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第24話 修道女の決意
アニサも、懸命に人々をなだめすかせようとするが、人々の混乱は収まりそうにない。
アニサ自身も少なからず動揺しているため、その様子は、どこかぎこちない。
おそらく人々はそういったアニサの機微を敏感に感じとってしまい、それが皮肉なことに混乱に拍車をかけてしまっているのだろう。
数人の男たちが、間に入っているアニサを強引に押しやり、地面に座り込んでいる住民に対して、手に持った長柄の農具のようなもので小突く。
彼らは決して、素手で住民に触れようとはしない。
「ちょっと……落ち着いて——落ち着きなさい!!」
アニサはもみくちゃにされながらも、必死に男たちを止めようとするが、なにせ多勢に無勢である。
1人の女の手で、怒り狂った男たちを力で止めることなどできる訳がない。
いよいよあたりは混乱状態となる。
人々の行動も暴力的になり、もはや小突くという言葉ではおさまりがつかないくらいに、過激になっている。
「このやろう! このやろうめ!」
「お前らのせいで!」
人々は一点を見つめて、陶酔したように、無抵抗の住民の体に農具を振りかざす。
父母と思われる住民は必死に、体を覆いかぶさって、子供をかばっているが、人々から容赦なく何度も農具で体を刺されたために、既に皮膚から血が点々と出ていた。
このままだとなぶり殺しにされかねない事態だ。
この酷い有様を黙って見ていたくはない。
だが、興奮した十数人の群衆を前に飛び込む勇気が持てずに、躊躇してしまう。
助けを求めるように、ガラの方を見る。
だが、ガラは、ワナワナと震えて、下を向きながらブツブツと何かを言っている。
クソ……何やってるんだ……ガラのやつ。
援護は期待できそうにない。
そうこうするうちに、アニサはますます興奮して既に暴徒とかしている人々に飲み込まれて、もう視界から消えかけていた。
影人は意を決して、群衆の中に飛び込もうと、体を身構える。
すると、急にあたりが静かになった。
周りを見渡すと、住民を取り囲んでいた人々が、驚いた顔を浮かべて、後ずさりしている。
何が起きたか、わからないが、アニサを救出するチャンスには違いない。
群衆を掻き分けて、前へと出ると、アニサが視界に入る。
彼女は、体を投げ出して、住民たちに覆いかぶさっていた。
人々はアニサのその行動が信じられなかったようだ。
呆けたように唖然としてその様子を見ている。
やがて、リーダーの男が絞り出すような声を上げる。
「あ、あんた……そいつらは死病にかかっているんだ。それなのに、体に触れて——」
アニサは、ゆっくりと立ち上がり、そして、無言で人々を見る。
着ている修道服はところどころ破れてしまっている。
頭をすっぽり覆っていた頭巾も取れて、結われていた髪がほどけて、髪が無造作に垂れていた。
おそらく、住民たちをかばった際に、彼女自身も人々から、何かしらの暴行を加えられたのだろう。
そんなともすればみすぼらしく見える格好にもかかわらず、人々は、アニサの有無を言わさぬ態度に気圧されていた。
それほど、今のアニサは、どこか神々しいと感じるほどの威厳に満ちた雰囲気を全身に纏っていた。
人々は、アニサの命令を待っているかのように、おとなしくその場に立ち尽くしている。
アニサは、しばらく、人々を見つめた後、静かに話し始める。
「この方たちは、ひとまず修道院で保護します。もし、病にかかっているのならば、しかるべく儀式を行った上で、送り出します」
「だ、だが——」
それでも、何人かの人々は、まだおさまりがつかないようだ。
アニサは、それらを無視して、倒れていた住民たちの手を取り、その場から立ち去ろうとする。
人々は、距離を取りながらも、取り囲んで、圧力をかけるが、アニサは意に返さない。
そんな様子を始終あっけにとらわれながら見守っていた。
