未来に住む一般人が、リアルな異世界に転移したらどうなるか。

kaizi

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第2話 30年後の一般人の力は異世界で通用するのか

 この世界に来て、まだ数日しか経っていないころだった。
 いつものように、この都市を用心深く歩き、あたりを観察していたら、目の前で、男同士の言い争い……転じて取っ組み合いがちょうど繰り広げられていた。
 
 別に珍しいことではない。
 むしろ殴り合い程度の小競り合いは、ここでは、日常茶飯事といってもよい。
 
 あたりにいる人々は遠巻きに興味本位にその様子を見ながら、自分に火の粉が飛ばないように抜け目なく距離をとっていた。
 
 影人もこの頃になると、最低限ではあるが、この都市の最低限のルールを把握していた。
 つまり、基本的にトラブルは自主解決しなければならないということを……。
 
 警察のような機関は一応あるにはあるらしいが、相当のトラブル……例えば大通りで双方が刃物を取り出して、斬りつけ合うなんてことが起きない限りは、出てこない。

 実際のところ、そんな大きなトラブルは表立っては滅多に起きない。
 だいだい刃物のような値が張る者を持っている住民はあまりいない。
 
 それでも、殺人のたぐいは裏ではかなりあるらしい。
 しかし、そういうケースは、たいてい夜中に起きるし、被害者は、文字通り消える。
 つまり、そこらの川に放り投げられて、数日後にどこかの下流で発見される。

 消える時は、多くの場合、世帯ごと消えるから、探そうという人間もいない。
 当然、死体が誰なのかを気にする輩は誰もいないという訳だ。
 一方で、こんな風に、目に見えるトラブルはたいてい大したことがないものがほとんどだ。
 
 影人もいつもは、他の住民と同じように、傍観者に徹しているが、その日は違った。 
 
 ある理由から、ケンカを仲裁することにしたのだ。

 しばらく二人の様子を見ていた影人は、小さく「よし」とつぶやき、行動を起こすことを決意する。

 背後から、ゆっくりと近づき、いきり立ちいまにも殴り合いになりそうな二人の男の間に強引に体を割り入れた。

 二人の体は影人の力で驚くほど簡単に左右に引き離すことができた。
 
 だが、二人の男にとっては、影人の行動は、想定外の出来事だったようだ。
 それはそうだろう。
 わざわざ私闘に介入してくる好き者など滅多にいないのだから。
 
 男たちは、いつのまにか離れているお互いの顔を数秒、呆然と見た後、斜め前にいる影人の方を視界に入れる。
 すると、双方の目がさきほどよりさらに大きく見開かれた。
 
 つかみ合っている自分たちふたりをあっさりと引き離したのだ。
 どれだけの巨漢な男かと思えば、その相手は、自分たちより明らかに小柄で貧弱な肉体しか持たない男だったのだから、驚くのも無理はない。

 当の影人は、自分の方を見てぽかんとしている男二人を注意深く観察していた。
 もし自然な心臓が残っていたなら、きっとバカみたいに鳴りっぱなしだっただろう。

 想定通りではあったが、それでもやはり全身が浮足立つのは避けられない。
 感情を制御できる機能が失われていることを、今ほど恨めしく思ったことはない。
 しかし、精神面以外の物理的な側面については、通常どおり機能しているようだ。

 

 そして、もうひとつの目的は、とある仮説の確認をすることだ。
 その確認は、もうあと数十秒ほどしたら、わかるだろう……。

 二人の男の内、小柄な男の方は、じっと影人の方を見たまま動かない。
 一方、もうひとりの男は、おとなしくしているつもりはないようだ。

「おい!何のつもりだ!」

 大柄な男は、怒りで体をわななかさせて、影人を睨みつける。
 そして、怒鳴り声を上げると同時に、勢いよく影人めがけて、殴りかかってきた。
 
 影人と男が接触すると、男は宙を彷徨い、そのまま体を地面にしこたま叩きつける羽目になった。

「うお!!」

 叫び声ともうめき声ともつかない言葉を一瞬発して、男は、体に受けた衝撃にもがき苦しんでいる。
 影人は、地面に倒れている男を見ながら、今まで経験したことのないほどの安堵感を抱いていた。

 

 目的を果たした影人が、その場から離れようとすると、もうひとりの男、小柄な男が近づき、声をかけてきた。

 その男が、今目の前の路地を歩いている男、ガラだ。

    


                     

           

 ガラと影人は、路地を抜けて、大通りへと入る。
 大通りをたどってしばらくすると、都市の入り口である門にたどり着く。

「いつ見てもこの門と城塞には圧倒されるわな。俺たちは街の中に住めて幸運だな」

 ガラが、門を見上げながら、ぼそりとこぼす。

「そう……だな」

 ガラは、この都市に居を構える前は、ここらの周辺各地を根無し草のように放浪していたらしい。

 そして、そのガラが、門に来る度に、挨拶代わりに同じ事を言うのだから、今目の前に立っている門や周囲を囲む城塞程度の建築物でも、この世界ではかなり稀なのだろう。

 二人は、門を曲がり、城塞に沿って、歩く。

 ここらの家々は、先ほどの大通りの家よりもさらにみすぼらしく、いつ倒壊してもおかしくないくらいに傷んでいる。

 実際、屋根やら軒やらが崩れて、倒壊している家々も多くある。
 それでも、雨露をしのぐ役割は果たせるからなのか、そんな家でも人々は何食わぬ顔をして、住んでいる。

 影人たちが、今歩いている場所は、この都市の端っこ部分にあたる。
 そして、この都市の端には、文字通り、この社会の末端に位置する人々が集まっている。
 
 そんなオンボロの家……というより廃墟が密集している一角を横目にして、しばらく歩いていると、ガラが止まり、顎を降る。

「ここだ」
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