幸せな三角関係

ぱるゆう

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衝撃の告白

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 白岩は家に帰った後、両親にいろいろ聞かれたが、最終的には、友達が元気になって帰ったということで、話は終わった。

 白岩は自分の部屋に行き、『疲れた~』とベッドに倒れ込んだ。

 両親の追求の他に、秋穂との心と体の戦いに疲れて切っていた。

 白岩『秋穂の相手は大変だ。
 秋穂は自分の全部を与えてくる。
 だから、僕にもそれを求めてくる。
 そこに少しの嘘やごまかしは許されない········か。

 これまで振り回されてばかりだ。

 ただ僕が自分自身を変えようと思ったのは、秋穂のおかげだ。

 もう少し頑張ってみようかな。

 とにかく今日は疲れた。もう寝よう』



 #次の土曜日

 秋穂と白岩のバイトの都合と、他の家族がいない日ということで、土曜日の夕方に久保田家に集合となった。

 白岩が到着すると、早苗は、秋穂の部屋に声をかけた。

 テーブルには、白岩と秋穂が並び、早苗は対面に座った。秋穂はテーブルの下で手を繋いできた。

 白岩『話ってなんですか?』

 白岩は、早苗と関係が続いていることを秋穂に言ってなかったので、不自然にならないように話した。

 早苗『私、妊娠したみたいなの』
 それは飼っていた猫が出産したというくらいいつもの声のトーンだった。

 白岩、秋穂は同時に『えっ』と叫びながら、身を乗り出すように立ち上がった。

 早苗『うっ、うるさいわねえ』

 秋穂『誰の子なの?』と大きな声で言った。

 早苗『とりあえず座ってちょうだい』
 2人は座った。

 早苗『ずっと体がだるくて、もしかしたらと思って、検査薬で調べたら、陽生だった。私もまさかと思って、違う日にもう一度調べたんだけど、同じだった。

 秋穂たちを妊娠した時と同じだから、間違いないと思うの。

 来週にも医者に行って、ちゃんと調べるつもりよ』

 秋穂『それで、相手の心当たりは誰なの?』

 早苗『秋穂には悪いんだけど、白岩君が本命で、お父さんともちよっとあったから、可能性がないわけではないってところかしら』

 秋穂は白岩を見た。

 白岩は、いつのSEXが妊娠に繋がったのか見当がつかなかったので、

『秋穂とちゃんと付き合い始める前の話だよ』と誤魔化した。

 早苗『それで医者で姙娠してるのが決定したら、白岩君にこれをお願いしたいの?』とパンフレットをテーブルの上に置いた。

 パンフレットには、遺伝子検査と書かれていた。

 早苗『赤ちゃんのお父さんかどうか調べる検査なの。

 病院で口の中の粘膜を取るだけで終わるから、行ってきてくれるかな?』

 早苗はパンフレットをめくって

 早苗『このカートを持って行くだけで、お金もいらないし、名前を言う必要もないわ』

 白岩『分かりました』

 早苗『それで、検査の結果、赤ちゃんのお父さんが白岩君だったら、産むわ。

 それと、秋穂には言っておくけど、お父さんとは離婚して、この家を出ていく』

 秋穂『出ていくって、どこに住むの?』

 早苗『実は、ずっと前から、他の会社から、うちで働かないかって誘われてて。

 妊娠の話をしたら、役員待遇にするから、すぐに来てくれって。

 その会社、今、妊婦を対象とした化粧品に力を入れてるみたいなのよね。

 それで、普通の家族が住むくらいのマンションなら、家賃無しでいいって言われてるの』

 秋穂『役員待遇で家賃タダって、さすが伝説の販売員だけはあるわね』

 早苗『今真面目な話をしてるのよ』

 秋穂『ごめんなさい、てへっ』