アニサが、その場から離れだす段になって、ようやく足が動き、近くへと駆け寄る。
だが、人々の空気に当てられたせいか、それとも本能が警告を発しているのか、病気の住民たちの側に近寄るのはためらわられた。
人々の言っていることを鵜呑みにした訳ではない。
だが、人々が狼狽し、暴動になるくらいだ。死病とやらは文字どおり感染すれば、命を落とす病なのだろう。
そんな危険な伝染病を発症しているであろう者たちとは関わりたくない。
たとえ、体内の医療システムによって保護されているとしても……。
だが、そんな打算的な考えに捕らわれてしまうことが同時に恥ずかしくもある。
アニサの美しい横顔は痛々しいくらい擦り切れていて、泥や血で傷だらけになっていた。
彼女は、強化されていないピュアな肉体……いわば保険がない状態にも関わらず、見ず知らずの他人のために、自身の肉体を危険にさらしているのだ。
自分の弱さを見透かさられそうで、アニサの目を面と見るのが怖かった。
視線を逸らすと、視界にガラを捉える。
ガラは、先ほどと同じようにいまだ目はうつろで、明後日の方向を見ている。
自分への苛立ちが、ガラの方にも向く。
全く……こんな状態だというのに、何をやっているんだ……。
「おい……何やってるんだ。行くぞ」
影人が大声をかけて、体を揺さぶる。
そうまでして、ようやくガラは、こちらに反応し、「あ、ああ・・」と力なく頷き、トボトボと歩き出す。
それにしても、様子がおかしい。
暴徒を前に動揺したのだろうか。
だが、そんなことで、ここまでうろたえるようなタマではないはずだが……。
ガラの不自然な態度は気になっていたが、今はここから早く立ち去りたいという想いで頭がいっぱいだった。
幸いにして、アニサの身を呈した行動に人々は未だに畏怖の念を感じているのか、大きな妨害はなかった。
だが、最後までその不穏に満ちた空気が醸成する得も言われぬ気持ち悪さからは逃れることができなかった。
人々は、最後までやはり死の恐怖に染まった暗い視線をこちらに送っていた。
アニサ自身も少なからず動揺しているため、その様子は、どこかぎこちない。
おそらく人々はそういったアニサの機微を敏感に感じとってしまい、それが皮肉なことに混乱に拍車をかけてしまっているのだろう。
数人の男たちが、間に入っているアニサを強引に押しやり、地面に座り込んでいる住民に対して、手に持った長柄の農具のようなもので小突く。
彼らは決して、素手で住民に触れようとはしない。
「ちょっと……落ち着いて——落ち着きなさい!!」
アニサはもみくちゃにされながらも、必死に男たちを止めようとするが、なにせ多勢に無勢である。
1人の女の手で、怒り狂った男たちを力で止めることなどできる訳がない。
いよいよあたりは混乱状態となる。
人々の行動も暴力的になり、もはや小突くという言葉ではおさまりがつかないくらいに、過激になっている。
「このやろう! このやろうめ!」
「お前らのせいで!」
人々は一点を見つめて、陶酔したように、無抵抗の住民の体に農具を振りかざす。
父母と思われる住民は必死に、体を覆いかぶさって、子供をかばっているが、人々から容赦なく何度も農具で体を刺されたために、既に皮膚から血が点々と出ていた。
このままだとなぶり殺しにされかねない事態だ。
この酷い有様を黙って見ていたくはない。
だが、興奮した十数人の群衆を前に飛び込む勇気が持てずに、躊躇してしまう。
助けを求めるように、ガラの方を見る。
だが、ガラは、ワナワナと震えて、下を向きながらブツブツと何かを言っている。
クソ……何やってるんだ……ガラのやつ。
援護は期待できそうにない。
そうこうするうちに、アニサはますます興奮して既に暴徒とかしている人々に飲み込まれて、もう視界から消えかけていた。
影人は意を決して、群衆の中に飛び込もうと、体を身構える。
すると、急にあたりが静かになった。
周りを見渡すと、住民を取り囲んでいた人々が、驚いた顔を浮かべて、後ずさりしている。
