提出を呪い、休講になれだの、潰れちまえだの大学への悪態を呟きながら、学校行きたく無いを呪文のように繰り返し、仮眠をとったこと自体が選択ミスであった事を突きつけられているようである。
 動きの鈍い頭で幾つかのプランを講じるべく、状況を整理する。このレポートは①今日の9時が提出期限であり②単位取得条件の1つであり③現在白紙である。
…考えるまでもなく最悪の状況のようだ。ここにきて最悪の状況である事を認めないのは安いプライド、又は現実逃避なのかもしれなかった。外からは音もなく、部屋の中も同様に静かで時計すらも動いていない。瞬間、体に火が灯ったかのような怒りが生まれた。仮眠を取るためにセットした時計が止まっているだけのこと出会った。不運を一頻り嘆き、悪態をついた後、今からどうするかを考えた。いや、考えるまでもなかった。気合いで終わらせることしか結局のところ無いのだ。突然病院に行って仮病を装う手もあるが、それは最終手段とすべきであるし、この時間であれば内容の薄さは否めないがレポートとしての体をなす文章を記入するぐらいのことは容易いだろうと考えた。パソコンは幸いにして時間が狂っていると言うことはなく、内部時計は4時のままである事を教えてくれた。
 体に喝を入れるために、また、眠ったままの頭を起こすために、タバコとライターを手にし、部屋を出たとき、異変に気がついた。厳密には、部屋を出て、マンション近くの公園の自販機を経由し、公園の灰皿に近づいたときに異変に気がついた。
 部屋を出る前は車の音すら聞こえなかったのに、目の前の交通は非常に活発であった。まるで、自分が12時に起きようと目覚ましをセットした夜の9時と対して変わっていないかのようだった。淡い期待を抱きながら、公園の時計を眺めてみると9時42分を指し示していた。
 混乱する頭を抑えながら、携帯を取り出し時報案内へとダイヤルをする。時刻は42分であると告げている。
 僕は安心しながら、又、42分の睡眠にしては軽すぎる体に感動を覚えながら自室へと戻る道を歩いた。今思えば、遅刻常習犯の自分はこの体の軽さが明らかに6時間以上の睡眠をとった体と頭であることに気がついても良かったのだ。それが出来なかったが為に、僕はある種貴重な体験をし、手ひどい失敗をしてしまう事になる。
 部屋に戻り、時計を約7時間早く進んでいると脳内で逆算しながら、悠々とレポートを書き上げ、登校までの時間を過ごした。
 繰り返しになるが、僕が体験した不思議な現象に対してここで何らかの法則性や異常性について感じていれば早く対応できたのかもしれない。しかし、ぼくは次に感じる異変。部屋を出て、大学へ向かう時の異変すらも無視してしまったのだ。
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