子猫を拾ったはずなんだけど

ぱるゆう

文字の大きさ
17 / 25

美弥

しおりを挟む
「えっ?辞めちゃうの?」と真由美が残念そうに言って、カウンターの向こう側に来た。

相変わらず耳は良いらしい。
「妹が一人で実家の店を切り盛りしてるんです。一人だと子供も産めません」

「そっかぁ、寂しくなるわ」

「房江さんには、まだ内緒にしてくださいね」

「大丈夫、今はコンプライアンスの時代だから」

「フフフッ、そうですね」

「何か食べる?」

「はい」

それから、カラオケも歌い、初めて閉店までいた。

「あら、珍しい」と真由美さんは意味ありげな顔をした。

「たまには」

「美弥ちゃん、今日はもうあがっていいから、若ちゃんを送ってあげて」

「えっ!そんないいですよ」若菜は慌てた。

「初日からこき使うのもねぇ。他のお客さん達にも気に入ってもらえたみたいだから、辞められても困るし」と真由美はもっともらしいことを言った。

若菜と本物の美弥は店を出た。朝日が昇って来ていた。

「お疲れ様、美弥ちゃん」

「明るい所だと恥ずかしい」

「何言ってるんだよ。昔と変わらず可愛いよ」と若菜は気分が良かったので、つい言ってしまった。

「えっ?」美弥は驚いた顔をした。

「あっ!ごめん。今日、もう昨日か。昨日、色んなことがあり過ぎて頭が上手く働かなくて、なんかお世辞とか言えなくて」

「フフフッ、若菜くん、言ってることが逆だよ。私のこと可愛いって言っておいて、お世辞が言えないって、変だよ」懐かしい美弥の笑顔だったが、

「えっ?僕、可愛いなんて言った?」若菜の顔は一気に赤くなった。

「言った。はっきり。ちょっとビックリした。そういうこと言わないタイプだと思ってたから。もしかして、今は女の子に言いまくってるのかしら?」

「そんなことない!全然そう思うことないから」

「じゃあ、私だけ?」

「そうだよ・・・」

「ふ~ん、ありがと。元気出た」

「あれ?そう言えば結婚して、子供いるんじゃ?昔の年賀状で写真が」

一気に美弥の顔が曇った。

「ごめん、詮索するつもりはなかったんだ」また若菜は慌てた。

「旦那がリストラされて。その後、新しい仕事を見つけてきても、すぐに辞めちゃって。だから、ずっと私が働いてたの。それでも育児をしてくれれば、昼間の仕事もできるんだけど、育児も全然ダメで。とうとう家を出てきちゃった」

「子供は?」

「慣れてるから、一人でアパートにいる」

「そうなんだ何歳?」

「5歳の男の子」

「そっか。家まで送るよ」

「えっ!いいよ」

「僕が話したいから」

「そう?」2人は歩き始めた。若菜のアパートとは逆の方だった。

「若菜くん、かっこよくなったね。高校の時もかっこよかったけど。大人の男って感じになった」

「そう?自分では高校から全く成長してない気がするんだけど」

「いきなりいなくなったから、みんなでビックリしたんだよ」

「ごめん。そこまで気が回らなかった。家出同然だったから」

「あの噂のこと?」

「うん、そう。家に迷惑かけたくなくて」

「でも、板前さんやってるんだ?」

「血筋なのかもしれないけど、他のことは何やってもダメで」

「不器用なのは変わってないんだね」

「自分でも嫌になるよ」

「ボクシングは?」

「あれから全然やってないし、見たりもしてない」

「三隅先生、本当に残念がってたわよ」

「本当に悪いことしちゃった。部の皆んなにも」

「みんな、若菜くんが悪いなんて思ってないから」

「そうだと嬉しいけど」

「ここが私のアパート」と美弥が止まった。

若菜が見ると、ドアが少し開いて、男の子が顔を出し、美弥の元に駆けてきた。

「ママ」

「こぉら、ちゃんと寝てたの?」

男の子は頷いて、
「ママが帰ってくる時間だから、目が覚めた」

そこでやっと若菜のことに気づいたらしく、
「誰?」と美弥の後ろに隠れた。

「ママのお友達。とっても強いのよぉ」

「えっ?」と若菜は思って、咄嗟に昔見たヒーローの変身ポーズをした。
「へん~しん」

そして、
「名前は?」男の子に向かって若菜は言った。

「悟史・・・」

「ほら、悟史くんも変身だ!」

悟史は前に出てきて、
「へん~しん!」とポーズを決めた。

若菜は悟史を抱き上げて、高い高いをした。

「ほら、悟史くん。変身したから、こんなに高くジャンプした!」

「キャハハハハッ」と悟史は声を上げた。

「よし、悟史くん、合体だ!」と肩車をした。

「凄~い!合体して、高くなった」と喜ぶ声が聞こえた。

「やっぱり男の人は力があるからいいわね。私なんか抱っこも辛いのに」

「ママより高~い」

「ほら、悟史。お兄ちゃん、疲れちゃうからオシマイ」

「もっとおっ!」

「大丈夫だよ」と若菜は言った。

「子供好きなんだ?」

「ずっと妹の面倒を見てたからね」

「悟史、ご飯にしよ」

「うん!」

若菜は悟史を下ろした。

「お兄ちゃん、またやってくれる?」

「もちろん。約束する。それまでママと仲良くするんだよ」

「うん!」

「若菜くん、ありがとう。気をつけてね」

「うん」と若菜は悟史に手を振った。

悟史も笑顔で手を振りながら、部屋の中に入っていった。

若菜は時間を確認しようとスマホを見た。

「うわっ!」ユリから何回も着信があった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

マッチ率100%の二人だが、君は彼女で私は彼だった

naomikoryo
恋愛
【♪♪♪第19回恋愛小説大賞 参加作品♪♪♪ 本編開始しました!!】【♪♪ 毎日、朝5時・昼12時・夕17時 更新予定 ♪♪ 応援、投票よろしくお願いします(^^) ♪♪】 出会いサイトで“理想の異性”を演じた二人。 マッチ率100%の会話は、マッチアプリだけで一か月続いていく。 会ったことも、声を聞いたこともないのに、心だけが先に近づいてしまった。 ――でも、君は彼女で、私は彼だった。 嘘から始まったのに、気持ちだけは嘘じゃなかった。 百貨店の喧騒と休憩室の静けさの中で、すれ違いはやがて現実になる。 “会う”じゃなく、“見つける”恋の行方を、あなたも覗いてみませんか。

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...