14 / 27
第14話 娘をモノのように売る商人
街に戻る道中で、色々と考えてみたが、どうも何かひどい誤解をされている気がする。
そして、それはおそらくガラに原因がある……ように思う。
昨日、あの家に行った時にガラが何か自分のことについてタリに良からぬことを吹き込んだのではないだろうか。
結局、これらの答えを知るためには、タリと影人をつなぐ接点、つまり、ガラに聞くのが手っ取り早い。
それにしても……ガラの奴。いったいどんなことを吹き込んだのか。
ちょっとした苛立ちを覚えながら、ガラの下へと急ぐ。
自分の預かり知らないところで、人からあらぬ誤解をされるというのは気分が良いものではない。
特にトラブルもなく街道の行き来ができたため、太陽の高さを見る限り、ガラとの約束の時間はまだ大分先だった。
路地裏の店に行っても、まだガラはいないだろう。
借家に戻って、一眠りという選択肢もあったが、このモヤモヤ感を早いところ解消したかった。
それに、ガラの行き先はだいたい検討がついている。
どうせどこかの酒場に居るに決まっている。
街の酒場を何件かまわったところ、案の定見慣れた横顔があった。
金貸しという仕事は、リスクはあるにせよ、上手く回せばそれなりに悪い商売ではないらしい。
庶民たちの大半が、あくせくとキツい労働に勤しんでいる時間から、酒場でクダをまいていられるのだから。
真っ昼間ということもあり、薄暗い店の中にいる客はガラを含めて、まばらだった。
ガラの側に近寄ると、「よお——早かったな」と、赤ら顔をこちらに向けてくる。
全く……こちらの気も知らないで呑気なもんだ。
喉まで出かかった恨み事を呑み込んで、「ほら。娘さんに渡して来たぞ」と、ガラにタリからもらった印章が押された布切れを見せる。
「ごくろうさん。で……どうだった?」
ガラは、何やら色々な含みをもたせた笑みを浮かべて、こちらを見ている。
「どう……って。昨日みたいに誰かに襲われるなんてこともなく、問題なく家まで行って帰ってこれたよ」
「そうか。それは……まあよかった。お前も何か飲むか?」
影人の感想に対して、ガラはどこか気のない返事を返す。
どうやら求めていた言葉ではなかったらしい。
「いや……いいよ。酒は」
「……お前本当変わりもんだな。それでその……娘はどうだった?」
今度は先ほどよりも、あからさまな笑みを浮かべている。
「どうって言われても……なんだか色々と誤解されているようなんだが。何か昨日彼女に言ったのか?」
ガラは、眉間にシワを寄せて、「誤解されている?いったいどういうことだ?」と詰め寄ってくる。
「いや……よくわからない。最初は普通だったけれど、いきなり……その……なんというか……。彼女が、近づいてきて……ええっと……。それで驚いで……彼女から離れたら。急に怒り出して……」
曖昧な説明を返すのが、精一杯だった。
ガラは、タリの父親だ。
あなたの娘が突然迫ってきましたとはっきり言うのは気まずいものがある。
しかし、そんな気遣いはどうやら無用だったようだ。
ガラは、「はあ? お前まさか誘いを断ったのか?」と、心底呆れたような声を出して、こちらを品定めするようにジロジロと伺ってくる。
「酒も……女もやらない……元坊主とかいうことはないよな……いや……貴族のせがれなら……それもありえるか」
ガラは、ブツブツと独り言をつぶやいている。
貴族って……ガラのやつ、俺のことを貴族だと思っていたのか。
どういう誤解をしたらいったいそうなるんだ……。
だけど、それは、今はいい。
それより、問題なのは、タリのあの突拍子もない行動は、ガラが後ろで手を引いていたということだ。
「……おい。お前が、あの子にあんなことしろって言ったのか? 自分の娘だろ。何考えてるんだ?」
影人は、呆れ半分、怒り半分といった気分で、ガラをにらむ。
「おいおい……少し落ち着けって。お前のことを思ってしたことなんだ。街の外にいる訳ありの娘のところにわざわざ行ってもらうんだ。何か……その金以外にもお礼があった方がいいんじゃないか、と思ってな」