 早苗『それで、離婚することになったら、秋穂は、この家に残るのか?私と来るのか?ちゃんと考えておいて欲しいの』

 秋穂『私は、もちろんお母さんについて行くわよ』と即答した。

 早苗『ちゃんと考えてよ』と呆れた。

 秋穂『考えるまでもないでしょ。お父さんは、ほとんど家に帰って来ないし、凪とは会話できないし』

 早苗『まぁいいわ。とりあえず検査結果を見て、また集まりましょう』

 白岩『あの~、僕ができることはありませんか?』

 早苗『白岩君は、検査だけお願い』

 白岩『でも、もし赤ちゃんのお父さんが僕なら、父親として責任があるから』

 早苗『あなたが責任を感じることなんて何もないわ。私が勝手に妊娠して、勝手に出産するのよ』

 白岩『でも』

 早苗『あなたがどうしても責任を感じたいなら、秋穂を大切にしてあげて。

 私の話はこれでオシマイ。 

 白岩君は来てくれてありがとう。ケーキ作ったら、食べていきなさいよ。

 秋穂も食べるでしょ』

 秋穂『食べる~』

 白岩(心)『僕の赤ちゃん·····、

 早苗はあぁ言っているけど、どうすればいいんだろう。

 うちの親になんて言えばいいんだろう』

 白岩は下を向いていた。

 運ばれてきたケーキと新しいコーヒーを口にしても味が分からない。

 早苗は予想通り思い詰めているのを見て、
 早苗『白岩君、話オシマイって言ったけど、一つだけいい?

 よくテレビでいい歳をした男が女子高生と関係を持って、逮捕されてるじゃない。

 あなたはそれと同じで、私に騙された被害者なの。

 だから加害者の私を心配する必要なんてないのよ』

 白岩『僕は騙されてません』

 白岩は顔を上げた。

『早苗が大好きだから、大好きだから。

 今はビックリしすぎて、うまく考えられないけど、

 赤ちゃんができたことには、後悔はない、いや、嬉しいよ。

 僕と早苗の赤ちゃんであって欲しいよ』

 と涙を浮かべた。

 早苗『はぁ、あなたなら、そう言うと思ったから、話すこと自体悩んでいたのよ。

 でも、話さないまま、いつかあなたの
 耳に入ったら、自分はそんなに頼りないんだって落ち込むと思って、話したの。

 でも、白岩君、あなた、秋穂のことをあーだこーだ言ってるけど、似てるわよ』

 白岩が反乱する前に、秋穂が口を開いた。

 秋穂『ジュン、何?、あーだこーだって』

 新岩『いや、まっすぐだなって言っただけだよ』

 秋穂は、白岩の心の中を見るような目で見ている。

 白岩『ホントに。嘘じゃない』

 白岩(心)『言い方は違うけどね』

 秋穂『分かった。信じる』

 白岩(心)『ふぅ、良かったぁ』

 白岩『僕と秋穂が似てる?どこが?』

 早苗『普通なら恥ずかしくて言えないことでも、普通に話せるところ』

 白岩はドキッとした。否定できない。
 確かに、言った後に、恥ずかしくなることも少なくなかったからだ。

 白岩『否定できない』

 秋穂『言いたいこと言って、何が悪いの?』キョトンとしている。

 早苗『でもねぇ。白岩君、
 なんだかんだ言っても、あなたは高校生なのよ。

 未熟なあなたは、大人に騙され、利用されたの。

 私はね、あなたもうすうす分かってると思うけど、ずっと離婚する理由が欲しかっただけなの。

 涙を見せれば、すぐ私のいいなりになってくれて、扱い易かったわ』

 白岩『なんでそんなこと言うの?

 ずっと心の中で早苗は泣いていたじゃないか。

 僕には、早苗の中から、助けて、助けてって声が聞こえたんだ。

 何を早苗が言っても、僕は早苗から逃げないよ』  

 秋穂『ちょっと待って』

 秋穂は泣いていた

『ジュン、どうして、どうしてなの。

 私のことは全然助けてくれなかったのに、なんでお母さんのことは助けてたの?

 なんで、お母さんとは、ちゃんと心が繋がってるの?
 