何が起きたか、わからないが、アニサを救出するチャンスには違いない。
群衆を掻き分けて、前へと出ると、アニサが視界に入る。
彼女は、体を投げ出して、住民たちに覆いかぶさっていた。
人々はアニサのその行動が信じられなかったようだ。
呆けたように唖然としてその様子を見ている。
やがて、リーダーの男が絞り出すような声を上げる。
「あ、あんた……そいつらは死病にかかっているんだ。それなのに、体に触れて——」
アニサは、ゆっくりと立ち上がり、そして、無言で人々を見る。
着ている修道服はところどころ破れてしまっている。
頭をすっぽり覆っていた頭巾も取れて、結われていた髪がほどけて、髪が無造作に垂れていた。
おそらく、住民たちをかばった際に、彼女自身も人々から、何かしらの暴行を加えられたのだろう。
そんなともすればみすぼらしく見える格好にもかかわらず、人々は、アニサの有無を言わさぬ態度に気圧されていた。
それほど、今のアニサは、どこか神々しいと感じるほどの威厳に満ちた雰囲気を全身に纏っていた。
人々は、アニサの命令を待っているかのように、おとなしくその場に立ち尽くしている。
アニサは、しばらく、人々を見つめた後、静かに話し始める。
「この方たちは、ひとまず修道院で保護します。もし、病にかかっているのならば、しかるべく儀式を行った上で、送り出します」
「だ、だが——」
それでも、何人かの人々は、まだおさまりがつかないようだ。
アニサは、それらを無視して、倒れていた住民たちの手を取り、その場から立ち去ろうとする。
人々は、距離を取りながらも、取り囲んで、圧力をかけるが、アニサは意に返さない。
そんな様子を始終あっけにとらわれながら見守っていた。
アニサが、その場から離れだす段になって、ようやく足が動き、近くへと駆け寄る。
だが、人々の空気に当てられたせいか、それとも本能が警告を発しているのか、病気の住民たちの側に近寄るのはためらわられた。
人々の言っていることを鵜呑みにした訳ではない。
だが、人々が狼狽し、暴動になるくらいだ。死病とやらは文字どおり感染すれば、命を落とす病なのだろう。
そんな危険な伝染病を発症しているであろう者たちとは関わりたくない。
たとえ、体内の医療システムによって保護されているとしても……。
だが、そんな打算的な考えに捕らわれてしまうことが同時に恥ずかしくもある。
アニサの美しい横顔は痛々しいくらい擦り切れていて、泥や血で傷だらけになっていた。
彼女は、強化されていないピュアな肉体……いわば保険がない状態にも関わらず、見ず知らずの他人のために、自身の肉体を危険にさらしているのだ。
自分の弱さを見透かさられそうで、アニサの目を面と見るのが怖かった。
視線を逸らすと、視界にガラを捉える。
ガラは、先ほどと同じようにいまだ目はうつろで、明後日の方向を見ている。
自分への苛立ちが、ガラの方にも向く。
全く……こんな状態だというのに、何をやっているんだ……。
「おい……何やってるんだ。行くぞ」
影人が大声をかけて、体を揺さぶる。
そうまでして、ようやくガラは、こちらに反応し、「あ、ああ・・」と力なく頷き、トボトボと歩き出す。
それにしても、様子がおかしい。
暴徒を前に動揺したのだろうか。
だが、そんなことで、ここまでうろたえるようなタマではないはずだが……。
ガラの不自然な態度は気になっていたが、今はここから早く立ち去りたいという想いで頭がいっぱいだった。
幸いにして、アニサの身を呈した行動に人々は未だに畏怖の念を感じているのか、大きな妨害はなかった。
だが、最後までその不穏に満ちた空気が醸成する得も言われぬ気持ち悪さからは逃れることができなかった。
人々は、最後までやはり死の恐怖に染まった暗い視線をこちらに送っていた。
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