ガラは、そんなことで何怒ってるんだよと言いたげな表情を浮かべて、たいして悪びれた様子はない。
「まったく……勝手なことするなよ……」
いったいガラの頭の中はどうなっているんだ。
まるで、物を差し出すみたいに、自分の娘を差し出すなんて。
しかも、ガラの態度を見る限り、さも当たり前のことをしただけといった様子だ。
「……にしても。変な奴だと思っていたが、ここまでとはな。あんな器量の良い女を拒むなんて。なあ、あの娘はかなりのもんだろう? 野良仕事だってたいしてさせてないから、あの年にしては、体だってかなり綺麗なんだよ。それをなあ……。お前の国の貴族ってのはどいつもそんな変わり者なのか?」
ガラは、まるで自分の商品を売り込むような口ぶりで、得意そうに娘の自慢をしている。
そして、あいも変わらず、影人を貴族だと思い込んでいるようだ。
「あのな……俺は貴族じゃないぞ」
「安心しろよ。別に誰かに広めようなんて思ってない。異国にまで逃げてきているってことは、色々と事情があったんだろうからな」
本人の知らぬところで、ガラの頭の中には、影人についての確固たるストーリーが出来上がっているようだった。
思わず大きなため息を漏らしてしまう。
「なあ……そもそも、なんで俺を貴族だと思ってるんだ?」
「そんなのお前……言葉や素振りを見ればそこらのガキだってわかるさ。訛りがないそんな古代帝国語のイントネーションでしゃべって、読み書きもできる。これでそこらの村の農民あがりだって言われて信じるマヌケはいないだろう」
言語の変換は、体内のシステムに任せているから、教科書通りの発音になっているのだろう。
しかし、そこまでの違いがあるとは思ってもみなかった。
服装はその他大勢のものと大差ないのに、未だによそよそしい視線を感じることが多かったのは、発音が理由の一つだったのだろうか。
それにしても、考えないようにしていたが、言語の変換が可能……ということはやはり……この世界は……。
そして、それはおそらくガラに原因がある……ように思う。
昨日、あの家に行った時にガラが何か自分のことについてタリに良からぬことを吹き込んだのではないだろうか。
結局、これらの答えを知るためには、タリと影人をつなぐ接点、つまり、ガラに聞くのが手っ取り早い。
それにしても……ガラの奴。いったいどんなことを吹き込んだのか。
ちょっとした苛立ちを覚えながら、ガラの下へと急ぐ。
自分の預かり知らないところで、人からあらぬ誤解をされるというのは気分が良いものではない。
特にトラブルもなく街道の行き来ができたため、太陽の高さを見る限り、ガラとの約束の時間はまだ大分先だった。
路地裏の店に行っても、まだガラはいないだろう。
借家に戻って、一眠りという選択肢もあったが、このモヤモヤ感を早いところ解消したかった。
それに、ガラの行き先はだいたい検討がついている。
どうせどこかの酒場に居るに決まっている。
街の酒場を何件かまわったところ、案の定見慣れた横顔があった。
金貸しという仕事は、リスクはあるにせよ、上手く回せばそれなりに悪い商売ではないらしい。
庶民たちの大半が、あくせくとキツい労働に勤しんでいる時間から、酒場でクダをまいていられるのだから。
真っ昼間ということもあり、薄暗い店の中にいる客はガラを含めて、まばらだった。
ガラの側に近寄ると、「よお——早かったな」と、赤ら顔をこちらに向けてくる。
全く……こちらの気も知らないで呑気なもんだ。
喉まで出かかった恨み事を呑み込んで、「ほら。娘さんに渡して来たぞ」と、ガラにタリからもらった印章が押された布切れを見せる。
「ごくろうさん。で……どうだった?」
ガラは、何やら色々な含みをもたせた笑みを浮かべて、こちらを見ている。
「どう……って。昨日みたいに誰かに襲われるなんてこともなく、問題なく家まで行って帰ってこれたよ」
「そうか。それは……まあよかった。お前も何か飲むか?」
影人の感想に対して、ガラはどこか気のない返事を返す。
