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第二章 破滅の赤

初めての平民街

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一人で回想を終えたイングリッドは立ち上がり、服に着いた汚れを落とすと座っているコーラルに手を差し出した。


「てことでコニーも秘密を教えなさい」

「なんで俺が秘密保持している前提なんだよ」


コーラルはこの国とは違うイングリッドの魔法をみた対価を強引に要求されていた。見せてくれとも頼んでいないものを見せられ更に対価を迫るイングリッドをジト目でみたコーラルは指で顔を近づけるよう指示をした。イングリッドは内緒話をするのかと疑いもなく座っているコーラルに顔を近づける。それを見たコーラルがニヤリと笑った瞬間イングリッドの額に衝撃が走った。


「~っ!?」

「ばぁか」


コーラルは涙目で額を抑え唸っているイングリッドを鼻で笑い立ち上がる。


「んで何か聞きたいことあるんだろ?内容によるけど答えてやらんこともないぞ」

「いちいち腹立つ言い方するわね。まぁいいわ」


そう言ってイングリッドは立ち上がると憎らしい笑顔のコーラルに詰め寄り赤い瞳を覗き込んだ。


「貴方どうしてそんなに言葉遣いが荒いの?」

「…はぁ?」

「だからそうしてそんなに口が悪いのかって聞いているのよ。貴方一応この国の王子でしょ?城での教育のどこからそんなボキャブラリー入ってくるのよ」

「お前…聞きたいことってそんなことかよ。あと一応じゃなくてしっかり一国の王子やってるから」

「あーはいはい完璧キラキラ王子やってるわね。それで理由は?」


コーラルは拍子抜けした様子で溜息をつき頭をかくと、真剣な顔つきのイングリッドを訝しむ様な目で見た。


「はぁーただ俺の性格が悪いってだけじゃ納得しないよな」

「当たり前じゃない。それだけなら貴族っぽく《挨拶風 陰湿な嫌味~上品さを添えて~》みたいな会話になるでしょ。単刀直入に言うけど貴方城を抜け出して平民街に降りていたりしていない?もしくは平民と頻繁に会話をする仲になっていたり」

「ふはっ!どこの料理名だよっ。まぁ確かに純粋培養のお坊ちゃんじゃあ、目の前にいる婚約者の鼻毛が顔を出していても指摘できないよなぁ。あ、俺も出来ないから純粋なお坊ちゃんなのかも」

「は!?ちょっと待って嘘でしょ!?」

「うっそぴょ~ん」

「「……」」


顔を真っ赤にして鼻を抑えたイングリッドと、それを嘲笑うような顔で嘘と言い放ったコーラルは真顔で顔を見合わせた。目が合い数秒。イングリッドはバラの蕾が綻んだかのような美しい微笑みを見せた。コーラルは反射的に笑顔を返そうとした瞬間


「うぐっ!?」


鳩尾に強烈な痛みと吐き気が襲い掛かりその場に蹲ってしまう。だがしかし王子としての立場といくら親しいとはいえ女性であるイングリッドの前で吐きたくない、という男のプライドでなんとか込み上げる吐き気を押しとどめていた。コーラルはイングリッドの顔を見ていたというのも一因だがそれ以上に彼女の拳が早く、気が付けば腹部に強烈な一発をお見舞いされていた。イングリッドは碌に声も出ないコーラルの横にしゃがみ込みその背を撫でながらも、笑顔のまま冷たい瞳で語り掛けた。


「まぁ殿下急に蹲られて…どこか具合が悪いのですか?」


――ありえない。ありえないわ。乙女に言っていい冗談と悪い冗談っていうものがあるでしょう!?王子様?不敬罪?ハッ知ったこっちゃないわ。こちとら《太陽神の愛し子》で公爵令嬢でどうせ覆さない婚約者様よ、牢に入れられるもんなら入れてみなさいオホホホホっ!…あ、なんか凄く悪役みたいじゃないのこれ――