 私は、ずっとできないから、ジュンはやらないんだと思ってた。
 だから少しずつ教えていこうと思ってた。
 たまにイライラして怒っちゃうこともあったけど。

 ジュンこそ私を騙してたんじゃん

 最低』

 と秋穂は立ち上がって、ドアの方へ歩き始めた。

 白岩は秋穂を追って行ったが、眼の前でドアを閉められた。

 白岩はドアを開けようとしたが、開かない。

 ドアの擦りガラスから、秋穂の服の色が見える。向こう側でドアを押さえているようだ。

 白岩『秋穂!ちゃんと話し合おうよ』

 秋穂『出てこないで』

 白岩『秋穂!部屋で一人でいたって、しょうがないだろ』

 秋穂『私、もうジュンが信じられない。何を言われても、私の心には届かないよ』

 白岩はドアを開けるのを止めた
 白岩『分かったよ。今日は何もしない。ただ一つだけ聞いて。僕には秋穂が必要なんだ』

 擦りガラスから、色が消えた。

 早苗『今日はもう帰りなさい』

 白岩は頷いて、リビングを出て行った。階段を見上げたが、秋穂の姿はなかった。


 早苗『ジュン君を秋穂に任せようとしたのに、真逆になっちゃったわね。
 さて、どうしようかしら』

 早苗は秋穂の部屋の前に来た。

 早苗『秋穂、聞いて。何も答えなくていいから。

 さっきも言ったけど、妊娠の話を彼に言おうか迷ってた。
 でも、私の話を聞いて、彼がどんなになっても、秋穂がいるから、なんとかなると思ったの。

 確かに彼の言ったとおり、口には出さなかったけど、彼に助けを求めてしまった。

 彼は真剣に私のことを考えてくれて、この赤ちゃんを産みたいと思えるほど、前向きになれたわ。

 でも、秋穂、さっき、彼のことを信じられないって言ってたけど、
 よく思い出してみて、
 私と彼がどうであったとしても、彼があなたに対する態度が変わった?

 彼は私のことを考えながら、秋穂と接していたと思うの?

 まぁ、焼き餅を焼きたくなるのは分かるけど、彼を一人にする理由にはならないでしょ。

 彼は、ただでさえ、私の話で頭がパニックになってるのに、あなたが更に、追いつめて、とうするの?

 私が彼を突き放せば放すほど、彼は意地になっていくと思うの。

 どから、もっと酷いことを言わなくてはならなくなるかもしれない。その時は、私は秋穂に彼のことを支えて欲しいの。

 私の話は以上よ』

 と早苗が歩き出そうとしたら、ドアが開いた。

 秋穂『どうしよう。お母さん』

 早苗『一緒に考えましょう』と部屋に入った。


 白岩は帰り道考えていた。
 白岩(心)『赤ちゃん····か。

 早苗は僕が関係ないって言ってたけど、もし僕の赤ちゃんだったら、学校辞めて、働いたりしなきゃならないんだろうか?