どうやら求めていた言葉ではなかったらしい。
「いや……いいよ。酒は」
「……お前本当変わりもんだな。それでその……娘はどうだった?」
今度は先ほどよりも、あからさまな笑みを浮かべている。
「どうって言われても……なんだか色々と誤解されているようなんだが。何か昨日彼女に言ったのか?」
ガラは、眉間にシワを寄せて、「誤解されている?いったいどういうことだ?」と詰め寄ってくる。
「いや……よくわからない。最初は普通だったけれど、いきなり……その……なんというか……。彼女が、近づいてきて……ええっと……。それで驚いで……彼女から離れたら。急に怒り出して……」
曖昧な説明を返すのが、精一杯だった。
ガラは、タリの父親だ。
あなたの娘が突然迫ってきましたとはっきり言うのは気まずいものがある。
しかし、そんな気遣いはどうやら無用だったようだ。
ガラは、「はあ? お前まさか誘いを断ったのか?」と、心底呆れたような声を出して、こちらを品定めするようにジロジロと伺ってくる。
「酒も……女もやらない……元坊主とかいうことはないよな……いや……貴族のせがれなら……それもありえるか」
ガラは、ブツブツと独り言をつぶやいている。
貴族って……ガラのやつ、俺のことを貴族だと思っていたのか。
どういう誤解をしたらいったいそうなるんだ……。
だけど、それは、今はいい。
それより、問題なのは、タリのあの突拍子もない行動は、ガラが後ろで手を引いていたということだ。
「……おい。お前が、あの子にあんなことしろって言ったのか? 自分の娘だろ。何考えてるんだ?」
影人は、呆れ半分、怒り半分といった気分で、ガラをにらむ。
「おいおい……少し落ち着けって。お前のことを思ってしたことなんだ。街の外にいる訳ありの娘のところにわざわざ行ってもらうんだ。何か……その金以外にもお礼があった方がいいんじゃないか、と思ってな」
ガラは、そんなことで何怒ってるんだよと言いたげな表情を浮かべて、たいして悪びれた様子はない。
「まったく……勝手なことするなよ……」
いったいガラの頭の中はどうなっているんだ。
まるで、物を差し出すみたいに、自分の娘を差し出すなんて。
しかも、ガラの態度を見る限り、さも当たり前のことをしただけといった様子だ。
「……にしても。変な奴だと思っていたが、ここまでとはな。あんな器量の良い女を拒むなんて。なあ、あの娘はかなりのもんだろう? 野良仕事だってたいしてさせてないから、あの年にしては、体だってかなり綺麗なんだよ。それをなあ……。お前の国の貴族ってのはどいつもそんな変わり者なのか?」
ガラは、まるで自分の商品を売り込むような口ぶりで、得意そうに娘の自慢をしている。
そして、あいも変わらず、影人を貴族だと思い込んでいるようだ。
「あのな……俺は貴族じゃないぞ」
「安心しろよ。別に誰かに広めようなんて思ってない。異国にまで逃げてきているってことは、色々と事情があったんだろうからな」
本人の知らぬところで、ガラの頭の中には、影人についての確固たるストーリーが出来上がっているようだった。
思わず大きなため息を漏らしてしまう。
「なあ……そもそも、なんで俺を貴族だと思ってるんだ?」
「そんなのお前……言葉や素振りを見ればそこらのガキだってわかるさ。訛りがないそんな古代帝国語のイントネーションでしゃべって、読み書きもできる。これでそこらの村の農民あがりだって言われて信じるマヌケはいないだろう」
言語の変換は、体内のシステムに任せているから、教科書通りの発音になっているのだろう。
しかし、そこまでの違いがあるとは思ってもみなかった。
服装はその他大勢のものと大差ないのに、未だによそよそしい視線を感じることが多かったのは、発音が理由の一つだったのだろうか。
それにしても、考えないようにしていたが、言語の変換が可能……ということはやはり……この世界は……。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?