未来に住む一般人が、リアルな異世界に転移したらどうなるか。

kaizi

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第14話 娘をモノのように売る商人

 街に戻る道中で、色々と考えてみたが、どうも何かひどい誤解をされている気がする。
 そして、それはおそらくガラに原因がある……ように思う。
 
 昨日、あの家に行った時にガラが何か自分のことについてタリに良からぬことを吹き込んだのではないだろうか。
 
 結局、これらの答えを知るためには、タリと影人をつなぐ接点、つまり、ガラに聞くのが手っ取り早い。

 それにしても……ガラの奴。いったいどんなことを吹き込んだのか。

 ちょっとした苛立ちを覚えながら、ガラの下へと急ぐ。
 自分の預かり知らないところで、人からあらぬ誤解をされるというのは気分が良いものではない。

 特にトラブルもなく街道の行き来ができたため、太陽の高さを見る限り、ガラとの約束の時間はまだ大分先だった。

 路地裏の店に行っても、まだガラはいないだろう。
 借家に戻って、一眠りという選択肢もあったが、このモヤモヤ感を早いところ解消したかった。

 それに、ガラの行き先はだいたい検討がついている。
 どうせどこかの酒場に居るに決まっている。
 
 街の酒場を何件かまわったところ、案の定見慣れた横顔があった。
 金貸しという仕事は、リスクはあるにせよ、上手く回せばそれなりに悪い商売ではないらしい。

 庶民たちの大半が、あくせくとキツい労働に勤しんでいる時間から、酒場でクダをまいていられるのだから。
 真っ昼間ということもあり、薄暗い店の中にいる客はガラを含めて、まばらだった。

 ガラの側に近寄ると、「よお——早かったな」と、赤ら顔をこちらに向けてくる。

 全く……こちらの気も知らないで呑気なもんだ。

 喉まで出かかった恨み事を呑み込んで、「ほら。娘さんに渡して来たぞ」と、ガラにタリからもらった印章が押された布切れを見せる。

「ごくろうさん。で……どうだった?」

 ガラは、何やら色々な含みをもたせた笑みを浮かべて、こちらを見ている。

「どう……って。昨日みたいに誰かに襲われるなんてこともなく、問題なく家まで行って帰ってこれたよ」

「そうか。それは……まあよかった。お前も何か飲むか?」

 影人の感想に対して、ガラはどこか気のない返事を返す。
 どうやら求めていた言葉ではなかったらしい。

「いや……いいよ。酒は」

「……お前本当変わりもんだな。それでその……娘はどうだった?」

 今度は先ほどよりも、あからさまな笑みを浮かべている。

「どうって言われても……なんだか色々と誤解されているようなんだが。何か昨日彼女に言ったのか?」

 ガラは、眉間にシワを寄せて、「誤解されている?いったいどういうことだ?」と詰め寄ってくる。

「いや……よくわからない。最初は普通だったけれど、いきなり……その……なんというか……。彼女が、近づいてきて……ええっと……。それで驚いで……彼女から離れたら。急に怒り出して……」

 曖昧な説明を返すのが、精一杯だった。
 ガラは、タリの父親だ。
 あなたの娘が突然迫ってきましたとはっきり言うのは気まずいものがある。

 しかし、そんな気遣いはどうやら無用だったようだ。
 ガラは、「はあ? お前まさか誘いを断ったのか?」と、心底呆れたような声を出して、こちらを品定めするようにジロジロと伺ってくる。

 「酒も……女もやらない……元坊主とかいうことはないよな……いや……貴族のせがれなら……それもありえるか」

 ガラは、ブツブツと独り言をつぶやいている。
 貴族って……ガラのやつ、俺のことを貴族だと思っていたのか。
 どういう誤解をしたらいったいそうなるんだ……。

 だけど、それは、今はいい。
 それより、問題なのは、タリのあの突拍子もない行動は、ガラが後ろで手を引いていたということだ。
 
「……おい。お前が、あの子にあんなことしろって言ったのか? 自分の娘だろ。何考えてるんだ?」

 影人は、呆れ半分、怒り半分といった気分で、ガラをにらむ。

「おいおい……少し落ち着けって。お前のことを思ってしたことなんだ。街の外にいる訳ありの娘のところにわざわざ行ってもらうんだ。何か……その金以外にもお礼があった方がいいんじゃないか、と思ってな」

 ガラは、そんなことで何怒ってるんだよと言いたげな表情を浮かべて、たいして悪びれた様子はない。

「まったく……勝手なことするなよ……」

 いったいガラの頭の中はどうなっているんだ。
 まるで、物を差し出すみたいに、自分の娘を差し出すなんて。
 しかも、ガラの態度を見る限り、さも当たり前のことをしただけといった様子だ。

「……にしても。変な奴だと思っていたが、ここまでとはな。あんな器量の良い女を拒むなんて。なあ、あの娘はかなりのもんだろう? 野良仕事だってたいしてさせてないから、あの年にしては、体だってかなり綺麗なんだよ。それをなあ……。お前の国の貴族ってのはどいつもそんな変わり者なのか?」

 ガラは、まるで自分の商品を売り込むような口ぶりで、得意そうに娘の自慢をしている。
 そして、あいも変わらず、影人を貴族だと思い込んでいるようだ。

「あのな……俺は貴族じゃないぞ」

「安心しろよ。別に誰かに広めようなんて思ってない。異国にまで逃げてきているってことは、色々と事情があったんだろうからな」
 
 本人の知らぬところで、ガラの頭の中には、影人についての確固たるストーリーが出来上がっているようだった。

 思わず大きなため息を漏らしてしまう。

「なあ……そもそも、なんで俺を貴族だと思ってるんだ?」

「そんなのお前……言葉や素振りを見ればそこらのガキだってわかるさ。訛りがないそんな古代帝国語のイントネーションでしゃべって、読み書きもできる。これでそこらの村の農民あがりだって言われて信じるマヌケはいないだろう」

 言語の変換は、体内のシステムに任せているから、教科書通りの発音になっているのだろう。
 しかし、そこまでの違いがあるとは思ってもみなかった。
 服装はその他大勢のものと大差ないのに、未だによそよそしい視線を感じることが多かったのは、発音が理由の一つだったのだろうか。

 それにしても、考えないようにしていたが、言語の変換が可能……ということはやはり……この世界は……。
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