 早苗は僕を関わらせないようにしようとしている。でも絶対に早苗を一人ぼっちにはさせないんだ。

 それになんだよ。秋穂は。
 僕は今、早苗のことを考えなきゃならないんだ。
 秋穂のことまで手がまわらないよ』




 #検査結果⑪
 週明け、早苗は産婦人科のある病院にに行った。
 やはり妊娠していた。

 その病院で遺伝子検査ができたので、申込み、早苗の遺伝子は採取を済ませた。

 精算の窓口でもう一人の採取用のカードを渡された。

 早苗は駅前の喫茶店で白岩と待ち合わせた。

 周りに人がいた方が、白岩が感情的にならないと思ったからだ。

 早苗は先に着いた。客はまばらだったので、奥の席を選んだ。

 早苗はこっそり店内を見回した。見た顔は無かったので安心した。店員が来たので、ホットコーヒーを頼んだ。

 白岩が来た。キョロキョロしていたので、立ち上がって手を振った。

 白岩が気付いて、対面に座った。

 早苗『ちょっといい?』と小声で言ったので、白岩は前かがみになった。

 早苗『誰が聞いてるか分からないから、私のことは、お母さんって呼びなさい。分かった?』

 白岩『分かったよ。お母さん』

 店員が来た。

 早苗『何飲む?あっケーキもあるわよ。淳太、頼めば?』と親子の会話のように話した。

 白岩『じゃあ頼んじゃおっかな。ホットコーヒーとチーズケーキ。お母さんは食べないの?』

 早苗『もうすぐ夕飯だから、私はいいわ』と言って、店員に白岩の選んだ品を繰り返し言った。

 店員はかしこまりました、と席を離れた。

 まぁ、はたから見れば、ただの仲のいい親子だ。誰も、赤ちゃんの父と母だとは思わないだろう。

 早苗『やっぱり赤ちゃんできてたわ。お兄ちゃんになるのよ。嬉しい?』

 白岩は、さっきと打って変わって普通の声で早苗が話したので、びっくりしたが、早苗の話した内容を考えたうえで、

 白岩『ホント?やった!やっとお兄ちゃんになれるのか。楽しみだなぁ』と答えた。

 早苗『喜ぶ話はここまで。良さそうな模試を申し込んできたから、頑張りなさいよ』とカードと場所や採取できる時間が書かれたパンフレットを出した。

 白岩『え~もう、勉強の話?これ持って行けばいいんだね。うん、頑張るよ』

 早苗は、店員が来るのが分かったので、
 早苗『無くさないように早く仕舞いなさい』

 白岩『は~い』

 店員が来て、コーヒーとケーキを置いた。店員は、失礼しますと言って帰って行った。

 早苗『ケーキ美味しそうね。やっぱり一口ちょうだい』

 白岩『え~、もうしょうがないなぁ。はい、あ~ん』

 と白岩がフォークに差したケーキを食べた。

 早苗『けっこう美味しいね』と満面の笑みを浮かべた』

 白岩はドキッとして下を向いてケーキを見た。

 早苗は、顔が赤くなる白岩を見て、微笑んだ。

 母親とこんなことをする男子高校生なんて、マザコンでしかなく、不自然だと分かっていたが、なんとなく冒険してみたくなったのだ。

 早苗(心)『本当にジュン君は素直でかわいい。

 でも、ジュン君の将来を考えたら、突き放すしかない。

 今優しくすれば、この後ジュン君が混乱するのは分かってる。

 だから今日が最後、そう思うと、少しでも恋人気分を味わいたい。

 そうだ!忘れてた!秋穂との約束を果たさないと』

 早苗『この前、お姉ちゃんと喧嘩したでしょ』

 白岩はいきなり秋穂のことを話されたので、動揺した。

 白岩『あ、あれは、あき·····お姉ちゃんが悪いんだよ』

 早苗『そうね。お姉ちゃんも反省していたわよ。自分が悪かったって。だから仲直りして』

 白岩は、あの秋穂が反省してるの?って聞き返したかったが、

 白岩『お姉ちゃんが仲直りしたいなら、僕は別に怒ってないから、いいよ』

 早苗『分かった。私から言っとく』

 2人はコーヒー飲み終わったので、外に出た。

 外は、かなり暗くなりかけていた。

 早苗『もう少し時間、大丈夫?』

 白岩『親には少し帰りが遅くなるって言ってある』

 早苗は白岩の手を掴んで、家とは逆の方に歩いた。

 白岩『どこ行くの?』
 白岩が横を向くと、早苗は泣いていた。

 白岩『なんで泣いてるの?』と足を止めようとしたら、早苗は早足になって、白石の手を引っ張った。

 白岩『早苗!』早苗の足は止まらなかった。

 公園の前で早苗は止まった。公園の中には誰もいない。早苗はなるべく暗い方に行った。

 白岩『早苗!なんで泣いてるの?』

 早苗は無理に笑顔を作って、白石を見た。涙はあふれ出ていた。

 早苗は『今日で、私達の恋人ごっこはオシマイ。

 私はもうあなたには会わない。

 ごめんなさい。秋穂をよろしくね』

 と言って白岩の顔を両手で掴み、濃厚なキスをした。

 唇を離すと早苗は無言で走り出した。

 白岩も後を追う。

 早苗は振り返り『ついて来ないで!』と叫び、また走り出した。

 近くを歩いている人が、ビックリして顔を向ける。

