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第16話 古代帝国の大聖堂と怪しげな修道女
大通りの終点にある大聖堂は、文字通り街の中心にある。
当然、その周りは、この街一番の賑わいを見せている。
その集まった人間目当てに、ちょっとした食べ物や小間物を売る露天商たちが大聖堂の周りにたむろしていた。
影人は、それらの露天商の一人から、適当な食べ物を買い、腹の足しにする。
手にした食べ物は、小麦粉を加工した一見すると菓子のような見た目だったが、まるで甘さはなく、味は恐ろしく薄かった。
それでも、いつも食べているパンに比べれば、柔らかい分だけマシだった。
これで、パンの半分の値段なのだから、たまに食う分にはいいかもしれない。
菓子モドキをパクつきながら、露天商の男に大聖堂のことをそれとなく聞いてみる。
「この建物はかなり大きいですが、これはいつ頃できたものなんですか?」
「さあな……俺もこのあたりの生まれで、この街にはガキの頃から仕事で来てるけど、そん時からあるから、かなり昔のものなんだろうけが……。もしかしたら、かの帝国が作ったものかもなあ」
男は、側に立つ大聖堂を見上げながら、その大きさに圧倒され、畏怖さえしているようだった。
それにしても……また帝国か。
この街の住民は、口癖のように、ことあるごとに「帝国」について言及する。
なんでも、かつて——どれくらい前なのか、明確な年数を知っているものは話しを聞いた中では、一人としていない。そもそも、この世界の住民で客観的な数字として年数を意識しているものはいない——このあたり一帯を含めて、広大なエリアを支配していた帝国が存在していたらしい。
いわく、その帝国の時代は、人々にとっては、「黄金の時代」で今よりもよっぽど良い暮らしができた……というのが、この街の人々が思い描く共通の逸話のようなのだ。
影人も、露天商の男と一緒になって、大聖堂を見上げる。
確かに、大聖堂は、他の街の建物と比べて、大分古めかしく、重厚な趣がある。
吹けば飛ぶような大通りに林立する粗末な建物とは素人目で見ても、明らかに作りが違う。
街の周囲を取り囲む城塞も、大聖堂と似たような趣があるから、もしかしたら、城塞と大聖堂は同じ時期に作られたものなのかもしれない。
視線を下の方にやると、大聖堂の入り口にあたる部分は多くの人の出入りがあった。
どうやら、広く門戸は解放しているようだ。
そういうことならばひとつ入ってみるか……と影人は入り口の方へと足を向ける。
高さが三メートルほどある開け放たれた巨大な扉をくぐると、中は、天井まで吹き抜けた広大な空間になっていた。
天井や壁には小さな小窓が何個かあり、そこから入る光が地面や壁に色とりどりの影を描いている。
荘厳な建物の持つ力なのか、あるいは光陰入り混じった幻想的な光景のせいなのか、思わず神聖な何かを感じてしまう。
無神論者の影人であってもこうなのだから、信仰篤い人々がここを訪れれば、神の存在をその胸に感じることができるのだろう。
実際、普段は静かにするという行為を知らないのではないかというほど、騒々しい人々も、この中では、従順な羊のように終始おとなしくしている。
多くの人々は、ただその場にひざまずき、目を閉じ、思い思いにそれぞれの胸の内に去来した神と対話をしているようだった。
影人は、そうした祈りを捧げる人々を横目にして、何とも言えない感慨を抱いてしまう。
この世界に来て、初めて秩序立った行動をする人々を目にしたからだ。
今隣にいる人々は、普段の無秩序な行動をする人々とは同一の存在とは思えないほど、整然としている。
しばらく、辺りを見渡していると、ふと自分の方に視線を向けている女の存在に気づく。
女は、顔の部分を除いて、上から下まで全身を紺色と白の服で覆っている。
さしずめ、修道女といった出で立ちだった。
最初はたまたま見られているだけかと思っていたが、数秒経ってもその視線は外れることはない。
こうなると、こちらの存在を意識して、視線を向けているとしか思えない。
その視線に気づかないふりをしていたが、長時間にわたって、見つめられるというのはどうにも居心地が悪い。
しかたがないので、真っ直ぐ修道女の方を見る。
はっきりと視線が合った。
すると、修道女は、微笑した後、顔を入り口の方に向けて、またこちらに向き直る。
どうやら、一緒に来いと合図をしているようだった。
どうしたものか……と一瞬悩むが、修道女の指示に従い、その後に続く。
何か良からぬことを企んでいたとしても、ここは街の中心部だ。
まさか白昼堂々、襲ってくるということはないだろう。
それに、相手は修道女だ。
後れをとることはないだろう。
影人と修道女は、大聖堂を出て、少し離れたところにある路地へと入っていく。
修道女は、しばらく行ったところで、立ち止まり、影人の方に向き直る。
そして、「どうも。はじめまして」と微笑みかけてくる。
修道女の外見を間近で見た時、抱いた第一印象は、冷徹な美女といったところだった。
容姿は、美しいが、それ故に余計に眼光鋭い目が妙に悪目立ちし、冷たい印象を受けてしまう。
その外見のせいなのか、妙に大人びて見える。
何を言われるのかと身構えていると、「あなたが、影人さん?」と確認するようにこちらの様子を伺ってくる。