そんな少女の内心を知らないコーラルは痛みに耐えつつも内心で背を撫でてくる少女を罵った。


――コ、コイツ自分で殴っておきながら知らねぇフリしてきやがった!?ちょっと揶揄っただけ…いや少しやり過ぎたかなとは思ったけど、殴ることは無いだろ!せっかくあんな可愛い顔見れ…いや可愛くない、別に真っ赤にして焦っている姿が珍しかったから脳裏に焼き付いたからであって俺は全く心を動かされたわけじゃない。……は上手くかわせるように体術を学んどこう――


「っ……悪かった、言い過ぎた」


内心はどうであれとにかく謝り彼女の怒りを納めなければと考えたコーラルは、未だ浅く吐く息で何とか言葉を口にした。その様子を見て自身も反省したのかカッとなりコーラルを殴ってしまった事を詫び、イングリッドも落ち着きを取り戻した。しかしそれで許せるほど彼女の心は寛大ではなく咳ばらいをするといつもの気安い表情に戻し、ある程度回復したコーラルに語り掛けた。


「手を出した私も悪いけど流石にあの冗談は受け入れられないわ。悪いと思ってるなら私のお願い、聞いてくれるわよね?」

「なんだろう嫌な予感が…」


コーラルはいい笑顔のイングリッドにビクついた笑顔で答える。そんな彼を無視しイングリッドはコーラルを立ち上がらせるとお願いした。


「私、平民街に行きたいの」










ーー今思えば今世と前世の意識は既に交わり溶け合って新たな1つの人格になっていたのだろう。少しだけ拡がった世界でも私はこのなんとも言えぬ違和感を拭えないでいたのだからーー









「あまり余所見ばかりしてると田舎者か迷子に思われて攫われるよ」

「なんだか慣れてるわね」

「ハハハ社会勉強の為だよ」


イングリッドはコーラルの猫を被った笑顔をみて確信した。


ーーコイツ確実に普段から平民街に降りてるわーー


そう思いつつ外向けの顔を貼り付けたコーラルに手を引かれ賑やかな街の中を進む。



2人はイングリッドの魔法で髪色と目の色を変え、どこらか入手したのかコーラルが用意した衣装を身に纏っている。そしえこれまたどこから調達したのか魔法陣が書かれた魔道具を使い、気付けば平民街と貴族街を隔てる森の中に立っていた。微かに聞こえる賑やかな声が今いる場所と街の距離を知らせ、これから見る平民街世界へ期待を膨らませた。

魔法を使い始めて日の浅いイングリッドはカラーコンタクトや髪を染めるイメージでその色を変化させることは出来たが、顔を変えるという失敗を許されない魔法は未だ自信が持てずにいた。その為イングリッドは自身とコーラルの髪と瞳をこの国ではありふれた色である茶髪と水色の瞳に変え、それでも人目を惹く美貌のコーラルは何故か所持している【認識阻害】の魔法具を使いその顔を隠していた。と言っても彼の顔を知るものは肖像画を手に入れることのできる富裕層や貴族階級であり、《太陽神の愛し子》と言っても教会に囲われているわけではないため今回二人が散策する地区で彼の正体を知るものに出会うことは限りなく低い。それは同じ《太陽神の愛し子》でイングリッドも大差ない、しかしコーラルは純粋にその美貌と雰囲気が人目を引くため顔の認識を阻害することにしていた。

イングリッドも美人といわれる部類ではあるが髪や瞳の色、髪形や服装で地味な印象を受け、歩くだけで誘拐の危機に会いそうなコーラルと違いトラブルを引き起こすことは無いだろうという自己評価をしていた。この時イングリッドは鏡に映る自身とコーラルを比べ早々に容姿とオーラの違いを思い知らされた。前世の記憶の一部を思い出して以降客観的に見た自分の顔が美しいと呼ばれる部類であったことは理解していたが、素材そのもので勝負した際どうやっても傍に立つ婚約者コーラルに見劣りするのだ。


――嫉妬も出来ないほどの差があるといっそ開き直って堂々とできるわ――


そう思うと同時にイングリッドは決意した







肖像画を描いてもらう時は変顔しよう!







比べられる前に土俵から降りる。イングリッドが思う賢い生き方の一つであった。
























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彼らは二人だけで街に降りています。監視は一体何をしているのでしょうかね

次回 綺麗な町
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