 白岩は公園に一人立ちすくみ、溢れる涙が顔をつたうのもそのままに、空を見上げた。空に星は見えなかった。

 早苗はすぐに気分が悪くなり、走れなくなった。
 後ろを振り返った。
 白岩の姿はなかった。
 ホッとして、しゃがみ込んだ。

 大丈夫ですか?と若い女性が声をかけてきた。

 早苗はつらかったので、タクシーが来ないか聞いた。

 女性は走り出して、タクシー止まったと告げた。

 女性の助けを借りて、タクシーに乗り込んだ。

 ドアが閉まる前に、早苗は女性に感謝の言葉を伝え、運転手に行き先を告げた。

 タクシーは走り出した。早苗は再び涙が出てくるのを我慢した。

 早苗(心)『この子と強く生きていかなきゃならないのに、泣いてばかりもいられない』

 家に着いた。玄関を開けると秋穂と凪の靴があった。

 リビングのドアを開けると、秋穂が夕飯を作っていた。

 秋穂は早苗の様子を見て、火を止めて、早苗の元に走って、体を支えながら、椅子にに座らせた。

 秋穂『どうしたのよ。化粧ボロボロだよ』

 早苗『今、白岩君に二度と会わないって言ってきた』

 秋穂『なんでそんなこと言ったの』

 早苗『あの子の将来のため。多分いくら説明しても分かってもらえなそうだし、こうするしかなかったのよ。

 それと、秋穂が仲直りしたいって言ってると伝えたら、あの子も仲直りするって言ってたから、今すぐ連絡して。

 今あの子、混乱してると思うから、支えになってあげて。



 私は大丈夫だから』



 秋穂は早苗が心配立っだが、それよりも白岩が心配だった。

 秋穂『お母さん、ごめん、行くね』

 早苗は頷いた。


 秋穂はスマホを取ると、白岩の家に向かった。途中、白岩に電話するが繋がらない。

 何度もかけ直すが、留守番電話サービスになってしまう。でも呼び出し音はしている。電源は入っている。

 白岩の家に着いた。また電話するが、出ない。

 このまま白岩家に入って、帰ってるか確認したいが、自分のことをなんて言えばいいのだ。もっと早く両親に紹介してもらえば良かった。

 すると、秋穂のスマホがなった。白岩からだ。

 秋穂『今、どこにいるの?』

 白岩『早苗に、もう会わないって言われちゃった』声は落ち着いていた。

 秋穂『さっきお母さん帰って来て、聞いた。ねぇ、ジュンは』話し終える前に白岩が話を始めた。

 白岩『早苗、無事に帰れたんだ。良かった。心配だったんだけど、僕の電話には、もう出ないと思ったから、掛けられなかった。教えてくれて、ありがとう』

 秋穂『ねぇ、教えてよ、どこにいるの?』

 白岩『秋穂も僕がいなければ、怒ることも泣く事もなくなるよ。

 僕が見える人は、みんな不幸になるんだ。だから、みんな僕を見なかったんだ。

 だから、ね、秋穂も、もう僕を見つけなくていいよ。




 僕はもう誰にも見つけてほしくない』



 そこで電話が切れた。

 かけ直したら、電源が入っていない、のいつものメッセージが流れる。

 秋穂は早苗に電話した。長いコール音の後、早苗が出た。

 秋穂『ジュンが電話に出たんだけど、どこにいるか教えてくれないまま切れちゃて、電源も切っちゃったみたい。お母さん、どこで会ってたの?』

 早苗『駅の反対側の出口を西に5分くらい歩いたところの公園』

 秋穂『行ってみる』と電話を切り、スマホの地図で場所を確認した。秋穂は戻って車で行った方が早いと思い、家に戻り車を走らせた。

 秋穂『ジュン、まだいてよ』

 公園に到着し、駐車場があったので止めた。公園の中に入ると、ベンチに座っている人影が見えた。走っていくと、白岩だった。下を向いて、頭を抱えていた。

 秋穂『ジュン!』

 白岩は顔を上げて、笑顔になった『なんだ、秋穂もお別れのキスをしに来たの?しょうがないなぁ』

 秋穂『ジュン違うの』

 秋穂の声は届いていない。

 白岩『じゃあキスしたら、僕のことを忘れてね』と白岩は立ち上がって、秋穂の両手を握った。

 秋穂『ジュン、聞いて』

 白岩はそのまま続ける。

 白岩『今までありがとう。秋穂といて楽しかったよ。僕のいない世界で幸せになってね』

 と白岩はキスをしようと顔を近づけた。

 秋穂『いや!』

 秋穂は手を振り解き、離れた。

 白岩『そっか。早苗がそうだったから、お別れのキスをしに来たのかと思ったけど、違うのか。

 そうだよね。

 僕とキスなんて嫌だよね。

 じゃあなんで秋穂はここに来たの?

 僕を見てると不幸になるよ。

 見ないで。早くここからいなくなって。


 僕は、秋穂に見られてると、消えられないよ』


 と涙を流し始めた。

 秋穂は白岩を抱きしめた。

 秋穂『私が抱きしめているのは白岩淳太。抱きしめられるんだから、幽霊じゃない。だから消えることなんてできないの。

 私の目には、はっきりあなたが見えてるし、私の耳には、あなたの心の声が聞こえる。

 自分の心の声をちゃんと聞いて!

