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第一章
束の間の遊戯-10-
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なんだかんだいって屋敷は燃えていないのだから、俺の目的は果たされたのだろうか。
弛緩した空気の中で、俺はそんなことを脳裏に浮かべる。
そして、同時にこの場を早く去りたいとの思いを強くする。
俺はもう一刻も家に帰りたかった。
この場にいると、あらぬトラブルが多発するような予感がする。
今は、そのまたとないチャンスである。
俺は、ここぞとばかりにその場からそそくさと立ち去ろうとする。
麻耶さんには申し訳ないが、今は奴隷紋のことについてこれ以上深く考えたり、説明できるような状況ではない。
何よりも俺は疲れているのだ……。
「で、では……これで……」
俺はそう言って、扉……いやかつて扉だったものの残骸をまたいで、部屋を後にする。
彼女たちも意外とみな疲れているのか、誰も俺を止めるものはなかった。
ようやく家に帰れる……そう思って俺は胸をなでおろした。
が……俺は結局自分の家には帰れなかった。
なし崩し的に麻耶さんとの話し合いは流れはしたが、いつの間にかあたりは深夜に近い時間帯になっていたし、俺を含めた全員が屋敷の客室に泊まるとのことだったので、俺も半ば強引に麻耶さんの屋敷にとどまるよう花蓮さんたちから促されたのであった。
俺は彼女たちのその要望に反対する気力も既になかったし、実際のところすぐにでもベッドに倒れ込みたかった。
結局、俺は麻耶さんたちの好意……いや要求を呑んで、客室に戻り、そのままパタリとベッドに体ごと横になる。
なんとなく……いや確実に部屋の外から複数の気配を感じたのだが、敵意はないようだから、俺はそれらを無視して、ただ目を閉じた。
幸いといってよいのか、今日の様々な騒動は俺を体力的にも精神的にも疲労させてくれていたようで、久方ぶりにまとまった眠りを取ることができた。
そういう訳で、朝の目覚めは快調という訳ではなかったが、昨日よりは幾分かマシだった。
寝ぼけ眼で上体を起こして、俺は自分の様子を確認する。
俺の格好は昨日の服のままだった。
俺は、昨夜着替えもせずに、風呂にも入らずにそのままベッドに倒れ込んでしまい、そのまま朝まで寝てしまったのだ。
これが自分の家ならよいが、ここは他人の家……ましてや麻耶さんの屋敷だ。
普通に考えて、客人が体を洗いもせずに、汗だくのままべットを使ったら、その家の者は嫌な思いをするだろう。
ましてや俺は学生という訳でもなく、もういい年をしたオッサンなのだ。
俺はその自身の有様に大分申し訳なさを覚えてしまって、とりあえず言い訳程度にべットメイキングをする。
その際にベッド周りの匂いを嗅ぐが、幸いにも臭いという感じはしなかった。
だが自分の匂いというものは、常に嗅いでいるせいか、それが客観的に不快なものであっても、案外にして自分ではわからないものである。
ついでに服の匂いも確認して、俺は自分の着替えを探しがてら、顔でも洗おうかと洗面台へと足を向ける。
幸いにも中には風呂場もついていたので、俺は、シャワーを浴びて身支度をする。
熱いお湯を頭に浴びながら、俺はあらためてこの屋敷の豪奢さを再確認していた。
昨日この屋敷に泊まった人間は少なくとも4人以上いるから、これだけの設備と広さを兼ね揃えた客室が複数存在することになる。
俺が今いる部屋は一流ホテルの客室——まあ泊まったことがないので、イメージすることしかできないが——と見まがうばかりの充実ぶりである。
と、脳裏に鈴羽さんが破壊した扉が浮かぶ。
……あの部屋の修理費はいくらになるのだろうか。
いや待てよそもそもその前のあのホテルでの火災の損害費用は……。
……忘れよう。
と、俺はシャワーの温度と湯量を上げて、熱すぎるほどのお湯を痛いほどに頭から浴びる。
その強烈な刺激は俺の脳に浮かんだ不都合な事実を洗い流すのに役立った。
年を取ると、否が応にでも半ば将来の不安ばかりが積み重なってくる。
だから、俺はそれらを無理やり忘れる……いや見ないことにする術……いや習慣を自然と身につけていた。
シャワーから出て、部屋に戻ると、俺のケータイが点滅していることに気づく。