当然、その周りは、この街一番の賑わいを見せている。
その集まった人間目当てに、ちょっとした食べ物や小間物を売る露天商たちが大聖堂の周りにたむろしていた。
影人は、それらの露天商の一人から、適当な食べ物を買い、腹の足しにする。
手にした食べ物は、小麦粉を加工した一見すると菓子のような見た目だったが、まるで甘さはなく、味は恐ろしく薄かった。
それでも、いつも食べているパンに比べれば、柔らかい分だけマシだった。
これで、パンの半分の値段なのだから、たまに食う分にはいいかもしれない。
菓子モドキをパクつきながら、露天商の男に大聖堂のことをそれとなく聞いてみる。
「この建物はかなり大きいですが、これはいつ頃できたものなんですか?」
「さあな……俺もこのあたりの生まれで、この街にはガキの頃から仕事で来てるけど、そん時からあるから、かなり昔のものなんだろうけが……。もしかしたら、かの帝国が作ったものかもなあ」
男は、側に立つ大聖堂を見上げながら、その大きさに圧倒され、畏怖さえしているようだった。
それにしても……また帝国か。
この街の住民は、口癖のように、ことあるごとに「帝国」について言及する。
なんでも、かつて——どれくらい前なのか、明確な年数を知っているものは話しを聞いた中では、一人としていない。そもそも、この世界の住民で客観的な数字として年数を意識しているものはいない——このあたり一帯を含めて、広大なエリアを支配していた帝国が存在していたらしい。
いわく、その帝国の時代は、人々にとっては、「黄金の時代」で今よりもよっぽど良い暮らしができた……というのが、この街の人々が思い描く共通の逸話のようなのだ。
影人も、露天商の男と一緒になって、大聖堂を見上げる。
確かに、大聖堂は、他の街の建物と比べて、大分古めかしく、重厚な趣がある。
吹けば飛ぶような大通りに林立する粗末な建物とは素人目で見ても、明らかに作りが違う。
街の周囲を取り囲む城塞も、大聖堂と似たような趣があるから、もしかしたら、城塞と大聖堂は同じ時期に作られたものなのかもしれない。
視線を下の方にやると、大聖堂の入り口にあたる部分は多くの人の出入りがあった。
どうやら、広く門戸は解放しているようだ。
そういうことならばひとつ入ってみるか……と影人は入り口の方へと足を向ける。
高さが三メートルほどある開け放たれた巨大な扉をくぐると、中は、天井まで吹き抜けた広大な空間になっていた。
天井や壁には小さな小窓が何個かあり、そこから入る光が地面や壁に色とりどりの影を描いている。
荘厳な建物の持つ力なのか、あるいは光陰入り混じった幻想的な光景のせいなのか、思わず神聖な何かを感じてしまう。
無神論者の影人であってもこうなのだから、信仰篤い人々がここを訪れれば、神の存在をその胸に感じることができるのだろう。
実際、普段は静かにするという行為を知らないのではないかというほど、騒々しい人々も、この中では、従順な羊のように終始おとなしくしている。
多くの人々は、ただその場にひざまずき、目を閉じ、思い思いにそれぞれの胸の内に去来した神と対話をしているようだった。
影人は、そうした祈りを捧げる人々を横目にして、何とも言えない感慨を抱いてしまう。
この世界に来て、初めて秩序立った行動をする人々を目にしたからだ。
今隣にいる人々は、普段の無秩序な行動をする人々とは同一の存在とは思えないほど、整然としている。
しばらく、辺りを見渡していると、ふと自分の方に視線を向けている女の存在に気づく。
女は、顔の部分を除いて、上から下まで全身を紺色と白の服で覆っている。
さしずめ、修道女といった出で立ちだった。
最初はたまたま見られているだけかと思っていたが、数秒経ってもその視線は外れることはない。
こうなると、こちらの存在を意識して、視線を向けているとしか思えない。
その視線に気づかないふりをしていたが、長時間にわたって、見つめられるというのはどうにも居心地が悪い。
しかたがないので、真っ直ぐ修道女の方を見る。
はっきりと視線が合った。
すると、修道女は、微笑した後、顔を入り口の方に向けて、またこちらに向き直る。
どうやら、一緒に来いと合図をしているようだった。
どうしたものか……と一瞬悩むが、修道女の指示に従い、その後に続く。
何か良からぬことを企んでいたとしても、ここは街の中心部だ。
まさか白昼堂々、襲ってくるということはないだろう。
それに、相手は修道女だ。
後れをとることはないだろう。
影人と修道女は、大聖堂を出て、少し離れたところにある路地へと入っていく。
修道女は、しばらく行ったところで、立ち止まり、影人の方に向き直る。
そして、「どうも。はじめまして」と微笑みかけてくる。
修道女の外見を間近で見た時、抱いた第一印象は、冷徹な美女といったところだった。
容姿は、美しいが、それ故に余計に眼光鋭い目が妙に悪目立ちし、冷たい印象を受けてしまう。
その外見のせいなのか、妙に大人びて見える。
何を言われるのかと身構えていると、「あなたが、影人さん?」と確認するようにこちらの様子を伺ってくる。
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