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第2章 帝国学園 1年生編
第68話-1 人気集中
しおりを挟むウォーリーは、教わった通り入り口で礼をして食堂に入室した。
男の子は右手を胸に当てて15度の角度でお辞儀する。帝国兵士が公式の場に出るときの礼法である。
温かな声が出迎えた。
「メリークリスマス! ウォーリー」
「メリークリスマス! 園長先生!」
園長席の横には帝国旗と未来園の旗とがフラッグポールに掲揚されていた。普段とは違った特別感のある食堂に、一歩入っただけで気分が上がる。
「ウォーリー、はい」
待ち構えていた先生の一人が手をつないできた。
「ウォーリーもすっかりここの暮らしに慣れたみたいね」
「うん…… はい。もう、慣れました」
「ふふふ。お利口さん」
オバさん先生に優しい手をつながれて、ちょっと照れくさい。本当は嬉しいけれども、その表情を隠そうとするのがお年頃というもの。
母親の手を思い出したのだろう。嬉しさとしんみりが半分ずつ。
ウォーリーは今年の春、妹といっしょに引き取られた。
ここは、12歳を筆頭に年齢の違う50人以上が暮らす帝国立第三孤児院「未来園」である。父親が軍関係の仕事で亡くなった後、育ててくれる身内がいない子どもが入る施設だ。
ウォーリー兄妹の場合は、女手一つで支えた母親が病気で亡くなってからの入園だ。父の優しさも母の愛情も覚えているだけに寂しさが強い。かと言って妹の手前、先生に甘えることもできない。
だから、全員が同じように「手をつなぐことになっている」という強制がとっても嬉しかった。
続けて入って来た妹のウェンディは「淑女のカーテシー」と呼ばれるメイド式の礼をした。パンツスタイルでも、これなら可能である。
「メリークリスマス ウェンディ」
「メリークリスマス 園長先生」
すかさず、別の先生が手をつないでくれた。
「ウエンディはすっかり落ち着いたわね」
「はい。先生」
おすましさんを気取っても、差し出された先生の手を吸い付くように握るウェンディはまだ8歳である。
こうして、次々と入ってくる子ども達一人ずつに園長先生は名前を呼んで受け入れて、先生達が何度も代わりばんこで担当して手をつないでくれる。
手をつないで歩く。たったそれだけのことが、園の子ども達にとっては特別なことだった。
それぞれの席に案内される短い時間が、愛おしかった。
子ども達は、誰もが上手に礼をした。
入室の時に正規の礼をさせるのも「卒園」した後、雇ってもらえるようにするための教育の一環である。
父親のことを覚えている子が多い。だから、多くの子ども達は兵士を目指し、女の子は商家のメイドを目指す。
未来園出身の子は就職に困らない。軍関係の部署なら「2世」として歓迎したし、商家でも「信用」の点で歓迎された。
孤児とは言え、多くの子ども達は幼少期に親からの愛情を受けて育っているのと、帝国立孤児院はしっかりした教育を施すことでも知られている。何よりも「自分が信用を失えば園の後輩達の行き先が無くなる」という現実的な話を知っているからだ。
信用されるには、信用されるだけの子ども達を育てるノウハウが必要だ。個人においては、少ない予算と少ない人員で教育と愛情のバランスを取るため、色々な行事の意味が考えられていた。
「みなさん、いよいよ今日はクリスマスですね。特別メニューの後はとっても素晴らしいことが待っています。良い子には良いことがあるのですからね。楽しみにしてください」
高齢ではあるが、園長の足腰はしっかりしているし声にも張りがあった。
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