画面を見ると、登録外の番号……いや登録している連絡先などないか……からメッセージが届いていた。
弛緩した空気の中で、俺はそんなことを脳裏に浮かべる。
そして、同時にこの場を早く去りたいとの思いを強くする。
俺はもう一刻も家に帰りたかった。
この場にいると、あらぬトラブルが多発するような予感がする。
今は、そのまたとないチャンスである。
俺は、ここぞとばかりにその場からそそくさと立ち去ろうとする。
麻耶さんには申し訳ないが、今は奴隷紋のことについてこれ以上深く考えたり、説明できるような状況ではない。
何よりも俺は疲れているのだ……。
「で、では……これで……」
俺はそう言って、扉……いやかつて扉だったものの残骸をまたいで、部屋を後にする。
彼女たちも意外とみな疲れているのか、誰も俺を止めるものはなかった。
ようやく家に帰れる……そう思って俺は胸をなでおろした。
が……俺は結局自分の家には帰れなかった。
なし崩し的に麻耶さんとの話し合いは流れはしたが、いつの間にかあたりは深夜に近い時間帯になっていたし、俺を含めた全員が屋敷の客室に泊まるとのことだったので、俺も半ば強引に麻耶さんの屋敷にとどまるよう花蓮さんたちから促されたのであった。
俺は彼女たちのその要望に反対する気力も既になかったし、実際のところすぐにでもベッドに倒れ込みたかった。
結局、俺は麻耶さんたちの好意……いや要求を呑んで、客室に戻り、そのままパタリとベッドに体ごと横になる。
なんとなく……いや確実に部屋の外から複数の気配を感じたのだが、敵意はないようだから、俺はそれらを無視して、ただ目を閉じた。
幸いといってよいのか、今日の様々な騒動は俺を体力的にも精神的にも疲労させてくれていたようで、久方ぶりにまとまった眠りを取ることができた。
そういう訳で、朝の目覚めは快調という訳ではなかったが、昨日よりは幾分かマシだった。
寝ぼけ眼で上体を起こして、俺は自分の様子を確認する。
俺の格好は昨日の服のままだった。
俺は、昨夜着替えもせずに、風呂にも入らずにそのままベッドに倒れ込んでしまい、そのまま朝まで寝てしまったのだ。
これが自分の家ならよいが、ここは他人の家……ましてや麻耶さんの屋敷だ。
普通に考えて、客人が体を洗いもせずに、汗だくのままべットを使ったら、その家の者は嫌な思いをするだろう。
ましてや俺は学生という訳でもなく、もういい年をしたオッサンなのだ。
俺はその自身の有様に大分申し訳なさを覚えてしまって、とりあえず言い訳程度にべットメイキングをする。
その際にベッド周りの匂いを嗅ぐが、幸いにも臭いという感じはしなかった。
だが自分の匂いというものは、常に嗅いでいるせいか、それが客観的に不快なものであっても、案外にして自分ではわからないものである。
ついでに服の匂いも確認して、俺は自分の着替えを探しがてら、顔でも洗おうかと洗面台へと足を向ける。
幸いにも中には風呂場もついていたので、俺は、シャワーを浴びて身支度をする。
熱いお湯を頭に浴びながら、俺はあらためてこの屋敷の豪奢さを再確認していた。
昨日この屋敷に泊まった人間は少なくとも4人以上いるから、これだけの設備と広さを兼ね揃えた客室が複数存在することになる。
俺が今いる部屋は一流ホテルの客室——まあ泊まったことがないので、イメージすることしかできないが——と見まがうばかりの充実ぶりである。
と、脳裏に鈴羽さんが破壊した扉が浮かぶ。
……あの部屋の修理費はいくらになるのだろうか。
いや待てよそもそもその前のあのホテルでの火災の損害費用は……。
……忘れよう。
と、俺はシャワーの温度と湯量を上げて、熱すぎるほどのお湯を痛いほどに頭から浴びる。
その強烈な刺激は俺の脳に浮かんだ不都合な事実を洗い流すのに役立った。
年を取ると、否が応にでも半ば将来の不安ばかりが積み重なってくる。
だから、俺はそれらを無理やり忘れる……いや見ないことにする術……いや習慣を自然と身につけていた。
シャワーから出て、部屋に戻ると、俺のケータイが点滅していることに気づく。
画面を見ると、登録外の番号……いや登録している連絡先などないか……からメッセージが届いていた。
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