子猫を拾ったはずなんだけど

ぱるゆう

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事件の後 1

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「坊主、ちょっと付き合え」と制服を着た男性の警察官が、留置所の中の僕に声をかけた。

「はい」また取り調べか、と僕は思ってついて行った。

警察官は警察署の中をどんどん進み、ドアを開いた。

ついて行くと、外だった。
「えっ!」と僕が驚いていると、

「こっちだ」と言って、また警察官は歩き始めた。

そして、狭いスペースを鉄製の古いロッカーで囲んで作っている場所に来た。

「煙草の煙は大丈夫か?」

「えっ!あっ、はい。父も吸うので」

警察官は、胸ポケットからタバコを出して吸い始めた。

何なんだ、と僕が思っていると、
「どうだ?人を殴った気分は?」おもむろに警察官は言って、タバコを吸い込んだ。

すぐに拳に2人の肉の感触が蘇った。

厨房にあった肉の塊を面白半分に殴った感触に似ていた。

「うっ!」腹の中のものが急速に込み上げてきた。

僕は近くの茂みの中に吐いた。しかし夕飯を食べていないので、胃液以外何も出なかった。

「ほら」とハンカチが差し出された。

「ありがとうございます」と受け取って、口元を拭いた。

また新しいタバコに火を付けた。
「ボクシング部なんだってな」

「はい・・・」また部のみんなの顔が浮かんだ。

「楽しいか?」

「僕、頭が悪いんで、勉強はいくら頑張っても全然成績が良くならなくて。でも、ボクシングは、先生の言う通り練習をやればやるだけ強くなってくるのが分かって、とても嬉しくて、楽しくて」

「そっか。でも、試合では相手を殴るんだろ?」

「ヘッドギア付けてて、グローブも大きいし、パンチを当てるだけなんで」

「当てる?力は入れてないのか?」

「一番初めの試合は加減が分かんなくて、それで思いっきりパンチを当てちゃって。そうしたら相手が倒れて、立ち上がれなくなっちゃって。怖くなって、力を入れるのを止めました」

「分かった」と警察官は2本目のタバコを携帯灰皿で消した。

「俺が何とかする」

「えっ!僕は人を動けなくなるまで、いや、動けなくなった後も殴ったんですよ!」

「お前は何も気にするな、と言ったところで、この先ずっとこの事を後悔するんだろ。少年院でやることは反省だ。お前には必要ない」警察官は淡々と言った。

「きっとそうすると思いますけど、それだけでは全然足りない!」

「俺がいいと言ったらいいんだ。面倒くせぇ事は、大人に任せろ。その代わり、もし俺の期待を裏切ったら、もっと後悔することになるからな」

「もう2度と人を殴るなんて事はしない!」と警察官の目を見た。

「よし!それじゃ寝るぞ」と警察官は先に歩き始めた。

何なんだ、この人、と僕は思いながらついて行った。

すると、布団が畳の上に敷かれてある部屋に入った。
「えっ!さっきの所じゃ」

「あそこは犯罪者の入る所だ。お前は違う」

「こんなことして、大丈夫なんですか?お巡りさんって実は偉いんですか?」

「残念ながら、下っ端中の下っ端だ。だからこそできることもある。いいから寝ろ。眠くなくても目を瞑るんだ」

「はい」僕は布団の中に入り、目を瞑った。

そして、電気が消された。
「おまえがやったことは、法律的には間違ったことだ。でもな、守るべきものを口だけで守るなんて綺麗事、俺は大っ嫌いなんだ。妹を守った。お前はそれだけを考えてればいい。
妹は、お前のことを誇らしく思うぞ。口だけ止めろと叫ぶ兄の隣で、自分は犯されていく。そんな無能な兄じゃなくて良かったとな。じゃあ、ゆっくり休め」

ドアが開き、閉まる音がした。
僕の目には涙が溢れた。

妹を守れたことは第一に良かった。それは紛れもない気持ちだ。でも、三隅先生があんなに熱心に教えてくれたもの全て、僕は台無しにしてしまった。

ごめんなさい、先生。そして部のみんな、ごめんなさい。

緊張が解けたのか、いつの間にか眠っていた。




そして、次の日の夕方、僕は解放された。母親に迎えに来てもらい、警察署を出ようとした。

そうしたら、私服姿だが、昨日の警察官だと思える人が向こうから歩いてきた。

僕は駆け寄って、
「昨日はありがとうございました」と深く頭を下げた。

「おう!少しは顔つきが良くなったな」と明るく警察官は言った。

「本当に帰っていいんですか?」

「あぁ、2人の親と弁護士が来てな。被害届を出さないことで話がついた。その代わり妹の方からも出さないことを条件にな」

「でも、あんなに大怪我」

警察官は、僕の肩の上に、自分の腕を回した。

「実はな。相手は大病院の子供でな。有名大学の医学部に通ってるんだ。それでな・・・」


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