 あなたの心は、消えたくない!早く僕を見つけて!って言ってるじゃない。

 だから私は、あなたを消えさせたりしない。

 大丈夫、私は不幸になっても、あなたは、私が幸せにしてあげるから!』

 白岩『僕を幸せにしてくれるの?でも秋穂が不幸になったら、僕は生きてられないよ』

 秋穂『私は、ジュンがいないことの方が不幸なの。どっちも不孝なら、ジュンといる不幸の方がいい』

 白岩『本当に秋穂には敵わないな。
 じゃあ秋穂を不幸にしないために、僕が頑張るしかないじゃないか。



 そして2人で幸せになろうね』



 秋穂は頷いた。

 秋穂『今からキスするけど、お別れのキスじゃないからね』

 白岩『僕が今からするキスは、秋穂と幸せになるためのキスだよ』

 2人は、見つめ合って笑った。そしてキスをした。

 唇に離した後、
 秋穂『もう消えたりしない?』

 白岩『もう消えたりしない』

 秋穂は、ホッとして、白岩を家まで送った後、帰宅した。

 母は夕飯を作り終えていた。

 早苗『早く座りなさい。ご飯にするわよ。凪はもう食べて部屋にもと』

 2人は無言でご飯を食べていた。

 秋穂『聞かないの?』

 早苗『あなたに任せておけば大丈夫でしょ。おなたたちの関係について、私からはもう何も言わないし、何も聞かないわ。秋穂が話したいなら聞くけど』

 秋穂はカチンと来た『お母さんがジュンを傷つけたんでしょ。そんな言い方酷くない?』

 早苗『あなたには私のやっていることに賛成してもらわないとならないから、全部話すわね。

 この子の父親が白岩君だった場合だけど、

 もし、突き放してなかってら、こうなるわ。

 赤ちゃんが産まれました。

 まず、私にはお金の心配はないっていくら言っても、彼は高校をやめて働くって言って、聞かないでしょうね。お金というよりも、赤ちゃんのために働くという事実が欲しいから、それが責任を果たすことだと思い込む』

 秋穂『うん、多分そうなる』

 早苗『そうなると中卒だよ。始めは本人も楽しいだろうけど、30、40.50となった時に、後悔しないって考えられる?

 秋穂『無理だと思う』

 早苗『そうすると、恨むのは、この子と私でしょ。お前さえいなければって、お前が産むから悪いんだって』

 秋穂『今のジュンじゃ想像できないけど、可能性はあるね』

 早苗『未来で恨まれるなら、今恨まれても変わらないでしょ。特に今なら、少なくともこの子は恨まれない』

 秋穂『なるほど』

 早苗『次は、秋穂よりもこの子を優先するようになる。それでいいの?』

 秋穂『嫌だ』

 早苗『私は彼と秋穂が結婚して、赤ちゃんができたら、その赤ちゃんを第一にして欲しいのよ』

 でも彼は、子供は平等だとか言って、クリスマスとか1年交代とかやりそうじゃない?』

 秋穂『うわっやりそう』

 早苗『うちの子は始めから父親がいない世界で生きていく。ても秋穂の赤ちゃんは違う。なんで今日パパいないの?って泣きだすかもよ』

 秋穂『可哀想かも』

 早苗『この話しして、彼がなっとくすると思う?』

秋穂『無理だね。初めの時点で、後悔なんてしないって、それを言い張るでしょうね。
確かに、お母さんの言ってることが正しいんだけど、ジュンはお節介モードになるとガラッと無敵になるからね。

まぁそれとなく私も気をつけるから』

早苗『よろしく』

秋穂はリビングを出るとき、

秋穂『お母さん、味つけいつもと違ったよ。心配ならちゃんと聞けば?いちおうジュンは落ち着いたから安心して、じゃ』

秋穂は出て行った。

早苗はもう一度料理を食べた。味が薄いと思った。

早苗『この年になっても大人になりきれないな。とにかくジュン君が落ち着いてホッとした』
と静かに涙を流した。


次の日、秋穂と一緒に病院に行った。
受付にカードを出すと、35番遺伝子検査センターに行くように言われた。

35番の受付にカードを出す。
しばらくすると、診察室に這入るように言われた。
女性が白衣を来ていた。
医者は白岩見ると、眉間にシワを寄せたが、すぐになくなった。

医者(心)『とう見ても高校生よね。申込者は44歳の女性······』

医者『あなたは久保田早苗さんの検査社で間違いないですか?』

白岩『はい)

