僕の彼女は、男子高校生

ぱるゆう

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まさか

羽田空港でスーツケースの受け渡し場所に来た。貴之と勇吏がベルトコンベアから次々とスーツケースを下ろした。

「忘れ物はないな?」と貴之が言った。

「大丈夫よ」と世羅が言った。

「それじゃ、春奈ちゃんは僕達と」と貴之が言うと、春奈は貴之とトキノの近くに行った。

「瑞希」と世羅が言うと、

「はいはい」瑞希は世羅の隣に行った。

「冗談でしょ?」」一人の勇吏は困惑した顔で言った。

貴之はゆっくりと勇吏に近づいた。

「父さん!」勇吏は嬉しそうに言った。

「ほら」貴之は手を差し出した。手にはオリオンがあった。

「おれはトランシーバーじゃねぇぞ」とオリオンは言った。

「ごめん。今回だけ」と貴之は申し訳なさそうに言った。

「しょうがねぇな」

勇吏がオリオンを受け取ると、
「早く行きなさい」と貴之が言った。

「マジかよ」と勇吏は呆れた顔をして、出口へと行った。

すぐに、キャ~ッと歓声が聞こえた。

「マジか・・・」貴之は小さい声で言った。

「春奈」世羅はサングラスを出して春奈に渡した。既に自分は掛けている。

先に世羅と瑞希が並んで、出口を出た。そこには、4、50人の一般人の他に、10台くらいのテレビカメラと数十人の記者やレポーターがいた。

世羅達は離れて、その集団の脇を通り過ぎた。少し離れて、貴之達も通り過ぎ、人集りができている所で止まった。

「こちらへ」と空港職員と思われる制服姿の男性に言われて、勇吏はついて行った。集団も移動し、貴之達も移動した。

「20分でお願いします」と制服を着た男性は言い、壁を背にした勇吏に向かって、記者達の手が上がった。

「こういうの分からないんで、端からお願いします」

一番端の一人が、
「日本歴代2位の記録おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「一晩明けて、今のお気持ちは?」

「出来過ぎた記録だと思っているのは今も変わりません。これからは、マグレだとか、皆さんをガッカリさせないように、もっと頑張らないとならないな、とも思っています」

その後は、北海道のことや今後のことについて質問された。

そして、
「彼女にメッセージを」

勇吏は遠くにいる春奈を見ながら、
「My heart is always with you,no matter how far apart we are.」

「すいません、意味は?」

「どんなに離れていても、心はいつも一緒だよ、という意味です」

「おぉ~」と記者達から歓声が上がる。

「彼女が大学生だという書き込みがSNSに出ていますが、本当ですか?」という質問が出た。

やっぱり来たか。あ~ちゃんの心配も強ち笑い話で済みそうもないな、と勇吏は思った。

「彼女のことを話すつもりはありません」

「あの競技場で言ったメッセージについて、彼女は何か言っていましたか?」と別の記者が言ってきた。

これはダメだな、と勇吏は思って、
「僕の彼女のことについて、今後詮索するようなことは止めて下さい。彼女は普通の生活をしているんです。もちろんこの記録のことは喜んでくれてます。でも、そのせいで、彼女の生活が脅かされるんなら、僕は2度と日本では走りません。北海道の沿道やスタジアムで応援してくれたような素敵な方々が、日本には大勢いるのが分かったので、とても残念ですが」

記者達に明らかな動揺が走った。

「ファンの方々は残念に思うと」

「先ほども言いましたが、僕も残念です。でも、彼女は家族です。家族を守ることよりも、大切なことって何ですか?僕はオリンピックの金メダルよりも彼女の安全をもちろん選びます。それに、僕はアメリカ国籍も選べるので、日本代表ではなく、アメリカ代表として金メダルを目指すこともできます」

記者達に更なる動揺が走った。

「ご両親のどちらかがアメリカ人?」

「両親とも日本人です。父の仕事の関係で、そういう選択権を持っています」

「お父さんのご職業は?」

「これ以上は、プライベートなことは一切話しません」

「アメリカにはいつ帰るのですか?」

「こういうことになると空港の方々にも他のお客さん達にも迷惑がかかりそうなので、言いません」

記者達に手詰まり感のような微妙な空気が立ち込めた。

「そろそろよろしいでしょうか?」制服を着た男性が言った。

「最後に、マラソンファンにひと言」

勇吏はホッとして、
「僕は長い間地道に努力して、急にこんな夢みたいな記録が出せました。皆さんもいつか思いがけない結果が出ることがあるかもしれないので、もちろん無理のない範囲ですけど、頑張って続けて欲しいなと思います。また、暖かい声援を送ってくださる皆さんの前で走れる日を楽しみにしています」

「それでは終了とします」

勇吏は、
「ご迷惑をお掛けしました」と制服の男性に言った。

男性は少し驚いた顔をした後、
「いえ、とんでもありません。皆様が快適に空港を利用できようにするのが私の務めですから。それに家族を守るよりも大切なことって何ですか?と、おっしゃっていましたが、私達にとってみれば、皆様の安全です」と微笑みながら言った。

「ありがとうございます。空港の皆さんのお陰で、いつも無事に飛行機を利用できています。では」勇吏は歩き始めた。

しばらくして、
『オリオン』

『大丈夫だ。誰もついてきていない』

すると、勇吏の頭に帽子が被らされた。ビックリして振り向くと、貴之だった。

「ビックリしたぁ。帰ったの?」

「あぁ、必要だと思ってな」と伊達メガネを出した。

勇吏はメガネを掛けて見ると、皆スーツケースがなかった。
「僕の荷物も」

「お前の荷物は、レンタカーを借りてからだ」

レンタカーを借りて、運転席に貴之、助手席にトキノ、真ん中に世羅と瑞希、後ろに勇吏と春奈が座った。

「じゃあ、出発!」車は走り出し、勇吏は荷物をアメリカの家に置いてきた。

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