医者はパソコンに何かを撃ち込んでいる。

医者(心)『相手として間違いないか·····。特には怯えたりしていないし、ぱっと見、痣も傷もない。犯罪性はないか····』

医者『口をあけて、この綿棒で何回か口の中をこすりますから、辛かったら、右手を上げてね』

医者は5本の綿棒を白岩の口の中に入れ、試験管のような容器に入れた。

医者『はい、以上で終わりです』

白岩『あの~』

医者『帰っていいわよ』

白岩『いや、いつ頃結果は分かるんてますか?』

医者『一週間から二週間ってとこかしら。稀に検査が溜まってると3週間』

白岩『分かりました。ありがとうございました』

白岩は部屋を出た。

秋穂『どうだった?』

白岩『早苗が言ったとおり、口の中を綿棒でこすって終わり。ただお医者さんは、僕を見てビックリしてた』

秋穂『まぁ、お母さんの相手だからね。高校生が来れば、ビックリしないわけはないね』

白岩『帰ろう』

秋穂は帰り道に、大型スーパーの駐車場で車をを止めた。

白岩『買い物するの?』

秋穂『お母さんのことなんとだけど』

白岩『あっ、うん』

明穂『お母さんは今一人で頑張ろうとしてるの。だから、そっとしておいてくれないかな?』

白岩『でも、これから色々大変なことがあるでしょ。だから、支えたいんだよ』

秋穂『別にジュンがどうしたいか分からないで言ってるんじゃないの。分かった上で言ってるの』

白岩『でも早苗は一人で戦わないとならないんだよ』

秋穂『お母さんには、私いるし、何よりジュの子がいる。それを支えにして、乗り越えようとしてるの』

白岩『でも』

秋穂『大丈夫、お母さんを信じてあげて。今は、ジュンが信じて上げることが、お母さんのパワーになるのよ』

白岩『分かったよ。しばらく見守るよ』

秋穂『ありがとう。後、ジュンがこれから大学に行くか、執着するか分からないけど、ちゃんと十年後、二十年後を見据えた選択をして欲しい。

立派になって、堂々とお腹の子の父親だって名乗り出ようよ。

お腹の子が自慢できる父親になろうよ』

白岩『そうだね。また僕は自分のことしか考えてなかった、
秋穂に燦々怒られたのに。
早苗に負けないくらい頑張って、早苗化自身を持って、子供に、あなたの父親だって紹介でけるようになるよ』

秋穂『うん、私もジュンを応援するし、お母さんのことは任せておいて』

白岩『うん、まかせた。けど、一つお願いしていい?』

秋穂『何?』

白岩『チューしたい』

秋穂『しょうがないわね』と秋穂は助手席側のシートを倒し、白岩に覆いかぶさった。そして



白岩は家に帰ってから、3つの目標を立てた。

一つ目は成績を上げること
二つ目はバイトを頑張ること
三つ目は秋穂と合うこと

そのためにまず、バイトのシフトを平日を多めにしてもらった。土日は秋穂と会った。 

勉強は授業に集中し、分からないことは放課後に職員室まで質問に行った。

成績は面白いように伸びた。いかに今までやる気がなかったのかがよく分かった。

分からないのでなく、やりたくなかっただけだった。

今や職員室に行くと、今日は誰だいって言われるようになった。先生達も成績が伸びているので暖かく迎えてくれた。

ある時は、目的の先生が用事で断わると、他の先生が教えてくれたこともあった。

白岩も先生たちの時間を使っているのが心苦しかったので、バイト先で先代と練習で作ったお菓子を先生たちに差し入れした。

形は不恰好でも、味は折り紙付きなので、先生達には好評だった。中にはお店で購入してくれる先生もいた。


今日は英語の石川先生だった。

石川『本当によく来るな』

石川先生は女性で、歳はアラサーという噂だ。独身ということも噂で聞いていた。

白岩『忙しいのに、本当にごめんなさい。これ、良かったら』とお菓子を差し出した。 

石川『なんか返って悪いな』

白岩『僕の練習で、作ったものなんで気にしないでください。味は折り紙付きなので』

石川『成績の上がり具合もビックリだが、本当に明るくなったな』

白岩『前は目標がなかったんで、頑張ろうという気が起きなかったんでかⅨすが、今は目標があるので』

石川『目標って何だい?』

白岩『秘密です』

石川『そうか。でも、頑張り過ぎないようにするんだよ』

白岩『はい、ありがとうございます。それで、この部分なんですけど?』


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